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女騎士クレデューリ 【3/4】

「それにしても、実際に見てみると凄いものだな。

 魔道具使いとはみんなこうなのか? それともカーナが強いだけなのか?」


 御者台にて馬を操っているクレデューリは、幌付きの馬車内居るカナリアにそう声を掛けた。


『この子が特別なだけだ。他の連中の事までは知らんな』


 石板を見せに行く事の出来ないカナリアのかわりに、シャハボが返答をする。


 二人が同行してからというもの、道中のほとんどは無事であった。

 しかし、一度だけ、ノキの街があともう少しという所で、二人を乗せた馬車の前に怪物(モンスター)の集団が現れていた。


 街道に出て来たそれは人の半分ぐらいの体躯を持った小鬼(グブラン)三匹と、名の通り通常の猪よりもはるかに大きい大猪(ゴス・サングリェ)三匹の組み合わせであった。

 大猪(ゴス・サングリェ)にそれぞれ小鬼(グブラン)が騎乗しているという怪物(モンスター)らしからぬ集団行動を取っていた相手ではあったが、結果としてはカナリアとクレデューリの手によって難なく屠られていたのだった。


「そうか。しかし、まさか私が成果で遅れを取るとはな。

 先に見つけた私の方が多く相手取るつもりだったのだが、遅れて来た君の方が先に倒してしまうとは。

 手際の良さに危うく見惚れてしまいそうだったよ」


 それぞれの手柄はクレデューリの言ったとおりである。

 御者台にいたクレデューリの方が先に怪物(モンスター)の集団と戦闘に入ったのだが、クレデューリが一組の騎乗小鬼(グブラン)と戦っている間に、馬車内から一足遅く出て来たカナリアの方が《空刃(クーペア)》にて残りを屠っていたのだった。


『あんな怪物(モンスター)は雑魚だろう? それに、そっちも苦労していなかったのは見ていたぞ』


 数は少なかったとはいえ、シャハボが返した通りにクレデューリも危なげなく騎乗小鬼(グブラン)を倒していた。

 彼女の持つ細剣は突きに特化した武器であり、強度は高くない。突進してくる騎乗兵に対して真正面から対応しようものなら、例え突き通せた所で衝撃で折れてしまうような代物である。

 しかし、彼女は馬車を狙われないように誘導してから突進を避け、自らもその突進を避けながら、離れ際に小鬼(グブラン)の後頭部を突くという芸当をやってのけていたのだ。


 小鬼(グブラン)の死体を乗せた大猪(ゴス・サングリェ)があらぬ方向に去っていく姿を確認した後で、クレデューリは残りの怪物(モンスター)の相手もする予定であった。

 だが、直後彼女が見た光景は、あっさりと残りを屠るカナリアの華麗な戦姿。

 その姿を改めて思い出しながら、クレデューリは口を開く。


「はっはっは。確かにそうだけれどね。

 いやでも、だからこそだよ。私に勝てる相手は王都でもそうそう見た事がないからさ。

 魔道具使いなんてのも会った事は無いけれど、戦闘でのカーナの腕は間違いなく王都の中でも高い方だと私は思うよ。

 魔法使い(ウィザード)の様に遠距離攻撃が出来る上に、攻撃役(アティカント)もかくやあらんとばかりのしなやかで機敏な動作とはね。

 これならばクラス3だと言うのも納得がいくよ」


 カナリアの事を褒めちぎるクレデューリではあったが、それは彼女にとっても楽な相手であり、戦いの中でもカナリアの事を見るだけの余裕があった事を示していた。


『そりゃどうもさんだな』


 そんなクレデューリの言葉をそっけなくシャハボはあしらう。

 謙遜と言うには冷たすぎる返答に、クレデューリは手綱を持ちながら肩を竦め、「お世辞では無いのだがな」と言った後、二人の会話は途切れていた。


 一方で、話に入っていなかったカナリアは、静かな馬車内で全く別の事を考えていた。

 クレデューリとの会話から戻って来たシャハボを近くに寄せ、その体を優しく撫でる。

 それは、石板さえも必要としない、二人だけの無言の会話。


 はた目には愛おしく金属の小鳥を撫でるだけの光景に過ぎないそれであったが、最初にカナリアが伝えた事はこんな一言からであった。


【何かおかしいね。こんな所で怪物(モンスター)だなんて】


 シャハボはカナリアの方を見据えてから、すぐに返答を返す。


『ああ、クレデューリは気付いていないみたいだがな』


 二人の懸念は、カナリア達が怪物(モンスター)と遭遇した事、それ自体であった。


『こんな昼間から小鬼(グブラン)だ? 奴らの得意な時間は夜だろうに。

 それに、連中は縄張り意識が強くて、人の良く通る街道に出てくるような事は滅多にしないはずだ』


【うん。こんな所に出るって事は、元居た縄張りに何かあったのかな?】


『そう考えるべきだろうな。騎乗出来るぐらい頭の良い連中だからな。

 縄張りを追い出されて、新しい縄張りを探すために斥候に出ていた所で偶然鉢合わせたと考えれば、辻褄は合いそうなものだが』


 シャハボの言葉にカナリアは無言のまま頷く。


【近隣で何かあった? 普通の事かな?】


『さぁな。

 単なる縄張り争いなら普通にある事だろうが、今は情報が無いな。

 気になるならノキに着いてから確認すればいいさ』


 シャハボが言いきった直後であった。馬車の幌が強い風に吹かれて、少しだけ馬車が揺れる。

 

「カーナ、大丈夫か?」


 心配するクレデューリの言葉に応えるのは、やはりシャハボの役目であった。


『ああ、こっちは平気だ。風が強いのか?』


「ああ、風だけでない、ちょっと天気も悪くなってきているな。

 カーナ、すまないが私の外套を取ってくれないか。

 椅子代わりにしている箱のどこかに入っていると思うんだ」


 クレデューリの言葉通りに外套を見つけたカナリアは、御者台にいるクレデューリの横に出てそれを渡す。


「ありがとう。天気のせいか秋風が強くてね。ちょっと寒くなってしまった。

 外は寒いから中で休んでいると良いよ」


 クレデューリがマントを羽織っている間、彼女から一時的に手綱を受け取ったカナリアは空を見上げていた。

 まだこの近くの空は青い。しかし、風は強く、風上には厚い雲が流れている。


 この道がどこまで続くかカナリアにはわからないが、遅くとも夜半には雨が降るだろう事だけは予測がつく。

 マントを羽織ったクレデューリに手綱を返した所で、カナリアは首から下げた石板を持ちあげて見せる。


【少し横に居ていい?】


 読んだクレデューリは、頷いた後すぐに馬の速度を微速に落としていた。


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