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天使の国のシャイニー  作者: 悠月かな(ゆづきかな)
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サビィの手伝いと不思議な水盤

シャイニーは、8枚の翼が描かれている扉をジッと見つめたまま動けずにいた。


「サビィ様の部屋に来ると、やっぱり緊張しちゃうな…」


シャイニーの呟きを聞いたフルルが、髪の中でゴソゴソと動いた。


「フルルに僕の緊張が伝わっちゃったかな?大丈夫だからね。」


シャイニーは、深呼吸を2、3回すると扉をノックした。


「シャイニーだね、入りなさい。」


シャイニーは、ゆっくり扉を開け中に入っていった。

サビィはソファに座り、優雅にマレンジュリティーを飲んでいる。


「こちらにおいで、シャイニー。」


シャイニーがサビィのそばに行くと、どこからともなくソファが現れた、


「シャイニー、そんなに固くならないで良いから座りなさい。」


シャイニーがソッと座ると、ソファはサビィの向い側へと移動した。


「え!ソファが動いた。」


突然動いたソファに驚いたシャイニーは、体勢を崩し勢い余ってフルルが髪の中から飛び出した。

フルルは、何が起こっているか理解できずキョロキョロしていたが、目の前にいるサビィに気付いた瞬間、驚いて飛び上がり、慌ててシャイニーの髪の中に隠れた。


「おや…シャイニー、君の髪の中に隠れた子は…?」

「サビィ様、この子は音符のフルルです。」

「音符とは、なかなか面白い。なぜフルルは君の所にやって来たのだ?」

「パーティーの時に、この音符に気に入られたみたいで…僕のそばにずっといるんです。フルルと名付けました。実は、フレームも音符に気に入られて離れないんです。ヒューと名付けていました。」

「ほお、それはまた興味深い…その音符達は、ハーニーが奏でたハープから現れたものだね?」

「そうです。ハーニーは音符に気に入られると、余程の事がない限り離れないと言ってました。」

「なるほど…フルル、怖がらず姿を現しなさい。」

サビィが優しく声を掛けると、シャイニーの髪の中からフルルがヒョッコリと姿を現した。


「フルル、おいで。」


サビィが手招きをすると、フルルはおずおずとそばに寄っていった。


「ごくまれに、音符が天使を気に入る事があるとは聞いていたが…目にするのは初めてだ。」


サビィが手を出すと、フルルはソッと手の平に乗った。


「なるほど…そういう事か…シャイニー、フルルは君の髪と翼の色に惹かれたらしい。髪の中に潜り込んだら、あまりの心地良さに眠ってしまったそうだ。その時に見た夢が素晴らしく君の事が大好きになった…そう言っている。」

「サビィ様、フルルの言葉が分かるんですか?」


驚くシャイニーに、サビィは頷くと更に続けた。


「音符には、天使の性格が夢で分かるそうだ。シャイニーの髪の中で見た夢が、キラキラと輝きとても綺麗で温かったらしい。」


フルルは、サビィが気持ちを伝えてくれた事に喜び、ピョンピョンと小さく飛び跳ねている。


「そうなんだ…フルルの気持ちが分かり嬉しいです。」


シャイニーが笑顔で答えると、フルルは彼に甘えるように何度も頬ずりをするのだった。


「あはは!フルルくすぐったいよ。」


サビィは、そんなシャイニーとフルルを微笑ましく見ていた。


「シャイニー、フルルはその夢を見てそばにいたいと強く思ったようだ。ハーニーが言っていたように、余程の事がない限りシャイニー離れないだろう。」

「サビィ様、フルルの気持ちを伝えて下さりありがとうございます。」

「いや…シャイニー、気にする事はない。なぜなら君も、いつかフルルの気持ちを理解できるようになるだろうからね。」


サビィは、フッと優しく微笑みシャイニーを見た。


「僕もフルルの気持ちが分かるようになるんですか?」

「そうだ、シャイニー。恐らく私よりも詳しく、フルルの気持ちが理解できるようになるだろう。」

「わぁ〜それは嬉しいな。」


シャイニーが喜び笑顔になると、フルルも嬉しそうにピョンピョンとジャンプした。


「シャイニー。それでは、そろそろ私の手伝いをしてもらおう。フルルは、そばで手伝いを見ているかい?」


サビィの言葉にフルルは、考えるような素振りを見せていたが、モゾモゾとシャイニーの髪の中へ潜り込んでいった。


「フルルはシャイニーの髪の中が、相当気に入っているようだ。」


サビィは、クスクスと笑いながら言った。


「では、そろそろ始めるとしよう。」

「はい。サビィ様。」


シャイニーは、サビィの言葉に背筋をピンと伸ばした。


「シャイニー。君は、私がどのような仕事をしているか分かるか?」

「えっと…サビィ様は、天使長として天使の国を守り、全ての天使の活動を把握しているとラフィ先生から聞きました。」


サビィは、頷くと優雅に立ち上がりゆっくりと歩き出した。


「そうだね、シャイニー。全天使の活動を把握する方法の一つがこの水盤だ。さぁ、こちらにおいで。」


2人並んで水盤の前に立つと、サビィが手をかざした。

すると、水面がユラユラと揺れ始め、少しずつ波が大きくなりザワザワと波立った。

やがて水面が落ち着くと、何かをボンヤリと映し出し、徐々にそれはハッキリとしていった。


「あ!ラフィ先生。」


水面には、図書室で本を探しているラフィの姿が映っている。


「ラフィは本が好きで、よく図書室で本を探している。」

「ラフィ先生が本好きとは知りませんでした。」

「ラフィは明るく気さくだが、あまり自分の事は語らないのだ。恐らく、君達にも語らないだろう…」


水面を見つめるサビィの瞳は、どこか寂しそうだった。


「本心を語らない…それは、昔からなのですか?」

「いや、ある事がキッカケで本心を語らなくなった。」

「ある事…?」

「私からは、これ以上話せない。シャイニー、君ならラフィのその "キッカケ" に行き着くかもしれない…」

「え?それは、どうしてですか?」

「いや、何となくそう感じただけだ。さぁ、シャイニー。もう一度、水盤を見てごらん。」


サビィがパチンと指を鳴らすと、水盤の水面が再びユラユラと揺れ始めた。

やがて、水面が静かになると、また何かを映し出した。


「あ!ハーニーだ。フレームもいる。」


水盤は、誕生の部屋で楽しそうに話しながら笑い合うハーニーとフレームを映し出していたのだった。


(2人とも凄く楽しそう。何を話しているのかな?)


シャイニーは、ほんの少し寂しさを感じながら2人の姿を見つめていた。


「シャイニー、君はなぜ私の手伝いを願い出たのだ?ハーニーの所は考えなかったのか?」


サビィの問い掛けに、シャイニーは少し考えると、迷う事なくハッキリと答えた。


「確かに僕は、最初はハーニーの所に行きたいと思いました。でも、それでは学びにならない気がしたんです。僕が心から手伝いたいと思える所…と考えた時に、サビィ様が頭に浮かびました。」

「なるほど…シャイニー。君はブランカ城に来てから、随分と成長したようだ。これから君がどのような天使となるか…私も楽しみだ。」


サビィは、穏やかに微笑みながらシャイニーを見つめた。

「僕は、まだまだ力もないし、分からない事も多いので、どのような天使になりたいかも良く分からなくて…でも、これから学びながら成長すれば、様々な事が見えてくるような気がするんです。だから、学びを頑張りたいと思っています。」


シャイニーの瞳には、一切の迷いはなくキラキラと輝いていた。

以前のように不安で心が一杯になったり、泣いてばかりいた面影はなく、強さと希望に満ち溢れている。


(ほお…わたしが思っていたよりもシャイニーは成長していたようだ…この瞳の力強さ…あの時の彼女と同じだ…まさか、この瞳に再び出会えるとは…)


サビィは、感慨深げにシャイニーを見つめていたが、ふと、彼の力がどれほどのものか試したくなった。


「シャイニー、この水盤を使ってみなさい。君が見たいものを見るといい。」

「僕が使ってもいいんですか?」


シャイニーは驚いた表情を見せたが、サビィは微笑みながら深く頷いた。


「まずは水盤に意識を集中させるのだ。」


シャイニーは水盤の前に立ち、目を瞑り意識を集中させた。

すると、突然頭に低く穏やかな声が響いてきた。


(君がシャイニーか?)


「え!声が聞こえてきた…僕はシャイニーです。あなたは誰ですか?」


シャイニーがキョロキョロしながら尋ねると、再び声が頭に響いた。


(私は、お前の前にある水盤じゃ…見たいものは何だ?望むものを見せるとしよう。)

「水盤さん、ありがとう。それじゃ…ストラとマトラを見せてくれる?」

(お安い御用じゃ…)


水盤が答えると、水面がユラユラと揺れ始めた。

そして、徐々に揺れが収まるとストラとマトラの姿を映し出した。


「ほぉ…これは驚いた…もう水盤と会話し使いこなすとは…」


サビィは、戸惑いながらも水盤を使いこなすシャイニーを見て、目を丸くした。


(私は、水盤ではなかなか手こずったが…シャイニーの力は未知数だ…)


「ストラとマトラだ…サビィ様、僕できました!」


シャイニーは、ニコニコしながらサビィを見上げた。


「君は、とても筋が良い。この水盤を、もう使いこなすとは…私の元に水盤がやって来た時、実は相当苦労したのだよ。」


サビィは、昔を思い出し苦笑しながら言った。


「え!サビィ様が苦労されたんですか?」


シャイニーは驚き目を丸くした。

苦労しているサビィの姿が、どうしても想像できなかったのだ。


「あの頃は、まだ天使長の座に就く前だった…私は水盤だけではなく、天使長になった際、その仕事にも苦労したのだよ。」

「そうなんですね…サビィ様は、全てが完璧だと思っていました。」

「ここだけの話しだが…私は当初、天使長に向いていないと思い悩んでいたのだ。私の前に天使長の座に就いていたブランカが素晴らしかったからね。私では、とても務まらない…そう思っていた。今思えば、その自信のなさから水盤を始め、仕事全般に苦労し悩んだのかもしれない。」


サビィは、昔を懐かしむように目を細め遠くを見つめていた。


「サビィ様にも、そんな時があったなんてビックリしました。」

「天使は様々な学びを通し少しずつ成長していく。天使によってその学びは様々。自分に合った学びをその都度選択していくのだよ。学びには終わりはない。私とて、今も学んでいるのだよ。」

「サビィ様は、今も学んでるんですね。」

「私だけではない。ラフィも未だに学んでいる。ハーニーもだ。皆、学び続けているのだよ。」

「そっか…学びは、奥が深いですね…あの、一つ聞きたいんですが、自分に合った学びをどのように選択していくんですか?」

「選択肢は突然、目の前に現れる。どの選択にするのか…これは自由だ。それぞれの選択肢に学びは用意されている。」

「そうなんですか…今の僕には難しくてよく分かりません。」


シャイニーは、残念そうに肩を落とした。


「すまない、シャイニー。君にこの話しは少し早かったようだ。後で分かる時が来るから、今は気にしなくても大丈夫だ。それまで、胸にしまっておきなさい。」


サビィは、微笑みながら優しくシャイニーの頭を撫でた。


「はい、サビィ様。それから、ちょっと気になったのですが、前天使長はブランカ城のいわれとなった天使ですよね?」

「そうだ、シャイニー。昔、天使の国で悲しい出来事が起こり、ブランカ城が造られた。その出来事を決して忘れないように…」

「悲しい出来事…一体何があったのですか?」

「その事については、ラフィから話される。それまで待っていなさい。そうそう。私が天使長に向いていないと悩んでいた事は、内緒にしておくれ。2人だけの内緒の話しだ。」


サビィは、悪戯っぽく笑いウィンクをした。


(わぁ…サビィ様もこんな表情するんだ〜)


サビィが見せた思いがけない表情に目を奪われながら、シャイニーは深く頷いた。


その時、水盤が突然ザワザワと波立ち2人の頭に声が響いた。


(サビィ!ストラが問題を起こした。私を見るのじゃ。)


2人が急いで水盤を見ると、水面が赤く染まりながら揺らめいていた。


「これは一体…水盤、もっと詳しく見せなさい。」


サビィの言葉に、水面が大きく揺らめいた。

ザワザワと波立ち、落ち着きを取り戻した時に映し出したものは、調理室に立ち上る火柱だった。


「大変だ!火事です!」


シャイニーは驚き、サビィを見上げた。


「シャイニー、私と一緒に来なさい。」


サビィは、シャイニーの手を取り調理室へ向かった。



お読み下さりありがとうございます。


ご感想やレビューなど頂けると嬉しいです。


長編小説となりますが、よろしくお願いします。

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