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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第一章 ゲームプランナーの異世界を救う仕事
8/120

8 無一文プレイか大富豪プレイか

「なら、俺に与えられた神の権能で俺自身を――」

「何をしたいのか想像は付きましたが、私の許可なく好き勝手には使えませんよ」

「――えっ、そうなのか!? なんでだ!?」


「たかが人間風情が、本気で神の御業を使いこなせるとでも思っているのですか? 思い上がりも(はなは)だしい」

「いやまあ、最初から使いこなせるとは思ってないけど。そこは練習次第で、というか、そもそもそんな制限、必要あるのか?」


 神様の話じゃ俺が主導でこの世界を改変するのに、いちいちユーリシスの許可が必要なんて手間が掛かるばかりだろう。何より、命令系統が逆転しかねない。


「心が弱く浅ましい人間ほど、力に溺れて欲望に流されるからです」

 どこか冷たさの中に嫌悪とか憎しみとか……とにかくそんな負の感情の入り交じった瞳が俺を捉える。

 いや、俺を通して別の誰かを見ている?


「神の権能を手にしたお前が己の欲望を満たすために際限なく神の力を振るうことを、この世界の創造神として許すわけにはいきません。それを止める私と争いハルマゲドンを起こしますか? それこそ世界が滅亡しかねません」

「なるほど、一種のセーフティってわけか。信用なくてちょっと釈然としないけど、理由は分かった」

 これも、この先の行動で信用して貰うしかないってわけだ。


「随分と素直に引き下がるのですね。もっとごねるかと思っていましたが」

「人並みに欲深いって自覚はあるし。それこそ、何でも思い通りに創造し改変できる力を手にしたら、自分が変わらないとは断言できない小市民なんだよ」


 ただ、物は考えようだ。

 裏を返せば、どうせセーフティが働くんだから、気軽になんでもチャレンジ出来るってメリットもある。

 聞くだけならタダだ。


「じゃあ許可が欲しいんだけど。俺に与えられた神の権能で俺自身を強化したいんだ」

「その身体が壊れて激痛に(さいな)まれ、最悪死に至ってもいいのなら構いませんが」

「ええっ!?」

「当然でしょう。その何も鍛えていない、それどころか運動不足で心臓麻痺を起こすような脆弱な身体に、突然人を越える超常的な力を発揮させれば、どのような結果を招くかは想像に難くないでしょう」

「なるほど、そういうことか……」

 いやもう本当に、呆れるくらいとことん優しくない仕様だな。

 なら、他に執れそうな手段は……。


「あっ、じゃあ貨幣のコピーを創り出すっていうのは?」

 偽金作りは、中世だと死刑になるくらいの犯罪だって聞いたことがあるけど……。

 偽金だから問題なわけで、本物と寸分違わないコピーを無から創造したら、それは偽金だけど偽金じゃないというか、グレーゾーンってことにならないだろうか?


「構いませんよ」

「おお、てっきり犯罪だなんだで罵られて断られるかと思ったけど、やっぱり聞いてみるもんだな」

「たとえ一時的に与えられた権限と権能とはいえ、仮にも神が創造するのです。神の御業が人の定めた法で裁かれるなどあり得ません」

「なるほど、そういう理屈が成り立つのか。だとしたら遠慮なく」


 というか、これも一種のチートっぽい能力と言えるかも?

 神の御業で魔法的なことをすると思うと……これはテンション爆上がりだ!

「じゃあ早速――」


 なんかそれっぽいポーズで格好良く構えたところで、ふと手が止まる。


「あの、元の貨幣が分からないんだけど?」

「そこまでは知りません」

「くっ、まさかそんな落とし穴があったとは……元になる貨幣の形が分からなかったら、コピーの創りようがないじゃないか!」


 これじゃあ、世界を救うどころか、無一文が理由で野垂れ死んでしまう!

 これ、なんてクソゲーだ!?


「ふぅ……仕方ありませんね」

 本当にやれやれと、なんでこんな真似をしないといけないのかと嫌そうな、なおかつ恩着せがましい溜息を吐いて、ユーリシスが手の平を握り締めた。

 一瞬、神々しい気配が、その握り締められた拳から発せられる。

 そして、その拳を俺の方に差し出して、握った手を開くと……。


「お金!? これがこの世界の貨幣なんだ!?」

 金貨、銀貨、銅貨と、いくつもの貨幣がその手の平の上に載っていた。


「そうです。あまりにもお金お金と浅ましく、見ていて不愉快です。これを与えるので欲望にまみれて見苦しく嘆くのはやめなさい」

「そこまで言われるほどじゃなかったと思うけど……これって、無から創り出したってことでいいのかな?」


 手を伸ばして受け取ろうとして、それ(・・)に気付いて、思わず手が止まる。

 なんか、やたらと臭い。

 しかも、汚れてたり、古ぼけてたりして、汚い。


「創り出したのではありません。取り寄せたのです」

「取り寄せた?」

「対象の位置を検索し、その座標を私の手の平の上の座標に書き換えたのです」

「つまり、超能力のアポートや転移魔法みたいなものってことか」

「似て非なるものですが、そのような解釈でいいでしょう」

 なるほど、そのやり方は覚えておこう。色々と応用が利きそうだ。


「それで、どこから?」

 この汚れ具合、誰かの金庫や財布から盗ってきたわけじゃなさそうだけど……。


「魔物に襲われ人知れず朽ちた冒険者や行商人の持ち物や、回収されずに野ざらしとなっていた物です」

「ええっ!? まさか墓泥棒!?」

「愚弄するつもりですか。遺体と共に埋葬された持ち物には手を付けていません。すでに所有権が失われた物ばかり、謂わばただの拾得物です」


 でもそれって、死者の持ち物に手を付けたことに変わりないんじゃないか?

 さすがにこれを使うのは気が進まないんだけど……。


「本当に面倒臭い男ですね」

 呆れを隠そうともせずに、そのお金を俺の眼前に差し出す。


「本気で世界を救うつもりがあるのなら使いなさい。彼らは魔物の脅威から人々を守ろうと戦い命を落としたのです。お前が人々を滅亡から救うことが出来るのであれば、彼らも喜んでお前に託すでしょう」


 それは詭弁だ。

 しかもユーリシスも本気でそう考えているとは思えない口ぶりの、この場限りの出任せだ。

 そう、詭弁で出任せだけど……彼らの遺志を受け継いで、彼らの死を無駄にしない、という意味では一理ある、か。


「代わりに俺が世界を救うから、安らかに眠って下さい。このお金はありがたく使わせていただきます」

 手を合わせて、お金の持ち主だった冒険者と行商人達へ感謝を伝えて冥福を祈り、それからお金を受け取る。


 まあ、それでも罪悪感がなくなったわけじゃないから、無駄遣いせずに、ちゃんと有効活用しないといけないな。


「ちなみに、こんな風にもう誰の物でもない、野ざらしになってるお金を集めたら、どのくらいの金額になる?」

「そうですね……この国の領土内だけで言えば、爵位を領地と私兵付きで買えるくらいは優にあるでしょう」

「爵位を領地と私兵付きで!?」


 侮蔑、軽蔑、嫌悪の瞳が、俺を見下してくる。

「まさか、そのお金を集め、私利私欲のために使おうと欲望にまみれているわけではないでしょうね。私の話を聞いていなかったのですか、見下げ果てた愚物(ぐぶつ)です」

「いやいや違うから! そんなこと考えてないから!」


 うん、今回だけは緊急避難ってことで、後は地道に働いて稼ごう。

 それこそ、過ぎたお金は身を滅ぼしかねない。



 こうして俺は、当座の生活費と軍資金を得たわけだけど……。

 臭くて汚れた貨幣を、(いち)の外れにある井戸で洗っている間、多分出所(でどころ)を疑われてたんだろうな、周りの目がちょっとだけ痛かった。



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