ドラゴンと胸の中の小さな炎
3人は、ある部屋の前に立っていた。
「ラフィ先生、どうして直接部屋に行かないんですか?僕達の部屋には直接来たのに。」
「それは…君達が驚いてしまうからだよ。いいかい、この部屋で何がいても驚かないようにね。」
ラフィは真剣な顔で2人の顔をジッと見つめた。
「え!何かいるんですか?」
「先生!一体何がいるんだ?」
2人が少し怯えた表情で見ると、ラフィはフッと目を逸らした。
「まぁ…君達なら大丈夫だろう…うん。多分…さぁ、行くよ。」
ラフィは扉を開けて部屋の中へと入って行った。
「あ!ラフィ先生、待って!」
2人は、慌ててラフィの後に続いた。
2人が部屋の中に入ると、目の前に大きな緑色の岩のような物が現れた。
その岩は、少し震えるように動いていたが、突然左右に揺れ始めた。
シャイニーとフレームは怖くなり、ラフィの後ろに隠れて様子を伺った。
次の瞬間、その岩が部屋の天井すれすれまで一気に大きくなった。
「ギィィヤァァァ!!」
突然、緑色の岩から耳をつんざく大きな音が響いた。
あまりの音の大きさに部屋がビリビリ振動するほどだ。
シャイニーは、両手で耳を塞ぎラフィに聞いた。
「ラフィ先生!あの大きな岩みたいな物は何ですか?」
「ドラゴンだ…」
(ドラゴン…)
シャイニーは、緑色の岩をもう一度見た。
良く見ると背中だと思われる所に翼のような物がある。
「これは、かなりデカいな…」
フレームが食い入るようにドラゴンを眺めている。
「ストラ!マトラ!このドラゴンは君達が呼び寄せたんだね!」
ラフィがよく通る大きな声で呼びかけた瞬間、ドラゴンがゆっくりと振り返った。
「ギィィヤァァァ!!」
先程と同じ大きな音がドラゴンから発せられた。
(さっきの音は、ドラゴンの鳴き声だったんだ…あれ…?このドラゴン、何だか悲しそうな目をしてる…」
「ストラ!マトラ!どこにいるんだい?出ておいで!」
再びラフィが呼びかけると、ベッドやテーブル、椅子や本棚などがたくさん積み上げられた家具の山から、黒髪の男女双子の天使がゴソゴソと出てきた。
広場でドラゴンの話しをしていた天使達だった。
「先生…僕、どうしてもドラゴンに会いたくて…試しに呼び寄せたら本当に現れたんです…」
「ストラのバカ!私は、止めなさいってあれほど言ったのに!ドラゴンに襲われそうになったじゃない!」
「マトラ…ごめん…」
「もう知らない!ラフィ先生、助けて下さい。ドラゴンに襲われちゃう。」
マトラは、涙目でラフィに訴えた。
「ううん…このドラゴンは、君達を襲わないから大丈夫だよ。」
シャイニーは、隠れていたラフィの背中からゆっくりと離れながら言った。
「良く見てごらん…このドラゴン、とても悲しそうな目をしているよ。」
シャイニーは、そのままゆっくりとドラゴンに近づいて行った。
「おい!シャイニー、ダメだ!危ない!」
フレームがシャイニーを止めようと、ラフィの背中から身を乗り出した。
「フレーム、大丈夫だよ。このまま見守ろう。シャイニーを良く見ていてごらん。」
ラフィは、今にも駆け寄りそうなフレームを止めた。
シャイニーは、少しずつ少しずつドラゴンに歩み寄り、悲しげな瞳をしているドラゴンの目の前に立った。
「初めまして。僕はシャイニー。君はどこから来たの?」
シャイニーが、優しい笑顔でドラゴンに尋ねた。
「ギィィヤァァァ!!」
ドラゴンが叫ぶように鳴くと部屋がミシミシと音を立て始めた。
「キャッ!この部屋壊れそう…大丈夫かしら…」
マトラが不安そうに部屋をキョロキョロと見回した。
「マトラ、大丈夫だ。僕がついている。シャイニーが今からする事を良く見ていて。」
ラフィがマトラを落ち着かせるように笑顔で言い、シャイニーを見守った。
「大丈夫だよ。そんなに悲しまないで…」
シャイニーは、優しく語りかけながらドラゴンにゆっくりと手を伸ばした。
すると、それに答えるかのようにドラゴンも少しずつ頭を下げていった。
「うん。いい子だね…君はまだ子供なんだね。」
ドラゴンは、どんどん頭を下げシャイニーの手に顔を擦り寄せた。
「そっか…元の世界に帰りたいんだね…ママの所に帰りたい…ママって誰かな…あ!そうか!君を育ててくれている大人のドラゴンなんだね。僕で言えば…ハーニーみたいな存在だ。」
シャイニーがニッコリ笑うと、ドラゴンは嬉しそうにシャイニーの手をペロペロと舐めた。
「それなら帰してあげないと…ラフィ先生、この子を元の世界に帰してあげてくれませんか?」
シャイニーが、ドラゴンの頭を優しく撫でながらラフィを見た。
「シャイニー、君が帰してごらん。」
「え!僕が?そんな…無理です!できません!」
シャイニーは力いっぱい頭を左右に振った。
「シャイニー、できないと思えば何もできないよ。でも、できると思えばできるものなんだ。君の心次第だよ。自分を信じるんだ。まずは、ドラゴンに元の世界を見せてもらってごらん。」
シャイニーは、頷くと再びドラゴンに話しかけた。
「君を元の世界に帰してあげるね。だから、僕に君のいた世界を見せて欲しいんだ。」
ドラゴンは、分かった…というように頷くと目を瞑った。
シャイニーが、ドラゴンの頭にソッと手を置くと少しずつ情景が頭に浮かんできた。
最初はボンヤリとしていたが、徐々にハッキリとしていった。
そこは、高い木が生い茂る森林で、空には何頭かのドラゴンが悠々と飛んでいる。
突然、悲しそうな鳴き声が聞こえてきた。
何かを必死に探しながら叫び声を上げるドラゴン。
その目には涙も浮かんでいた。
「あのドラゴンがママなんだね。悲しそうに君を探している。早く帰してあげないと…え〜と…僕の心次第…」
シャイニーは、そのまま目を瞑ると、ドラゴンが元の世界に戻れるように心から願った。
しかし、ドラゴンが帰れる気配は全くない。
(う〜ん…願う気持ちが足りなかったのかな…僕がハーニーと離れた時の事を思い出してみよう。成長の部屋に行く時…僕はまだ小さくて、ただ悲しくて泣いてばかりいた…あの時、フレームが助けてくれたんだ…そうだ!このドラゴンは、あの時の僕と似ている…フレームが助けてくれたように、この子は、僕が助けてあげるんだ!)
強く念じるとシャイニーとドラゴンがは眩い光に包まれた。
その光は、あまりにも眩しく目を開けていられないほどであった。
徐々に光が小さくなり、完全に消え去るとドラゴンの姿はなく、シャイニーだけが立っていた。
「シャイニー!!」
フレームが慌てて駆け寄る。
「シャイニー!おい、大丈夫か?」
「あ…フレーム…うん。大丈夫だよ。ドラゴンは、無事にママの所に帰れて良かったよ。」
シャイニーは、疲れた様子だったが嬉しそうに笑った。
その時、フレームの胸に小さな炎が燃え上がった。
……チリ、チリ、チリ……
その小さな炎は、音を立てフレームの胸を焼き焦がした。
(何だこれは…胸が熱くて痛い…こんな感覚…始めてだ…)
「とにかく…シャイニーが無事で良かった。」
熱さと痛みに顔を歪めたフレームは、慌ててシャイニーから顔を背けた。
「フレーム?どうしたの?」
シャイニーが心配そうにフレームの顔を覗き込もうとした。
「何でもない!!」
フレームは顔を背けだまま、シャイニーの両肩に手を置くと、距離を取るかのように後ろへと押しやった。
「え…フレーム…僕、何か悪い事した?」
突然のフレームの態度の変化に、シャイニーはオロオロしている。
「あぁ…ごめん、シャイニー。お前があまりにも無茶するから、心配で動転したんだ。ドラゴンが帰れて良かったな。」
ニカッと笑ったフレームの笑顔に、シャイニーはホッとして力強く頷いた。
「うん!」
すると、ストラとマトラが駆け寄り、フレームを押し除け興奮しながらシャイニーに話しかけた。
「シャイニー!凄いじゃないか!」
「凄いわ!今のどうやったの?」
弾き出されたフレームは、唖然としてその光景を見ていた。
「何だよ…原因作ったのは、ストラとマトラなのに。もう忘れてるぜ…」
フレームはぶつぶつと呟いていたが、ふと視線を感じ顔を上げると、ジッと見つめるラフィと視線がぶつかった。
いつもニコニコしているラフィとは打って変わって、フレームの心を見透かすような目で見つめている。
「ラフィ先生…?」
フレームが恐る恐る声をかけると、ラフィはいつもの笑顔に戻った。
「フレーム、怖がらせて悪かったね。」
ラフィは、フレームの頭に手を置き、優しく二、三度撫でた。
その瞬間、フレームの心を焦がした小さな炎は、瞬く間に消えていった?
「今回は、シャイニーが力を発揮したけど、君にも力はあるんだ。その力は未知数であり、どう生かすがは君次第だよ。分かるかい?」
フレームの心にラフィの笑顔が染み渡り、少し焦げてしまった心を癒していった。
「うん!俺…何となくだけど分かるよ。」
フレームは、心が落ち着きを取り戻した事を感じニカッとと笑った。
それなら良かった。さぁ、シャイニーが双子達に質問攻めされて困っているから助けに行こう。」
(さっきの感覚は何だ?俺の心が突然燃えたようだった…俺がシャイニーを凄いと思ったら瞬間…炎が燃え上がったようだった…)
シャイニーの元へ歩いていくラフィの背中を見つめながら考えていると、戸惑い慌てる叫び声が聞こえてきた。
「フ、フレーム!助けて〜!」
シャイニーに目を向けると、ストラとマトラにガッチリと両腕を抱えられ、質問攻めにあい泣き出しそうになっていた。
ラフィは、その様子を見てクスクス笑っている。
「全く、仕方ないな〜」
フレームは、頭を掻きながらシャイニーの元へ向かった。
(まぁ…あの感覚は今は分からないけど…気にしない!きっと、体調が悪かったんだ。)
自分に言い聞かせながら、フレームはシャイニーの救出に急いで向かうのだった。
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長編小説となりますが、よろしくお願いします。




