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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第二章 アップデート『新たな試練と恩寵』
80/120

80 心が証明した力



「ララルマ、どうだ気分は? 身体は大丈夫か?」

 目を覚ましたララルマが、焦点の定まらない目でぼんやりと天井を見上げる。

 あれか、『知らない天井だ』とかなんとか、そんなことを考えてるんだろうか。


「あぁっ、アタシぃ! ……っ~~~!?」

 やがて焦点を結んだと思った次の瞬間、カッと目を見開いて飛び起きようとして、痛みに声にならない悲鳴を上げる。


「最後、雌に体当たりされた時だな。左腕の骨にヒビが入ってるらしいから、無理に動かない方がいい。全治一ヶ月くらいだそうだ」

 その他にも、右腕の上腕と左の太股に爪痕が、脇腹に打撲があって、身体のあちこちに包帯が巻かれている。


 でもそれは、大なり小なり、俺とティオルも同じだった。

 痛みが治まったのか、ララルマがうっすら涙目で、俺の右腕の前腕に巻かれた包帯と首から吊してる三角巾へ、心配そうな目を向けてきた。


「ミネハルさんはぁ、大丈夫なんですかぁ?」

「ああ、噛みつかれた傷跡はもう痺れもないし、こっちは全治二ヶ月ってところかな」

 それ以外にも、爪跡や倒れたときの擦り傷なんかが、いくつも手当てされている。


「ティオルちゃんはぁ?」

 答える代わりに、椅子をずらして座る位置を変えることで、ララルマにも見えるようにしてやった。

 ララルマが寝ているベッドとは部屋の反対側に置いてあるベッドに、ティオルがこんこんと眠っていた。


「かなり無茶して頑張ってくれたからな。疲労困憊(ひろうこんぱい)だったみたいで、村に戻ってきてからずっと寝てるよ。かなりあちこち爪で引っ掛かれてるし擦り傷も多いけど、俺やララルマ程の重傷じゃないからそんなに心配しなくていい」

「そうですかぁ……」

 ほっとしたのか、ララルマが力を抜いて安堵の溜息を漏らした。


「あのぉ、あれからどうなったんですかぁ?」

「ララルマが身を挺して雌を止めてくれただろう? そのおかげで、ティオルは誰にも邪魔されずに雄と一対一で戦えて、見事に雄を仕留めたよ。ボスの雄を失ったから、残った雌達はみんな逃げていって、俺達の大勝利だ。その後は村に戻って手当てして、今はみんなそれぞれ借りた家の部屋で休んでるところだ」


「ティオルちゃんすごいですねぇ……あんな小さな身体でぇ、雷刀山猫ライトニングサーベルワイルドキャットなんて怖い魔物に果敢に立ち向かって倒しちゃうなんてぇ」

「何を言ってんだ、ララルマだってすごかったぞ。大活躍だったじゃないか」


 羨望と賞賛と、わずかに諦めの滲んだ寂しげな微笑みを浮かべて、眠っているティオルの横顔を眺めていたララルマが、俺の言葉に驚いたように目を丸くして振り向く。

 そしてすぐに、自嘲を浮かべながら俺から顔を逸らした。


「……アタシはぁ、足を引っ張っただけだからぁ」


「倒れて噛みつかれそうになったことを言ってるのか? でも俺が落ちてティオルまで落とされそうになったとき、無茶して二匹のタゲ(ターゲット)を取って、必死で守ってくれただろう? 取り乱したティオルも叱咤(しった)してくれたし」

「あれはぁ、そんないいものじゃぁ……」


「失敗して気落ちするのも分かるけど、もっと自分を評価して胸を張っていい。フォローしたつもりで俺も失敗して、ティオルに無茶させた。ティオルも無茶した挙げ句に油断して失敗した。でも、そんな俺達をフォローして、ちゃんと自分の失敗を挽回したじゃないか」

 もっと自信を持っていいんだって、俺が心から思っていることを知って欲しくて、力強く頷く。


「ララルマが初めて雷刀山猫を相手にして怖かったのは仕方ない。でも、脅えてばかりじゃなかった。あれだけ怖がってたのに、無茶をして二匹とも引き付けてくれたから、ティオルが戦線復帰出来て二匹とも倒せた。体を張って雌を止めてくれたから、ティオルがボスを倒せて勝てた。もしララルマが立ち向かってくれてなかったら、俺達は全滅してたかも知れない」

 だから、ララルマが自分を卑下する必要なんて、どこにもないんだ。

 反省は次に生かせばいいんだから。


「俺達が今こうして無事に生きていられるのは、ララルマが仲間になってくれたおかげだよ。ありがとう、ララルマ」

「……っ!?」

「えっ、あれ? ララルマ!? 俺、何か変なこと言っちゃったか!?」


 何故かララルマがボロボロと涙を流しながら大泣きしてしまう。

 それを聞きつけて部屋に来たユーリシスの冷たい視線や、世話をしてくれた村人の困惑気味の視線が突き刺さってくる中、声を上げて泣き続けるララルマを慰めて励まして謝って、ララルマが泣き止むまでにしばらくの時間が必要だった。



 身動きするのも辛い怪我人もいたから、夕食はそれぞれの部屋で取った。

 その頃には、ララルマも落ち着きを取り戻してくれていて、目を覚ましたティオルと一緒に、すごい食欲でお代わりしていた。

 自分達の生活も苦しいだろうに、村人達はわざわざ家畜を潰してまで御馳走を用意してくれて、どれほど感謝してくれているのかが伝わってきたのもまた、ララルマの励ましになったみたいだ。


 そんな夕食が終わった後、自分達だってボロボロだろうに、『ゲイルノート』の面々が様子を見に来てくれた。


「ティオルもララルマさんも平気そうでよかったわ」

「二人で三匹も雷刀山猫を倒しちまうんだもんな。俺達だってもうちょっとで倒せそうだったのにさ」

「無理無理、あんた落ちてたし、もうちょっとどころか綱渡りだったわよ。ミネハルさんが教えてくれた槍スキルがなかったら、わたしなんて相手にすらならなかったわ」

角穴兎(アルミラージ)より身体が大きいから牽制も楽かと思ったけど、何倍も大変だった……矢を(つが)える指が()りそうだった……」


 まあ、昼間の戦いの興奮覚めやらぬって感じで、お見舞い半分、とにかく語りたい半分って感じだな。

 ティオルもララルマも一緒になって笑って語って、そんなみんなを見守るように一人輪から外れて、ユーリシスが眺めている。


「牽制って奥が深いですね。僕も師匠みたいに、何匹も雷刀山猫を相手に牽制出来るようになりたいです。ドルタードに戻ったら、また稽古を付けて下さい」

「え……ええ、まあ、いいでしょう」


「あたしが最初から最後まで雌を引き付けていられたのも、雄を倒しに行けたのも、ユーリシス様がずっと四匹も牽制してくれてたおかげです。ユーリシス様って、本当にすごくすごくて、すごくすごいです」

「そうですよねぇ。ユーリシス様のあれだけの援護がなかったらぁ、戦いにすらなってなかったですよねぇ」

「な、なんですか急にお前達まで」


 見守っていただけのつもりが急に話を振られて、しかも褒められて驚いたのか、ユーリシスが狼狽えたのがちょっと面白い。

 面白がってたら睨まれた。


「一ヶ月も安静なんてしてらんねぇよな。俺も早く雷刀山猫倒せるようになりてぇ」

 俺と同じく噛みつかれて強麻痺を喰らってたエンブルーは、全く懲りた様子がなくて、むしろ闘志を燃やしている。


「なんかティオルにまた差を付けられちまったな。でもいつかオレだって、雷刀山猫なんざ余裕の一撃で倒せるようになってやるさ」

「そうだね。僕の判断の遅さでみんなには余計な負担をかけてしまったし、どんな魔物でも恐れず立ち向かえるように、強くならないと」

 ラングリンもローレッドも、そしてパプルもリュシアンも、もう魔物と戦うのも嫌だ、なんて泣き言は誰も言わなかった。


 今回のことは、彼らに自信を与えたんだろう。

 ホロタブで確認すれば、五人ともほぼレベルを一つ上げているし、きっともっと強くなってくれるはずだ。


 でもそれは、レベル十四になったティオル、そしてレベル九になったララルマも同じだろう。

 反省点は各人色々あるだろうけど、今日の戦いを笑顔で振り返れているのがその証拠だ。


 俺もようやくレベル三になれたし、もっとちゃんとキープ出来るようになりたいしな。


 そうして、ひとしきりお互いの活躍話に花を咲かせた後、『ゲイルノート』の面々は借りている部屋へと戻っていった。

 すると、入れ替わるように今度は『グローリーブレイブ』の面々が顔を出した。


「やあ、疲れているだろうところを済まない。あの後、お互いにゆっくり話をする間もなかったからな。少し話をしたいんで、お邪魔するよ」

 ジェルミンが相変わらず軽い調子で、軽く手を挙げて部屋に入ってきて、適当な椅子を引き寄せると腰を下ろした。


 それから続けて部屋に入ってきたのは、この村の出身だって男だった。

 俺達の前に立つと、深々と頭を下げてくる。


「あんたらには、本当に感謝する。俺の村を救ってくれてありがとう」

「俺達は、自分達の力を証明したかっただけだから、俺達を認めてくれたならそれで十分だよ」

「ああ、もちろんだ。あんたらの力は本物だ。もう詐欺師だゴミ装備だなんて馬鹿にしやしねぇよ。両手斧でもないのにあれだけ戦えるなんざ、むしろ尊敬しちまうよ」

「まったくだね。あれだけ戦えるなんて、本当に認識を改めないといけないと思ったよ。君の言う通り、本当に私達が勉強不足だったようだ」

 ジェルミンも素直に認めてくれて、今回の合同依頼を受けたのは正解だったな。


 素直に認めてくれたところで、ジェルミンがドアの外に声をかけた。

「ルガード、お前も言うべきことがあるだろう」


 ジェルミンのやや叱るような呼びかけに、ドアの陰から渋々って感じで姿を現したルガード。

 俺達の方を見ずに、ジェルミンの隣に立つと、突っ立ったまま口を開かない。


「ルガード」

「チッ……」

 舌打ちすると、ことさら威圧するようにララルマを見下ろした。


「悪かったな」


「ルガード、それが謝る態度か」

「チッ……ああ、分かったよ。いいかよく聞け」

 やっぱり威圧するようにララルマを指さし、それから俺まで指さした。


「あの失言は取り消してやる。だがな、オレはオマエらまで認めたわけじゃねぇ。あんなゴミ装備にオレらが負けるわけがねぇんだ。いいか、オレらはこれからもオマエらなんかじゃ相手にもならねぇ魔物を狩りまくってやる。よく覚えとけ」

 一方的に言いたい放題言うと、肩を怒らせながらドスドスと足を踏み鳴らし部屋を出て行ってしまった。


 本当に謝りに来たのか?


「まったくあいつは……済まない、なまじ腕がいい分、性格に難があってな。あれでも君達を認めているから、それを認めたくないんだろう。特に、そっちの二人のお嬢さんの最後の活躍は、私も驚くばかりだったからね」

「アタシですかぁ?」

「あたしもです?」

「ああ。誰が見ても私達の方が戦力は上だった。なのに戦果は君達の方が上だ。『臆病者じゃ盾は使えない』『強い意志と勇気がある者じゃないと到底使いこなせない』だったかな? まさにその通りだった。お嬢さん方の勇気には、素直に脱帽したよ」

 素直な賞賛に照れながらも満更じゃなさそうな二人は、ちょっと微笑ましい。


「どうだララルマ、あんな感じだったけど、許してやれそうか?」

「はいぃ、いいですよぉ。もぉ、気にしてませんからぁ」


 ララルマ、なんだかちょっと雰囲気が変わったか?

 吹っ切れたというか、一皮むけたというか。


「そうか。ララルマが気にしないなら、ちょっとあれだったけど、謝罪として受け取っておこうか」

「はいぃ」

「そう言って貰えると助かるよ」

 安堵したように胸を撫で下ろすと、しかもと、ジェルミンが俺にも目を向けた。


「君達の最大戦力のお嬢さん方を守るために、君は自分が落ちても身を挺した。君の実力なら、勝利に貢献するファインプレイだったと言える。対してこっちには、考えなしに(はや)って無駄落ちした馬鹿がいるんだから、恥ずかしいったらない」

「それについては何度も謝っただろう、ジェルミン勘弁してくれ」

 この村出身の男が、ばつが悪そうに頭を掻く。


「そしてそれを支え続けた、上級魔術師(ソーサラー)の美しいお嬢さんの活躍も忘れてはいけないな」

 ジェルミンの爽やかイケメンな微笑みに、ユーリシスは冷ややかな視線を返しつつ、当然とばかりに頷いた。

「お前も、あのような者を部下に持ちながら、よくやったのではないですか」

「ははっ、それはどうも」

 ジェルミンは肩を竦めて苦笑すると、用件は済んだとばかりに立ち上がる。


「お互い疲れているところに長居するのもなんだ、今夜はこれで失礼するよ」

 来るのも突然なら、帰るのも突然に、ドアへと向かうジェルミン。

 そして、最後に足を止めて振り返ると、心からの爽やかな微笑みを見せてくれた。


「もしまた合同で依頼を受けることがあったら、その時はよろしく頼むよ」

「ああ、その時はまたよろしくな」



 部屋に俺達だけになって、ようやくくつろげる時間がやってきた。


「さて、取りあえず最低でも数日はのんびりしたいところだな」

「そうですねぇ、今日のために特訓もしましたしぃ、少しくらい休憩したいですねぇ」

「あたしは無理すれば動けますけど、ミネハルさんもララルマさんも腕を怪我しちゃってますから、当分依頼は受けられそうにないですね」

「そうだな。盾はボロボロで、鎧も爪でガリガリやられちゃってるから、どっちも買い直さないといけないし、武器のメンテも必要だ。どちらにしろ、しばらくは戦えそうにないからな。いい機会だと思ってしばらくのんびりしよう」


 またちょっと長い休暇になっちゃいそうだけど、角穴兎でたっぷりと稼いでいるし、生活費の心配はないしな。


「それもいいのではないですか。小娘も、駄肉猫も、途中でおまけ達(ゲイルノート)が助けに入ったとは言え、遥か格上の魔物相手に命を賭して戦い抜いたのです。大きな戦功を上げたのですから、たまには休息もいいでしょう」

「ユーリシス様が、あたし達のこと、そんな風に言ってくれるなんて……」

「なんだかぁ、照れちゃいますねぇ」


 淡々とした口ぶりだったけど、二人を認める発言をしたユーリシスに、ティオルもララルマも、目を丸くしながら、ちょっと感動してる。

 さっき褒められたお返しに褒める、なんて真似をするわけがないから、本心から二人の活躍を認めてるんだろうな。


「まさかユーリシスがそんな風にデレるなんてな、驚いたよ」

「誰がデレているのです。成果を出せばそれを認める。当然でしょう。それより、問題はお前です」

「お、俺?」

 打って変わって、温もりの欠片もない声と視線が俺に向けられる。


「お前は駄肉猫を助けるためとはいえ、自分が相手にしていた雷刀山猫の存在を忘れて動き、さらに小娘を助けようと、いま自分が体当たりしたばかりの雷刀山猫の存在まで忘れて動こうとしましたね。そのようないい加減な動きが危機を招いたのです。麻痺させられて落ちたのも自業自得でしょう。それで司令塔を名乗ろうなど、おこがましいのではないですか」

「うぐっ……俺には厳しすぎないか?」

「お前に優しくする理由がありません。休暇もいいですが、次にまた同じミスをしでかさないよう、精々反省することです」

「くっ……反省します」


 ティオルとララルマが可笑しそうに笑って、つい釣られて俺も笑ってしまう。

 ティオルはどんどん頼もしくなってきてるし、ララルマも急成長してくれそうな予感がする。

 この調子で着実に歩みを進めて、この仲間で、いつか世界を救いたいもんだ。


 まあ、ちょっと臭い台詞だから、口に出しては言わないけど。


 さあ、このままどんどん『新たな試練と恩寵』を推し進めていくとして、次はどんな要素で新しいアップデートを組み込もうか。

 せっかくの休暇だから、それもじっくり考えるとしようかな。


 うん、なんだかいい感じに楽しくなってきた。



 今回で第二章の本編は終了です。

 次回は閑話を投稿し、第二章終了です。

 次々回からは、第三章の本編を投稿していきます。


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