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ジェイドキーパーズ 【2/3】

「君は魔道具を使って魔法を使っているんだろう?」


 カナリアは長い話の半分ぐらいしか聞いていなかった。

 それよりも気になったのは、ジェイドキーパーズ四人目のメンバーであり、今名前が出ていたルドリの姿が見えない事の方だった。


 彼は一芸に秀でたところはないが、多芸であり、なんでもそつ無くこなす。

 見えないという事はこの場に居ないのではなくて、どこかに伏せているという事だろう。

 盾役(ディフェンサー)のミラルド、攻撃役(アティカント)のジェイド、中衛で何でも屋(ポリヴァラント)のルドリ、後衛で魔法使い(ウィザード)のササ。

 カナリアが居なくてもチームとしてはバランスが良い。このまま穏やかに冒険者を続けていたらもっと良かっただろうに。


 カナリアはそこまで考えてから、この先起こるであろう事を想像する。なまじ経験がある分、その想像は難しくはない。


【私の服や荷物に近寄らせないのは、その為ですか?】


「ああ、そうだ。君で恐ろしいのは魔道具だけで、君自身は身体的にさして脅威にならないと私は踏んでいる。

 安全に話し合いを進めるための処置だと理解してくれ」


 ジェイドの言に対して、安全(・・)に話をしたいのはそっちの都合だけ。とカナリアは感じていた。


『よく言うぜ! 安全を保ちたいのはそっちだけだろうが! こんな貧相な体の娘の裸を見てから言うセリフかよ!』


 カナリアの形をした小鳥のゴーレムの言動は、一言多い。

 実際、カナリアの体つきは凹凸が少なく……凹凸は多くは無く少ないのだが。

 無意識にカナリアの言葉が漏れたのか、石板に文字が浮かんでいる。


【シャハボ、一言余計】


 シャハボとは、小鳥のゴーレムにカナリアがつけた名前だった。

 一瞬だけ空気が緩んだのはカナリアの周りだけで、実際、シャハボの言葉は的を射ていた。

 「それは……」と口ごもったジェイドの横で、ササが声を上げた。


「カナリアちゃん、私達のチームに入ってよ!

 そうすればすぐに荷物も返してあげるから!

 カナリアちゃんが居れば今よりもずっと早くお金が稼げるの!」


 必死の口上に対して、カナリアは首を振る。その先が読めたからであった。

 カナリアは片手でツンツンとシャハボを突っつく。あとは任せたよ、とばかりに。


 そして、シャハボは言葉で急所を突きにかかる。


『ジェイドさんよぉ? もしカナリアがチームに入ったら、一年の拘束だけで良いって言ったよな?』

「ああ」


『じゃあ、ササに聞くが、お母さんが長くはないって事だが、今のままだと後どのくらい持つんだ?』

「……半年ぐらいは多分大丈夫。あとは……」


『ああ、十分だ。もう一度だけジェイドに尋ねるが、もしササの母親の容体が急に悪くなったとして、どうするつもりだ?』

「……ササとも約束しているからな。なんとか治療のために金を工面するつもりだ」


『具体的には、しゃべるカナリアのゴーレムを金持ちに売っぱらったりしてか?』


 空気が止まる。


「ああ、そうなるな。それが一番手っ取り早い」


 ジェイドの口調に硬いものが混じっていた。


『仲間になってもならなくても目的は俺なんだろ?』


「ああ、そうだ。金の為に仕方ないんだ」


 シャハボはカナリアの肩の上で彼女の方を向く。


『じゃあ、そう言う事でカナリア。君の意見を聞こう。どうしたい?』


【仲間にならない。シャハボを売るのはもっと嫌】


 シャハボは石板の文字を見てはいない。だが、すぐにこう言った。


『だとさ、残念だったな』


 二度目の静寂が辺りを支配し、二呼吸経ったところで、まず最初に動いたのはササだった。


大地の束縛(リィアン・デ・テラ)!》


 ササの魔法は一瞬にしてカナリアの足元の地面を緩くした。カナリアが沈み込むような感覚を少しだけ味わったのち、地面が再度硬くなる。

 カナリアの素足はくるぶしのあたりまで地面に埋まってしまっていた。


「これが本当の魔法だ。そして、カナリア、君はその場から動けない。

 大人しくミラルドにそのゴーレムを渡してくれたまえ」


 普通、足が埋まったのならば抜け出そうともがくはずだが、カナリアは微動だにしなかった。

 それを観念したと思ったのか、ミラルドが近づいてくる。


「すまない。チームのみんなの為、だ」


 カナリアの間近でそう言ったミラルドは、カナリアの胸の前に掲げた石板に書かれた文字を読む。


【こちらこそ、すみません】


 カナリアが理解してくれたと思ったミラルドは頷く。

 続いてカナリアも。


 ……実際、二人の言った事は真逆だった。


 ゆっくりと石板を小脇に挟んだカナリアに対し、ミラルドはシャハボに手を伸ばす。

 次の瞬間、カナリアはミラルドに対して下から手を振り上げた。


 大柄なミラルドと平均よりは少し小柄なカナリア。

 上からくるミラルドの手を振り払ったようにも見えなくはなかったその動作は、ミラルドの正中線を真直ぐになぞっていた。


 ミラルドは動かない。

 でも、動き始めてからは一瞬だった。


 彼女は何が起きたのかを理解する前に、カナリアの手刀から放たれた風の刃により両断された体は、真ん中から縦に右と左が分かれてお開きになった。


 飛び散る血を全身に浴びてしまい、カナリアはまた体を洗わなきゃと悠長な事を思う。


 そこへ。彼女の死角になる後方から飛来する一本の矢。

 矢はカナリアに当たる直前で急停止し、不可視の何かに引っかかったかのように空中で留まっていた。

 上半身だけ振り向いたカナリアは、矢の飛んで来た先に、今まで見えなかったルドリの姿を捉える。

 カナリアは後ろに腕を伸ばし、逃げるルドリに照準を合わせ、無言のまま横に走る稲妻を放った。


 そこに魔法の名前は無い。ただ、現象としては稲妻に貫かれたルドリだったものが、ブスブスと煙を上げて倒れていた。


「よくも仲間を!!」


 前方を振り向くと、走り寄ったジェイドがカナリアを両断しようと両手剣を上段から振り下ろす瞬間であった。

 ただでさえ足を固められていて回避もままならないはずの標的に対して、ジェイドは、十二分な速度と怒りの感情を乗せた渾身の一撃を叩きつける。


 それに対してカナリアが行ったのは、片足を下げてスッと身を開くだけ。

 《大地の束縛(リィアン・デ・テラ)》で固められていた地面は、いつの間にかカナリアによって解除され、泥に戻っていた。


 力一杯両手剣を振り下ろしたジェイドの初撃は、凹凸の少ないカナリアの前面を素通りした。

 来るべき反動が無かった為に、彼はそのままバランスを崩して前のめりになる。


 渾身の一撃は外れてしまったが、場数を踏んでいるジェイドはあきらめる事をしない。泥の中に一歩目を踏み入れ、もう一歩踏み込んだ所で態勢を立て直して振り向きざまに横薙ぎを放つ。

 そう判断したジェイドの二歩目は、イメージした通りに踏み込むことが出来なかった。


 階段を踏み外した時の様な感覚と共に、今度こそバランスを保てずにジェイドは前につんのめって倒れる。

 泥の中に顔が浸かる。

 慌てて両腕を地面につけて上体を起こそうとした時に、彼は気づいた。腕で押せる硬さの地面がそこに存在しないことに。


 適切に行動すれば助かったかもしれない。けれど、カナリアが作ったのは局地的な底なし沼のようなものだった。

 柔らかい泥の中に全力で手を突き込んだ後、背筋を使って彼の顔は一瞬だけ上がる。

 しかし、その後はパニックに陥り、ジェイドはバタバタと暴れてそのまますぐに地面に沈んでいった。


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