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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第二章 アップデート『新たな試練と恩寵』

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76 雷刀山猫と再び 1

 雄一匹を群れの頂点とした、全部で十六匹の雷刀山猫ライトニングサーベルワイルドキャットの大きな群れ。

 山猫とは名ばかりの、何百キロもあるライオンほどの大きな体躯と、サーベルタイガーのような十数センチもの長い牙を持つ、大型の肉食獣だ。


「これは……大迫力だな」

 サファリパークやサバンナで車から飛び出して、腹ぺこで人間を食い殺す気満々の十六匹のライオンの群れと殺し合いをするも同然、って考えると、無謀もいいところだ。


「ゴクッ……」

 さすがのティオルも生唾を飲み込んで緊張が隠せてない……いや、剣と盾が小刻みに震えていて、一度正面切って戦い勝った自信もすっ飛んでしまっているみたいだ。


「あれが本物の雷刀山猫ですかぁ…………アタシぃ、絶対に場違いですよこれぇ……」

 震える声で後ずさるララルマ。


 酷なようだけど、司令塔としてララルマの背中に手を当てて、後ずさった分、前に押し出す。

 同時に、ティオルの肩に手を置いた。


「大丈夫だ。特訓しただろう? 練習は自分を裏切らない。努力を積み重ねてきた自分を信じるんだ」

「……はい!」

 緊張は消えていない。

 それでも、ティオルの震えは止まった。

 だけど、ララルマは初めて目にする雷刀山猫に、完全に飲まれてしまっている。


「ミ、ミネハルさんはぁ、どうして落ち着いていられるんですかぁ?」

「俺は、特訓して強くなった二人を信じてるからな」

「その信頼が重いですぅ……」


 さらに言えば、新スキルを考案するたびに、疑似神界でその性能テストとブラッシュアップのために複製した雷刀山猫相手に戦って散々殺されまくって、恐怖が麻痺しちゃっているせいだろうな、多分。


「お喋りはそろそろおしまいだ。来るぞ」

 雄が吼えて、雌が俺達に向かって走り出す。

 すぐさまホロタブをVRMMORPGモードで眼前に展開。

 剣と盾を構えて待ち受ける。


 ジェルミンも号令を下して、『グローリーブレイブ』が完全に戦闘態勢に入った。


 布陣は、『グローリーブレイブ』六人が右翼、十メートルほど距離を空けて俺達四人が左翼。さらに十数メートル距離を空けて中央後方に『ゲイルノート』の五人がバックアップとして配置されている。

 そして俺達のパーティーは、一番盾の扱いに慣れているティオルが右翼で、雷刀山猫が中央を突破しないように足止め役となって、左翼にララルマ、ララルマのフォローのため中央左翼寄りに俺、そして中央後方にユーリシスが牽制役、という配置だ。


 三つのパーティーの合計人数が十五人。

 数の上では雌の十五匹と互角。

 だけど、質では圧倒的にこっちが劣っている。


 正直、ベテランパーティーが一組も参加してくれなかったのは誤算もいいところだ。

 だけど、それを顔に出してティオルとララルマを不安にさせるわけにはいかないから、どこまでも強気の姿勢を崩さない。


「雌達が左右に分かれた! 作戦はプランA通りに……っ!?」

「ちょ、ちょっとぉ、予定より数が多くないですかぁ!?」


 ララルマの悲鳴に、嫌な汗が噴き出す。

 雌達が俺達と『グローリーブレイブ』の両方に分かれて襲ってくるのは想定通りだ。

 だけど、数が想定と全然違う……!


「ぜ、全部で八匹来てますよ!? ミネハルさん、ど、どうしますか!?」

 ティオルは迫り来る雌達から目を逸らさずに、だけど声を震わせて俺に指示を求めてくる。


 雌達は、俺達に八匹、『グローリーブレイブ』に七匹。

 こんなの戦力配分がアンバランス過ぎる。

 一瞬、チラッとジェルミンを見ると、ジェルミンも焦って判断に迷っているようだ。


 『グローリーブレイブ』が六人で俺達が四人だから、俺達に向かってくるのは、少なくとも同数の四匹、多くても六匹だろうって予想で作戦を立てていた。

 なぜなら『グローリーブレイブ』に九匹、俺達に六匹なら、それぞれ丁度一.五倍の戦力差で戦えるからだ。

 過去の討伐映像を見る限り、多くの群れがそんな感じで動いていたし、作戦を話し合ったときに、ジェルミンもそんな感じで動くことを前提で話していた。


 なのにこれは、明らかに俺達を速攻で始末して、それから『ゲイルノート』か、十五匹全てで『グローリーブレイブ』を狙おうって意図がありありと見えた。

 雷刀山猫がこんなにも頭のいい戦術を見せるなんて、大誤算もいいところだ。


 かといって、迷って判断が遅れたら三パーティーで連携も取れないし、手遅れになって総崩れになりかねない。


「ユーリシス、何匹いける!?」

「四匹です。それ以上は無理です」


 俺達のパーティーの作戦(プランA)は、ティオルが一匹、ララルマと俺で一匹、そして残り二匹から四匹をユーリシスが牽制。

 ララルマと俺が一匹を引きつけてキープしている間に、無理しない範囲でティオルが最初の一匹を仕留められたら、ユーリシスが牽制してキープしている残りから、一匹ずつ『ホスティリティー』で抜いて仕留めていく、という予定だった。


 そもそも、ユーリシスは上級魔術師(ソーサラー)という体面がある以上、短時間でも呪文の詠唱が必要だ。

 初撃だけや、リセナ村の時みたいに速攻で決めたごく短時間だけならまだしも、雷刀山猫のような素早い大型肉食獣を相手に、常時四匹を的確に牽制し続けるのは達人クラスの技量が必要だって話で、だからこそのギリギリの対応だった。


 なのに、常時六匹を的確に牽制し続けて俺達に近づけないなんて、上級魔術師の範疇を超えるどころか、文字通り神業だ。

 創造神として振る舞うのなら、六匹の牽制どころか、十六匹を一撃で全滅させられるだろうけど、『|出来るけどやるわけにはいかない《無理です》』って言っている以上、四匹を三人で持ち堪えるしかない。


「ティオル、作戦はプランBに変更だ! 二匹いけるか!? 倒さなくていい、とにかく牽制して時間を稼ぐんだ!」

「や、やってみます!」


「ララルマ、一匹を一人で引き付けてくれ! 俺も一匹、なんとか引きつけてみる!」

「ア、アタシ一人で一匹ですかぁ!? ミネハルさんも一匹なんて無理でしょぉ!?」

「無理でもやるしかない! 逆に考えれば、『グローリーブレイブ』が相手する数は予定より少ないんだ。彼らが速攻で全滅させてこっちの援護に回ってくれるまで持ち堪えればいい!」


 一方的だけど、ララルマだけにじゃない、ジェルミンにも『ゲイルノート』にも聞こえるように大声で伝えて、以降の判断を委ねる。


「っ……やってみますぅ!」

 自分を叱咤するように答えたララルマだけど、耳と尻尾は正直だ。

 へにょって及び腰になっている。


 正直、俺だって自信がない。

 何せ俺はやっとレベル二で、スキルだってまだ何も使えないんだ。

 それを牽制するだけとはいえ、レベル二十を越える雷刀山猫を真正面から相手して持ち堪えないといけないなんて、無茶ぶりもいいところだ。


「来たぞ! とにかく、生き残ることを最優先に考えるんだ!」


 遂に数メートル先まで迫ってきた八匹の雌達が、威嚇するように一斉に吼えた。


「っ!?」

「ひいぃ!?」

「二人とも飲まれるな! 強気でいけ!」

 無茶を言ってるのは分かってるけど、今はそう叱咤するしかない。


「『雷よ、四本の槍となって敵を穿て、ライトニング』」

 ユーリシスが高く上げた右手から、四本の雷が走って地面を焼き焦がす。

 足下に雷を撃たれた四匹の雷刀山猫が、驚き飛び退った。

 そして残りの四匹が迫ってくる。


「あなた達の相手はあたしです! 『ホスティリティー』! 『ホスティリティー』!」

 立て続けに二匹を挑発して引き付けるティオル。

 顔つきに獰猛さを増した二匹が、『ホスティリティー』の挑発に釣られてティオルへと襲いかかった。


「『リフレクトアームズ』! 『ハード……』くっ!」

 襲いかかってきた一匹目を『リフレクトアームズ』の反発力で弾き返し、衝撃を堪えて『ハードスラスト』で仕留める必殺コンボ。

 本来ならこれで速攻一匹仕留められたはずなのに、剣を突き出す前に、もう一匹が襲いかかって、攻撃はキャンセルし盾を向け直す。


「『リフレクトアームズ』!」

 もう一匹を弾き返してよろけ、体勢を立て直したところで、最初の一匹はすでに体勢を立て直してしまっていて、二匹目の追撃も不可能になる。


 これは早くなんとかしないと、ティオルの負担が大きすぎだ!

 でも、俺もティオルにばかり気を配ってる余裕がない!


「このっ!」

 残り二匹がララルマを狙う軌道で迫るところを、俺が一匹の眼前へと飛び出し、牽制で剣を振るう。

 牽制は成功して、その一匹は足を止めて飛び退くと、俺に向かって牙を剥いた。


 そして、そんな俺の脇を一匹が駆け抜け、ララルマへと飛びかかる。

「っ!? ホ、『ホスティ……』きゃあっ!?」


 及び腰だったのが逆に幸いしたみたいだ。

 無理に受け止めていたら勢いで押し倒されて、一発で危機的状況に陥っていただろうけど、後ずさりながら受け止めたおかげで、勢いに弾かれてさらに後ろに下がったものの、転倒まではしていない。


 だけど、二匹に押されてティオルが後ずさりながら立ち位置を目まぐるしく変えて、ララルマは押されてどんどん後ろに下がっていく。

 俺もまともに相手出来ないし、一人踏ん張っても前に出すぎて孤立するから、後ろに下がりながらの対応になってしまう。

 初撃で俺達左翼は完全に防衛ラインが崩壊してしまっていた。


「くっ! とにかく踏ん張って時間を稼ぐんだ!」



◆◆◆



「おいどーすんだジェルミン!? あの詐欺師野郎ども逃げなかったのはいいが、あの数じゃすぐ食われるぞ!」

 豪槍を構えたルガードが、峰晴達の様子を視界の端に捉えて焦りの声を上げる。


 別に峰晴達を心配してのことじゃない。

 峰晴達が牙に掛かって麻痺させられ全滅すれば、次は愛弟子のいる『ゲイルノート』が八匹に襲われるか、真っ直ぐ自分達を狙ってくるか、いずれにせよ自分達が十五匹全てを相手にするのは時間の問題で、全滅するのは火を見るより明らかだったからだ。


 そうなれば後は、食い殺される未来しかない。

 詐欺師野郎どものとばっちりで死ぬのはごめんだった。


「分かっている! だから可能な限り急いで一匹ずつ仕留めていくしかない!」

 一発逆転を狙える気の利いた指示が欲しかったが、現実的にはジェルミンの言う通り、少しでも早く数を減らして援護に回るか、峰晴達が全滅した後の迎撃に備えるしか手立てはなかった。

 しかし、雷刀山猫の雌達は容易にそれを許さない。


「こいつら、時間稼ぎで足止めしてきてねぇか!?」


 焦りと驚愕でルガードが叫んだ通りだった。

 『グローリーブレイブ』六人に対して、たった七匹しか襲ってこなかったと思えば、距離を取って無理に突っ込んで来ることがない。


 普通、雷刀山猫はその一撃死に等しい強麻痺があるため、無謀だろうがお構いなしで、積極的に牙を突き立てようと襲いかかってくる。

 しかし今は、距離を取って安全策を採りながら、包囲しチャンスを窺っている。


「老練だな……こいつら、人を襲い慣れてるとしか思えない!」


 ジェルミンの言う通り、相応に年を経た個体ばかりで、若い個体はいなかった。

 だが、例えそうだったとしても、自分達がこれまで遭遇したことがないくらい、あまりにも頭の良すぎる個体達ばかりだった。


「山猫どもが来ないなら、こっちからいけばいいだろう!」

 この村出身のメンバーが焦りを見せて、無理に突っ込んで両手斧を振るう。


「馬鹿野郎! 前に出すぎるな!」

 ジェルミンの制止はわずかに間に合わなかった。

 一匹を浅く傷つけたはいいが、別の一匹に襲われて牙を突き立てられてしまう。


「ぐあっ!?」

 そして雷に打たれたようにビクンと身体を跳ねさせると、両手斧を取り落とし、そのまま地面に倒れ伏した。

 この状況で無為に一人減ることは全滅に直結しかねない。


「クソ山猫がっ! 『ハードスピア』!」

 ルガードが唸りを上げる豪槍でスキルを放つ。

 牙を突き立て麻痺させた瞬間、雷刀山猫は獲物を仕留めた満足感に、わずかに動きを止めて油断する。

 その油断を突いての攻撃だった。


 しかし……。


「ギャオオゥッ!?」

 スキルにより切っ先を硬化して貫通力を高めた一撃は、狙いをわずかに逸れて肩に突き刺さる。

 狙い違わず首へと突き刺さっていれば、それが致命傷になり一匹仕留めていたはずだった。


「チッ!」

「何をやってるルガード! 焦りすぎだ!」

 確実に仕留めるチャンスを逃したのは致命的なミスだった。

 肩に深手を負った一匹は他の雌よりも下がり気味になり、止めを刺す機会を逃してしまう。


 一人欠けて、『グローリーブレイブ』の戦いは長期戦の様相を呈していた。



「なあやばいって、助けに入った方がいいんじゃないか!?」

「助けに入るって、どっちによ!?」

「そ、それは……」


 後方で待機していた『ゲイルノート』のエンブルーが勢い込んで仲間を振り返るが、パプルの突っ込みに、右翼と左翼を慌ただしく見比べて、答えが出せなかったのか助けを求めるようにローレッドを振り返った。


「だけど、僕達で雷刀山猫を倒すなんて本当に出来るのか……?」

「出来る出来ないじゃなくて、やらないとやばいだろ!?」


 狼狽えるローレッドを助けるわけではなかったが、弓を握り締めてリュシアンも自信なさげに呟く。

「で、でも、ジェルミンさんからも、ミネハルさんからも、援護に入る指示は出てないよ……?」


「それって、どっちも援護は欲しいけど、どっちもやばいから相手に遠慮してるとか、後ろから全体を見てるオレらの判断に任されてるってことじゃないか!? グズグズしてる暇はないぞ!」

 ラングリンが今にも峰晴達、正しくはティオルの援護に駆け付けたそうに前のめりになりながら、ローレッドに早く指示を出せと迫る。


「わたしも、わたし達で雷刀山猫の相手なんて無茶もいいところだと思うけど、それでもここに来たんだから、何かしないと」

 パプルも槍と盾を握り締めて、前のめりになりながらローレッドに指示を仰いだ。


「それは、最初はやれると思ったけど……やっぱり僕達には無謀すぎたんだ」

 ローレッドは本物の雷刀山猫を見て、すっかり腰が引けてしまっていた。


 リーダーとして、勝てない敵に立ち向かうのは愚策で、仲間を危険にさらせない。

 しかし、世話になった他の二つのパーティーを見捨てることも出来ない。

 完全に板挟みになって迷っていた。


 そのローレッドの気持ちを分かった上で、エンブルーもラングリンも援護に入るべきだと主張して、リュシアンはローレッドに負担をかけたくなくて自己主張は控えていた。

 だが、何もしないで見ているだけでは、いずれ峰晴達が全滅して戦線は崩壊し、自分達も戦うことになる。

 だから、パプルは決断を迫った。


「どっちにしろ、ずっとここで見てるわけにはいかないわ。どっちかの助けに入るか、それとも村の中に逃げ込むか、あなたの判断に従うから、どうするか選んで」

「っ!? ぼ、僕は……」



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