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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第三章 アップデート『天より来る魔狂星』

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90 新人教育(実地訓練)

 冒険者ギルドから指導の日程として組まれのは、十日間だ。

 なので連日、朝から日が沈むまで、丸一日を稽古に費やした。


 日がな一日稽古し続けるって、かなり辛いと思う。

 しかも素行が悪いと、ユーリシスから正論という名の暴論で真正面から叩きのめされるオプション付きだ。


 だけど正直意外だったのは、監督のユーリシスが怖いからか、それとも日を追うごとに上達しているのを実感したからか、食事休憩や小休止中にいつの間にかいなくなった奴は出なかったし、毎日誰一人逃げ出さずに参加してくれたことだ。

 特に例のおっさんとか、早々に正気に戻って来なくなるって思っていたのに。


 そんなおっさんに触発されてか、先に俺達から指導を受けていた先輩的なプライドからか、レジー達三人が負けじと気合いを入れて稽古してくれたおかげで、その真剣な空気が全員に伝播(でんぱ)して、かなりいい感じでみんな上達していってくれた。

 それに、稽古中はピンと張り詰めていても、休憩中は緩かったのと、昼休憩と夕方稽古が終わった後、炊き出しをしたのも大きかっただろう。


「そろそろお昼休憩します。みんな並んで受け取って下さい」

 ティオルとララルマ、そしてアシスタントの三人が準備してくれた、安い黒パンに野菜と鶏肉や兎肉、たまに角穴兎(アルミラージ)の肉なんかを挟んだ物に、肉野菜炒めだったり、具だくさんスープだったり、かなりしっかり食べられる食事を配る。


 そんな光景を見て、黒パンとスープをそれぞれ持った冒険者ギルドのスタッフ達が俺に声をかけてきた。


「指導の依頼をしたのは我々ギルドだが、練習用の装備に加えて、毎日こんな炊き出しまでいいのかい? まさかここまでしてくれるとは思っていなかったから、これじゃ赤字だろう」

「いいんですよ、これは先行投資ですから」

「先行投資? ミネハル君は何を目的にこれが投資だって言うんだい?」


「彼らがゴミ装備って呼ばれる剣とメイスと盾で活躍してくれれば、もうゴミ装備って呼ばれず、俺達も軽く見られることはなくなるでしょう? それに、貧民街の彼らとか、十日も拘束して銅貨一枚すら稼げないじゃ飢えちゃいますし、それで盗みとかされたくないですからね」

「確かにな……毎日がっついて食って、よっぽど腹が減ってたんだろうぜ」


「第一、冒険者が……戦力が増えれば、いつか魔物の勢いを押し返して、放棄された領地を取り戻すために国や貴族が動いてくれるかも知れませんからね。国が豊かに、安全になれば、俺達も暮らしやすくなるってもんでしょう」

「そんなことまで考えていたのかい?」

「おいおい、そりゃあ一介の冒険者が考えることじゃない、お貴族様方が考えることだろうに」

「俺の本職は、冒険者じゃなくて学者ですからね」

 おどけて肩を竦めてみせると、彼らもなるほどとばかりに苦笑する。


「それにほら、見て下さいよ」

 食事をしながら、指導役の四人やアシスタントの三人を囲んでいる新人達を見る。


「それでぇ、アタシがこぉ、『シールドガード』で受け止めてからぁ、雷刀山猫ライトニングサーベルワイルドキャットを『クラッシュヘッド』で叩いてぇ」

「雷刀山猫がよろけたその隙に、あたしが横から『ハードスラスト』で体当たりするように突き刺したんです」

「おおぉ、すごい! 本当に雷刀山猫まで倒せるようになるんだ!」

「だったら角穴兎なんか楽勝だな、きっと!」


 こんな感じに、ティオルとララルマ、そして『ゲイルノート』の武勇伝が語られて、新人達が歓声を上げる。

 特にボロい服を着てろくに食えてなさそうだった連中は、初日はひねて暗い目をしていたのに、今は見えてきた希望に目を輝かせていた。


「なるほど、これはいいな、うん」

「ああ、悪くない。他に依頼したパーティーがどうかは知らんが、ミネハル君達に頼んだのは正解だったようだ」


「他人事じゃ困りますよ? みなさんも少しでも腕を上げて、彼ら新人達が困っているときに、俺達の代わりにフォロー出来るようになっておいてもらわないと」

「ははっ、そうだな」

「そいつは責任重大だ」


 彼らはおどけながらも、頷いてくれる。

 これで、俺達の目の届かないところでも、ちょっとは安心出来そうだ。


 ただ一点、不安というか、なんというか……。


「ユーリシス様、オレと――」

「失せろと言ったはずです。これ以上しつこくするのであれば本気で滅ぼしますよ」

「くっ、取り付く島もない冷たい眼差し……だがそれがいい!」


「おっさんしつけぇ。いい加減オレなら心折れてるぜ」

「おっさんじゃ無理無理、ユーリシス様は高嶺の花過ぎ」

「うっせぇぞガキども、そこがいいんだろうが!」


 例のおっさんがユーリシスに無謀な告白を繰り返しては歯牙にもかけられず、むしろそのウザさに嫌悪すらされている状況に、いつの間にやら弄られキャラが定着していた。

 初っ端のあれで距離を置かれ腫れ物扱いされていたのが嘘みたいな距離感で、良かったのやら悪かったのやら。

 いや、俺としてはもう、おっさんにはやらかして欲しくないんだけどな。


「お前も見ていたのなら、いい加減にあの男をどうにかしなさい。滅ぼしますよ」

 なんて、イライラを募らせたユーリシスの怒りの矛先が俺にまで向いて、とばっちりが……本当に勘弁して欲しい。



 そんなこんなで、怖くて厳しくも、賑やかで楽しい訓練の日々が続いて、遂には最終日の十日目。

 俺達は森へとやってきていた。


 以前よりも真面目に、そして強い関心を持つようになってくれた冒険者ギルドのスタッフに頼んで、他にも多数参加して貰っている。

 集めて貰ったのは、両手斧、片手斧、槍、弓、魔法で指導を受けている新人達とその指導役の冒険者達。

 これからパーティーを組もうっていう新人達のための実地訓練、というわけだ。


 もちろん、目的はそれだけじゃない。


「なあミネハル、お手本ってことならオレ達にやらせてくれよ」

「そうね、色々な武器で混成パーティーを組んでやるなら、武器の種類が多いわたし達の方が向いていると思うわ」


 というわけで『ゲイルノート』にまずはお手本になって貰う。

 それは一ヶ月前に見たときよりもずっと連携が洗練されていて、新人達はもちろん、指導役の冒険者達にも感心されたくらいだった。


「すごいなみんな、かなり強くなったみたいだ」

 俺が賛辞を送ると、ローレッドがはにかむ。

「雷刀山猫とやり合ったおかげですね。あれに比べれば、他の魔物の怖さなんて全然大したことありませんから。だから今、僕達も毒鉄砲蜥蜴ベノムショットリザードにも挑戦しようって話が出てるんです」

「そうか、確かに今くらい動けていたら、みんなならやれるかもな」


 そんな彼らはいいお手本になってくれたみたいで、新人達のやる気はアップ。

 色々な武器を持った新人達で六人ほどの即席パーティーを組んで貰い、早速角穴兎を狩って貰う。


「そっちに行ったぞ! 逃がすな!」

「私がやるわ!」

「こいつは俺にやらせろ!」

「ちょっと邪魔しないでよ!?」

「邪魔なのはそっちだろう!」

 即席だから仕方ないんだけど、俺が俺がで逃げられたり、手痛い反撃を喰らったり。


「こいつは私が防ぐわ、着地を狙って!」

「どらぁっ! よっし仕留めたぜ! ナイスアシスト!」

 先に失敗した連中を見て役割分担をしっかりして、見事仕留めたり。


 彼らにとってこれが一番の目的だったわけだから、誰も彼もが真剣で、命懸けの戦いを繰り広げる。

 下手に油断して角を急所に喰らえば、ベテラン冒険者だって命を落としかねないんだから、まだまだド素人な彼らにしてみれば一戦一戦が命懸けになるのは当然だ。


 もちろん、たかが十日そこらでは、劇的に強くなれるはずもない。

 ホロタブで確認したところ、初日の新人十二人のレベルは二から四だったのが、ようやく一つ上がったかどうかだ。

 だから、倒せず逃げ戻った連中はあちこち怪我をしているし、倒した連中も無傷とはいかず、怪我をしていない奴の方が圧倒的に少ないくらいだった。


 でも、俺達が指導した新人達も、他の冒険者達に指導された新人達も、以前に比べて角穴兎と戦えているって実感はあったみたいだ。

 この中にはもう、諦めて故郷に帰ろうって奴は一人もいないと思う。


「これで目的の半分は達したな」

「目的の半分ですか?」

 独り言を聞かれていたらしい。

 ティオルが小首を傾げる。


「大勢の新人達にはもちろん、せっかく冒険者ギルドのスタッフと、他の冒険者達もいるんだから、俺達がどれだけ戦えるのか実際に見て貰いたいと思わないか?」

「それ、すっごくいいです。もっとたくさんの人に、お父さんの剣術はすごいんだってところを見て貰いたいです」

「よし、決まりだな」


 というわけで、残り半分の目的を果たすため、ホロタブで毒鉄砲蜥蜴を見つけておいて、角穴兎を探しながら、さりげなくそっちへと誘導していき遭遇する。

 当然、そのつもりで構えていたんだから、俺達の対応が一番早い。


「ここは俺達に任せて、他の冒険者達は新人達を守ってくれ! いくぞティオル、ララルマ!」

「はい、いきます!」

「はいぃ、みんなにいいところ見せちゃいますよぉ!」


 雷刀山猫三匹を相手にした経験と、体当たりで吹き飛ばされても雷刀山猫に一撃を入れた経験をした二人にとって、もはや毒鉄砲蜥蜴は敵じゃなかった。

 以前と同じように、まずはティオルが盾役で、ララルマが死角から速攻で後ろ足を潰してしまう。

 その後は、ララルマが盾役に代わって、ティオルが死角から深手を負わせて、出血を強いながら翻弄していく。

 そうして、何度か毒液の飛沫を浴びて治療に下がったものの、その回数も前回より少なく、しかも前回より早く、危なげなく倒してしまった。


「うーむ、本当に毒鉄砲蜥蜴まで倒せるのか……」

「両手斧より時間が掛かるのは仕方ないとしても、援護があればもっと早く安全に倒せるってことよね」

「雷刀山猫相手に『グローリーブレイブ』と互角の戦果って噂も、あながちホラ話じゃなさそうだな」


 俺達の戦いぶりをしっかり見てくれた冒険者と冒険者ギルドのスタッフ達はしきりに感心してくれたし、新人達からは驚愕のどよめきと喝采が飛んできた。

 おかげでティオルとララルマがご満悦だ。


「二人とも、以前より手早く安全に倒せたな」

「はい、ミネハルさんが教えてくれた新スキルのおかげで、盾役の交代もすごく楽に出来るようになって、手数も増えましたから」

「ですねぇ。雷刀山猫と比べたらぁ、もぉ、毒鉄砲蜥蜴くらい余裕ですよぉ」

「そいつは頼もしいな」

「えへへ♪」

「どんどん頼って下さいぃ♪」


 そんなティオルとララルマから話を聞かせて貰おうと、新人達が取り囲む。

 対して、俺とユーリシスから詳しい話を聞こうと、冒険者と冒険者ギルドのスタッフ達が集まってきた。

 ユーリシスはちょっと困惑半分迷惑半分って感じだったけど。


 ともあれ、聞かれるままになんでも答えて、不遇武器の布教にいそしむ。

 これで剣とメイスと盾が、さらに広がりを見せてくれたら万々歳だ。



 こうして十日間の俺達の指導は、無事に終わったのだった。



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