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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第三章 アップデート『天より来る魔狂星』
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99 峰晴の魔法修行と考察 3

「魔法を使えるようになる一番の早道は、見てイメージを焼き付けて、そのまま真似することよ」

 レイテシアさんが教鞭を持って、それを軽く振った。


 本日も冒険者ギルドの裏の広場にやってきて、レイテシアさんの指導を受ける。

 いつも朝練している防壁の外にしなかったのは、もし魔物が現れて冒険者じゃないレイテシアさんに万が一があったら困るからだ。

 もっとも、このドルタードの町は冒険者が頻繁に出入りしているせいで、さすがに魔物達も近づかないらしく、町の側で魔物を見たことはないけど。


「ミネハル君が練習しているのは、アルクレーゼ派の呪文だったわね。わたしの魔力の動き、そして変化を、呪文の語句ごとによく観察して、自分が呪文を唱えるときに真似しなさい」

 言って、教鞭から杖に持ち替えた。


 レイテシアさんは、ユーリシスと同じ指輪型の発動体を身に着けているけど、俺がそれらアクセサリー型の発動体はおろか杖も持ってないから、わざわざ持って来てくれた手持ちのお古だそうだ。

 その持ち替えた杖を、丸太の方へと向ける。


「『怒れる炎よ、我が元に集え――』」

 今回は、前回の魔法講座の時に見せてくれた、呪文を省略しての詠唱じゃなく、全ての呪文を詠唱してくれる。


「『揺れ、荒れ狂う形なきその身を、力ある言葉と共に集約せよ――』」

 改めてその魔力の動き、そして杖に嵌め込まれた魔石の前に集まっていく様子をよく目を凝らして観察すると、スレッドレさんやローレッドに比べて、スムーズというか、洗練されているというか、制御を離れて無駄に散っていく魔力がほぼ皆無で、魔力の流れが美しい。


「『その身を一つの矢となして、敵を貫き討ち滅ぼす力となれ――』」

 魔力の塊が火の矢に変わるのも、変換効率がいいというか、火の矢になれずに無駄に散っていく魔力もまたほぼ皆無だ。


「『貫き、突き刺さり、その炎で敵を焼き――』」

 さて。


「『その命を奪い尽くすまで燃え上がり――』」

 この呪文はすごく長いわけだけど。


「『我に仇成す意志を挫かせ――』」

 こうして詠唱している間、火の矢に変化はほぼない。

 わずかに、火勢が強くなった程度だろうか。


 恐らく、敵を倒すって明確な意思が、より火力をアップさせたんだろう。

 当然、魔力の動きもほぼない。

 むしろ、燃え続ける火の矢を維持するため、燃料のようにわずかずつ魔力を供給して、その状態の維持に努めているって感じだ。


「『――飛べ、ファイアアロー』!」

 そして、ようやく呪文が終わって、解き放たれる『ファイアアロー』。

 見事に練習用の丸太に突き刺さり、丸太を焦がす。


 よくよく観察すると、供給された魔力の量が多いと、わずかだけど燃焼時間も長くなるみたいだ。

 長い詠唱中に供給され続けた結果かも知れない。


 そこのところ、ちょっと確認しておくか。


 比較したいからと頼んで、呪文を省略した『ファイアアロー』を使って貰う。

 結果、詠唱時間が短かったため、供給した魔力量が最初のより少なめで、燃焼時間がわずかだけど短かった。


 時間にしてほんの数秒程度で、人がコンロの火で手を数秒余計に(あぶ)られると考えると、かなりのダメージの違いがあるけど、身体の大きくタフな魔物相手だと、そのダメージは誤差の範囲に留まりそうだ。

 そういう感想もまたイメージの補完に役に立ったんだろう、ホロタブを見ると俺の経験値ゲージが微増していた。


「はい、次はミネハル君の番よ。やってみなさい」

 杖を手渡される。


「はい、レイテシア先生」

「……先生?」

「教わってるんで、そう呼んでみたんですけど、止めた方がいいですか?」

「ううん、悪くないわ。ふふ……弟子も生徒も取る気はなかったけれど、先生って呼ばれるのも悪くないわね」

 やけに楽しそうだな?


「決めたわ、指導中はわたしのことを先生と呼びなさい」

「はい先生」

 どうやら先生って呼ばれるのが気に入ったらしい。ご満悦だ。


 それはさておき。

 ホロタブに表示させていた魔法システムの切り替え機能をオンにして、現状の魔法システムによる制限を有効にする。

 元素やら分子配列やら化合やらと余計な事を考えず、レイテシアさんの真似をすることだけを考えた方が俺も楽だし。


 深呼吸して、まずは中二病的な羞恥心を捨て去り、これも仕事の一環だと割り切る。


「じゃあやりますね。『怒れる炎よ、我が元に集え――』」

 呪文を詠唱し、丸太に向かって杖を突き出す。


「『揺れ、荒れ狂う形なきその身を、力ある言葉と共に集約せよ――』」

 魔力を意識して身体から湧き上がらせ、杖の先端、魔石の前へと集める。

 ここまではスムーズだ。


「『その身を一つの矢となして、敵を貫き討ち滅ぼす力となれ――』」

 科学的な知識へ意識を向けず、そこは魔法システムに丸投げして、火の矢のイメージだけに集中する。


「『貫き、突き刺さり、その炎で敵を焼き――』!?」

 おおっ、レイテシアさんが見せてくれたより少しばかりタイミングが遅かったけど、魔力の塊が燃え上がってちゃんと火の矢になった!


「ほら、集中して。乱れているわよ」

 おっと、興奮と喜びのあまり、火の矢が揺らめいて消えそうになってしまった。


「『その命を奪い尽くすまで燃え上がり――』」

 慌てて呪文の続きを唱えながら、その言葉と火の矢のイメージに集中する。

 そして唱えていて、ああなるほどって思ったよ。


「『我に仇成す意志を挫かせ――』」

 自分で呪文として言葉にしていると、その語句が持つイメージが、想像していた以上に火の矢の形や、火の矢をどう扱いたいのか、敵にどんなダメージを与えたいのか、そのイメージをしっかりと補完してくれる。


 そして……。


「『――飛べ、ファイアアロー』!」

 イメージに描いたとおり、『ファイアアロー』が矢よりも速く飛んで、練習用の丸太に突き刺さる。


「おおっ! 出来た!」

 燃焼時間は、同じだけ呪文を唱えたのに、レイテシアさんのに比べてわずかに短かったけど、それでも成功は成功だ!

 俺、遂に魔法を使っちゃったよ!


「先生、出来ました!」

 勢い込んでレイテシアさんを振り返ると……。


「…………」

 何故か、茫然と俺を見ていた。


「先生?」

「えっ? あ、ええ、出来たわね、すごいわ!」

 レイテシアさんは我に返ると、ズカズカと詰め寄ってきて、ガシッと両手で俺の肩を掴む。


「魔力制御の練習を始めたのはここ数日のことで、呪文の詠唱段階に入ったのは昨日からって本当なのかしら!?」

「え? ええ、そうですけど……何かおかしかったですか?」

「ええおかしいわ、普通、昨日の今日でいきなり魔法を使えたりしないものよ!?」

「えっ!? そうなんですか!?」

「そうよ、確かにわたしが選んだ魔法書を五冊ともちゃんと読んで勉強していたようだけれど、だからって実践して、はい出来ました、とはならないわよ」


 言われてみれば、確かにそうかも知れない。

 まずいな、魔法が使えるって分かって、つい浮かれて、その辺りに気を回すのをすっかり忘れていた。


「普通はね、魔力を上手に感じ取れなかったり、操作できなかったり、魔石の前に集めても維持出来ずに霧散させたり、火の矢を生み出せても揺らいだり霧散したりして消えてしまったり、詠唱途中で集中力を欠いて失敗したり、上手に飛ばせなかったり、飛んでいる途中で消えたり、命中させられなかったり、命中した瞬間弾けて消えたり、とにかく、そういった失敗を何度も何度も繰り返して、まともに魔法として成立するまで数週間から数ヶ月はかかるものなのよ。それを昨日の今日で成功って、貴方、天才!? ミネハル君、天才なの!? ハッキリ言って、わたしですら最初は一ヶ月近く掛かったのよ!?」


「ちょ!? 待っ!? 揺さぶらないでっ!」

 ガクガク揺さぶられて目が回って気持ち悪い……。


「あっ、ごめんなさい、つい興奮してしまって!」

 ようやく解放されて、口元を押さえる。

 胃の中身の逆流だけはしないで済みそうだ。


「参考までに聞きたいわ。何故ここまで早く魔法が使えるようになったのかしら? コツとかある?」

「コツって言われても……他の人がそんなに時間が掛かるって知りませんでしたし。あっ、強いて言えば、お手本が良かったからかも」

「お手本が良かったから?」


「『ファイアアロー』はレイテシアさん含めて三人が使うところを見せて貰ったんですよ。最初の一人は下級魔術師(メイジ)で、魔力の流れとかあまり意識せずにただ見ていただけなんですけど、さっきのレイテシアさんの魔力の流れは綺麗で無駄がなくて、魔力が火の矢に変換されていくのもスムーズだったから、それがいいお手本になったんだと思います」

「そう? そうかしら? ふふっ、まあ、わたしも魔法学の権威ですからね。そのくらいは当然よ」


 ご機嫌で胸を張るレイテシアさん。

 誤魔化しとリップサービスが皆無とは言わないけど、レイテシアさんの魔法は、本当にいいお手本だったと思う。


 ユーリシスの場合はあまりにも自然で、息をするように魔法を使うから、魔力の流れとか意識する前に結果が出てしまう感じで、高度すぎて初心者の俺には参考にならないんだよな。

 どうせなら、俺もいずれその高みに登り詰めてみたいもんだ。


「今の成功が偶然じゃなく、毎回確実に使えるように、もう何度か練習しましょう。さあ、呪文を詠唱して」

「はい、レイテシア先生」


 俺も今のがビギナーズラックだったじゃ悲しいから、反復練習は望むところだ。

 そうして、何度も繰り返して呪文を唱えて練習したんだけど……。


「『その身を一つの矢となして、敵を貫き討ち滅ぼす力となれ――』」

「矢の形が雑よ、実物の矢と『ファイアアロー』の矢の形状の共通点と相違点をもっと意識して」

 辛い……。


「『貫き、突き刺さり、その炎で敵を焼き――』」

「もっと集中して、語句通りのイメージを火の矢に込めなさい」

 何が辛いって、レイテシアさんのスパルタじゃなく、呪文の詠唱が辛すぎる……。


 ハッキリ言って、アニメやゲームの影響が大きい。

 色々な作品を見てきたし、何より作ってきたおかげでイメージのアウトプットは慣れているから、一度成功させてしまえばそのイメージはしっかりと脳内に刻み込まれる。

 二度、三度と繰り返した時点で、もうイメージは固定されて揺らぐことはなく、火の矢はしっかりと形を保って崩れることがない。


 なのに……レイテシアさんの指示で、最初から最後まで徹底して丁寧に呪文を唱えさせられている。


「『その命を奪い尽くすまで燃え上がり――』」

 もう、飛ばしてもいいよね?

 某有名な女の子の台詞をアレンジしてそう言って倒れたくなるくらい、むしろ火の矢を飛ばさずにキープし続ける方が辛い。


「ほら、ミネハル君、集中が乱れているわよ、しっかり火の矢のイメージを固めて。揺らいでいるわ」

 それは逆なんですよ、と声を大にして言いたいよ。


「『――飛べ、ファイアアロー』!」

 ここまで来るともう、やっとゴール出来た……って安堵しかないわけで。

 途中で集中力を途切れないようにと気を張っているせいで、無駄に疲れる。


「さすがに昨日の今日で成功させた天才でも、何度も連続で使うには、魔力の制御の負担が大きいようね。今日はここまでにしておきましょうか」

「はい……それでお願いします」

「その代わり、明日もビシバシいくわよ」

「はい……よろしくお願いします」

 なんかもう、やっと解放されたって感じだ。



 レイテシアさんと別れた後、宿には戻らず防壁の外へ、いつも朝練している場所へとやってくる。


「さて、実際の所、どのくらい呪文を唱えたらイメージが固まって撃てるのか、試してみないとな」

 練習用にと借して貰った杖を構える。


「『怒れる炎よ、我が元に集え――』」

 呪文の詠唱を初めて杖を突き出すと同時に、魔力が魔石の前に集まる。


「『揺れ、荒れ狂う形なき――ああもういいや、ファイアアロー』!」


 最初から『ファイアアロー』を使うつもりだったせいか、すぐさま魔力の塊が火の矢の形になってしまったんで、即撃ちする。

 適当に即撃ちしたせいで、狙いが外れた上、突き刺さった地面と周囲の草を軽く焼いてすぐに消えてしまった。


「うーん……ここまでイメージが固まっちゃうと、呪文の詠唱とか面倒なだけだな。そもそも、呪文なんていらないんだし」


 試しに、もう一度杖を構える。

 呪文を唱えようと口を開く前に、魔法を使うつもりになっただけで魔力が魔石の前に集まっていって、火の矢の形になってしまった。

 そのまま即撃ちする。


「……無詠唱でいけちゃったな」

 昨日の今日でもう無詠唱いけちゃったなんて、さっきの反応を見る限り、レイテシアさんに知られたら何を言われるか分からないな……。


「当分は、省略でいいから呪文を唱えて誤魔化した方が良さそうだ。それに……」


 もう一度杖を構える。

 魔力を魔石の前に集めて、火の矢を形作る。

「『ファイアアロー』!」

 敢えて魔法の名前だけを口にして、撃ってみる。


「うん、名前くらいは口にした方が、狙いも正確だし、燃焼時間も長くなるな」

 技名を叫ぶのってテンション上がるから、かも知れない。

 威力も精度も上がるし、何より、やっぱり気分が盛り上がるから、ちょっとは呪文を口にした方が良さそうだ。


「ふっ……ふふふっ…………ふぁーっはっはぁっ!」

 気分はちょっぴり、世界の深淵を知り魔法を自在に使いこなす魔王だ。


 遂に、遂に、遂に!

 俺も魔法を使えてしまった!

 これぞまさにファンタジー!

 異世界転生の定番で王道!


「これだけ扱えれば実戦でも使えるはず。遂に俺も魔術師デビューだな!」

 仕事である以上、楽しんでばかりもいられないけど、ちょっとくらい、こういう楽しみがあってもいいよな?

 なんたって、魔法だよ魔法!


「よし、後は反復練習で命中精度を上げて飛距離を伸ばそう。それから、『ファイアアロー』も単発じゃなく、複数撃てるようになって、単体に複数命中させられるようになったら、複数の対象に分散させて撃てるようになりたいな」

 そうすれば、ユーリシスがやってくれたみたいに、複数の魔物のキープも可能になるはずだ。


「それより先に、色々な魔法を見せて貰ってイメージを固めて、手札を増やしておいた方がいいかな。いざって時に、有効な魔法を使えませんでしたじゃ意味がないし。それで、後方から咄嗟に魔法を使い分けられるようになった上で、剣と盾で前衛に立って、戦いながらの魔法使用だ」

 そこまでやれたら、魔法剣士でガンガン戦えるようになるはず。


「おっ……おおっ!? レベル上がってる!」


 ホロタブを見たら、レベルが四にまで上がっていた。

 片手剣や盾のレベルはまだ三のままだけど、まだ『ファイアアロー』だけとはいえ、魔法が無詠唱で使えるようになった影響は大きいらしい。


 出会ってからティオルはレベルを六つも上げたのに、俺はこれまで二つしか上がっていなかったから、内心、ちょっと悔しいのと、俺が村から連れ出した以上、弱いままなのが申し訳なかったんだよな。

 でもこれで、大幅にレベルアップの目処が立ったわけだ。

 うん、益々楽しくなってきた!


「よし、練習頑張ろう!」



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