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その②

なにもないような今日だとしても、本当は些細な発見が隠れているかもしれない。そうすれば昨日と今日の変化はまた明日を変えてくれるはずです。


毎週日曜日に投稿していきます。よろしくお願いします。

それはある晴れた温かい空気に包まれた秋の日のこと。

外に一歩踏み出せば紅葉や銀杏といった暖色が背景を染め上げ、心を穏やかに落ち着かせてくれる。そんな季節の中のなんら変哲のないこの日。

おれたちは履修科目を受講し終え、学校を抜け出して近くのカフェに立ち寄っていた。

「それでね。うちのミニャがわたしの服をびりびりに引き裂いてしまったわけなのだよ……。これにはわたしもかなりしょぼぼんかなぁ……」

そして今、おれはこの和やかな日常の最中、一人の女性を目の前に、悠長に腰を下ろしている。

対面する、見てくれ美女の名前は佐伯美菜さえきみな。おれの通う大学の4年生。ちなみにおれは2年生で、彼女はおれの二つ上の先輩だ。

上から、まず今の時期に溶け込むようなベージュ色に染められた髪は肩より少し長くわたがしのようにふわふわしている。そして髪型はハーフアップ。可愛い。

さらに柔らかくすぐ微笑む目元には、相手の目をしっかり捉える力強い瞳が潜んでいる。あとは小ぶりな鼻に、ちょこんとしているが色気のある化粧が施されているぷりっとした唇。これもそれも可愛い。

どれをとっても素敵な顔立ちだと思う。どうやら今は元気がなく悄然としているようだが……。

それと付け加えるとすると彼女の身長はそれほど高くない。かといって低すぎるわけでもない。なんというか男子のおれにとっては頭頂部が見えるくらいで愛らしいくらい。

「って、ねぇ聞いてるのあおくん?」

顔を上げると美菜みな先輩はストローを咥えながら首を傾げる。ちなみに中身はアイスレモンティー。

「え、あ……まぁ、大変っすね」

「むぁ〜! ほんとに思ってる? 女の子の服事情分かって言ってる!? ほんとに大変なんだよ?」

ずいっと顔を近づけてくる美菜みな先輩。

「でもおれ男ですしねぇ……」

そんなおれになにを求めるのやら……乙女心とはいささか難しい。

「むぅ……あおくんはダメだなぁ。まだまだだなぁ」

どすんと座り直す美菜みな先輩は腕を組んでぷりぷりしている。

ふと、ちらっと服に視線が向かう。チェック柄のプルオーバーに黒のセンタープレスパンツ……うん、グッジョブ。ファッションセンスも年相応で、その相乗効果がまた視線を釘付けにする。

「まぁ、その……そんなに怒らないでくださいよ。せっかくの可愛い先輩が台無しですよ」

とりあえず、まずはふてくされて頬を膨らませてしまった美菜みな先輩をなだめてあげなければ……。

「むむむ……」

「きっとミニャも先輩が可愛いあまりに構ってほしかっただけですよ」

そういえば、ミニャとは美菜みな先輩が飼ってる猫のこと。種類はマンチカンで、色は真っ白。しょっちゅう写真を見せつけられるが、これがなぜか可愛すぎて飽きない。美菜みな先輩本人も溺愛する果て、自分の名前をもじった名付けをしている。

「でもあの服はお気に入りだったんだよね……」

「じゃあまた今度買い物付き合いますよ。おれでよければ」

「……ほんとかね?」

「ええ、もちろん」

「ふむぅ……仕方ない。それで水に流そう」

「恐縮です」

「でもお金がなぁ……ないんだなぁ……」

「じゃあバイトでもすれば?」

「探すのがなぁ……」

「それも手伝いますよ。時間があれば」

「おぉ、助かるよぉ〜!」

美菜みな先輩は打って変わって、今度はひまわりのように明るく笑って見せた。こりゃまた夏がくるな。寒い夏が。……こないか、うん。

「あ、でも先輩。ストローあんまガジガジしない方がいいですよ」

「ふぇ?」

「なんとなくですけど」

美人には似合わない仕草だから、なんとなくやめてほしいだけだ。

佳人薄命というのだからもう少しおしとやかさというものをだな……いや、まぁいいか。

「ふーん、まぁよく分からないけど、とりあえずあおくんのやつちょうだい?」

「え、おれのですか? まぁいいですけど」

おれが手を添えているカップの中身はコーヒー。しかもブラックだ。なにも手を加えず素材の美味しさを堪能するスタイル。

そして美菜みな先輩は今おれのこの飲みかけのコーヒーを御所望のようだ。

つまり、だ。

「やった。じゃあもらうね」

おれから差し出したカップを手に持った美菜みな先輩はそのまま豪快に砂糖とミルクをぶちかましていく。ぶちかましていく……スタイル。

美菜みな先輩、それ全部飲んでいいですよ」

つまり、そういうことだ。

あれはもうおれには飲めないのだ。だってもうめちゃくちゃ甘いじゃん? ……え? 間接キッスじゃないかって? 確かに……。今日の幸せ、頂きました。

「ほんと? ありがとう……えへへ」

美菜みな先輩はやけに大げさに頬を綻ばせて嬉しそうだった。なるほど。ちょっとアイスレモンティーを飲んでたら寒くなっちゃったやつですな。そんなお茶目なところもまた好感度上がっちゃうよな。

「それで、この後はなんか予定でもあるんですか?」

「ん? ん〜特にこれってことはないけど、あおくんは行きたいとことかある?」

「おれも大してないですね」

「じゃあ、ちょっとカフェでも巡ってみる?」

「服を探しにいくのではなく?」

ついさっき服がなんちゃらで話してたから優先度的にはそっちのが優位なのでは?

「それはまた今度! だって見てたらそのとき欲しいって思っちゃうから。我慢はストレスだよ! ストレスはお肌の敵だよあおくん!」

「なるほど」

それでカフェか。……余計に金減らん? 余計に我慢? 余計にストレスで肌荒れなのでは?

「あ、今失礼なこと考えてたでしょ? だったら今日無駄遣いすんじゃねぇよ的な!」

「はぁ……」

「ふっふっふ……それは勘違いだよあおくん!」

「ほぉ?」

「世の中はね、タイムイズノットマナーなんだから!」

「ふむふむ……」

よく分からん。分からんがその可愛い笑顔は守りたいから満点をつけておこう。可愛いは正義だもんな。

しかし乙女心を理解する道はまだまだ先が長そうだな。むしろ理解するころにはおれもスカートとか履いちゃうんじゃないだろうか……それくらい果てしない。

「さて、そうと決まれば早速出発だよあおくん!」

「そうですね。ちなみにリサーチの方は?」

「…………そんなもの必要ない!」

「行き当たりばったりですね」

「そういうことさ! ではいざ出陣だよ!」

まぁ、たまにはこんな感じで意味が分からない旅をしてみるのも悪くないだろう。むしろ今だからこそこういう童心に戻りたくなるというものだ。自由とはつまり自由だ。それくらいフッ軽な方が予測できない幸運と巡り合えるかもしれないしな。

「はい、じゃあ行きますか」

おれは席を立ち上がり、美菜みな先輩はごくごくと二杯とも飲み干して勢いよく腰を上げる。気合い十分な割にその小さな身長がまた愛おしい。

そしてお会計を済ませて……美菜みな先輩が全額支払おうとしていたが、それは今後のためにも気が引けたので割り勘した。

店の扉に手をかけ、開けて一歩外に足を出したくらいで、美菜みな先輩はふとこちらに振り返る。

「あ、そういえばさ」

「はい?」

おれは美菜みな先輩に続いて店の外に出る。

並んで歩き出すと、美菜みな先輩はまた口を開く。

「その、先輩っていうのやめてよ」

「はい?」

「なんかさ、距離感があるような気がするんだよねぇ」

「はぁ……そうですか? 敬っている証拠だと思うですけど?」

「いやだからそれだよ。わたしは同等でいたいんだよあおくん! わたしたちは仲良しがいいの! 分かる?」

「でも先輩は先輩じゃないっすか」

「っかぁ〜! ぜんっぜん分かってない! わたしはそんなつもりないの! だからあおくんもあおくんっぽく呼ぶこと!」

「はぁ……え、えっとじゃあ……美菜みなさん?」

「むむむん………まぁ、それでいっか」

「あんま変わんねぇじゃん」

ちょくちょく呼び方を指摘されるんだが……女の子はそういうところを気にしたがるんだな。まぁ名前は大事だもんな。そこはなんとなく分かる気がするが、やっぱり同レベル程に分かった気にはなれない。てか敬語はいいのか? いいんだな。

「よし、じゃあ次どこ行こうかあおくん!」

「いや美菜みなさんが決めてくださいよ」

ほんと、この人まじで年上なのかって疑いたくなるような精神年齢をお持ちになられている。

それでもこんな自由奔放な性格をおれは持ち合わせていないし、なんだか飽きない。なんというかめんどくさいけど否めないなにかがある。

それは美菜みなさんの魅力であり、また魅力なんだろう。だから、総合的にはおれは楽しんでいることになる。

そしてまた今日も、よければ明日も、あわよくば明日以降も、美菜みなさんとの思い出のページが増えていくのだと思うと、そりゃ毎日目覚めが素晴らしいことだろう。

とんでもなく生きた心地がする。日が明ける度に寿命が縮まっている恐怖など頭の片隅の端っこにすら残らないほどに。

だから、おれはその小さくとも絶対に見逃したくない華奢な背中を、追いかけた。

どうも今週もやってきました雨水です。

どうやら今は大変な時期に突入してしまいましたね。

あぁ、あれもしたいなぁこれもしたいなぁ……。あそこにも行きたいなぁ……。と欲っする気持ちだけが溢れ返りそうな時間が積もっていくかもしれません。

まぁ、雨水の場合はそんな羨望も渇望も欲望も全部作品で叶えてやろうって気持ち全部ぶつけてますけど。

でも、二度と戻らない今だと意識が強くなるときほど、未来の自分がどうしていたいかを再認識することも大事なのかなぁ、なんて思ったりしてます。

なにもできない、なにをどうしたらいいと悩んで、悩むだけはもったいないので、この先現状が改善されたときこれだけは絶対してやろうと、いやもっとこの鬱憤を晴らすくらいの大きなことをしてやろうと想像して今を雨水は過ごしていたりします。退屈や我慢は考えればやってきます。逆に考えに考えれば意外と楽しいことが思いついたりします。雨水的には。

あ、最後に、こんなときだからこそハッとしたことや編み出したものはメモすることをお勧めしますよ(笑)

それではよろしければまた来週に。


みなさんの明日が今日より少しでも明るい日になるように、雨水が天に向かって元気を振り分けておきます。おりゃー!

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