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縁 【1/5】

 巨大岩巨人ギガントロックゴーレムがこちらの被害も無くあっさりと倒された。

 そんな信じられない報告をノキの街に持って来たのは、決死隊として送り出していたカナリア達の第一部隊であった。


 カナリアは岩巨人(ロックゴーレム)を処理した後、後続部隊に後処理を任せてすぐにノキの街に帰還していた。

 酒場兼ギルドの建物に入った全員は、そのままの都市長とギルドマスター達の待っている応接間へと通される。



「その……なんだ、信じていいのか? 本当にやれたのか?

 一時的に巨大岩巨人ギガントロックゴーレムが動きを止めただけとかで、残っている連中が戻って来ないなんてことは……?」


 シャハボから粗方の事情説明を受けた直後、そう尋ねたのはノキのギルドマスターであるバティストであった。

 彼は驚愕の表情を隠さないまま、それでも務めて冷静に状況を確認しようとしている。


『問題ない。カーナだけでなく、クタンもしっかりと《魔力感知(サンス・ドマジック)》で確認済みだ。

 念の為に爺さんたちもドンカン叩いていたしな』


 シャハボの返答に頷くのは、テーブルを挟んで椅子に座っているカナリアではなく、その後ろに立っているゴスとガス、そしてクタンであった。


『死体と言っていいかわからんが、とりあえずデカい岩が道を塞いでいるから、後続の連中に後は任せてある。

 金目の物になるかどうかまでは見ていないが、なるようなら切り崩して持ってくるだろう。

 そうでなければ道の脇に動かした後帰ってくるはずだよ』


「では、本当に倒したというのか」


 バティストの言葉にカナリアが頷き、後ろの三人が遅れて頷く。

 一人二人の話であれば兎も角、全員が自信をもって頷いている以上、バティスト達に異論を挟む余地はない。

 戦功確認はそれで終わりであった。


「いやはや、本物のクラス3とは凄いものですな。まさか本当に誰も死ぬ事無く大災害をやり過ごしてしまうとは」


 確認が終わった後、まず最初に口を開いたのはノキの都市長であるパウルであった。


「それに、クレデューリ様に借りを作らないで済んだのは有難い事です。

 今だから言いますが、正直な所、返せる気が無かったものでして」


 この場に居るのは、ノキの統治者達とカナリア達だけでは無い。

 応接間の一番大きな椅子に座っているのは、帯剣こそしているものの、鎧を脱いで普段着姿のクレデューリであった。


「気にしないでくれ。私もこのような形の助力は、する必要が無いのであればそれが一番だと言う事はよくわかっている」


 クレデューリがパウルに向ける顔には、悔やむ事無くうっすらと安堵の気持ちが浮かんでいた。


「ご理解に感謝を。それと、後始末で数日は頂きますが、その後は冒険者を数人こちらから用立てましょう」

「ああ、それは助かる。だが、本当の所、何も出来なくて済まなかったな」

「いえ、クレデューリ様もお気になさらずに。十分に役に立ったと私は思っていますので」


 この場でクレデューリが何もしていないと思う者はいなかった。

 事実、行動という意味では対して何もしていない。しかし、駆逐戦の前に、パウルはクレデューリにある事を願い出ていたのだ。


 それは、避難時の指揮である。


 パウルは万が一の際に、クレデューリに住民を率いて、一番近い大都市であるリューン・ソック辺境伯の直下の都市に行く事を願い出ていたのだ。

 ただの避難民であれば、逃げて大都市に行った所でいい生活が出来ない事は目に見えている。けれども、ルイン王国の正式な騎士であるクレデューリが民を率いて行けば、避難民としてではなくそれなりな待遇が望めるだろう。

 ルイン王国の第一王女に近い存在であるクレデューリであれば、辺境伯とて無下にはしないはず。

 パウルの狙いはそこにあった。


 無論、避難の際にはクレデューリだけではなく、数名の冒険者を住民の護衛に着ける予定であった。

 そして、クレデューリへのひとまずの対価として、それらの冒険者を住民の避難後に使っていいという事で話をつけていたのだった。


 真っ当に戦う事は出来なくても、民を正しく助ける事は出来る。パウルの提案に、クレデューリは素直に首を縦に振っていた。

 この件は、前日の作戦会議の際に全員に共有されており、後顧の憂いさえも無い状態で冒険者達は駆逐戦に望んでいたのである。


 よって、クレデューリを非難する者はここにはいない。……当のクレデューリ以外は。


 クレデューリの顔に悲しみの色が差し始める前にパウルは視線を外し、懐から革袋を取り出してテーブルに置いていた。


「カーナさん。多くはありませんが、こちらは今回の報酬になります。ご査収下さい」


 カナリアは受け取り、中を確かめる。

 予定通りの額であったのだが、確かめた後彼女は少しの間考え込んでいた。

 目を瞑ってシャハボを撫でた後、革袋をテーブルに戻してから石板を取り、それをパウルに見せつける。


【ここの街の宿代、大体いくら?】


「ああ、宿屋ならば私が持っていますので、何泊でも無料で結構ですよ。お食事も含めて私の方で持たせて頂きます」


【そう、じゃあ、お願いする。あと、このお金、返す】


 突き返された革袋を前にして、パウルは当然の様に疑問の声を投げかけていた。


「どうしてですか? 受け取られないのですか?」


 カナリアは首を横に振り、彼に石板を突き付ける。


【みんな帰ってきたら戦勝会するでしょ? その時に改めて渡してくれる?】


「……なるほど、何かやりたいのですね。了解しました」


【よろしくお願いね。あ、ウフ村の話は明日してくれると嬉しいかな。

 今日は戦勝会やったらみんな疲れると思うから、明日でいい】


 カナリアはいつも通り変わらない。

 しかし、その目はパウルからバティストへと移り、意味ありげに視線を交わす。

 バティストが頷いた所で、機を読んでパウルがこう答えた。


「ええ、了解しました。ではそのように致しましょう。

 では、バティスト君、後は任せていいかい?」


 バティストの了承を貰った後で、パウルは立ち上がってカナリアに会釈する。


「申し訳ないですが、私はお先に失礼させて頂きます。

 都市長以外の仕事があるので。後ほどお会いしましょう」


 カナリアが頷いたのを確認したパウルは、バティストに目配せをした後、ゴス達を連れて部屋を出て行ったのだった。


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