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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第一章 ゲームプランナーの異世界を救う仕事
9/120

9 情報収集(うさ耳うさ尻尾美人)

「ふぅ……疲れた~……」


 異世界で初めて迎えた夜。

 少しはマシな宿の二階の一室を借りて、ベッドへ突っ伏すように倒れ込む。


 ふかふか柔らかい布団とはいかないけど、俺の部屋のいつ干したかも覚えてないベッドの布団や会社に常備していた寝袋と比べれば、格段に寝心地がいい。

 ちなみに、ユーリシスは隣の一室を借りていて、この世界に来て初めて一人きりで過ごす時間だ。


 とはいえ、宿が南地区の繁華街にほど近い位置にある上、まだ夜も早いせいもあって、耳を澄ます必要もなく酔っぱらい達の陽気で賑やかな声が聞こえてきて、静かな一人の時間というわけにはいかなかったけど。

 その上、安普請なのか、身じろぎするたびにベッドがギシギシ煩い。

 しかも部屋の明かりは、ベッド脇のナイトテーブルに置かれたランタンのみで薄暗かった。


 正直、かなりグレードが低く感じるけど、これでも宿としてはかなりマシな方だ。


 最初は無駄遣いしないように安宿にでも泊まろうと思ったけど、あれは断じて宿じゃないと思う。

 ベッドはおろか布団も仕切りもない不衛生な大部屋に、男女問わず押し込められて、板張の床に全員雑魚寝。

 そんな状態なのに、荷物の管理は自己責任。

 しかも、行きずりで行為に至る男女が出てきても宿側は関知せず、他の客は見て見ぬ振りをするか、止めさせるなり参加するなりお好きにどうぞときたもんだ。


 いくら節約のためとはいえ、さすがにそんな宿には泊まれない。

 そんな宿は俺が嫌だし、何よりユーリシスにちょっかいを出す奴が出たら、ユーリシスがどんな反応をするか考えるだに恐ろしい。

 というわけで、そこそこのお値段でまともな設備の宿を探すのも大変だった。


 でもそのおかげで、ランタンが獣脂なんかの油じゃなく、魔石と呼ばれる元の世界にはなかった鉱物を利用して魔力で発光させるという、なんとも興味深い魔法道具に出会えたのはラッキーだ。

 さすが異世界、テンションが上がる。


 こういった元の世界の物とは似て非なる物、元の世界にはない物も多く見かけたおかげで、つい好奇心に駆られるまま一日歩きっぱなしだったからな。


「……こんなに運動したのは、高校の体育の授業以来かも」

 溜まった疲れに、このまま寝てしまいたい気もするけど、せっかく手に入れた情報はすぐに整理しておきたい。

 ゴロリと仰向けになって天井を見上げながら、今日一日の成果を振り返る。





 お金を手に、まず最初に訪れたのは、出来合いの服を吊し売りしている露店だった。

 ドワーフのおじさんの所に戻らなかったのは、無一文だった男がいきなり大金を持って現れたら変に勘ぐられそうだったからに他ならない。

 それに何より、店員さんがうさ耳うさ尻尾の美人! だったからだ。


「こ、今日は、服を見せて貰ってもいいですか?」

「いらっしゃい、どうぞどうぞ、存分に見てっておくれよ」

 うさ耳うさ尻尾の店員さんは、近づく俺に気付いていたのか、即座に愛想良く応じてくれた。


 笑顔も可愛いけど、うさ耳がピコピコ揺れるのが滅茶苦茶可愛い!

 というか、語尾に『ぴょん』とか『うさ』は付かないんだな。


 まあ、それはさておき。

 所謂、ウサギ型獣人とでも言えばいいのか。顔や手や体付きは、ごく普通の人間と変わらない。強いて言えば、アスリートみたいに引き締まった筋肉が野生動物っぽさを感じるくらいで、耳と尻尾以外のウサギ要素は皆無だった。

 生地を売っている犬耳犬尻尾のお兄さんは、顔つきまで犬だったけど。


「お兄さん格好いいから、この辺りの服が似合いそう。どうかな?」

 店員さんは、迷わず高い値札が付いているコーナーから仕立てが良さそうな服を取り出すと、俺の身体にぴったりと当てた。

 しかも、自分の身体も一緒に押しつけるようにして。

「ほらほら、とってもお似合いよ」

「そ、そうかな?」


 元の世界でこれをやられたら、のぼせて即買いしていたかも知れない。

 でも、今の俺の目的は、ただ服を買うだけじゃないんだ。


「な、なかなかいいね、これ。あ、でも、そっちも見せて貰えるかな?」

 高いのから安いのまで、色々な服を手に取ってみる。

 縫製には詳しくないけど、手作りだろうってことくらいは分かる。

 肌触りはやっぱりお値段に比例するみたいで、当然ながらポリエステルとかの化繊はない。麻や木綿、毛織物といった物ばかりだ。

 正直まだ、この世界での服の善し悪しは分からないけど……。


「品質に比べて、お値段がちょっと高くないかな?」

「何言ってんの、この値段でもうちは他より良心価格で有名なんだよ」


 相場より高いってところは、否定しないんだな。

 あちこちから景気の悪い話が聞こえてきたし、それは服も変わらないってことか。


「やっぱり、中の街道のせい?」

 中の街道がどんな街道なのかさっぱり分からないままだけど、どっかの露店の主人がそんなことを言ってたはず。


「そうそう、そうなのよ」

 その辺りの不満をぶちまけたかったのか、そこからは俺が誘導しなくても、勝手にあれこれ喋ってくれた。


 中の街道はどうやら、王国の南東に位置する王都近隣地方と西側の沿岸地方とを結ぶ重要な街道らしいこと。

 最近、中の街道では南の山脈から北上してきた魔物達が出没する頻度が増えてきて、通行が危険になってきていること。

 中の街道の重要な中継地となる町を領地にしてるホドルト伯爵は、国から魔物討伐の補助金を貰っているのに、自分のポケットにしまい込んで兵を動かさないこと。

 大なり小なり、この国の貴族はほとんどみんなそんな感じなこと。

 他にも色々あったけど、だいたいは、魔物とその対策を怠っている国や貴族への愚痴ばかりだった。


「どうして魔物が街道まで出てきて人を襲ってるのかな?」

「さあ、魔物だからじゃない? そんなの考えたこともなかったね」

「例えば、魔王が率いてるとか、裏で魔族が操ってるとか……」

「魔お……? 魔ぞ……? なんだいそれ?」

 ふむ、魔王や魔族みたいな連中は存在しないのか。


「色々聞かせてくれてありがとう、これをいただくよ」

 お礼代わりに、最初に勧められたお高めの服を買う。

 そこらを歩いている普通の人達が着てる服より、ちょっと上等でいい感じの服だ。

 正直、服なんてTPOに合っていて着られればなんでもいいんだけど、ゴシックドレスのお嬢様然としたユーリシスの隣を歩くには、これでもみすぼらしいくらいだ。


「はい毎度♪ 長話に付き合わせちゃったからね、おまけして九十リグラでいいよ」

 値札は九十四リグラだ。

 ポケットに突っ込んでいたお金を適当に掴んで取り出す。


 金貨、銀貨、銅貨がそれぞれ二種類ずつ、合計六種類ある。

 他の人達の買い物風景を眺めていて分かったのは、どうやら銅貨一枚が一リグラで、銀貨一枚が十リグラの価値があるってことだ。

 なので、二種類のうち、一回り大きくて女性……多分、王妃とかそういう人なんだと思うけど、女性が意匠されている方の銀貨を九枚掴んで渡す。


「ちょ、ちょ、ちょっとお兄さん!? ファリーナ銀貨だって!? リグラ銀貨と間違ってるよ! 多い、多いから!」

「え? あ、ああ? 勘違いしちゃったよ」

 いや、よく分からないけど、そういうことにしておこう。


「あ~ビックリした。そ、そりゃまあ、ファリーナ銀貨で払ってくれるっていうのなら、うちは大歓迎だけど」

 チラチラと俺の顔を伺う店員さん。物欲しそうにピコピコ揺れるうさ耳が可愛い!


 と、突然天啓が閃く!

 ウサギ型獣人の女性の服は、バニースーツと網タイツがカジュアルでトレンドってことに世界を改変したら、とても素晴らしい世界になるんじゃないか!?

 バニーさんの格好で、さっきみたいにぴったりくっつかれたら、何でも買って――


「――っ!?」

 不意に走った悪寒に慌てて振り返ると、ユーリシスの氷のように冷たい蔑む視線が。


「誤解、誤解だ! 本気で考えてたわけじゃないからな!?」

 ふぅ……危なかった、これが力を得た者が欲望に流されるってことなのか。

 以後、気を付けよう。


 ともあれ、レートが分からないから、手の平にファリーナ銀貨っていうのを九枚載せたまま、必要な分だけ取ってくれとばかりに店員さんの方へ差し出す。


「お兄さん太っ腹だね、きっといいことあるよ♪」

 店員さんはそんな適当なことを愛想良く言いながら、ファリーナ銀貨を四枚取る。それから、『おつりおつり』と言いながら、もう一つの銀貨であるリグラ銀貨を一枚、売り上げを入れているらしい木製の小箱から取り出した。

 なるほど、二種類の銀貨のレートは分かった。


「ああ、釣りはいらないよ。情報料ってことで、とっといて」

「えっ? よく分からないけどいいのかい? じゃあ代わりにこれ持ってってよ。そんな大金、裸でポケットに突っ込んだままじゃ不用心だしね」

 と、小さな布の袋をくれた。紐で口を縛る巾着だ。

 どうやら、この世界の財布らしい。

「ありがたくいただくよ」

 軽く手を挙げて礼を言うと、露店から離れる。


「毎度♪ 良かったらまた来てよ、サービスするからさ♪」

 その声に振り返って、また軽く手を挙げてその場を離れる。


 と、後ろから。

「ほら見てよ、ファリーナ銀貨で払ってくれた太っ腹なお兄さんが来てくれたんだよ。金払いもいいし、あれはどっかの商人か貴族のボンボンだね」

「なんだって!? ちょいと、今度はうちの店にも紹介しておくれよ」

 なんて話し声が聞こえてきた。


 なるほど、俺はまだこの世界の金銭感覚を掴めてないし、そういう方向でアンダーカバーを設定しておくのも悪くないかも。

 ともあれ……ふぅ、緊張した。


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