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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第三章 アップデート『天より来る魔狂星』
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93 レイテシアの魔法講座 1

「――とまあ、そんな感じの知り合いだよ」

 要所要所をぼかしながら、簡単にレイテシアさんとの出会いを説明する。


「じゃあ、特別な関係の女性じゃないんですね」

「そういうことならぁ、いいですけどぉ」


 ティオルはあからさまに胸を撫で下ろして、ララルマはまだ何か言いたそうな感じだけど、羨望の眼差しをレイテシアさんに向ける。

 確かに美人でスタイルも良くて、恐らくはいい所のお嬢様だろうけど、所詮はたまたま一度会っただけの知り合いとも呼べない人だ。二人が心配するようなことは何もない。


「それにしても、どうしてレイテシアさんがここに? まさかレイテシアさんの方から訪ねてくるなんて、思いも寄りませんでした」

「魔法学会も終わって、ちょっと前に王都から戻って来ていたのよ。わたし、ホドルト伯爵の城下町に研究室を構えているから。ミネハル君の行き先がドルタードだったのは、本当に偶然ね」


 本当に偶然方向が同じで縁があったことを、楽しげに笑うレイテシアさん。

 このタイミングで再会できたのは、やっぱり何かしらの力が働いて縁があったとしか思えない。


「それにしても、俺がここにいるってよく分かりましたね?」

「先日、たまたま、このドルタードで色々やらかしている学者を名乗る冒険者の噂を小耳に挟んだの。しかも最近はギルドで魔法書を読み(ふけ)っているって聞いたもんだから、もしかしてと思って訪ねてきてみれば、案の定ミネハル君だったと言うわけよ」

「やらかしてる、ですか?」

「心当たりはないのかしら?」

「……ないことはないですね」

「そうでしょうとも。普段研究室に引きこもっているわたしの耳に入ったくらいよ」


 どうやら一部の人達の間では、ティオルやララルマだけじゃない、俺の名前も噂に挙がっているようだ。

 でも、どこの誰かは知らないけど、その人に感謝すべきだろう。

 ここでレイテシアさんに出会えたのは、まさに渡りに船だ。


「せっかく再会したんですし、一緒にお昼でもどうですか? それで、良かったら魔法学についてご教授戴けませんか? 実は丁度、あの時買った魔法書を全部読み終わったところなんですよ」

「あら、本格的に魔法学を学びたいのね。いい心がけだわ。でもいいのかしら? そちらのお嬢さんも見たところ上級魔術師(ソーサラー)みたいだけれど、彼女を差し置いてわたしの講義を聴いても?」

「レイテシアさんも言っていた、多角的に捉えるって奴です」

「そう、そういうことなら、この魔法学の権威たるわたしに任せなさい。このわたしがなんでも教えてあげるわ」


 胸を叩いて引き受けてくれたレイテシアさん。

 チラリとユーリシスを見ると、安堵していたはずが、渋い顔をしていた。

 残念だったな、時間稼ぎにならなくて。

 新たに出して来た条件は、これで速攻クリアだ。



 というわけで昼食後、冒険者ギルドの裏手の広場に移動して、レイテシアさんによる魔法学の青空教室が始まる。

 受講生は、俺、ティオル、ララルマ、そして見学にユーリシスだ。


「改めて挨拶しておくわ。わたしはレイテシア・オランド。見ての通り上級魔術師(ソーサラー)で魔法学の権威よ。王都の魔法学院を卒業して、ホドルト伯爵にパトロンになって貰った関係から、ここの領地で研究室を構えて、魔法学の研究をしているわ。ちなみに、ジジル派だけど同時にゼルイン派でもあるから、どっちの派閥の学生とも仲が微妙だったせいで、学院に残って研究室を構えなかったわけじゃないわ」


 なるほど、そういうことか。

 社内でも大学でも、上司や教授の対立が部下や学生にまで波及するからな。


「ちなみに、論文が認められて博士としての学位を持っているわ。自分の研究に没頭したいから私塾も開いていなくて、教えている学生は皆無だけれど」

 レイテシアさんが、ちょっと自慢げに腰に手を当てて胸を張る。


 パトロンがいるから、研究費用に困っていないとか、そういうことだろうか。

 つまり、貴族に金を出してもいいって思わせる研究をしているってわけだ。

 ますます興味深いな。


「さて、それでミネハル君は、どんな話が聞きたいのかしら」

「まずはレイテシアさんがしている研究について教えて貰えますか?」

「あらそれを聞いちゃう? 聞きたい? 聞きたいのね? いいわ聞かせてあげましょう」


 うん、グイグイきて、語りたくて仕方ないって顔だ。

 周りに聞いてくれる人はいないのかな?

 パトロンの伯爵は……多分そういう人って結果しか興味ないだろうし、語り合う相手に飢えていたんだろうな、きっと。


 一応、興味本位で、ホロタブを立ち上げておく。

 俺が魔法書を読んで得た知識を、ごく簡単に語って聞かせた程度の知識しか持っていないのがちょっとあれだけど、ティオルとララルマが講義を聞いたことで、果たして経験値にどの程度の変化が出るのか、果たして知力は成長するのか、興味が湧いたんでその確認のためだ。


「わたしの研究内容を語る前に、ざっと基本のおさらいをしておくわ」

 黒板やホワイトボードはないけど、レイテシアさんが懐から教鞭を取り出して、軽く振りながら話を始める。


「魔法って言うのは、人や魔物なんかの生物、そして水や金属なんかの無生物、さらには大気中などに含まれている魔力を利用して、超常的な現象を引き起こすことよ。その発動条件となるのが呪文ね。呪文を唱えることで、魔法を引き起こすの」

 ここまでは、ただの村娘でしかなかったティオルやララルマでも知っている内容で、ふんふんと頷きながら聞いている。


「そしてどれだけ魔法を使うことに熟練しているか、つまりどれだけ呪文を唱えることを必要としているかによって、下級魔術師(メイジ)、上級魔術師、魔導師(ウィザード)と呼び分けられるわ。そして、この呼び分け方には明確な基準があるわ」


 下級魔術師は、長い呪文を丸暗記して、それをいちいち全部唱えないと魔法が使えない魔術師。

 上級魔術師は、丸暗記した長い呪文のうち、要所要所を省略して、呪文の詠唱を短縮しても魔法が使えるようになった魔術師。

 魔導師は、呪文の詠唱を完全に省略し、無詠唱で魔法が使えるようになった魔術師。


 呪文の詠唱でもこれだけの違いがあるけど、知識量についても違いがある。


 下級魔術師は、呪文を丸暗記しただけで、魔法学について無知である場合も多い。

 上級魔術師は、魔法学をちゃんと学び、呪文の構成や理論を研究し、より深く魔法学について知識を持っているから呪文の省略を行える。

 魔導師は、魔法学院の教授や学院長、宮廷魔術師などの要職に就けたり、魔法学の講義を行えたりするだけの、十分な知識量を有していると認められている。

 逆を言えば、そのくらいの知識量がないと、呪文の省略や無詠唱で魔法を使えないってことだ。


 ここまでの講義を聴いて、ティオルが怖ず怖ずと手を挙げる。


「魔法を使うには呪文を唱えないといけないのに、呪文を唱えないでも魔法が使えるのはどうしてですか? 変じゃないですか?」

「はい、そこのあなた、お名前は?」

 いきなり教鞭で指して食いついてきたレイテシアさんに、面食らったようにティオルが身を引く。


「えっと……ティオルです」

「ティオルちゃんね。そこに気付くなんて実にいい質問だわ。あなた見込みがあるわよ、魔法学を本格的に学ぶことをお勧めするわ」

「そ、そうですか……? えへへ」

 ティオル、満更でもなさそうだな。


「その質問の答えだけれど、結論から先に言えば、慣れね」

「慣れ……ですか?」

「そう、慣れよ。イメージのしやすさ、と言い換えてもいいわ」

 小首を傾げたティオルに、その反応を待っていましたとばかりに、レイテシアさんが教鞭をタクトのように振りながら、滔々(とうとう)と解説していく。


「呪文を唱えるとき、具体的にどんな魔法の効果を発揮したいのか、それをイメージしながら唱えると、より早く正確に魔法が発動しやすいという研究結果があるの。つまり、繰り返し同じ魔法を使い続けていれば、よりイメージが強固になって、いちいち全部の呪文を唱えずに一部を省略しても、問題なく魔法が使えるようになっていくわ。それを突き詰めていくと、無詠唱に辿り着く、というわけね」

 ではなぜ、そんな現象が起きるのか。


「これは仮説の一つよ。人は自分の魔力を使って魔法を使うけれど、同じ魔法を繰り返し使うことで、何度も体内の魔力を同じように運用するわけだから、体内もしくは脳内、とにかく人体のどこかに、その魔力の運用に適した魔力回路が形成されて、その魔法を使うときはその魔力回路によって運用されるから、無詠唱に至れると言われているわ」


 ただし、とある魔導師の死後、人体を解剖しても魔力回路らしい痕跡は発見されていないので、仮説の域を出ない。

 しかし、現在最も有力な仮説である。

 だそうだ。


「有力な仮説となっている根拠は、たとえ魔導師でも、無詠唱は一部の使用頻度が高い魔法に限られているからよ。使用頻度が低い魔法は呪文の詠唱が必要で、初めて見聞きする魔法に至っては、下級魔術師同様に呪文を丸暗記して詠唱しないと使えないわ」

 ふんふんと聞いていたララルマが、不意に難しい顔をする。


「アタシもぉ、質問いいですかぁ?」

「ええ、いいわよ。何かしら?」

「呪文ってぇ、みんなこの国の言葉で唱えてますよねぇ? でもぉ、アタシが部族にまだいた頃ぉ、余所の国から来た商人と交易してぇ、その護衛の冒険者の魔術師がぁ、その余所の国の言葉で呪文を唱えて魔法を使っていたんですよぉ。呪文ってぇ、特別な言葉に思えるのにぃ、普通に話してる言葉で唱えてていいんですかぁ?」


 言われてみれば……確かにそうだ。

 古代語とか、特別な魔法言語とかじゃなくて、今こうして普通に話している言葉でみんな呪文を唱えて魔法を使っているな。なんでだ?


「いい質問ね! 実にいい質問だわ!」

 喜色満面で、教鞭を振り回し身を乗り出してくるレイテシアさん。

 勢いに押されて、ララルマは引いているけど。


「そこに気付くなんて、実にいい着眼点ね。魔法学院の学生でも、自力でその疑問に辿り着ける学生は少ないわ。あなた、お名前は?」

「ララルマですぅ」

「ララルマちゃんね。あなたも見込みがあるわ」

「うふふっ、そうですかぁ?」

 ララルマって褒められるのに弱いよな。照れ照れに照れ笑いだ。


 レイテシアさんも、いい質問が続けて出たことでご機嫌になったというか、調子が出てきたというか、満面の笑みを浮かべて教鞭を振るう。

「なら次は、その辺りの話を、実際に魔法を使いながら説明していきましょうか」



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