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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第二章 アップデート『新たな試練と恩寵』
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73 冤罪を晴らす冴えた一つの方法

「君は『ゲイルノート』のメンバーに、彼らが剣と盾を選んだ経緯を聞いたんじゃないのか?」

 だからこそ、詐欺の実害を(こうむ)ってないって言ったと思ったんだけど。


「ああ聞いているよ。聞いた上で、君達の真意を知りたいんだ」


 真意を知りたいって、なんの真意だ?


「君は学者だそうだね。なら知らないはずがない。もし知らないのなら、学者とは名ばかりで、あまりにも不勉強だ」

「俺が何を知らないって?」

「何故、両手斧と弓と杖、あとは片手斧と槍、これら以外の武器や盾がゴミ装備って呼ばれて使われないのかをだよ」


「不遇武器は威力が弱くて強い魔物を討伐出来ないし、盾は強い魔物の攻撃を防ぎきれないから、弱い魔物が絶滅していくのに合わせて、淘汰されて使われなくなった。そう言われているな」

「なんだ、ちゃんと知ってるじゃないか」


 俺の答えを聞いて、わざとらしく驚いた顔をして、それから表情を厳しくした。


「それを知っていながら、何故あの子達に剣と盾を使わせた? これであの子達の成長は頭打ちになった。角穴兎(アルミラージ)は弱い魔物だからいい。だけど、それ以外の魔物には絶対に勝てなくなった。あの子達はもう一生、角穴兎狩り以外の魔物討伐が出来なくなったんだ。その責任をどう考えているか、是非聞かせて貰いたいもんだ」


 なるほど、それでこうして怒ってるわけか。

 当前の顔でゴミ装備呼ばわりしたのは気に食わないけど、『ゲイルノート』の兄貴分としては悪い奴じゃなさそうだ。


「どうやら大きな誤解があるみたいだな。君の言葉を借りるなら、君達こそあまりにも不勉強だ」

「ほう……」


 俺が言葉を借りてやり返したのが気に食わなかったのか、ジェルミンの目が剣呑になって、ルガードは今にも食ってかかってきそうだ。

 調子が軽いながらも、ちゃんと話が出来る落ち着きを持っている人物かと思いきや、やっぱりそこは冒険者と言うべきか。気が強くて、攻撃的な性格なようだ。


「盾を使うのは、何も直接敵を倒すためだけじゃない。パーティー内――」


「ははっ! 馬脚を現しやがったな! やっぱり魔物を倒せないんじゃねぇか! この詐欺師野郎が! おいジェルミン、こいつら今すぐ叩きのめしてやろうぜ!」


 まだ俺が話をしてる途中なのに、最後まで聞かずに遮って勝ち誇るのは止めて欲しいんだけどな。

 とことん直情的で脳筋だな、この男は。


 それが視線と顔に出てしまったのか、ジェルミンが座ったまま、裏拳をルガードの鳩尾に叩き込む。


「まだ彼の話を聞いてる途中だ。お前は少し黙ってろ」


 鳩尾を押さえて呻くルガードは無視して、ジェルミンに視線を戻す。


「どうも」

「いや、悪かったね。続けてくれ」


「じゃあお言葉に甘えて。えっと……そうそう、盾を使うのはパーティー内での役割分担のため、つまり立ち回りを円滑にして、戦術に幅を持たせるためだ」

「役割分担? なんの役割分担だ?」

盾役(タンク)DD(ダメージディーラー)って役割分担だ」


「盾役……DD……聞いたことがないな。それは君独自の理論や学説か何かかな?」

「いいや。俺発案(オリジナル)の理論や学説じゃない。俺達(ゲーマー)なら大抵の奴が知ってる、ただの用語だよ」


 これまでしてきた通り、パーティー編成と役割分担、それによる立ち回りについての説明を聞かせる。


 この世界でも数百年前、まだ普通に盾や不遇武器を使っている人達がいた頃には、パーティーの立ち回りとしてそれらの概念と役割分担はあった。

 そして今現在、両手斧で盾役を持ち回りでやっているようなものだけど、格下ならともかく同格以上の敵には効果的に立ち回れていない場合が多い。

 それはホロタブの過去映像で確認済みだ。


 だから格上の帝王熊(エンペラーベア)相手に立ち回れていたグラハムさん達『アックスストーム』が例外だったんだって、初めて知ったときには驚いたよ。

 つくづく、俺はすごい人達と初っ端に出会えたんだなって思う。


「両手斧だって『アンプレゼント』で挑発して敵を引き付けて、他のメンバーが攻撃するだろう。つまり、それを盾が専門でやるってことだ」

「なら両手斧で十分だろう。それをわざわざ盾なんかでやる意味が分からない」


「両手斧だと不十分だからだ。両手斧で十分なら、何故雷刀山猫ライトニングサーベルワイルドキャットを避ける必要がある? 安定的に立ち回れるなら、敵はえり好みしないでいいはずだ」

「ふむ……盾ならそれが出来ると?」


「ああ、その通りだ。第一、誰も彼もが両手斧を使えるわけじゃないだろう? 力があるに越したことはないけど、たとえ両手斧を扱えなくたって盾ならより安定的に盾役が出来る。だから、パーティーメンバーの武器は両手斧に限る必要はなくなるんだ」


「はあ!? だから両手斧や槍以外の武器じゃ弱っちくて、魔物を倒せねぇだろうが」

 性懲りもなくルガードがまた口を挟んできたけど、今度はジェルミンの制裁が遮ることはなかった。多分、同じ疑問を抱いたからだろうな。


「倒せるよ。確かに両手斧程迅速にとはいかないだろうけど」

「はっ、倒せるったって、角穴兎だけなんだろうが。でかい口を叩いてんじゃねぇぞ」


「だけじゃないさ。昨日は毒鉄砲蜥蜴ベノムショットリザードを倒してきたばかりだ。体長六メートル程の、中型の奴だったけど。それに――」

「はっ! 嘘を吐くならもっとマシな嘘を吐きやがれ。そんなゴミ装備で、毒鉄砲蜥蜴を倒せるわけがねぇだろうが」


「――ふぅ……ティオルとララルマが前衛で、俺とユーリシスが衛生兵でフォローして、ちゃんと倒してきたぞ」

「そうです。盾があれば毒液も噛みつきも怖くないんです」

「ですよぉ。余裕で倒せましたよぉ」


 嘘吐き呼ばわりされて、さすがにティオルとララルマも反論する。

 だけどルガードはそれで信じるどころか、逆に二人に見下した視線を向けた。


「はっ、つまり盾ってのは、臆病者がビクビクと身を隠すための防具ってこったろうが。それで毒鉄砲蜥蜴を倒しただって? 笑わせんじゃねぇぞ」

「どうやら、根本的に大きな誤解があるみたいだから言っておく」

「何が誤解だってんだ」


「盾を鎧か籠手の延長くらいに考えてないか? 盾は防具じゃない、武器だ。敵の攻撃を無効化し、味方を守り、敵を倒すための、立派な武器なんだ。しかも、臆病者じゃ盾は使えない。自分の身を危険にさらしてでも、敵を倒し、味方を守る、って強い意志と勇気がある者じゃないと到底使いこなせない、そんなすごい武器なんだ」


「だっははははは! 盾なんてゴミ装備を持ってコソコソ隠れる奴が、強い意志と勇気だって? 笑わせてくれるぜ!」

 大爆笑するルガード。


 こいつは駄目だな、話すだけ時間の無駄だ。

 固定概念に凝り固まってて、俺の話の意味を欠片も理解しようとしていない。


 じゃあ、制裁もなしに途中からルガードに喋らせっぱなしにしているジェルミンはどうかと見れば、少しは俺の言った意味を考えているみたいだけど、理解や納得とは程遠いみたいだ。


「言いかけて遮られたから最後まで言っておくけど、俺達が倒したのは毒鉄砲蜥蜴だけじゃない。雷刀山猫ライトニングサーベルワイルドキャットも倒してる。と言っても、ティオルが雄と一対一でって限定的な状況でだったけど」


 一瞬静まり返るギルド内。

 途端に、爆笑の渦が巻き起こった。


 目の前で話をしていたルガードはもとより、どうやら俺達の様子を窺っていたらしい他の冒険者達まで、爆笑、苦笑、失笑、している。

 ジェルミンも呆れたように失笑していて、受付のお姉さん達も、それはないって顔で苦笑していた。

 ティオルは悔しそうにうっすら目を潤ませて笑ってる連中を睨んでいる。


「まあ、信じる信じないはそっちの自由だけど」

 と、カウンターの中で、やっぱり困ったように苦笑を浮かべて肩を竦めているクルファに目を向けた。


「毒鉄砲蜥蜴討伐に関しては、クルファに聞くといい。昨日、報酬を貰ったばかりだからな」

 ルガードは俺の言葉を聞いてないのか馬鹿笑いを続けているけど、少なくともジェルミンは視線を鋭くして笑いを引っ込めた。


「なんなら、ちょっと遠いけどリセナ村まで行って確かめてくるといい。王都から南の街道沿いに三日歩いたところにある村で、ティオルはそこの出身なんだ。そのリセナ村が雷刀山猫に襲われた時、命懸けで戦って雄を倒し、村を救ったのがティオルだ」


「おいおい、いい加減にしとけよ。誰が詐欺師のハッタリを信じて、わざわざ一ヶ月もかけてそんな村まで往復するもんかよ」

 笑いを引っ込めて、ドスを利かせてくるルガード。


「こっちは村の位置と名前、しかもティオルがそこの出身だってことまで明かしたんだ。調べれば真偽がすぐに分かるハッタリなんて言ってなんの意味がある? 俺達を詐欺師と決めつけて叩きのめしたいのなら、まずは自分で真実を調べてからにして貰いたいもんだな」

「はん、その手に乗るかよ。調べに行こうもんなら、その間にケツまくって逃げるつもりなんだろうが。お見通しなんだよ」


 本当に話にならないなこいつは。

 ルガードのせいで話の落としどころが全く見えないんだけど、どうしたもんか。


 と、ジェルミンが手を挙げて、ルガードを黙らせる。


「驚いたことに、嘘やハッタリを言ってるようには見えないな。かといって、あまりにも荒唐無稽だ。荒唐無稽過ぎて、クルファに確認するだけならまだしも、わざわざそんな村まで行って君の話を確認してやる気にはなれない。そんな労力を払う義理もメリットもないからね」


 そうなんだよな。

 だから余計に話の落としどころが見えないんだ。


 どうするか頭を悩ませて……悔しそうにしているティオルが目に入って、ふと解決策が閃く。


「だったら、雷刀山猫の討伐依頼を合同で受けてみるっていうのはどうかな? それで俺達が雷刀山猫を一匹でも倒せば、俺達の話が本当で、盾を使っても強い魔物が倒せるって証明になるだろう?」

「確かにそうだが……」


 現状、一番丸く収まる解決策だと思うし、ジェルミンもそう思ったんだろうから、即答で断ったりしない。

 けど、ベテラン冒険者でも戦うのを避ける雷刀山猫討伐を、わざわざ俺達と合同で受けるメリットが見出せないんだろう。


 やっぱり、わざわざそこまでする必要はない。

 そんな結論をジェルミンが表情に浮かべた瞬間、それ(・・)が起きた。

 これも神の思し召しかって思うくらいのタイミングで。


「ジェルミン助けてくれ! やばいんだ!」

 こうして話をしている間、掲示板を見て暇を潰していたのか、ジェルミン達のパーティーメンバーらしい男が依頼書を握り締めて駆け寄ってきた。


「俺の村がやばいんだ! 雷刀山猫に狙われてるって依頼書が出てる! しかも十匹以上の大きな群れだ!」

「おい無茶言うな、オレ達だけで十匹以上もの群れを相手に出来るわけねぇだろう!」

「協力してくれるパーティーを探してくれ! なあ頼むよジェルミン! このままじゃ俺の村が危ないんだ!」


 本当に、これが単なる偶然だとしたら、すごいタイミングだと思う。

 俺はティオルを――


「やります! あたしお手伝いします!」


 ――見て確認するより早く、ティオルがガタッと席を立っていた。

 馬鹿にされて悔しそうな顔をしていたのが嘘みたいに、真剣で、心から助けたいって気持ちが溢れている。


 やっぱり、他人事じゃないんだろうな。

 ティオルにとって、雷刀山猫は特別な敵なんだ。


「というわけで、ティオルもやる気になってるし、俺達でよければ協力しますよ? さっきの話の続きじゃないけど、疑いを晴らすには丁度いい」

「ミネハルさん……!」

 自分が先走ったことに気付いたティオルが、ちょっと驚き恥じ入った後、嬉しそうに笑う。


 出身の村を襲われて助けてくれって言った男は、驚き嬉しそうに俺達を見て、その装備が目に入った途端、落胆した顔に変わった。

 何を思ったのかは一目瞭然なんで、スルー。


 敢えて芝居がかったように微笑みながら、ジェルミンへと顔を向ける。


「俺達は疑いを晴らして剣と盾とメイスでも強い魔物を倒せるって証明出来る。そっちはお仲間の村を救える。ウィンウィンのいい提案だと思うんだけど、どうします、リーダーさん?」



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