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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第三章 アップデート『天より来る魔狂星』
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96 回復魔法とユーリシスの秘密

 魔法のリストは、スキルのリストと同様、俺の希望通りの仕様で表示されている。

 名前、消費魔力、任意の期間における使用回数、使用人数、その割合、過去に遡っての総使用回数、効果内容、射程、効果範囲、効果時間、などなど。

 さらに必要に応じて項目の細分化や追加削除、項目ごとの表示のオンオフ、ソートも可能だ。


 それはいい。

 それはいいんだけど……。


 リストに並ぶ名前に、『ファイアアロー』はある、『アイシクルランス』もある。

 だけど、『アイシクルアロー』はないし、『ファイアランス』もない。


 つまり、どれだけイメージを固めようと、想像の翼を広げようと、『アイシクルアロー』も『ファイアランス』も、このリストに存在しない以上、絶対に使えない。


「なあ、ユーリシス」

「黙りなさい」

「このシステムはあまりにも――」

「分かっています。黙りなさいと言っているでしょう」


 語気強く俺の言葉を遮るけど、俺に向けたきつい視線を俺が真正面から受け止めると、やがて耐えきれなくなったのか、また逸らしてしまう。


「つまりユーリシスも、これはちょっと問題あるなと、自分で気付いたわけだな」

「……」

 黙り込むってことは、『はい』って答えたも同然だ。


 イメージで魔素を操作して自由に魔法を作り出せるはずのシステムなのに、固定したこの魔法しか使えませんじゃあ、せっかくのシステムが生かせない。

 もっと言えば、スキルと同様に創造神(こちら)側が追加しない限り、魔物に対抗するための新たな手札は絶対に増えないってことになる。


「一応確認だけど、なんでこういう仕様にしたんだ?」

熟達(じゅくたつ)すれば、一瞬の思考、咄嗟の判断で、即座に魔法を使用できるからです」

「ああ、呪文がなくてイメージで使うっていうのは、そういうことだよな。それで、完全に固定して、自由度と発展性をなくしたのは?」

「想像した全てを魔法で叶えられるようであれば、人が増長し、創造神たるこの私に弓引く傲慢な考えと力を持つ可能性があります。そのような考えを持たせないためです」

「そうだな。神を殺すレーザーを撃ったり、それこそ神界に転移したり、過去に遡って確定した事象を改変したりするような魔法を創り出されたら困るよな」


 その主張は理解出来るし、セーフティとして、どれだけ想像力を逞しくしても実現不可能な魔法やそれに連なる要素は、ロックするなり対象外にしていいと思う。

 でも、火や氷を矢の形にするのか槍の形にするのか、そのくらいの自由な発想は許容してもいいと思うぞ?

 ユーリシスも、そのくらいさせても良かったかなって思ったから、それを知られたくなくて引き延ばしをしたんだろう。


「良かったじゃないか」

「……何が良かったと言うのです」

「自力で気づけたってことは、ユーリシスも仕様を作るのに、コンセプトやシステムの売りなんかを、どういう方向性で考えて組み上げていけばいいのか、少しはコツが掴めてきたってことだろう? 大した進歩じゃないか」

「馬鹿にしているのですか」

「逆だ、逆。褒めてるんだよ」


 上司として、部下の成長は歓迎すべきことだからな。

 とはいえ、一言言っておかないといけないことがある。


「ただ、問題が発覚したなら隠して誤魔化そうとするな。あと、問題を解消する方法を考えることが重要だ」


 よくいるんだよな、問題に気付いたのに、怒られるのが嫌だからって隠したり誤魔化したりした挙げ句、放置して思考停止する奴が。

 もし問題が発覚した時点ですぐに修正しておけば、発売日を延期してまで修正とか、小手先で誤魔化して発売日に間に合わせたせいでネットやレビューで叩かれて販売本数が伸び悩むとか、大事にならずに済むのに。

 そういう真似が、結果的により自身の評価を下げてしまうと気付いて欲しい。


「昔のゲームは発売後にバグや問題が発覚しても対処出来なかったけど、最近のゲームはネット配信で修正パッチを当てられるし、オンラインゲームならバージョンアップはすでに常識だ。あの世界はそれ以上に融通が利くんだから、今からだって、いくらでも手を打てる」


 どう修正したいか尋ねようと口を開きかけて……ふと、ある考えが頭をよぎる。


 新スキルのときは、今回の魔法システムみたいに詳細な説明はなかった。

 ユーリシスがあからさまに、世界のシステムに俺が直接関与するのを嫌がっていたからだ。

 だから俺はどんなスキルにするかイメージを伝えて、新スキルを創造する実作業はユーリシス任せだった。そして、ユーリシスが創った新スキルをテストプレイして、調整しブラッシュアップしたに過ぎない。


 なのに、今回はあれだけ詳細に説明してきた。


 もしかしてユーリシスは、先の新人教育の件もあって、『新たな試練と恩寵』での成果ありと少しは俺を認めてくれて、魔法システムの改変を委ねようとしてくれたのか?


 …………いや、まさかな。

 エリート意識に凝り固まったプライドの高いユーリシスがそこまでするとは思えないし、さすがに俺の考えすぎだろう。


「それでユーリシスは魔法システムをどう改変した方がいいと思う?」

「それは……」


 言いかけて口を閉じてしまう。

 全く腹案がないわけじゃなさそうだ。

 まあ、実際に魔法システムを改変するなら、その方向性は幾つかに絞られるからな。


「人類側への影響の大きさや、それをどう不自然にならないように組み込むかは、また別件として改めて考えよう。今は、魔法システムそのものをどうするかを先に考えるべきだと思うぞ」

「……少し考える時間が必要です。この件はしばらく保留にします」

「分かった」


 考える時間を下さい、魔法システムの改変は待って下さい、って言い回しじゃないところが、ユーリシスのプライドの高さだよな。

 でも、自ら問題を認識して認めたのは、本当に大きな前進だと思う。

 具体的な着手は先に延びたけど、この場合は仕方ない。


 話はこれで一旦終了かと思ったら、何故かじっと俺を見つめてきた。


「お前は、魔法システムをどうしたいかなど、とっくに考えているのでしょう。何故それを押しつけて改変しないのです」

「押しつけるって随分な言い草だな。もちろん、俺としてはこうしたいってアイデアはあるよ。だけど、ユーリシスが自力で気付いて改変の必要があるって認識したんだ。まずはユーリシスが考えたアイデアを検討して優先するに決まってるだろう」

 驚いたように目を見開くけど、ユーリシスの中で、俺はどんだけ横暴な奴だと思われているんだ?


「もちろん、その新しいアイデアに問題があるなら、遠慮なく反対意見を言わせて貰うし、場合によっては却下して俺のアイデアで改変する。だからまずは精一杯考えて、自分が納得出来る、そして俺を納得させられるだけのシステムを考えてくれ。もし分からないことや迷ったことがあれば、相談してくれていい。一人で考えて行き詰って、結局駄目でしたが一番困るから、何かあれば早めにな」

「……分かりました」

 分かってくれたのはいいけど、悔しそうに睨むのは止めてくれ。


 ともあれ、上司として部下のお手並み拝見、ってところだな。


 ユーリシスが修正の方針を固めるまで、俺はリストを見ながら色々と検討しておくとしよう。

 何しろ、ちょっと気になるデータがあったからな。


 それが何かと言えば、味方のステータスを上げて補助するバフ系、敵のステータスを下げたり毒や麻痺を与えたりするデバフ系、その使用率の圧倒的な低さだ。


 使用されている魔法の大半が攻撃魔法で、直接ダメージを与えることが最優先されている。これがまた、ちょっと脳筋っぽいのも気に掛かる部分ではあるんだけど。

 他にも明かりを付ける『ライト』や水を出す『ウォーター』なんかの、日常生活でも便利に利用できる魔法も、攻撃魔法程ではないけど、使用率が高い。

 それなのに、戦闘中の補助として有用なバフ、デバフ系が、何故ろくに使われていないのか。


 異世界物の作品の中には、バフ、デバフ系は外れとか使えないとか地味だとか、そういった理由で使われていない、不遇ジョブ扱いされている、という設定の物もあるけど、俺の個人的な意見としては、直接ダメージを与えるより遥かに有用に使える魔法だと思っている。

 特にMMORPGの戦闘では、あるとないとじゃ雲泥の差だ。出来れば一度自分で使って確かめて、問題があるなら修正したい。


 後は、リストの名前がグレー表示の、未発見の魔法をどうするかだな。

 全体の割合からするとかなり少ないけど、数自体はそこそこある。


 有用な魔法なら、例えばレイテシアさんにそれとなくヒントを与えて発見して貰うか、俺が魔法の腕を上げて呪文の開発研究をする(てい)を取って広めるか。

 回復魔法も新しく作って広めないといけないから、後者の方が都合がいいかな?


 魔法学の知識と魔法システムのギャップをどう埋めるかも考えないといけないし、思った以上に色々と考えたり確認したりする必要があるな。


「……ん? こっちのタブはなんだ?」

 よく見ると、魔法のリストがタブ表示されていて、隣にもう一つタブがあった。

 タブを切り替えてリストを参照――


「――回復魔法!?」


 リストに並ぶ名前、『ライトヒール』とか『キュアポイズン』とか『リジェネレーション』とか、これ、どう見ても回復魔法だ!

 リストをスクロールすれば、こっちのタブの魔法は回復魔法で統一されている。

 ただし、一つ残らずロックされて使用不可の状態で。


 しかもだ。


「未発見も含まれてるけど、この使用回数、ほとんどの回復魔法がゼロじゃないってことは、すでに導入済みの魔法ってことだよな!?」


 過去へ遡って確認すると、ユーリシスの答えを聞くまでもなく、およそ六百年より以前の時代には普通に回復魔法が使われていた。

 そして、それら回復魔法の使用回数がいきなりゼロになった時期と、人口が減り、魔物が増え、人の生存領域が失われていく時期とがほぼ一致する。


「おい……おいおいおい、まさか回復魔法を使えないようにしたのか!?」

「……その通りです」

 リストから顔を上げてユーリシスを見ると、苦々しそうな表情を隠すように俺から顔を逸らしていた。


 あれこれ条件を出して時間稼ぎしてたのは、本当はこれを隠すためだったのか!


 冗談じゃないぞ!

 創造神のユーリシス自身が、人類から回復魔法を取り上げたってことじゃないか!


「何故こんなことをしたんだ!?」

「答えたくありません」

「答えたくないじゃないだろう!? そのせいで人類が滅びに向かい始めたんじゃないか!?」

 キッと、憎々しげな鋭い瞳でユーリシスが振り返る。

「答えたくないと言っています!」


 語気鋭く、怒りのオーラが立ち上り、疑似神界が鳴動する。

 最初に俺へ敵意を向けたときと同じように、バチバチと激しく放電までさせて。


「…………」

「…………」


 問い詰める俺と返答を拒否するユーリシス。

 お互いに目を逸らさない。

 俺を睨み付けるユーリシスの瞳は、怒り、憎しみ、そんな感情が渦巻いていた。


 ……いや、俺を通して誰かを見ている?


 思い出した……前にもあったな、そんな目をしたこと。

 誰だ?

 誰を見ている?

 回復魔法を被造物たる人から取り上げるなんて、よっぽどのことだろう……一体、六百年前に何があったんだ?


 ホロタブの過去映像で検索し確認しようとすると、ロックされた表示が出てエラー音が鳴る。

 どうやら、よほど知られたくないらしいな。


 深呼吸して、これ以上言葉を荒げないように気持ちを落ち着かせてから確認する。


「回復魔法のロックを解除する気は?」

「ありません」

 即答か。


「このロックされた回復魔法がどういうコンセプトのものか知らないけど、別コンセプトの回復魔法を創って導入することは?」

「許しません」

 これも即答か。


 曲がりなりにも神としての位階が上である俺が上司として命令すれば、事情を聞き出せるだろうし、ロックを解除させることも可能なはず。

 でも……。


「……分かった。今はこれ以上は聞かない。話を変えるぞ」

 ユーリシスは頑なに口を閉ざしたままだったけど、驚いたようにわずかに目を見開いて、疑似神界の鳴動だけは収まった。


「……しつこく問い詰めないのですね。命令する手段もあるでしょう」

「確かに命令は出来るし、人類を救うことだけを考えるなら、今すぐ洗いざらい吐かせて回復魔法のロックを解除させたいのが本音だよ。だけど、そんな顔してる奴から無理に聞き出そうとは思わないよ」

 なんというか、ユーリシスの憎しみ渦巻く瞳を……その辛く悲しそうな顔を見せられたら、そんな強引な手段は採りたくない。


「……」

 ユーリシスの瞳がわずかに揺れる。


「話していいと思ったら、その時に改めて聞かせてくれ」


 何か問いたそうな顔をしているけど、ユーリシスは何も言わない。

 だから俺も、もうそれには触れない。


 やがてユーリシスの放電が収まっていき、怒りのオーラも消えていく。

 どうやら、少しは落ち着いてくれたみたいだな。

 軽く息を吐いて、気持ちを切り替えて仕切り直す。


「とにかく、次の話に移るぞ」


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