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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第三章 アップデート『天より来る魔狂星』
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82 広まる名声

第三章 アップデート『(てん)より(きた)魔狂星(まきょうせい)』 開始です。

「おい、見ろよ、あいつらだぜ」

「あんなゴミ装備しか持ってない連中がか!?」


 騒がしい冒険者ギルドの中で、ピンポイントでその会話を俺の耳が拾う。

 カウンターから少し離れた位置に並ぶテーブルの一つに着いて、ティオル、ララルマ、ユーリシスと話し合うポーズを維持したまま、耳を澄ましてみた。


「ああ、『グローリーブレイブ』のジェルミンが言ってたんだ間違いない。弟分の『ゲイルノート』のガキどもが自慢して回ってたからな」

「本当にあんな連中が雷刀山猫ライトニングサーベルワイルドキャットを倒したってのかよ」

「言ったって、メインは『グローリーブレイブ』だろ? 『ゲイルノート』と一緒に脇でちょろちょろして、おこぼれにありついただけじゃねぇのか?」

「いや、倒した数は『グローリーブレイブ』と互角、なんなら中身は上らしいぜ」

「はぁ!? あり得ねぇ!?」


 その驚愕っぷりに、ちょっと口元が緩みそうになるのを懸命に引き締めて、みんなの方へ意識を戻した。

 すると、ティオルがちょっとばかり頬を赤らめて、やけにお行儀良く座ったまま、少し顔を伏せ気味に口元をもにょもにょとさせていた。

 ララルマも猫耳がピクピク動いていて、尻尾はピンと上向きになっている。眼鏡の奥の瞳も、チラチラと噂話をしている連中に向けられていた。

 二人も今の会話をしっかり聞いていたみたいだ。


「俺達、噂になってるな」

「えへへ♪ そうですね」

「いやぁ、照れちゃいますねぇ♪」

 ティオルもララルマも、満更でもないって顔で口元を緩める。


「白々しい。その噂話を聞きたくて、用もないのに連日冒険者ギルドに通っているのでしょう」

「ちょ、ユーリシス、そこは空気を読んでスルーするところだろう?」

 面と向かって指摘されると、ちょっと恥ずかしいって言うか。

 ほら、ティオルもララルマも、顔が赤くなっちゃってるし。


「ユーリシス様はいつも通りですね。嬉しくないんですか?」

「まるで見世物にされて小馬鹿にされているようで、いささか不愉快です」

「クールですねぇ、ユーリシス様ってぇ」


 まあ、創造神のユーリシスにしてみれば、被造物たる人の口さがない噂なんて興味ないのかも知れないけど。

 俺としては、世界を救うためにやってきたことの成果が、ようやく目に見えて出始めたって感じがして、やっぱりソワソワ気になってしまうんだよな。

 まるで自分が手がけたゲームがネットで話題になっている時みたいに。



 襲われた村を救うため、『グローリーブレイブ』と『ゲイルノート』と合同で雷刀山猫の群れを倒してから五日が経ち、こうして俺達の噂が人の口に上るようになっていた。

 噂を広めているのは、どうやら『ゲイルノート』の面々らしい。


 何しろ、『ゲイルノート』は一匹も倒せなかったものの、俺達の窮地を救い、短時間とはいえ二匹を相手に牽制し、ティオルが雄を倒すための貴重な時間を稼いだっていう、駆け出し冒険者にしてはかなりの活躍をしてみせたからな。

 しかも、一人牙に掛かって強麻痺で落ちはしたものの、遥か格上の魔物相手に怪我こそすれ全員生き延びたんだ。

 大はしゃぎで自分達の活躍を吹聴して回っても不思議じゃない。


 どうやら、それを耳にした連中が彼らの兄貴分の『グローリーブレイブ』に裏を取っているようで、それが噂の信憑性を高めてくれているようだ。

 是非ともその調子で、俺達の活躍も一緒に広めて欲しい。



「一応言っておくと、全く用がないってわけじゃないからな?」

「ほとんど椅子に座って動きもしていないのにですか」

「そりゃあ魔法書を読んでるんだから当然だろう」


 俺の手元には、魔法書が広げてある。

 魔法システムの詳細を聞くためにユーリシスが出した条件で、俺は数冊の魔法書を読破しないといけなかった。

 これまでは、王都からこの交易都市ドルタードへの移動だ、魔物狩りだ、と忙しくて、なかなかゆっくり読めなかったからな。


 俺も雷刀山猫に噛みつかれて強麻痺で落ちた一人だから、右腕の前腕には牙の並びに幾つもの深い穴が空いてしまって全治二ヶ月。現在三角巾で首から吊っている状態だ。

 この腕で戦闘は無理だから、またしても冒険者活動は休業するしかない。

 だからこれを機に、一気に読み進めようと思ったわけだ。


「そういうことじゃなくて、俺達がこうして連日冒険者ギルドに顔を出してるのは――っと、噂をすればなんとやらだな。丁度来たみたいだ」

 年はララルマと大差ないくらいに見える二十歳過ぎの、冒険者ギルドの雰囲気に全然馴染めていないエルフの女の子が、遠慮がちに俺達に近づいてきた。


「お話中ごめんなさい。あなた達ですか、剣とか使って魔物を倒してる冒険者パーティーって?」

「ああ、そうだよ。俺がリーダーのミネハル・ナオシマだ」

 俺が名乗ると、そのエルフの女の子はほっとしたように表情を緩める。


「わたし、レジーって言います。最近冒険者になったばかりで、どう魔物と戦ったらいいか分からなくて。そうしたら受付で、皆さんに聞いたらいいって教えられたんです」

 そのエルフの女の子、レジーは、俺が使ってるのと同じくらいの、短めの片手剣を腰に()いていた。防具は定番の蛮族スタイルで、どっちもまだ新品と言っていい程度にしか傷が入っていない。


 チラリとカウンターの方を見ると、こっちの様子を窺っていたのか、狐型獣人の受付のお姉さんクルファが、『後は任せたっす』とばかりにいい笑顔を見せた。

 だから俺も、『任せておいてくれ』といい笑顔を返す。


「そういうことなら喜んで相談に乗るよ。ティオル、任せていいか?」

「はい、任せてください!」

 元気よく席を立つティオル。


「教えていただけるのは嬉しいんですけど、お怪我は大丈夫なんですか?」

 レジーが心配したのも無理はない。

 ティオルも、腕やら足やら、あちこちに包帯を巻いていたからだ。

 でも俺みたいに噛みつかれたわけじゃなく、爪で引っ掛かれただけで、深い傷はそれほど多くないのが幸いだ。


「問題ないです。さすがに打ち合うのはまだ無理ですけど、型や立ち回りを見せるくらいなら大丈夫です」

「アタシも付いて行ってぇ、無理しないように見てますねぇ」

「ああ、ララルマもよろしく頼む」


 同じく席を立ったララルマも、俺同様に左腕を三角巾で首から吊るしている。

 雷刀山猫の体当たりを、ほとんど真正面から受け止めて、左腕の骨にヒビが入ってしまっているからな。

 激突寸前に、雷刀山猫の頭にメイスで『クラッシュヘッド』を叩き込んで脳震盪を起こさせたおかげで、雷刀山猫がよろけて狙いが逸れたから、この程度の怪我で済んだんだろうけど。

 そうじゃなかったら、どれだけの大怪我になっていたことやら。


「それじゃあ裏手の練習場に行きましょう。許可は貰ってあります」

「はい、よろしくお願いします」

「じゃあぁ、ちょっと行ってきますねぇ」


 三人連れだって、新人の指導のために建物を出て行く。

 その背中を見送って、ユーリシスへと目を戻した。


「な?」

「ドヤ顔と言いましたか。その顔を止めなさい。見ていて不愉快です」

「はいはい、分かったよ」


 ともあれ、こういうことのために、仕事は出来なくても冒険者ギルドに連日顔を出しているってわけだ。

 まあ、彼女が初めての相談者だけど。


 丁度列が途切れたタイミングを見計らって、席を立ちクルファの所へ行く。


「紹介、ありがとな」

「こっちこそ、新人の相手してくれて助かるっすよ」


 ニコニコ笑顔で手をヒラヒラと振るクルファ。

 クルファは積極的に口を出したいけど、冒険者の自己責任でお願いしますの原則を破ると拳骨が飛んでくるから可能ならそれは回避したい、俺は不遇武器の布教をしたい。

 お互いの利害が一致した結果の、連携プレイだ。


「今、ティオルが裏手で見てくれてるから、戻って来たら相談に乗ってやってくれ」

「この前言ってた、剣とかメイスとか盾とかのゴミ……珍しい装備もメンテしたり作ったりしてくれる鍛冶屋と木工屋の紹介と、新人のパーティーのマッチングっすね」

「ああ。どこか入れてくれるパーティーがあるならいいけど、中堅、ベテラン勢は、不遇武器を使う新人には冷たいだろうからな。やる気があるなら新人ばかりでまとめるのもありだろうし、その方がお互いの実力が近くて励まし合いながら強くなれるだろうし」


「で、あんた達は新人の加入は大歓迎だけど、ガチで格上の強い魔物相手に命懸けでやり合うパーティーだから、その覚悟がない人はお断り、っすね」

「そういうこと」

 とまあ、実績も積んで多少は噂になったし、新しいパーティーメンバーの加入も視野に入れて、協力し合っているってわけだ。


「まったく、一リグラ銅貨にもならないのに、お人好しなことっすね」

「拳骨喰らっても()りない誰かさんもな」

 お互い笑い合う。


「あんたがガチムチのゴリマッチョじゃないのは、良かったのやら悪かったのやらっすよ」

「光栄だけど、間に合ってるよ」

「そうっすね、すでに両手に花っすもんねぇ?」

 用件は済んだし、弄られるのもごめんなんで、ニヤニヤ笑いに見送られながらカウンターの前を離れてテーブルに戻る。


「それで、いつまで冒険者ギルドに通い続けるつもりです」

「そうだな……最低でも、ティオルが完治して一人でも角穴兎(アルミラージ)くらい狩れるようになってからかな。出来れば、ララルマの完治を待ってから動きたい」

「半月から一ヶ月ですか。それだとお前の完治が間に合いませんが」

「角穴兎相手なら俺がいてもいなくても二人は回せるし、毒鉄砲蜥蜴ベノムショットリザード相手なら、俺は前に出ないで衛生兵だから俺の完治は関係ないな」

 言ってて情けないけど、実力的にそうなんだから仕方ない。


「可能なら、ララルマが完治するまでに魔法書を読み終わって、魔法システムの改変に着手して、俺が魔法を使えるようになっておきたいな。そうすれば、右腕が動かないくらい、どうってことないだろう?」

 ユーリシスは嫌そうな顔をするけど、魔法システムの改変の着手は確定事項なんだから、いい加減観念して欲しいところだ。


「そもそも、疑似神界で読ませてくれれば、一瞬も経たずに読み終わるんだけど」

 疑似神界はこの現実世界と空間的、時間的に断絶されているから、疑似神界で何億年経過しても、現実世界では一瞬たりとも時間が経過しない。

 読書みたいな時間がかかる作業こそ、疑似神界で終わらせるべきだと思う。


「お前が魔法書を読んでいる間、私に何もせず、ただぼうっと突っ立って待っていろと? そのような無駄に付き合わされるのはごめんです」

 そう言って、全然疑似神界で読ませてくれないんだよな。

 じゃあ、こうやって冒険者ギルドで日がな一日椅子に座って、何もせずぼうっとしているのはいいのかって話だけど、それを突っ込んだら面倒臭そうなんで、黙っておく。


「はいはい、分かってるよ。すぐに読み終わってやるから、それまでに納得しておいてくれ」



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