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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第三章 アップデート『天より来る魔狂星』
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88 新人教育(開始)

 新人指導開始の朝、俺達はいつもの練習場所、町の外の防壁の側に集まった。


 指導役は俺達からティオルとララルマ。

 『ゲイルノート』からラングリンとパプル。

 それ以外のメンバーはアシスタントだ。

 そしてユーリシスが……見学? 監督? ともあれ、まるで睨みを利かすように立っている。


 クルファがギルドで告知して、また直接声をかけて、集めた新人は全部で十二人。

 そのうち四人は女の子だけど、みんなそこそこ鍛えられた体付きをしていた。


 年齢は中学生くらいの少年少女から四十代のおっさんまで、かなり幅がある。

 ボロのような服で貧民街や路上生活してそうな少年少女。

 農村から出てきたのか、武器よりも(くわ)が似合いそうな青年。

 くたびれた革鎧を着て錆びた片手剣を持つ、元冒険者っぽいおっさん。


 などなど、金も仕事もなくて、博打で角穴兎(アルミラージ)狩りをしてやろうって感じの連中ばかりだ。

 中には手足に包帯を巻いている人もいるから、一度は角穴兎に挑戦したんだろう。


 一つ残念なのは、クルファから聞いた話によると、俺達が怪我で休養している間に、角穴兎をろくに倒せず諦めて故郷へ帰ってしまった新人も少なくないそうだ。


 それでも十二人も集まってくれたのは、大躍進って言ってもいいだろう。

 それに、最初に剣術を教えて欲しいと声をかけてきたエルフの女の子、レジーも参加してくれていた。


 レジー以外にも、同じように声をかけてきた新人が二人いて、その二人も参加してくれている。

 三人とも、最初は持っていなかった盾を装備してくれるようになっていて、気を引き締めないとちょっと頬が緩みそうだ。


 装備の内訳は、片手剣が五人、メイスが七人で、盾も一緒に持っているのは四人だ。

 ちなみに、これら新人に加えて、冒険者ギルドから戦えるスタッフを四人、監督兼体験学習で参加して貰っている。


「ギルドの仕事がお忙しい中、参加して戴きありがとうございます」

「オレ達も最近の君達の噂を聞いて、詳しく知りたかったから丁度良かったよ」

「ああ、もちろんいい噂ばかりじゃない、悪い噂もだ。気を悪くしないで欲しいが、その真偽を確かめておきたいって意味もある」

「ええ、分かっています。たった十日間ですけど、しっかり見極めて下さい」


 冒険者ギルドのスタッフに多少なりとも経験しておいて貰えば、俺達の代わりに相談に来た新人の指導や不遇武器の普及なんかをしてくれるかも知れない。

 という思惑もあって、片手剣とメイスを二人ずつ、盾は四人とも持って貰っている。


「なんだかドキドキしてきました」

「アタシもですぅ……ちゃんと教えられるでしょうかぁ?」


 最近ようやく冒険者家業の荒くれた雰囲気に慣れてきて物怖じしなくなってきたみたいだけど、ティオルは元々積極的に前に出るような性格の子じゃないからな。

 ララルマも、俺達や親しくなったクルファ、『ゲイルノート』の面々の前ではほとんど気にしなくなったけど、やっぱり見知らぬ大勢の視線が集まると、自分の体付きが気になるようで、微妙に俺やティオルの陰に隠れるようにして立っている。


「二人なら大丈夫。ギルドの裏の広場でレジー達に教えてただろう? あんな感じでいいんだよ」

 二人の肩を軽く叩く。

 ここは一つ、ユーリシスにも気合いを入れて貰おうか。


 俺が顔を向けて、二人に視線を向けると、ユーリシスも俺の意図を理解してくれたらしい。

 やれやれといった感じに、二人に近づいてくる。


「背筋を伸ばしなさい」

「は、はい!」

「は、はいぃ!」

 ピシャリとした鋭い声に、二人がピンと背筋を伸ばした。


「お前達が自分をどう評価しようが構いませんが、この場に集まった者達は、お前達が日々積み上げてきた努力の、一つの結実です」

 二人が新人十二人へ目を向けて、何かを感じたのか表情を引き締める。


「あの者達は、お前達が何者であろうと関係ありません。お前達が命を賭けて魔物と戦いながら身に着けてきた、その技術を学びに来ているのです。ならば、指導役として、正しくあの者達に伝えなさい。そして己の技術を伝えられることを誇りなさい。それがあの者達の命を救い、生きる糧を与えることとなるでしょう。まさしく、お前達の培ってきた努力が、あの者達の中で生きるのです」

 ユーリシスは一度言葉を切ると、チラッと俺を見て、少しばかり嫌そうな顔をしたものの、表情を改める。


「そしてお前達がこの男を支えたいと願うのであれば、今回の件はこの男の一助(いちじょ)となるでしょう。この男が目指す目的を達するため、長く困難な道を進むため、その一歩をお前達自身の手で切り開きなさい」

「はい!」

「はいぃ!」

 一瞬俺に目を向けた後、二人の顔つきが完全に変わって声にも張りが出る。

 その瞳の中に、炎が燃え上がった幻が見えた気がするよ。


「ありがとうございましたユーリシス様、あたし、やる気出ました」

「アタシもぉ、気後れしてる場合じゃないですねぇ」

「礼などいりません。それでも感謝したいと思うのであれば、結果で示しなさい」

「はい!」

「はいぃ!」

 うん、二人ともいい感じだ。さすがユーリシス。


「ユーリシス様ってやっぱおっかねぇな。でも、オレの努力があいつらの中で生きるか……なんかすげぇやる気が出てきた! いっちょオレの全部を教えてやるとするかな!」

「ラングリンは単純ね。こういう時、羨ましいわ。わたしは片手槍だから、盾を半端にしか教えられないからいいのかなって思ってたけど……でも、そうね、わたしも気にしないで、わたしが教えられることを教えることにするわ」

「ああ、ラングリンもパプルもそれでいいと思うぞ」

 側で聞いていたラングリンとパプルも含めて、指導を始めるため全員に指示を出す。


「じゃあ、まずは打ち合せ通りに頼む」

 指導役の四人とアシスタントの三人が、適当バラバラに立っている新人十二人と冒険者ギルドのスタッフ四人を集めて、準備していた練習用の木剣と木メイスと盾、そして武具屋を回って集めた中古や不良在庫の革鎧を配っていく。


 これらは一応貸すだけだけど、指導期間は無収入になるし、最終日まで参加してくれた人には参加賞としてそのままあげてもいいだろう。貧民街の少年少女みたいに、防具を全く身に着けずに、ボロのような普段着で参加している人も少なくないし。

 それら装備を配って、持参した武器や防具と交換して貰ってから、持っている装備の組み合わせごとに、縦四列に並ぶよう誘導していく。


 それを見ながら、やれやれと小さく吐息を漏らすユーリシス。


「すごくいい言葉だったな。みんなの気も引き締まっていい雰囲気になったと思うぞ」

「当然です。私を誰だと思っているのですか」

「でも、まさか俺のことまであんな風に言ってくれるとは思わなかったよ」

「癪ではありますが、小娘と駄肉猫も含めて、この場に集まった全ての者が、お前の努力の結実です。あの者達にそれを言った以上、お前のことも引き合いに出さなくては公平とは言えません」


「そうか、俺の努力の結実か……ありがとうなユーリシス、俺のことも認めてくれて」

「飽くまで、現段階までのお前の目論見の推移を(ひょう)したに過ぎません。この先失敗があれば容赦なく糾弾しますから、この程度で気を緩めるような真似は慎みなさい」

「本当に俺には厳しいな……肝に銘じておくよ」

「お前は何を笑っているのです」

 つい、笑みがこぼれてしまったらしい。


「いや、ティオルとララルマの態度を思い出してさ。ユーリシスはあの二人に尊敬されてるみたいだな」

「尊敬ですか?」

 面食らったような顔をした後、すぐに口元に笑みを浮かべる。

「当然です。私を誰だと思っているのですか」

 わずかばかり目元が赤く見えるのは、俺の思い込みかそうじゃないのか。


「もしかしてユーリシス、照れてる?」

 と、俺が言い終わる前に、一瞬でユーリシスの視線と表情が氷点下まで下がった。

「誰が照れているというのです。滅ぼしますよ」


 怖っ!?

 とんでもなく怖い照れ隠しだな。ここが疑似神界だったら問答無用で雷撃が飛んで来てたかも。


「ミネハルさん、準備出来ました」

 いいタイミングで、ティオルが戻ってくる。

「よし、それじゃあ始めるとしようか」


 剣のみ、新人三人。

 剣と盾、新人二人と冒険者ギルドのスタッフ二人。

 メイスのみ、新人五人。

 メイスと盾、新人二人と冒険者ギルドのスタッフ二人。


 その装備ごとに縦四列に並んだ十六人の前に、指導役の四人と一緒に並んで立つ。

 アシスタントの三人とユーリシスが脇に下がったところで、一歩前へ進み出た。


「俺が今回ギルドからの依頼を受けてお前達の指導を行う責任者の、ミネハル・ナオシマだ。今日はよく集まった、そのやる気を歓迎する」


 最初、外注先に対応するように丁寧な口調と態度でいこうかとも思ったけど、なんとなく舐められそうな気がしたんで、軍隊的とはいかなくても、少し上から偉そうに振る舞うことにした。

 さっきのユーリシスの訓示を見ていた新人達が、ダラダラお気楽そうな態度を少し改めたからだ。

 よくよく考えればこの世界では、気が強いのがいい男いい女の条件だから、むしろ強気でいった方が耳を傾けてくれるだろう。


「お前達が主流の両手斧や槍じゃなく、剣とメイスと盾を選んだのには、それぞれ理由があると思う。だけど、そんな理由なんかどうでもいいし、卑屈になって気にする必要もない。なぜなら、俺達の指導を受ければ、両手斧なんか使わなくても十分に魔物と戦い勝てるからだ。いま俺達がこうしてギルドから依頼を受けてお前達の前に立っていることが、その証拠だ」


 なるほどと頷いてやる気になる少年や、来てはみたものの半信半疑のままの青年など、それぞれの反応を眺めていく。

 先に指導したことがあるレジー達三人は、ちゃんと信頼してくれているようだ。


「お前達の中にもまだ、両手斧じゃないとまともに魔物を倒せない、剣もメイスも盾もゴミ装備でなんの役にも立たないって思っている奴は多いと思う。でも安心してくれ、その認識を俺達がぶっ壊して改めさせてやる」


 演出で敢えて不敵に笑って、全員の顔を見回す。

 レジー、似合わないことしてるなって顔で笑いを堪えるのは勘弁してくれ。


「何故、両手斧じゃなくても魔物を倒せるのか、それは――」

「おい、ごたくはいいからとっとと始めろ」

 不意に、俺の言葉を遮ってヤジが飛ぶ。


 ヤジを飛ばしたのは、この中で一番の最年長、四十代のおっさんだった。

 そのおっさんは勝手に列を離れると、配った木剣を肩に担ぎながら俺達の前まで出てくる。


「オレは角穴兎ぶっ殺して金が稼げりゃそれでいいんだ。オマエらのごたくなんざ興味ねぇんだよ。とっとと楽にぶっ殺せるやり方を教えろよ」

 俺達を舐め腐った態度、まるでチンピラをそのまま大人にしましたっていうか、山賊の雑魚っていうか、いかにもうだつの上がらない、いい加減そうな男だ。


 なんでこんなのが交じってんだか。

 冒険者ギルドも、受講生はちゃんと選別してから送り込んで欲しいもんだ。


「ああ教えてやるさ。だけどな、剣もメイスもただ振り回せばいいってもんじゃないし、盾もただ受け止めればいいってもんじゃない。そこんところから叩き込んでやるから、列に戻れ」

「めんどくせぇ野郎だな。ごたくばっかで、そんなひょろいなりして、オレに教えられんのかっ!」

 おっさんが、いきなり手加減なしで、木剣を俺に向かって振り下ろしてきた。


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