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シェーヴ・インニュアオンス 【1/4】

 シェーヴの豹変ぶりは、さすがのカナリアとクレデューリも驚くものであった。

 観念していたはずの彼は、「すぐに戻るからこっちに来るな」と、まだこちらに姿は見せない女性に対してあらん限りの大声を出した後で、倒れ込むようにカナリア達に頭を下げたのだ。

 シャハボが、彼は魔力枯渇による疲労で動けないはずと見込んでいたのにも関わらずである。


 次に彼が行ったのは、潔いまでの命乞いであった。


「俺の命はどうなっても構わない! だから、あの子だけは助けてやってくれ!

 いや、あの子は俺の子じゃない!

 血も繋がってはいないし、何も教えてはいないんだ。[組織]の事も教えてはいない!

 俺とは無関係だ! だから、手を出さないでくれ!」


 精一杯出しているのだろうが、地に頭をこすりつける姿勢からでは、声はくぐもって聞きづらい。

 とは言え、必死さだけは確実にカナリア達に伝わる。


「お前たちは[組織]の追手だろう! 殺すのなら俺だけにしろ。いや、してくれ!

 それで満足して帰ってくれ!」


 そして、必死の内に吐いた言葉の中に、カナリアはようやく掛け違いの証拠を見つけたのだった。


 意味が理解出来ずに怪訝な顔をするクレデューリをカナリアは手で制し、シェーヴに近づく。

 首を差し出すかのような姿勢を取っている彼は、カナリアが近づいても動きはしなかった。


「後生だ。あの子には、俺の死体を見せないでやってくれ」


 今わの言葉を吐いた彼の肩を、カナリアは静かに叩く。

 二度叩き、ようやく顔を上げた所でカナリアは石板を見せつけたのだった。


【私は貴方の命を取りに来たのではない】


 読んだ後、目を見開いたシェーヴにカナリアは続きを見せる。

 

【私の用事は、シェーヴにお願いをしに来たの。

 貴方の事情は知らないけれど、手を出したのはそっちが先。だから、説明はしてもらう。

 でも、貴方がこれ以上手を出してこないなら、こちらも手は出さないと約束する。

 貴方は[組織]の人だったみたいだから、必要なら、[組織]の名に誓ってもいい】


 驚愕して、恐怖して、生気が抜けかけて、最後に助けの手が伸びてと、シェーヴの頭と感情はぐちゃぐちゃにされていた。

 しかし、最終的に、彼はカナリアから差し出された手を掴んだのである。


「[組織]の名に誓う。お前に手は出さない。そして、全てを話す。かわりに、命は助けてくれ」


 頷いたカナリアは、シェーヴに《小回復(プティ・リキュペレー)》を施し、歩けるようにさせてから、全員は合流したのであった。



* * * * * * * * * *



 シェーヴは動けるようになったとはいえ、髪は白髪になったままであった。

 そして、クレデューリとシェーヴ、それと、新たに現れたシェーヴの娘らしき女の子とカナリアたちの関係もギスギスしたままであった。


 カナリア、クレデューリ、シェーヴ、そして、シェーヴを父と呼ぶ少女の四人は村へと戻る道を同道する。

 少女の見た目は、年の程は十歳行くか行かないかだろうか、カナリアよりも確実に小柄で、動きやすいように長い黒髪を三つ編みで纏めていた。

 彼女を特徴付けるものは、その目つきである。

 大きな目は彼女を可愛らしく印象付けるが、同時に感情もわかりやすく伝え、今も特にクレデューリに対して敵愾心を向けていた。


 カナリア達は彼女に対して、決定的な所は何も見せていなかった。

 少女はシェーヴの言いつけを守り、話が纏まって合流するまではその場でちゃんと待っていたのだ。

 だが、当然の反応と言うべきだろう、合流した際に、魔力枯渇の為に変貌したシェーヴを見て叫んだのだ。


「お父さん!! 大丈夫!?」


 駆け寄る彼女をシェーヴは抱き留めたのだが、言葉に詰まった彼は上手に言い逃れることが出来なかったのである。

 それ故に、少女は疑いの目をカナリアとクレデューリに向けていたのだった。


「フー。彼女たちは悪い人ではない。そう怒らないでくれ」


 村の中心部へ向かう間に、シェーヴは少女を愛称で呼びかける。

 彼女の名前は、フーポー・デユイと言うらしい。シェーヴはそうカナリア達に紹介したのだが、カナリア達を怪しいと決めつける彼女は、自ら自己紹介をしようとはしなかった。

 

「だって、お父さんおかしいよ? 最近も突然髪の毛の色が抜けたばかりじゃない。白髪が増えただけかと思ったら、今度は真っ白になるし!」

「いや、髪の毛の話はなぁ。それは実験の為に魔法を使ったからと説明しただろう?」

「でも、今までそんな事した事無かった! どうして急に突然! それからずっと様子もおかしいし!」


 彼女は年相応の子供ように怒る。


「魔道具を作る仕事の為だ。と言ってもダメか?」

「ダメに決まってるじゃない。ちゃんと話してもらわないと納得できない!

 ……その二人の事も」


 フーポーは後を付いて歩くカナリアとクレデューリを振り返り、睨む。

 彼女の行動に慌てるのはシェーヴの方であった。


「ああ、フー。やめてくれ。彼女たちは私の客だよ」


 元々シェーヴは娘に甘いのか、それとも負い目の方が原因なのかはカナリアにもわからない話であったが、とにかくシェーヴはフーポーを抑えられないでいた。

 カナリアはクレデューリに視線を向けて合図を送った後、フーボーに近づく。


【私はあなたのお父さんに何もしていない。

 それよりも、お仕事のお願いをしに来たの】


 いつもの反応と言えばそうなのではあるが、文字の浮き出る石板を見たフーポーは元々大きな目をさらに大きくして驚いていた。


【これは魔道具。私は声が出ないの。だからこの石板で会話する必要があるの】


 それは単なる事情の説明ではある。しかし、こういう時のカナリアは自分の強みをしっかりと心得ている。

 カナリアは、自分が声が出ないという不遇の状況を逆手に取り、フーポーから同情を引き出すことに成功していた。


 あっけに取られたフーポーは、カナリアの顔と石板を交互に見比べる。

 カナリアが狙うのは、フーポーの警戒心が霧散したこの瞬間であった。


【この村に、シェーヴ・インニュアオンスと言う名前の、腕の良い魔道具作成者が居ると聞いて私は来たの。

 あなたのお父さんは私たちの事を、誰か他の人と見間違っていて慌てていたみたいだけれど、私は関係ない。

 私は彼と魔道具の話をしたいだけだから、安心して?】


 読んだフーポーは、ポカンとした顔を続けていた。

 理解するのには時間が掛かっているのだろうが、機を見たカナリア達は容赦しない。


『むしろ俺たちも()()()()()()()の事情に巻き込まれた側だ。

 詳しい事は後で一緒に聞こうじゃないか』

 

 カナリアの肩の上で喋るシャハボを見た彼女は、喋る金属の小鳥を指さして口をパクパクさせる。

 少し経ってから、ようやく状況を飲み込んだフーポーは、静かにシェーヴの横に行き、「ごめんなさい、お父さん」と謝ったのだった。


【カナリアからの小さなご連絡】


【連載百話目になりました。今まで読み続けて頂いてありがとうございます】

【これからも私たちの旅を宜しくお願い致します】


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