クルックとサビィの過去
シャイニーは、ゆったりとした美しいメロディの中、目を覚ました。
天蓋を見ると星空は消え、雲が浮かんだ青空と太陽に変わっている。
シャイニーは、ウ〜ンと背伸びをすると掛け時計に目を向けた。
(チックが起こしてくれたんだ。)
「チック、おはよう!起こしてくれてありがとう。」
「どういたしまして、シャイニー。お目覚めはいかが?」
「うん。よく眠れたからスッキリしたよ。」
「それは、良かったわ。今日から、本格的に学びが始まるから頑張ってね。」
「うん。ありがとう、チック。」
(チックが優しい掛け時計で本当に良かった。)
シャイニーが安堵の溜め息をついた時、チックが何かに気付いたようだった。
「シャイニー、あなたの頭の後ろに何かいるわ。」
「え!」
シャイニーが振り返ると、昨日の音符が恥ずかしそうにモジモジしていた。
「音符くん、起きたんだね。おはよう!僕はシャイニー。この掛け時計はチックだよ。チック、この音符くんは昨日のパーティーで会ったんだ。」
「シャイニーは、この音符に気に入られたのね。よろしくね。音符くん。」
チックが話しかけると、音符はシャイニーの後ろにサッと隠れた。
「あらあら、その音符くんは恥ずかしがり屋さんみたいね。」
チックは楽しそうに歌うように言った。
「君に名前をつけないとね。え〜と…そうだ!君の名前はフルル。フルルに決めた!」
シャイニーがニッコリ笑って音符を見ると、音符は嬉しそうにクルクル回った。
「気に入ってくれたみたいだね。よろしく、フルル。」
フルルは、シャイニーの言葉に答えるかのようにユラユラと揺れている。
シャイニーが笑顔でフルルを見つめていると、フレームの部屋から大きな物音と声が聞こえてきた。
ーーーバチッ!バチッ!ーーー
「クルック!痛って〜な!だから鞭はやめろ!」
「いいえ!やめません!早くベッドから出なさい!」
「分かったから、鞭はやめろ!オイッ!」
シャイニーは、慌ててフレームの部屋に入り、フルルもシャイニーの後に続いた。
「フレーム、大丈夫…?え!」
シャイニーが目の当たりにしたのは、クルックがフレームを鞭でバシバシと叩いている光景だった。
「クルック!駄目!叩かないで!」
シャイニーは叫び、フレームに駆け寄り鞭から庇うように抱き締めた。
「おい!シャイニー!バカ、やめろ!怪我するぞ!」
フレームがシャイニーの体を押し返すと、突然その体が虹色に輝いた。
光は、シャイニーとフレームを守り、クルックの鞭を跳ね返す。
シャイニーは、ゆっくりと立ち上がりクルックに向き合った。
彼の体からは虹色の光が立ち上り、ユラユラと揺れている。
光の加減により、淡く優し気に輝いたかと思えば、色鮮やかに発光し揺らめいている。
その光は美しく、見ている者の目を釘付けにした。
「クルック…やめて。叩いてはいけないよ。」
シャイニーは、クルックをジッと見据え、ゆっくりと言い聞かせるように言った。
シャイニーから放たれる、七色の美しい光に見惚れていたクルックは、ハッと我に返った、
「分かりましたわ…」
クルックは大人しく鞭をしまうと、再び七色の光に目を向けウットリとしている。
「フーッ。」
シャイニーがゆっくりと息を吐くと、体から放たれていた光はスーツと消えていった。
「ありがとう、クルック。君に聞きたい事があるんだけど…良いかな?」
「はい、シャイニー何でしょうか?」
クルックはウットリしながら、ぼんやりとした声で答えた。
「クルックは、どうして鞭を使うの?」
シャイニーの質問にクルックは背筋を伸ばすようにシャッキっとし、意気揚々と答えた。
「それは、秩序を守らない子供達を戒める為ですわ。」
「う〜ん…僕は、それは違うと思うよ。」
「何ですって…シャイニー、何が違うと言うのですか?」
「あのね、クルック…どうして秩序を守らないといけないの?」
「そうですわね…また子供の天使達は、このブランカ城で学び、いずれ修業へと旅立ちますわ。ブランカ城での学びの時間は限られておりますので、時間を有意義に使わねばなりません。ですから、寝坊や遅刻などは以ての外なのです。」
「そうなんだ…それなら、鞭で叩く前に、その事をちゃんと説明すれば良いと思うよ。それに、鞭で叩かなくても起こせるでしょ?」
「まぁ…できなくはありませんが…」
「朝から鞭で叩くなんて、学びにも悪い影響があるんじゃない?」
「そうでしょうか…でも、サビィ様はとても優秀でいらっしゃいましたが…」
「え!クルックはサビィ様も鞭で叩いたの?」
シャイニーは驚きのあまり、身を乗り出しクルックを見つめた。
「ええ!叩きましたとも!あの方は目覚めが大変悪く、起こすのに苦労しましたわ。でも、サビィ様は私が時間ピッタリに起こしましたので、とても優秀でしたの。」
クルックは、誇らし気に体を逸らし胸を張った。
「クルック…それは違うよ。確かにクルックが時間通りに起こした事もあっただろうけど…サビィ様が優秀だったのは、一生懸命に頑張ったからじゃないのかな…?」
シャイニーの話しを聞いてクルックは、少しの間考えハッとした。
「そう言えば…サビィ様は、いつも遅くまでたくさんの本を読んでいらしたわ…」
「遅くまで本を読んでいたら、目覚めが悪くても仕方ないんじゃない?鞭で叩く以外に起こし方あるでしょ?」
「私は、間違っていたのでしょうか…」
クルックは、ガックリと項垂れたように体を倒した。」
「あ〜、クルックを責めているんじゃないよ。クルックも一生懸命にフレームやサビィ様を起こしたんだよね。僕が言いたいのは、日常の様子を見てほしい事と、気持ちを考えてほしいという事なんだ。」
「日常を見て気持ちを考える…」
「うん。クルックがその事を考えて行動してくれたら、僕達との関係もずっと良くなると思うよ。」
「なるほど…何となく分かってきましたわ。」
「分かってくれたんだ。ありがとうクルック。」
シャイニーは、理解してくれた事に嬉しくなりニッコリと笑った。
「明日から起こし方を変えてみますわ。鞭は、最後の手段に致します。」
(やっぱり、鞭も使うんだ…まぁ、でも少しは分かってくれたみたい…)
シャイニーは、苦笑いしながらフレームを見た。
「フレーム、怪我はなかった?大丈夫?」
フレームは、呆然とシャイニーとクルックを見ていたが、ハッと我に返った。
「あ、あぁ…大丈夫だ…」
「怪我がなくて良かった〜」
シャイニーは、心底ホッとした笑顔だ。
(シャイニー、お前…ブランカ城に来てから凄くねぇか…今までは、俺の後ろから付いて来るだけだったのに…)
ーーーチリ、チリ、チリーーー
フレームの戸惑いに反応するように、彼の胸に再び小さな炎が燃え上がった。
(まただ…熱くて痛い…何だこれは…)
フレームが苦痛に顔を歪めると、シャイニーが心配そうに顔を覗き込んだ。
「フレーム、大丈夫?やっぱりどこか怪我したの?」
フレームは、シャイニーの顔を見ると、どうしようもない苛立ちを覚えた。
その苛立ちから思わずシャイニーを突き飛ばそうとした瞬間、フレームの髪の中から、炎のように赤い音符な勢いよく飛び出し回転した。
ーーーシューッ!クルクルクルクルーーー
音符は、部屋中を飛び回るとクルックの前でピタッと止まった。
「何ですの?」
クルックが問いかけると、音符はユラユラと揺れていかと思えば、数メートル後方に下がった。
「あの音符、一体何するつもりだ?」
音符の突然の行動で、フレームの胸の小さな炎は一瞬で消えていた。
フレームは何事かと首を傾げていると、音符はもの凄いスピードでクルックに体当たりした。
ーーードッシーン!ーーー
あまりの衝撃に、クルックから星が幾つか飛び出し上方でクルクル回っている。
「い、痛いですわ…何をなさいますの!この…音符!!」
クルックが激怒し鞭を取り出し、ヒュンヒュンとしならせた。
音符は、ガタガタと震えクルックから逃げるように、フレームの髪の中に潜り込んだ。
「おいっ!バカッ!今、潜り込んだらまた…」
フレームが恐る恐る顔を上げると、殺気立ったクルックが鞭をしならせながら飛んで来るところだった。
「クルック!いい加減にしないか。」
その時、凛とした美しい声が部屋中に響き渡った。
「い〜え、やめませんわよ。見てらっしゃい。」
「クルック、私を怒らせるつもりか?」
クルックは、声の主を確認する為にゆっくりと振り返ると、サビィが腕を組みジッとこちらを見つめている。
その姿を見て、クルックはブルブルと震え上がり慌てて鞭をしまった。
「あの…サビィ様、これは…」
「クルック、お前の行動は水盤を通して全て見ていた。シャイニーが話した事を全く理解していないようだ。」
シャイニーとフレームは、突然サビィが現れた事に、ただただ驚いていた。
「最近、大人しくしていると思っていたらこの有様…お前はまだ鞭を使っているのか。」
「サビィ様、最近の子供達は寝起きが良くて鞭は使っておりませんでしたわ。フレームが驚くほど寝起きの悪い子供でしたの。しかも、私に対して反抗的な態度、全くこんな子はサビィ様以来ですわ。」
「クルック、口が過ぎる。」
サビィは、クルックをジロリと睨んだ。
クルックは、再びブルッと震えると体を縮こまらせるように小さく折り曲げた。
「シャイニー、フレーム。君達は学びに向かいなさい。クルックには、久し振りにお説教が必要なようだ。それから、この騒ぎで朝食を取っていないようだから、これを食べていきなさい。」
サビィがパチンと指を鳴らすとシャイニーとフレームの前に、オレンジ色のマフィンが現れた。
2人が手を広げるとマフィンが手の平にストンと落ち、甘く爽やかな香りを放ち、部屋中に立ち込めていった。
「これは、マレンジュリのマフィンだ。最近は、お菓子も研究し開発している。マロンが試食し、味は保証済だ。安心して食べなさい。」
シャイニーとフレームは顔を見合わせ、甘く爽やかな香りを放つマフィンを頬張った。
「ん!美味しい!」
「何だこれ!美味い!」
2人は、マレンジュリのマフィンを一気に食べ終えた。
「サビィ様、とても美味しかったです。ご馳走様でした。」
「サビィ様、美味かった。ご馳走様。」
2人は、満足気にニッコリと笑った。
「さぁ、もうホールに向かいなさい。クルック、では久し振りに話すとしよう。」
シャイニーとフレームは、今にもクルックに説教を始めようとするサビィを横目に、ホールへ向かったのだった。
シャイニーとフレームがホールに着くと、子供達の姿はまばらだった。
「フレーム。まさかサビィ様が来るとは思わなかったね…」
「うん…ビックリした。クルックは、サビィ様に何度も説教されてるんだろ?それでも鞭で叩く事をやめないんだぜ…俺、これからクルックとやっていく自信がないよ…」
フレームが溜め息をつくと、フレームの髪の中から赤い音符が飛び出し、フレームの目の前でユラユラ揺れた。
「あ!お前、さっきは何だよ!お前が俺の髪に潜り込んだから危なかったじゃねえか!」
赤い音符はピタッと動きを止めると、今度は小さく震え始めた。
「フレーム…もしかすると、この音符くんはフレームを助けようとしたんじゃない?」
音符はシャイニーの言葉を聞くと、何度も小さく体を前に倒し、まるで頷いているようだった。
「音符、そうなのか?」
フレームが尋ねると、音符はフレームの周りをクルクルと何度も回った。
「そうみたいだね。フレーム。」
「だな…ありがとな音符。それなら、まぁ…仕方ないな。そうだ!お前に名前つけないとな。そう言えば、シャイニーの音符はどうした?」
「フレームの部屋に入った時は、僕の後ろにいたんだけど、いつの間にかいなくなってたんだ…」
シャイニーが心配そうに答えると、翼の中からゴソゴソと物音ががし、フルルがヒョッコリと姿を表した。
「シャイニー、翼の中から音符が出てきたぞ。」
フルルは、様子を伺うようにキョロキョロと周りを見回し、ゆっくりと翼の中から出ると、シャイニーの前でユラユラと揺れた。
「フルル、僕の翼の中に隠れていたんだね。」
フルルは、頷くように2、3回体を前に倒した。
「シャイニー、お前の音符は随分と慎重だな。」
「フレームの音符は、活発というか無鉄砲だよね。」
2人は目の前でユラユラ揺れる音符を見つめていたが、フレームが何かを思いつき、指をパチンと鳴らした。
「よし!お前の名前はヒューだ!これからよろしくな!ヒュー。」
フレームが満足そうにニカッと笑うと、ヒューは嬉しそうにピョンピョン跳ねると、そのままフレームの髪の中に潜り込んだ。
すると、ホールに子供達が続々と集まり始め、フルルも慌ててシャイニーの頭に潜り込んだ。
「フレーム、この音符不思議だよね。」
「あぁ、どうして俺達の事を気に入ったんだろうな?」
首を傾げる2人の所に双子の天使、ストラとマトラがやって来た。
「あ!いたいた。シャイニー、フレーム!食堂に来ないから心配しちゃったよ。朝食は食べた?」
「あ〜、食べたには食べた。ハプニングがあって食堂に行く事なんて忘れてた。な、シャイニー。」
「う、うん。」
(そう言えば、昨夜チックが朝食の事を教えてくれてた気がする…)
「え!朝食を忘れるようなハプニングって一体何?」
ストラは興味深そうに前のめりになり2人の顔を交互に覗き込んだ。
その時、子供達の頭上から明るく優しい声が聞こえてきた。
「フレーム、今朝は大変だったみたいだね。」
子供達が一斉に顔を上げるとラフィが笑顔で立っていた。
「ラフィ先生!」
「ラフィ先生、今朝の事知ってるのか?」
フレームが尋ねると、ラフィが笑顔で頷いた。
「さっき、サビィから聞いたよ。おかげで君達が食堂に行けなかったってね。ブランカ城の食事は、評判が良いんだよ。食べられなくて残念だったね。」
「え!そんなに美味かったのか?」
フレームは、目を見開きマトラを見た。
「そうよ。すっごく美味しかったわ。朝からたくさん食べちゃった。」
「本当にビックリするくらい食べてたよね。マトラ太るよ。」
「ストラ、うるさい。」
マトラがジロッとストラを睨んだ。
「はい…」
ストラが首をすくめるとラフィが楽しそうに笑った。
「あはは、食堂では朝と夜の2回食事を取るから、夕食を楽しみにしてれば良いんじゃないかな?マトラは、くれぐれも食べ過ぎないように。」
「もう!ラフィ先生まで!」
「あはは、さぁ!おしゃべりは終わりだよ。学びを始めよう。」
ラフィは、にこやかな笑顔でホールの中央に立った。
「さぁ、これからいよいよ本格的な学びの始まりだよ。君達は、まずブランカ城で学ぶ。一通り天使としての基本的な学びを終えたら、次は修業の旅に出る。」
「修業…?」
「旅に出るの?1人で?」
「困った時はどうするの?」
子供達は、ラフィの言葉に不安を感じ、ざわめき始めた。
「大丈夫だよ。心配はいらない。修業の旅に出ても、僕がきちんとサポートするからね。サビィも水盤で君達の行動をちゃんと見てるし、困った時は僕と連絡と取れるから。」
子供達は、ラフィの言葉を聞いて安心したのか、ホッと安堵の溜め息を漏らした。
「それに、君達が修業の旅に出る頃には、今よりも成長し逞しくなっている。現に、まだ昨日ブランカ城に来たばかりなのに、少しずつ成長し始めた子も何人かいるよ。だから、心配しないで僕について来てほしいんだ。」
子供達は、ラフィの言葉に力強く頷いた。
(いよいよ天使としての本格的な学びが始まるんだ…)
シャイニーは、少しと大きなワクワク感を胸に力強く頷くのだった。
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