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女騎士クレデューリ 【2/4】

「改めて名乗らせてもらうが、私の名前はクレデューリと言う。家名は今は伏せさせて欲しい。だが、本来は代々領地を持たない騎士爵として名のある家柄なのだ。

 そして、つい最近までは、私も高貴なお方の警護隊長を務めていた」


 クレデューリはその一言で、名をこそ告げはしなかったが自らの地位と主人を明らかにする。

 聞く人が聞けば、騎士爵が警護隊長をする相手と言えば、王族やそれに近しい身分の人だと理解するだろう。


 無言のままのカナリアと視線を合わせたクレデューリは、カナリアが詳細を問わない事を配慮と受け取って話を続ける。


「事の発端は主人からの命だ。我が主は女性なのだが、可愛い物が好きでね。犬猫等の小動物が特に好きなのだが、家でそういった動物を飼う事は許されなかった。

 諦めていたのだが、ある時、(あるじ)が人に懐く金属で出来た動物がいるという噂を口にしたんだ。

 そして次の日、私はそれを探してくるように言いつけられたんだよ」


 一瞬だけ寒気の様な違和感を感じたクレデューリは、ちらとシャハボを見た。


『俺を欲しがっても無駄だぞ』


「ああ、もちろんだ。魔道具使いからお気に入りを取り上げようなんて無謀な事はしないさ」


 シャハボの言葉に即答するクレデューリ。


「そもそも、この命は主人から私を遠ざける為のでっち上げだからな」


 頭を少し下げて首を振った彼女は、自身に何があったかをカナリアに告げた。


「金属の動物を探してくるように指示をしたのは、(あるじ)本人では無かった。命令書のサインは本物であったが、今考えれば偽造だったのだろう。

 当初は信じていたさ。ある貴族の所から充てられた二人の男の従者と共に、いくつかのアテを探して旅をしていたんだ。

 事があったのはノキの街を出てから数日後だった。夜営の準備をしている最中にその二人が裏切って襲って来たんだ」


 クレデューリは自らの剣を抜いてカナリアに見せる。

 軽そうな直刀の細剣は、よく見ると先端が欠けていた。

 剣だけでは無く、感情も何処か欠けたかのように彼女は言葉を紡ぐ。


「従者の一人は前から顔見知りだった事もあって、私は気を許していたのだと思う。

 最初は男故の暴走かと思ったんだ。一時の間違いであれば、たしなめる程度にあしらうつもりだった。

 しかし、一人の相手をしている間にもう一人が後ろから襲ってきて、主君の命だと公言されたならば、私に取れる手段は一つしかなかった」


 クレデューリは座った姿勢のまま、己の細剣を空に突き立てる。


「私は運が良かった。

 二人掛かりで油断していた彼らの隙を突いて、この剣を掴むことが出来たんだ。

 彼らとて武装していたが、私は女で彼らは男だった。

 心の切り替えは私の方が早かったのだろう。様々な状況で有利であった彼らが慢心している間に、生き延びると心を決めた私の方が彼らを殺し得たと言う訳さ」


 そうして、彼女は自らが来た方を剣で指す。


「奇しくも、それがあったのがこの湖のすぐ近くでね。

 それから数日、多分二日ぐらいかな。心労で動けずじまいで野宿をしていた所に、カーナ、君が来たんだ。

 追手かと思って様子を見に来たら、裸の君が襲われていたわけだ。

 助けようとして出て来たのだが、ああ、こちらは余計なお世話だったな」


 話を終えたクレデューリは、どうだった? とばかりにカナリアに視線を向ける。

 しかし、カナリアの表情は相変わらず何も変わらないまま。


 ゆっくりと持ち上げられた石板に書かれた言葉は、【ご愁傷様】とだけであった。


 クレデューリも色の良い返事は期待していなかったようで、それを見た後で少しだけ、そうだろうなとばかりに苦笑を漏らす。


「ああ、多分君ならそう言うと思ったよ」


 言葉にも表したクレデューリは、続けてある事を提案した。


「ところで、カーナ。一つ提案なのだが、ノキへの道中、私と同行してくれないか?」


『それは依頼か?』


 会話に割って入り、彼女の言葉に返答を返すシャハボ。


「ああ、そうだな。クラス3の冒険者だ。望むなら金銭を含めた依頼にしても良いだろう。

 理由は難しい事では無いよ。従者も居なくなった事だし、私も一旦ノキの街に戻ろうと思うんだ。

 数日で着くからそれほど長い道のりでは無いんだが、こんな事もあった後だ。一人旅ってのはどうも心許なくてね。

 カーナは女性だし、先の様な間違いも起こらないだろうと思っての提案だよ」


 クレデューリは立ち上がって、視線を森の中、彼女が最初に出てきた方に向けた。


「ちなみに、私には馬車がある。元々三人での旅だったからね。

 同乗者は居なくなってしまったから、もし提案に乗ってくれるようなら、馬車の方は使って貰って構わない。

 御者は私が務めよう。道中君は馬車の中でゆっくり座っていて構わないよ。まぁそれが報酬と言えは報酬になるな。

 無論、何かに襲われた時には手を貸してもらう事になるけれどね」


 彼女は振り返ってカナリアを見るが、その表情は変わらない。変わっているのはカナリアの頭と肩を行き来するシャハボの姿だけ。

 クレデューリはそんな姿を気にせずに言葉を続けた。


「あとは、単純にノキの街に着いてからの信用の問題だ。

 これはどちらにも利がある話だが、従者のいない女騎士一人と、供連れの居ない一人の冒険者がそれぞれ別で居るよりも、女騎士とクラス3の冒険者が一緒に行動していたならば、互いに信用されるのではないのかなと思ってね」


 カナリアからしても、クレデューリの提案は良い話であった。

 特に、信用の部分では、タキーノの二の舞を避けるためにも引き受けるに値すると感じていた。

 けれども、目先の利に溺れる事無く、カナリアは確認の為に自らの石板に手を掛ける。


【ノキの街に着いてから、貴方はどうするつもり?】


「ノキの領主とは面識が無いから、とりあえずは冒険者協会に出向くだろうな。

 個人的な連絡手段が生きていれば何か得るものがあるだろうが、恐らく期待は出来ないだろう。

 そうなれば、冒険者協会で何人か腕利きを融通してもらって王都に戻る算段をつけるさ。

 安心してくれ。私の事に君を関わらせるつもりは無い。ノキまでの同行で十分だよ」


 クレデューリは真剣な面持ちのままカナリアを見据えていた。

 無表情なままのカナリアとクレデューリ。互いが視線をぶつけ合う事二呼吸。

 動いたのはカナリアであった。


【うん、それならいいよ。私にも悪い話では無いから金はいらない。ノキの街まで一緒に行こうか】


 クレデューリが石板を読み、頷いてからお互いは手を差し出した。


「ああ、短い付き合いだろうが、よろしく頼む。カーナ」


 二人は握手を交わし、ノキの街までの道中を同行することになったのであった。


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