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女騎士クレデューリ 【1/4】

「毒があると言ってくれた方がまだマシな見た目だな」


 カナリアの作った料理を見て、クレデューリはそう答えていた。

 カナリアもやや不貞腐れながらそれに同意する。


『いいから食え』


 そんな二人を急かす様に突っつくシャハボ。

 カナリアが作った物は、タキーノで貰った麦を使った麦粥であった。面倒だからと適当に例の豆もその中に入れてある。

 カナリアは腕によりをかけて何かを作りたかったのだが、必死の体でシャハボがカナリアを説得した結果、出来た料理はカナリアの実力を十分に隠せる麦粥になっていた。

 出来たものは確かに不味いだろう。だが、間違いなく悶絶する者は出ない。そう彼は思っての行動であった。


 そんな事を知らずにクレデューリはジットリとした目をシャハボに向け、自らの皿に盛りつけられた麦粥と視線を行き来させる。


【シャハボが作れと言った。空腹で疲れている時はこれが一番だって。

 私はもっと美味しい物を作りたかったのだけれど】


 クレデューリはカナリアの石板を読み、その後で再度シャハボに目をやる。


『もう一度言う。いいから食え。毒は無い事は保証する』


 本当の事を言ってカナリアの機嫌を損ねたくないシャハボは、そう言うのが精一杯であった。


 結果的にではあるが、二人は麦粥をしっかり食べ切っていた。

 途中でカナリアはいつもどおりに激辛調味料であるパンジョンを大量に投入していたのだが、それを見たクレデューリが真似してあまりの辛さにもんどり打った事を除けば、食事は比較的静かに終わったのだった。



「最初は食べられたものじゃないと思ったが、意外と食べきれるものだな。

 心なしか、食べたばかりだというのに体に元気が戻って来ている気さえする」


 食後に、カナリアに沸かしてもらった湯を飲みながらクレデューリはそんな感想を漏らしていた。


『だから言ったろう。空腹のお前にはちょうどいい食べ物だと』


 応対するのは相変わらずシャハボであった。

 カナリアは使った鍋と自分の食器を《水生成(クリエソン・ドゥ)》で生成した水で洗い、自分のリュックに仕舞う。


 食事中を含め、後片付けをしている間もカナリアは何も言わないままであった。

 無論それは声を出さないというだけでは無く、石板を使って会話をしないと言う事である。


「君たちは、何も私に聞かないんだな」


 腹に物を詰めて気が落ち着いたクレデューリは、不審に思っていたその事をカナリアに尋ねていた。


『余計な事に首を突っ込みたくないんでな』


 カナリアが石板に手を伸ばしている間に、シャハボが先に答える。

 その後でカナリアが構えた石板に浮かぶのは【何か?】という答えのみ。


 改めてカナリアとシャハボが会話をする気が無いと気付いたクレデューリは、静かさに耐えられずに自ら埒を明けようと話を切り出す。


「では、私が尋ねる分には問題ないのか?」


 帰ってくるのは『好きにしろ』と言うシャハボの言葉。

 愛想のない返答にわずかに肩を竦めた彼女は、それならばとばかりに会話を進めていく事にした。


「君たちは何処に行くつもりなんだ? 幾らクラス3とはいえ、一人旅は辛くはないのか?」


【私達はこの先のノキの街に行く予定。

 旅は辛くない。一人じゃないし、私にはシャハボが居るから】


 カナリアの石板に浮かんだ名前に首を傾げたクレデューリは、金属の小鳥であるシャハボを指す。

 頷いたカナリアに対して、理解したと頷き返すクレデューリ。


「そういう事か。それは失礼。

 そして、君にも名前があったんだな。今まで聞かないですまなかった。シャハボ君。君……でいいんだよな?」


 『ああ』と不愛想な声でシャハボが返し、互いの認識が合った所で彼女は続きを話す。


「それで、君たちの行き先はノキなのか。

 私はそちらから来たんだ。あまり大きな都市では無かったと思うが、何か用があるのか?」


【人を探している。シャハボを直したいの】


 カナリアは肩に留まっているシャハボを指し、片足しかないその姿をクレデューリに見せる。


「ノキではアテがあるのか? それとも、情報収集?」


【ノキの近くに優秀な人が居るみたいだから、その人を探すつもり】


「なるほど……な」


 クレデューリは一旦ここで質問を区切った。


 一方的に相手の事情を聞いてしまったが故に、カナリア達から何か聞き返しがないかと思っての対応であった。

 しかし、マグカップに口をつける事二回。カナリア達からの返答はない。


 返答を待つ間、クレデューリはカナリア達の事を考えていた。

 カナリアの返答は嘘偽りないだろうとクレデューリは思う。淀みは無く、あまりにもあけすけに答えが返され、全く隠す様子を感じなかったからだ。

 クレデューリは自分の勘を信じていた。彼女は、過去に幾度か、二重三重と策を重ねる相手と相対した事がある。そんな相手から受ける違和感を、彼女はカナリアから全く感じていなかった。


 クラス3という確かな身分、身分に相違ない実力、魔道具使いとして尤もな理由。そして、自分の勘。


 全てにおいて納得がいった彼女は、湯を飲み切った後で再度口を開く。


「カーナ、君の事はわかった。

 一方的に聞いてしまってはバツが悪いから、私の事情も説明しようと思うのだが、聞いてくれるか?」


 カナリアが縦に頷くのを見たクレデューリは、静かに自分の事情を話し始めた。


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― 新着の感想 ―
[一言] パンジョンを大量に入れた樽 その名もパンジョンドラム… ああっク◯書き込みすみません
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