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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第二章 アップデート『新たな試練と恩寵』
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68 『駄肉』から『巨乳』へ 2



 スポブラと胸当て、その他装備で完全武装したララルマが、冒険者ギルドの裏の広場で、丸太を前にメイスと盾を構えた。


「はぁっ! えいぃ! たぁっ!」

 装備が新調されても、そのどこかおっとりとした掛け声は変わらないらしい。


 だけど、動きはまったく違った。

 踏み込んだときの重心の安定感、振るわれるメイスの速度、打撃音、全てがこれまでとは段違いに良くなっていた。


「すごいぃ、すごいですぅ! こんなに戦いやすいの初めてですぅ!」

 歓声を上げながら、攻撃の手が止まらない。

 巨乳に振り回されなくなったのが、よほど感激ものらしい。


「そいういえば、ステータスをまだ確認してなかったな」

 ホロタブを起動して、ララルマのステータスを表示する。


「なっ……!?」

 驚愕の声を上げそうになって、慌てて口を塞ぐ。


「……驚いたな」

 ララルマのレベルが七になっていた。


 今朝までのララルマのレベルは五だった。

 このドルタードの町に到着したばかりの頃はレベル四で、毒鉄砲蜥蜴ベノムショットリザード戦での敗北と、連日の角穴兎(アルミラージ)狩り、そして『ゲイルノート』との毎朝の稽古を経て、レベルは五まで成長していた。

 それが、スポブラと胸当てを装備した途端、レベル七にアップするなんて。


 恐らくその原因だろうと思われるのは、敏捷度だ。

 スポブラと胸当て装備前は、猫型獣人のイメージとは程遠い、人並みを圧倒的に下回る低さだった。

 それが、今や人並みをわずかに上回っている。


 これまでの日々で敏捷度だけ急成長した、なんてことがあるはずない。

 巨乳に振り回されなくなったおかげで、本来あるべきステータスになったと見るべきだろう。


 しかも、メイスを一撃打ち込むごとに、巨乳に振り回されない身体の動きを徐々に学んで最適化しているのか、経験値ゲージがジリジリと増えていっている。

 それに合わせて、敏捷度や器用度も、ジワジワと微増していた。


 よくよく考えれば、ララルマは巨乳に振り回されこそすれ、小振りながらも両手斧を扱えるだけ自身を鍛えていたんだ。

 これは成長であると同時に、巨乳でさえなければ本来獲得していただろう強さへ到達しようとしている、そう言える。


 だとすると、ステータスの計算を見直した方が良さそうだな。

 思い起せば、両手斧からメイスに持ち替えたときだって、ララルマのレベルは下がっていたんだ。


 取り急ぎで組んで貰った計算式で、しかも全ての要素を一緒くたに表示していたから、装備なしの状態でのステータスとレベルを基準として、それに加えて装備の影響によるステータスとレベルの計算を別途行い、装備によってどれだけ変動したかも、それぞれ別途表示出来るように改良しないと。

 後でユーリシスに頼んでおこう。


「あのぉ、両手斧も試していいですかぁ?」

 細かな計算部分を検討していたら、いつの間に目の前に立っていたのか、ララルマが興奮気味に主張してくる。


「ああ、もちろんいいぞ」

「はいぃ♪」

 メイスと盾を置くと、嬉しそうにいそいそと愛用の小振りな両手斧に持ち替えて、改めて構え直す。


 ララルマのレベルは九になっていた。

 初めて会ったときの面接で、両手斧を使ってみせてくれた時はレベル五だったから、これはすごい上がり幅だ。

 やっぱりメイスより使い慣れていたから、だろうな。


「えいぃ、やあぁ、たあぁ!」

 ララルマが、両手斧を丸太に叩き付けていく。


 最初はゆっくり、感触を確かめるように。

 持ち手は右手が刃のすぐ下の、遠心力に振り回されないようにしていた位置だ。


 そうして一撃ごとに打ち込むごとに速度が上がっていき、さらにその右手が徐々に本来あるべき持ち手の位置へ、刃のすぐ下から離れていく。

 それに合わせて、両手斧の重量と遠心力が生かされて、打撃音が重く響くようになっていき、攻撃力の数値も合わせて徐々に上昇していく。


 経験値ゲージもメイスの時よりも大きな伸び幅で、ジリジリと増えていって……。

 ファンファーレもシステムメッセージもないけど、遂にレベル十へと到達する。


「う~ん、想像以上にすごい装備に仕上がったな、スポブラ」

 まさかここまで効果があるとは思いも寄らなかったよ。


「よぉしぃ、こっちもぉ」

 ララルマが丸太から距離を取って、右手をもっと下の本来持つべき柄の方へとずらして構える。

 大きな垂れ目を細めて、またしてもちょっとばかりエロい動きでペロリと唇を舐めて湿らすと、大きく息を吸って気合いを入れた。


「はああぁぁぁっ!」

 両手斧を振り上げて、高くジャンプする。

 その高さは、面接時に見せたときよりも、さらに高かった。

 しかも、巨乳が跳ね上がることもなく、空中で体勢が崩れたりしない。


 そしてそのまま、まさに狙い通りだろう、見事に丸太の芯を捉えて両手斧が叩き付けられた。

 着地して深く身体を沈み込ませたララルマは、もう目にいっぱいの涙を浮かべながら、両手で胸を抱えて地面にうずくまることはなかった。


「見ましたぁ!? 見ましたぁ!? どうでしたかぁ!?」

「ああ、すごかったよ。見違えた。一撃一撃に力が籠もってて、身体もぐらつかないし、見てて安定感と安心感があった」

「うふふっ、そうですかぁ、安定感と安心感がありましたかぁ、そうですかぁ♪」

 テンション鰻登りだな。


「アタシもぉ、おもりをぶら下げてる感じは変わらないんですけどぉ、振り回されるのがなくなった分~、身体が軽いっていうかぁ、思い通りに動いて自分の身体じゃないみたいっていうかぁ、生まれ変わったような気分ですぅ」

「あぁ、それなんとなく分かる」

 俺もこの身体に転生して、心臓麻痺を起こすような不具合が改善されたおかげか、なんとなく毎日が健康的で調子いいんだ。


「分かってくれますかぁ♪」

 まるで花が咲き乱れるような笑顔だ。


 ところがそれとは対照的に、そんなララルマをティオルがちょっと寂しそうに微笑みながら見ていた。


「ララルマさん、良かったですね。すごく力強くて、強そうでした」

「ティオルちゃん~、ありがとぉ♪」

 ガバッと抱き付いて頬擦りするララルマに、ティオルは益々寂しそうに微笑む。


「……ティオルちゃん~?」

 浮かれていたララルマも、さすがにそれに気付いたらしい。


「どうしたんだティオル? 何か気になることでもあるのか?」

「ララルマさん……両手斧でそれだけ動けたら、もう無理にメイスと盾を使う必要ないですよね?」

 ああ、そうか、ララルマがメイスと、何より盾を置いて、両手斧に戻ってしまうのが寂しいのか。


「そんなことないよぉ」

 だけどララルマは、そんな不安を吹き飛ばすように笑う。

「確かに最初はぁ、メイスも盾も気が進まなかったんだよねぇ。でもぉ、パーティーに入れて貰う約束だからぁ、ってぇ」


 申し訳なさそうな笑みを浮かべて俺を見ると、打って変わって楽しげに、脇に置いたメイスと盾を見る。


「だけどぉ、今は楽しいよぉ。特に盾ってぇ、実はこんなにすごかったんだってぇ、ビックリする毎日だしぃ。ティオルちゃんと練習するのも楽しいしぃ。メイスもぉ、使い勝手が違うからぁ、どう使ったらいいのかなってぇ、工夫していくのが楽しくなってきたんだよねぇ。最近はぁ、もっと他にもぉ、色んな武器を試してみたいなぁって思うくらいだよぉ」


 だからぁ、と、俺とティオルを交互に見て、両手を胸の前で合わせて、上目遣いでお願いのポーズをしてくる。


「メイスと盾はこのまま使うのはもちろんだけどぉ、出来たらぁ、たまには両手斧も使いたいなぁってぇ……駄目ぇ?」

「いや、もちろん構わないよ。敵やパーティーの構成に合わせて、メイスと盾で盾役(タンク)を、両手斧でDD(ダメージディーラー)を、役割変更してくれたら戦術の幅が広がるからな」


 MMORPGなら、複数のジョブを育てた上で、挑戦するエンドコンテンツやミッション、参加者のジョブ編成に合わせて自分の参加ジョブを選ぶのは、ごく当たり前のことだし。

 ただ現実でそれをしようと思うと、相当に稽古しないとどっちつかずになって、どっちも使い物にならなくなってしまう可能性がある。


「だから、これまで以上に稽古が大変になると思うけど、それでよければ両方とも頑張って欲しい。それこそ、言ってたみたいに他の武器の稽古だって始めても構わないよ」

「うふふっ、ありがとぉ、そう言ってくれるって思ってたよぉ♪ 他の武器はぁ、もっとメイスと盾と両手斧をぉ、使いこなせるようになってから考えるねぇ」

「ああ、もちろんそれでいい。その気になったらいつでも相談してくれ」

「はいぃ、そうするねぇ」


 上機嫌のララルマの側で、ティオルが自分の剣と盾を見つめる。

 そして、迷いを振り払うように首を横に振ると、剣と盾を強く握り締めた。


「ティオルはそれでいいと思う。というか、その道を真っ直ぐに進むべきだと思う」

 ちょっと驚いた表情で顔を上げたティオルは、すっきりした顔で力強く頷いた。


 さて、新装備のおかげで、ララルマの十分なパワーアップが確認出来た。

 これなら次のステップに進むのに十分だ。


「ララルマ、せっかく強くなれたんだ、もう一段、上に上がろう」

「もう一段上にですかぁ?」

「ああ、両手斧スキル、メイススキル、盾スキル。ここで一気に覚えてみないか?」

「っ!?」


 高い方から、両手斧でレベル十、メイスと盾がそれぞれレベル七。

 どれも、ユーリシスが設定した既存のスキルを修得可能なレベルだ。

 だけど、ララルマは未だにどのスキルも未修得状態だ。

 ここでさらなるパワーアップのために、これらのスキルも全部覚えるべきだ。


「は、はいぃ! 覚えたいですぅ!」

「俺は理屈は分かるけど実際には使えないから、口頭での説明だけになるけど……両手斧スキルの『ヘビークラッシュ』と『ギロチンアックス』、それからメイススキルの『ヘビーインパクト』を教えるよ。盾スキルはまずは『シールドガード』をティオルが教えてあげてくれ」


 『ヘビークラッシュ』と『ヘビーインパクト』と『シールドガード』はどれもレベル五から修得可能で、『ギロチンアックス』はレベル十からだ。

 メイススキルの『ヘビーインパクト』は、両手斧スキルの『ヘビークラッシュ』のメイス版で、どちらも武器の重量を増すことでダメージアップするスキルだから、どっちか片方を覚えたら、もう片方もすぐ覚えられるはずだ。


「数も多いし、今のララルマの実力的に、多分そのくらいから始めるのがいいと思う」

「はいぃ! 頑張って覚えますぅ!」

「ああ、頑張ってくれ。ティオルもよろしく頼む」

「はい! ララルマさん、一緒に頑張りましょう!」

「うん~、ティオルちゃんよろしくねぇ♪」


 こうして、二週間近くの特訓の末、ララルマはなんとかスキルを修得してくれて、うちのパーティーは大幅に戦力が増強されたのだった。



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