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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第二章 アップデート『新たな試練と恩寵』
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77 雷刀山猫と再び 2



「クソっ、このっ!」

 とにかく盾を真正面に構えて剣の切っ先を雌に向け、まだ身体に覚え込ませている途中の型が崩れようと、とにかく近づかれそうになったら振り回す。

 吼える野良犬を追い払おうとへっぴり腰で棒切れを振り回す子供、今の俺はまさにそんな風に見えるだろうけど、体面を気にしてる余裕は全くなかった。


 疑似神界で積み重ねた経験値を現実世界に持ち込めていれば、もう少しマシな戦い方が出来たんだろうけど。

 ユーリシスに却下されている以上、無い物ねだりは逃避でしかない。

 むしろ、初撃で噛みつかれず、未だに立って対峙している自分を褒めたいくらいだ。


 やけくそ気味にそんなことを考えながら、一歩また一歩と、後ろに下がりながら雌を牽制し続ける。


「『リフレクトアームズ』!」

 そんな俺の横で、ティオルが必死になって、最初に挑発して引き付けた雌Aの噛みつきを弾き返す。

 さらにもう一匹引き付けた雌Bが、噛みついて『リフレクトアームズ』で弾き返されるのを嫌ったか、前足を振り上げ爪で引き裂こうとした。


「っ! 『シールドガード』! 『アクセルカット』!」

 咄嗟の判断なのか、敢えて『シールドガード』で受け止めて、雌Bの身体が弾かれず動きを止めた瞬間、片手剣の新スキル『アクセルカット』で、身体を支えるもう片方の前足に切りつけた。


「ギャオゥ!?」

 盾スキルを上手く使い分けて、片手剣の新スキルで確実にダメージを与える。


 新スキルは覚えたばかりなのに、かなりテクニカルな対応だ。

 だけど、切り口は浅く、警戒し下がらせる程の傷にはなっていない。


 片手剣の新スキル『アクセルカット』は、その名前の通り、切りつける動作を加速させるスキルだ。

 片手剣の一撃が弱いのなら、手数で勝負して補えばいい。

 そのコンセプト通り、普通に切りつけたり既存スキルの『ライトカット』を使ったりじゃ間に合わないタイミングでも、着実に手傷を負わせていた。


 ただしその分、ダメージアップ効果は『ライトカット』より低く設定してある。

 しかも切りつける速度が上がるってことは、その勢いに腕や身体が振り回されるってことでもあって、そうなる弱点を敢えて残してあった。


「『アクセルカット』! 『アクセルカット』!」


 こういう乱戦だと、素早い動作で牽制回数を増やす使い方も出来ると思って創造したから、タイミングを合わせようとした二匹同時に牽制とか、目論見通りの使い方をしてくれている。

 もし『アクセルカット』がなかったら手数が足りず、とっくに牙を突き立てられていたかも知れない。

 だけどその分、俺の想像以上に弱点の負担も大きかったようだ。


「はぁ、はぁ! このっ、『アクセルカット』!」


 振り回される身体が流れて体勢を崩せば、敵に付け入る隙を見せることになる。

 それを無理矢理踏ん張って体勢を維持しようとすれば、身体への負担が余計に掛かることになる。


「『リフレクトアームズ』! 『リフレクトアームズ』! はぁ、はぁ!」


 『リフレクトアームズ』で二匹を弾き返し、わずかに生まれた隙で、攻撃じゃなく息を整えていた。

 剣を振り盾で受け流すたびに、ティオルの汗が大量に飛び散る。


「ティオル、まだいけるか!?」

「はぁ、はぁ、はい! まだまだ、いけます!」


 そう言うだろうと分かってて、俺には鼓舞することしか出来ない。

 リセナ村の時を上回る、目を見張る勢いでティオルの経験値ゲージがグングン伸びているけど、それと同時に、MPもスタミナも想定以上の速度でガリガリ削れていた。

 このままのペースだと、ティオルがスタミナ切れで潰れるのは時間の問題だ。


「この! 避けるな!」

 だから、一秒でも早くティオルの助けに入りたくて、俺も踏み込んで俺が引き受けた雌Cに切りつける。

 だけど、俺程度の腕じゃ掠らせるのすら一苦労で、雌Cは未だに無傷同然だ。


「くぅ! 『リフレクトアームズ』ぅ!」


 ティオルの反対側では、ララルマも必死になって牙を防ぐ。

 覚えたての『リフレクトアームズ』で雌Dを弾き返し、生まれた隙で下がって体勢を整えるのを繰り返していた。

 MPとスタミナの温存のつもりなのか、どうせ当てても倒せないからと思っているのか、攻撃もしなければメイススキルも全く使っていない。

 守りに専念して凌いでいるんだろう。


「もっとぉ、手加減して欲しいですぅ、『リフレクトアームズ』ぅ!」


 ただ、見ていて危なっかしくて、いつ均衡が崩れるかハラハラしっぱなしだ。

 本人に自覚があるのかないのか分からないけど、半泣きだし。


「ひぃ、はぁ、『リフレクトアームズ』ぅ!」


 しかも、攻撃しない分余裕があるかというとそうじゃなく、むしろティオル以上にジリ貧に見える。

 それでもここまで凌げているのは、やっぱりスポブラと特注の胸当ての存在が大きい。

 もしなかったらと思うと、ゾッとする。


「ララルマ! 下がって守ってるだけじゃ駄目だ! 主導権を全部雌に握られるぞ! 無理に当てなくていいから、攻撃して警戒させるんだ!」

「は、はいぃ! えっとぉ、えっとぉ……ここぉ!?」


 毒鉄砲蜥蜴ベノムショットリザードとの戦闘で、攻撃を仕掛けるタイミングを計るのに少しは慣れたのか、無茶にならないタイミングでメイスを打ち込む。

 メイスは空を切ってしまったけど、これまで守り一辺倒だったララルマが積極的に打って出たことで、雌Dも少しは警戒したのか、一方的に押せ押せで攻撃してくるのを控えたようだ。


「はぁ、ふぅ……ミネハルさんの言う通りでしたぁ……はぁ、ふぅ……」


 これで、ララルマにわずかでも余裕が生まれて、粘ってくれるといいんだけど。


「『雷よ、四本の槍となって敵を穿て、ライトニング』」


 こうして、二人の様子を見ながら俺がなんとか牽制できているのも、ユーリシスが四匹をしっかり牽制してくれているからだ。

 バラバラに、時には同時にとタイミングを変えながら、二匹はユーリシスへ、二匹は俺達に近づこうとするのを、ユーリシスの『ライトニング』がそれを許さない。


 しかも、完全に四匹がその行動を諦めるほど完璧にじゃない。

 もう少しでユーリシスの牽制を突破できそうだったのにという、一見すると隙に見えるギリギリのラインでの攻防を交ぜながら、四匹を踊らせていた。


「助かるユーリシス! その調子で頼む!」

 これなら、ユーリシスが牽制する四匹はいないものと考えて問題なさそうだ。


「分かっています。ですが、お前はお前でなんとかしなさい」


 厳しい叱咤が飛んでくる。

 つまり、咄嗟にでも五匹目の牽制をさせないように立ち回れってことだ。

 一番余裕がない俺に向かって、本当に厳しいなユーリシスは。


 俺達以外の状況を確認しようとホロタブのゲージに視線を走らせると、『グローリーブレイブ』が一匹止めを刺していた。

 しかし一人、強麻痺のバッドステータスの表示が付いている。

 あちらも余裕がなさそうだし、俺達だけで果たして後どれだけ凌げるか……。



 ギリギリの綱渡り状態。

 極度の緊張と、一瞬も緩めることが出来ない集中力。

 そんな状態で長く戦い続けるのは不可能だ。


「きゃあぁ!? た、助けてぇっ!?」

「ララルマ!?」


 積もりに積もった疲労で判断が鈍ったのか身体が動かなかったのか、下がりながら回避するタイミングが遅れて、ララルマが雌Dに突き飛ばされ仰向けに転倒する。

 そのララルマの上にのしかかり、牙を突き立てんとする雌D。


「クソっ! ララルマから離れろ!」

 咄嗟に盾を構えて、真横から体当たりをぶちかます。


「ぐっ!?」

 だけど俺は七十キロもない。

 数百キロの猛獣を相手にするには軽すぎて、ララルマの上から辛うじて突き飛ばすことは出来たけど、逆に俺の方が弾き返されて体勢を崩し尻餅を付いてしまう。


 そんな俺を、雌Cが見逃すわけがなかった。

 視界の端に、今まさに俺に飛びかからんと構える雌Cが映って、一瞬、雌Cの存在を忘れてしまっていたことに気付く。

 しかも腹を立てた雌Dも俺に牙を剥いていた。


「やばっ……!?」

 立ち上がるのも、剣で牽制するのも、盾を構えるのも、どれも間に合わない!

 ここで俺が落ちたら戦線が崩壊する!


「『ホスティリティー』!」

 悲鳴のような『ホスティリティー』の叫びに、雌Cが唸り声を上げて俺から視線を外した。


「ティオル!?」

 雌Cが俺を無視して、ティオルへと牙を剥いて襲いかかる。


「くっ、このっ! はぁ、はぁ! 『リフレクトアームズ』っ! 『リフレクトアームズ』っ! 『リフレクトアームズ』っ!」

「ティオル! 三匹同時なんて無茶だ!」

「こっ、このくらい余裕です! はぁ、はぁ! 角穴兎(アルミラージ)だって三匹同時に相手できたんです! はぁ、はぁ!」


 角穴兎と雷刀山猫ライトニングサーベルワイルドキャットじゃ全然違うはずなのに、それでも自分を鼓舞してティオルは三匹を引き付ける。


 防戦なんていいもんじゃない。

 必死に首の皮一枚を繋いで、辛うじて捌きながら下がり続け逃げ続けるので精一杯だ。そこに余裕なんてどこにもない。

 一瞬でも判断をミスったら即座に牙を突き立てられておしまいだ。


 俺が落ちるならまだしも、ティオルが落ちたら取り返しが付かない!


 なんとしてもタゲ(ターゲット)を取り返そうと、慌てて立ち上がる。

 だけどそんな俺を、雌Dが見逃すはずがなかった。


「クソっ! どっちもこっちも!」

 どっちを最優先で対処すればいいのか、咄嗟の判断に迷ってしまう。

 そんな俺に、隙ありとばかりに雌Dが飛びかかって――


「ギャゥ!?」


 ――いや、飛びかかろうとする寸前、風を切る鋭い音が聞こえて、雌Dの肩に矢が突き刺さった。

 さらに立て続けに、二本目、三本目と矢が飛来する。


「『ストーンボルト』!」

 そして、さらに複数の石礫が飛来して、雌Dを強かに打ち据えた。

 怒りに吼えながら、飛び退り雌Dが距離を取る。


「そいつは僕達が引き受けます!」

「ローレッド!? リュシアン!? 助かる頼む!」


 さらに複数の叫び声がティオルと雌達の間に割って入っていった。


「うおらぁっ!! 『ヘビーハンドアクス』!!」

「させるかよっ!! 『ライトカット』!!」

 雌Cに躍り掛かるエンブルーとラングリン。


「遅れてごめんなさい! ここからはわたし達も! 『リードスピア』!」

 さらにパプルがそれに続いて、三人で雌Cを取り囲み、果敢にエンブルーとラングリンが片手斧と片手剣で切りかかって、パプルが片手槍のリーチと新スキルを生かして牽制する。


 雌Dにも、リュシアンの矢が正確な狙いよりも手数の牽制で矢が飛び、ローレッドの長い呪文詠唱の間を埋めていた。


「これならまだ持ち堪えられる……!」

 『ゲイルノート』の参戦のおかげで、致命的な戦線崩壊の危機を、なんとか乗り切れた。


 そう、俺は一瞬気を緩めてしまった。

 それは、三匹を同時に相手にするなんて無茶をしたティオルも同じだったんだろう。


「ガアアァッ!!」

「ガオオォォゥッ!!」

 雌Aと雌Bが見事にその隙を突くように、タイミングをずらしてティオルへと襲いかかっていた。


「しま……!? あうっ!!」

 盾スキルを使う間もなく雌Aの攻撃に弾き飛ばされ、地面に転がったティオルに雌Bが飛びかかる。


「ティオルっ!!」

 全力で駆け、必死に腕を伸ばし、ティオルへと飛びつく。


「ぐあぁっ!?」


 間一髪割り込んだ俺の右腕に雌Bの牙が食い込み、全身を雷に打たれたような痛みと衝撃が駆け抜けた。



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