小さなハープとフレームの寂しさ
「はぁ〜、疲れた〜」
シャイニーは、部屋に戻るとベッドに倒れ込んだ。
ハーニーと別れた後、成長の部屋で小さな子供達にせがまれ遊び、果樹園の見学と収穫の手伝いをし、食堂で夕食を取り、ようやく部屋に戻ってきた。
「疲れたけど、充実した1日だったな〜」
シャイニーは、今日1日の学びを思い返していると、髪の中からモゾモゾとフルルが出てきた。
フルルは、シャイニーの顔に近付くとスリスリと頬擦りをして甘え始めた。
「ウフフ…フルル、くすぐったいよ。」
シャイニーは、指で優しくフルルを撫でた。
「君は、本当に不思議な子だね。」
シャイニーがフルルと戯れていると、フレームの部屋からドタバタと音が聞こえてきた。
「ん?何だろう?」
首を傾げながら、シャイニーはフレームの部屋に続く扉をノックした。
「シャイニー、入ってこいよ。」
フレームの楽し気な声に引き寄せられるように、シャイニーとフルルは中へと入ると、ハーニーから貰ったハープが音を奏で歌っている姿が目に入った。
「シャイニー。このハープ、部屋に戻ってきた途端歌い始めたんだ。クルックを見てみろよ。」
シャイニーがクルックに目を向けると、クルックは涙を流しながらウットリしていた。
「私、このような素晴らしい音楽を久し振りに聴きましたわ。心が洗われるようです。」
「クルックが泣いてる…時計も涙流すんだ…」
「な?ビックリだろ?それだけじゃないんだ。あれ見てみろよ。」
フレームが指差す方を見ると、ヒューがハープの音楽に合わせ踊っている。
聞こえできていたドタバタという音は、ヒューが勢い余って壁にぶつかった音だった。
すると、シャイニーの後ろに隠れていたフルルが、恐る恐る姿を現し様子を伺っていたが、意を決して飛び出すとヒューと一緒に踊り出した。
フルルとヒューは、部屋中を仲良く楽しげに飛び回りながら踊り、クルックは涙を流しながら聴き入っている。
「フレーム…何だか凄い光景だね…」
「あ、あぁ…俺もちょっとビックリしてる…」
2人が苦笑いをしていると、今まで涙を流していたクルックが鼻をすするような音を立てながら叫んだ。
「ズッ…フレーム…わ、私…ズッ…決めましたわ!ズズッ…」
「決めたって何を?」
フレームは、いつ鞭が飛んできてもいいように構えながら訝しげに尋ねた。
「私、鞭を封印します!ズズッ…」
「へ?今、何て言った?」
「ですから、鞭を封印しますの。ズッ…」
「どうして、また急に…」
「私、目が覚めましたの。今までの私は、あまりにも傲慢でしたわ。本日から心を入れ替えます!ズズッ…」
クルックは、鼻をすすりながら胸を張るように体を反らせた。
「あ、あぁ…そうか。それは俺も助かるな。」
フレームは、1人感動し盛り上がっているクルックに目をやりながら、シャイニーの腕を軽く突いた。
「おい、シャイニー…クルック一体どうしたんだ?頭でも打ったか?」
フレームは、クルックを見たまま信じられないというような表情で、頭を左右に振った。
「う〜ん…小さなハープの音楽と歌に感動したのかな?このハープには不思議な力があるみたいだし…」
「そうですのよ!私…感動しましたの!ズッ、小さなハープが奏でる音や歌声が本当に美しくて…ズッ、心を動かされましたの!フレーム、このハープはどなたの物ですの?」
「このハープは、ハーニーから貰ったんだ。ハーニーは、お前の事知ってたぞ。」
「まぁ!あのハーニーの物でしたの…それは納得ですわ!」
「クルック、ハーニーの事を知ってるの?ハーニーもクルックの事を知ってるみたいだったけど…」
シャイニーは首を傾げて尋ねた。
「えぇ、もちろん知ってますわ!彼女が奏でるハープの音色は、とても素晴らしく天使の国一番ですわ!ハーニーは、何度か私の為にハープを弾いてくれました。」
「え!ハーニーがクルックの為にハープを弾いたの?」
シャイニーとフレームは、思わず顔を見合わせた。
「あれは…もう随分前の話しになりますわ…ハーニーが、このブランカ城で学んでいた時の事ですから…」
クルックは、昔を思い出しているのか遠くを見つめている。
「フレーム、何があったか気にならない?」
「うん…確かに気になるな。クルック、どうしてハーニーはお前の為にハープを弾いたんだ?」
クルックは、懐かしさを噛み締めながらポツポツと話し始めた。
「あの頃…私は、ハーニーとルームメイトの2人の担当でしたの…ハーニーは、ちゃんと時間を守る子でしたわ。でも、ルームメイトは時間に全く無頓着で、とても手を焼きましたの…あの子は本当に酷くて…後にも先にも、あの子の右に出る子はいませんわ。」
「なんだ、俺より酷い天使がいたんだな。俺なんて可愛いもんだ。」
フレームは、ニカッと笑うとクルックを見た。
「フレーム!あなたの場合は態度が悪いのです!」
クルックはフレームをキッと睨んだが、彼は首をすくめるとペロッと舌を出した。
「クルック、それで?」
シャイニーが話しの続きを促すと、クルックは横目でフレームを睨みながら再び話し始めた。
「私はその子に対し、強く叱り過ぎてしまいましたの。今思えば、時間を守らなくても全く気にしていない態度に、腹を立てていたような気がしますわ…私がその子を鞭で叩く度に、サビィ様にお説教されましたの…落ち込む私にハーニーは、優しくハープを弾いてくれましたわ。彼女はとても優しく良い子でしたの。」
(ハーニーらしい話しだな…僕が成長の部屋に行く時も、ハープで慰めてくれたし…)
シャイニーは、成長の部屋に行く事を嫌がり泣いていた時の事を思い出していた。
(あの時もハーニーは、ハープを弾いてくれたんだよね。)
「ん?シャイニー、ボーッとしてどうした?」
「うん…僕が泣いている時、ハーニーがハープを弾いてくれた事を思い出していたんだ。」
「あぁ…シャイニーは、よくピーピー泣いてたからな。その度に床が真珠だらけになったよな。」
「うん。僕は本当に泣き虫だったよ。」
シャイニーは恥ずかしそうに笑った。
「でも、まぁ…シャイニーは強くなったよな。特に、ブランカ城に来てからの成長にはビックリだ。いつの間にか背も伸びてるし。俺と身長が変わらないんじゃないか?」
フレームは、シャイニーと自分の頭に手を置き、身長を比べながら言った。
「そうかな〜僕は、まだまだだよ。やっぱり不安もあるし…」
「いっつも俺の後ろをチョコチョコついて来てたのにな…」
フレームは、シャイニーの頭を撫でるとニカッと笑った。
しかし、その笑顔はどこか寂しそうだった。
(あれ?フレーム…いつもの笑顔と違う…)
シャイニーは、フレームの顔を良く見ようと近づいたが、彼はフイッと身をかわし目を逸らした。
「さぁ、シャイニー。もう寝るぞ。明日から、仕事の手伝いをするんだったよな?」
「う、うん。そうだったよね…」
「クルックも感動したままだし、今日はゆっくり眠れそうだ。さすがに疲れたな〜シャイニーも疲れたろ?」
「う、うん…まぁ、疲れたよ。」
「よしっ!じゃあ、寝よう!」
フレームはシャイニーの肩を両手で掴み、くるりと向きを変えると、扉までグイグイと押した。
「え!ちょ、ちょっと…フレーム。」
「じゃあな、おやすみシャイニー。」
シャイニーは振り返ったが、フレームは背を向けベッドへと向かっていた。
「フレーム…おやすみ。」
シャイニーは、扉を開けながらフレームを見たが、彼がこちらを見る事はなかった。
ーーーパタンーーー
静かに扉が閉まるとフレームは、ベッドにゴロンと横になり、溜め息をつきながら天井を仰いだ。
「おやすみ…シャイニー。」
フレームは、自分の心に初めて生まれた寂しさという感情に、戸惑いどうして良いか分からなかった。
(ごめん。シャイニー、明日はいつもの俺に戻るから…)
フレームは、心の中で謝るとそっと目を閉じたのだった。
(フレーム、一体どうしたんだろう?)
シャイニーは後ろ手で扉を閉め、そのまま考えていた。
(僕、何か気に障るような事でも言ったかな…?あんなフレーム初めてだよ…寂しそうに笑ってたし…)
扉の前で動かないシャイニーに、チックが話しかけてきた。
「シャイニー、どうしたの?何かあった?」
「ううん…何でもないよ。」
「そう…それなら、早く寝た方が良いわ。明日も学びがあるんだし…」
「うん。分かったよ、チック。」
シャイニーがベッドに横になると、天蓋に映し出された星達が美しく瞬き、彼の心を落ち着かせていった。
(やっぱり、この星空は良いな〜)
星空を見つめていると、フルルが髪の中からゴソゴソと出てきた。
「あれ?フルル。いつの間に髪の中に潜り込んだの?さっきまで、ヒューと一緒に踊ってたよね?」
シャイニーの問いにフルルは、考え込むように少しの間ジッとしていたが、何かを思い付いたらしくシャイニーの目の前をスーッと横切った後に髪の中に潜り込んできた。
「ん?何か僕に伝えようとしてる?」
フルルに尋ねると、頷くように2、3回小刻みに体を前に倒した。
「分かった。ちょっと考えてみるね。え〜と…僕の前を横切ったのは…」
考えている間、フルルは同じ行動をなんども何度も繰り返している。
「もしかして…フレームに押されながら、扉の前に移動した時…かな?」
シャイニーの言葉にフルルは、弾かれるように飛び上がり何度も頷くと、髪の中に再び潜り込んだ。
「そうか!その時に潜り込んだんだね。」
フルルは、髪の中から飛び出すと勢いよく何度も頷いた。
「ウフフ。フルルの言いたい事が分かって良かったよ。ちょっと難しかったけど。」
そっとフルルを撫でると、嬉しそうにシャイニーの手にすり寄ってくる。
「じゃ、そろそろ寝ようか。」
フルルは、頷くとシャイニーの顔のそばで横になった。
「おやすみ…フルル。」
シャイニーは疲れていた事もあり、あっという間に眠りに落ちていった。
天蓋の満天の星空が、キラキラと輝きながら、シャイニーとフルルを優しく見守るのだった。
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