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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第二章 アップデート『新たな試練と恩寵』
71/120

71 アップデートの成果

「いやぁ、ほんとに倒してくるなんて驚きっすよ。リベンジ成功おめでとうっす」

「ありがとうございます」

「うふふ、今度は楽勝でしたよぉ」

 倉庫から貰ってきた討伐確認の札をクルファに手渡して、討伐報酬を受け取る。


「それにしても、どうしてまたこんな真夏も近い時期に毒鉄砲蜥蜴ベノムショットリザードを狩ろうと思ったんすか? シーズンは冬っすよ」

「え、そうなのか?」

 シーズンなんてあったのか、知らなかった。


「冬だと動きが鈍るっすからね。引きこもって冬眠するわけでもないっすから、狩りやすいんすよ」

「ああ、なるほど。蜥蜴だもんな」

 強さとか俺達でも倒せそうかとかばかり見て、そういうところは考えてなかったな。


「もっとも、夏場を選んで狩るパーティーもいるにはいるんすけどね。冬がシーズンっすから、素材の買い取り価格が下がるんで、品薄で高めの買い取りして貰える今頃を狙うんすよ」

「そういう一面もあるんだな。でもまあ……」

角穴兎(アルミラージ)でたっぷり稼いでるあんた達には、あんまり意味なかったっすね」


 全く以てその通り。

 角穴兎を創造する前、収入がなかった最初の挑戦で倒せていたら、もっと喜べた情報だったけど。


「いいんです。お金は稼がないと生きていけないですけど、お金を稼ぐのが目的じゃないですから」

「ティオルちゃんの言う通りですぅ。今回はリベンジが目的だったからぁ、これでいいんですよぉ」


 ちなみに、毒鉄砲蜥蜴で買い取って貰える素材は、まず顎下の毒袋。これは(やじり)()る毒薬を調合する素材になるそうだ。

 メインは、首と尻尾の肉。これはそこそこ美味いらしい。クルファからの追加情報によると、冬場は冬眠するわけじゃないからむしろ痩せて肉質が落ち、夏場はよく食べて動き回るから肉が引き締まり旨味が増すのも、高めの買い取り価格になる理由だそうだ。


「そういえば、最近なんだか賑やかですね?」

 ティオルがぐるっと冒険者ギルドの中を見回す。

 このギルドを利用するようになって数週間。確かに以前より冒険者が多く賑わっている気がする。


「そうなんすよ。実は最近、他の町から冒険者が流れてきたり、登録する新人が増えたりして忙しいんすよ」

「それってもしかして……?」

 つい身を乗り出してしまった俺に、なんでそんなに俺が食いつくのか分からないって困惑しながらも、クルファが教えてくれる。


「角穴兎効果っすね。今はまだ討伐報酬も素材の買い取り価格もかなり高めっすし、噂を聞いて、近場に角穴兎がいない町で食いっぱぐれてる冒険者や、近くの町や村の職にあぶれてた連中が、一獲千金狙いで冒険者になるためドルタードに集まって来てるんすよ。あんた達が剣と盾とメイスなんてゴミ……ゴホン、珍しい装備で倒してるって噂も一部で広まってるらしくて、両手斧じゃなくても倒せるならって、まあそんな感じっすね」


 よしっ! いいぞ、いい感じだ!


「なんでそこでガッツポーズっすか? ライバル増えてるのに?」

「ああ、いや、なんでもない」


「そういえば、これは行商で他の町から護衛で来た冒険者に聞いた話なんすけど、ここらだけじゃなくて、ここから離れた遠い町でも角穴兎が発見されてるみたいっすよ。その町でも、角穴兎効果で冒険者が増えてるみたいっすね」


 『だからそこでなんでガッツポーズ?』って顔で首を傾げられたけど、そりゃあガッツポーズも出るだろう。


 ユーリシスは相変わらず、椅子に座ってカウンターまで来ずに休んでいる。

 そのユーリシスへ目を向けると……。

 イラッとした顔を返された。


「ミネハルさん、なんだか嬉しそうですね?」

「ドヤ顔するような話の流れでしたぁ?」


 おっと、ついドヤ顔しちゃってたか。

 でも、無理もないだろう?

 アップデート『新たな試練と恩寵』での改変が、予想以上に早く人類側の戦力増強で効果を見せ始めたんだから。


「ま、それはともかくっす」

 クルファが身を乗り出して、声を潜める。


「これはまだ内々の話で決定じゃないんすけど、今度あんた達にギルド側から依頼を出すかも知れないっす」

「ギルドから俺達に?」

 釣られて、俺も声を潜める。


「そうっす、あんた達に指名依頼っす。あんた達を真似して、片手剣やメイス、さらに盾まで使おうって新人が、チラホラいるんすよね。ただ、どう使って戦えばいいのかさっぱり分かってないみたいで、怪我人も少なくないんすよ。指導しようにも、うちのギルドはおろか、あんた達以外に使い手がいないっすし。そこであんた達に押しつけ……じゃない、責任を取らせ……でもない、ともかく、片手剣とメイスと盾を使ってる新人だけでいいから、講習会を開いて教えて貰えないかって話がギルド内で出てるんすよね」


 ちょっと気になる発言はあったけど……それってさらに使い手を増やすチャンスじゃないか!


「もちろん、それ以外の武器を使ってる新人も多くいるっすから、そういう新人のための講習会は、別の冒険者パーティーに依頼を出すことになると思うっすけどね」

 そうだとしても、このチャンスを逃す手はない。


「どうだろう、ティオル、ララルマ」

「もちろんやります!」


 食い気味に身を乗り出してくるティオル。

 ティオルとしても、父親から教えて貰った剣術のすごさを、より多くの人に知って貰えるチャンスだもんな。


「ミネハルさんがすごく受けたそうですしぃ、アタシもいいですよぉ。と言ってもぉ、アタシも使い始めたばっかりでぇ、まだまだなんですけどねぇ」

「それでも十分っすよ。ほとんどが腕っ節に自信がないド素人っすから。ちょっとしたコツを教えてくれるだけでもありがたいっす。って、まだ正式な決定じゃないんすけどね。一応、そういう話があるってことだけは覚えておいて欲しいっす」

「ああ、分かった。決まったら遠慮なく声をかけてくれ。というか、是非正式に決定して依頼してくれ」

「そう言って貰えて助かるっす」


 これは、不遇武器を広く定着させるためにも、新スキルの追加を急いだ方が良さそうだな。


 角穴兎の討伐報酬も買い取り価格もいずれ落ち着くだろうし、それで稼げなくなったら引退、なんて一過性の流行じゃ意味がない。

 何より、強い魔物とでも戦える武器だって分かって貰わないと、これまで通りゴミ装備だって投げ出されて両手斧に鞍替えされるか、冒険者になるのを諦められてしまう。


 そうなると、今後のことも考えて、講師役を任せられるように『ゲイルノート』のメンバーも腕をもっと上げて欲しいところだな。



 リベンジ達成おめでとうで、ぱーっと美味しい物を食べて騒いだ翌日。

 俺達は冒険者ギルドのテーブルに着いて、今後の方針について話し合っていた。


「アタシとしてはぁ、もう何回か毒鉄砲蜥蜴ベノムショットリザードと戦ってぇ、自分の腕を上げておきたいですぅ」

「あたしも、毒鉄砲蜥蜴でも別の魔物でもいいからもっと戦っておきたいです。ラングリンとパプルだけならまだいいですけど、たくさんの人にいっぺんに教えるのは、今のままだとちょっと不安です」


「ララルマとティオルは、指導の仕事が入る前に、依頼をこなしてもっと腕を上げておきたいわけか」


 まだ決定じゃないとはいえ確かに急な話だし、俺としても予想を上回る早さでその事態になったからな。正直なところ、もうちょっと態勢を整えてからにしたかった。

 とはいえ、このチャンスを逃す手はあり得ない。


「ユーリシスはどう思う?」

「お前としては、先にあのおまけ達(ゲイルノート)を集中的に鍛えて、腕を上げさせておきたいのでしょう?」

「ああ、指導役が増えれば、ティオルとララルマの負担も減るかなって思って」


「ああぁ、それだとぉ、アタシの責任も軽くなりますねぇ」

 ララルマはおっとりとした態度や口調はあまり変わらないけど、結構プレッシャーを感じているみたいだな。


「この駄肉猫は何を甘えたことを言っているのです。未熟な指導者が何人集まろうと、弟子は育ちませんし目的も達成出来ません。軽くなるのは指導の負担であって、お前の責任が軽くなることなどありませんよ、愚かしい」

「あぅ、ユーリシス様厳しいぃ……」


「だとすると、どうするかな……ティオルとララルマの腕を上げるのを先にするか、『ゲイルノート』の腕を上げるのを先にするか」

「悩む必要などないでしょう」

 やや呆れが入った顔で、きっぱり言い切るユーリシス。


「じゃあ、ユーリシスならどうする?」

「あのおまけ達と合同で依頼を受ければいいでしょう。今度はもっと強い魔物を相手に。実戦に勝る稽古はない、そのようなことをお前は言っていたと思いますが」

「ああ、なるほど、その手があったか!」

 確かに、荷馬車で移動中にそんな話をした気がする。


「ナイスアイデアだユーリシス、助かった」

「このような単純な解決策を見落としているお前が愚かなだけです」

 やっぱり一言多いんだよな。

 これさえなければなぁ。


「というわけで、二人はどうだろう?」

「はい、いいと思います」

「はいぃ、アタシもいいですよぉ」


 よし、決まりだな。


「じゃあティオル、今の俺達と『ゲイルノート』の実力で、まずは確実に倒せそうな強い魔物は何がいいと――」


「おい、オマエらか、うちの可愛い弟子どもを騙して余計な事を吹き込んだ詐欺師ってのは」

 不意に、険のある男の声が俺達の会話を遮った。


 振り向くと、一人の男がテーブルの脇に立って、俺達を蔑むように睨んでいた。



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