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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第二章 アップデート『新たな試練と恩寵』
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66 命名、アップデート『新たな試練と恩寵』 2

「ちなみに、ダメージアップスキルばかりで揃えたのは、何かコンセプトや意図があってのことなのか?」

「当然です。最も分かりやすい成長は、与えるダメージが増えることです。より補正値の大きなダメージアップスキルをお前の言う一定レベルごとに修得していけば、強くなったことを実感しやすく成長の励みになります」


「だからダメージアップスキル以外をほとんど排除したと?」

「その通りです。加えて、ダメージの大小を評価基準とし、武器ごとにスキルの差異を付けなければ、必然的に唯一無二で最強の武器として両手斧を選ぶことに繋がります。さらに言えば、武器を持ち替えても戦闘スタイルを変える必要がなく、すぐに同様の対処が可能です」


「なるほど、そういうコンセプトに基づいていたわけか……」

 考えなしにダメージアップばかり並べていたわけじゃなかったのは、いい情報である反面、悪い情報でもあるな。

 文字通り、『唯一無二で最強』の一人か一匹が残るまで争い続ける運命の世界だったなら、シンプルで分かりやすく、すごくいいコンセプトなんだけど。


「そもそも、真空で切ったり炎で燃やしたりなど、魔法でやればいいのであって、わざわざ武器を使ってする必要はありません。それの何が問題なのです」

「問題というか……むしろ考えなしの方がありがたかったよ。ユーリシスのコンセプト通り、ほぼ全ての武器が両手斧の下位互換になって、両手斧以外を淘汰するのに役立ってるからな」


 実は、その被害を一番受けているのが両手剣だ。

 同じ両手武器で、使えるダメージスキルの内容が同じで、挑発系などの特殊なスキルもなく、補正値が両手斧より低い。

 まごう事なき、両手斧の完全下位互換。

 盾を除いて最も不遇な武器かも知れない。


 一応、槍と弓という両手斧にはないリーチという特徴が担保されている武器もあるにはある。

 ただこの槍と弓、槍だと柄の長さ、弓だと飛距離しか違いが出ないからなのか、両手槍と片手槍、長弓と短弓によるスキルの違いはないという、ちょっと例外的な扱いになっているのが少しばかりややこしい。


「だから、ユーリシスのそのコンセプトを大きく崩さない程度に、既存スキルで武器を持ち替えてもすぐ同様の立ち回りが出来る利便性を担保した上で、武器の種類ごとに特徴的な新スキルを作って差異を出したいんだ。でないと、多様性が確保できない」

「多様性など必要ありません。最強の武器による最強の戦術があればいいのです」

「そう言ってたもんなぁ……」

 同じ事の繰り返しになるから、そこを突っ込んで問答はしないけど。


「正直なところ、可能なら武器の補正値を撤廃するか、全ての武器の補正値を両手斧と同じ値に揃えたいんだけど」

「それは却下です。特に撤廃など許しません」

 そこは、どうしても『自分に似せて作った人はすごいんだぞ』って特別感を出しておきたいわけか。


「ならせめて、不遇武器の補正値を今より高くして、補正値による格差を小さくさせてくれないか?」

「それも却下です。両手斧が唯一無二で最強の武器であるというコンセプトが揺らぎます」

 そも、そのコンセプトのせいで、人類側が魔物に追い詰められているんだって、本当に理解してくれているんだろうな?


「だったらやっぱり、新スキルを創造する方向で不遇武器の底上げを行うしかないな」

「……」

 それも本心では面白くないわけだよな?


 でも、そこまで却下したら何も手を打てなくなってしまうし、ティオルが新スキルを駆使して単身で雷刀山猫を狩れた実績がある以上、もう駄目とも言えない、と。

 この部分は『新たな試練と恩寵』の効果が目に見えて出て、俺の目指した状況に変わっていくことで納得して貰うしかないところだな。


「ともかくだ、『両手斧が使えないから仕方なく選んだ』じゃなく、『両手斧にない特徴があるから積極的に選んだ』にしないと、そもそも面白くないし、使っていて楽しくないし、憧れない。そういう方向性でも新スキルは考えていかないとな」

「お前は何を言っているのです」

 話のまとめに入ったつもりだったのに……待ったをかけてくるのか。


「百歩譲って新スキルの追加は許可しましょう。しかし、ゲームやパフォーマンスではないのです、命懸けの生存競争に、面白い、楽しい、ましてや憧れなど不要です。地味でも堅実で、命のやり取りを実感する重みがあることが最適なのです」


「でも、命懸けの生存競争だからこそ、殺伐とするだけじゃ辛くないか? 使いこなす面白さ、他が出来ないことを出来る楽しさ、『両手斧とは違うんだよ、両手斧とは』って言いたくなる爽快感と優越感、自分も使ってみたいって思わせる憧れ、そんな付加価値がないと、使う意味がないし使いたいとも思わないし、後に続く使い手も増えないだろう」

「命懸けの生存競争はエンターテインメントではありません」


「エンターテインメントを主眼に置くわけじゃないけど、例えば子供が正義の味方の背中を見て憧れるような、そういう付加価値が追加されることは無駄にはならないし、悪いことじゃないはずだ」

「お前のその感性は全く理解出来ません。ごっこ遊びではないのですよ」


 どうやらここは、俺達の主張が真っ向からぶつかり合うところらしい。

 ユーリシスのきつく鋭い視線と、俺の視線が交錯する。


 なんていうかユーリシスのこういうところ、お堅い生真面目な委員長タイプというか、自分が求める実利ばかりを見て、遊び心が足りてないよな。

 他を淘汰する唯一無二で最強と、文明の発展と種の生存のための多様性、このコンセプトが真逆でぶつかり合ってさえいなければ、納得出来る点が多いのに。


 ふと、俺達に向けられている視線に気付く。

 リュシアンとの話し合いは終わったのか、ローレッドがこちらの様子を窺っていた。


 仕事モードから戻って、声をかける。

「どうかしたか?」

「大事なお話をされてたみたいなのに、お邪魔しちゃって済みません」

「ああ、大体終わったから構わないよ」

 俺が声をかけたことで、ちょっとほっとしたように近づいてくる。


「実はその、僕もみんなに後れを取らないように強くなりたくて。でも、僕が杖を振り回して素振りしても意味がないですよね」

 と、そこでチラリとユーリシスを見る。


「出来たら、上級魔術師(ソーサラー)のユーリシスさ、ま、に、魔法での戦い方をご教授して貰えないかと思って」

「……私に教わりたいと?」

 まだ慣れない、たどたどしさのある『様』付けはともかく、自分がそんなことを求められるとは欠片も思っていなかったらしいユーリシスが、困惑顔になる。


「はい、昨日のナオシマさんとの連携が見事だったんで、僕もみんなと合わせるために教わりたいなと思って」

 俺との連携が見事と言われた瞬間、すごく嫌そうな顔をすることはないと思うんだけど……せめて表情に出さない努力くらいして欲しいもんだ。


「この私に――」

「いいんじゃないか? 指導してやれば?」


 どうせ『この(創造神)に教えを請うなど、人間(被造物)ごときが身を弁えなさい。図々しい』とかなんとか言おうとしたんだろうけど、それを遮る。

 なんのつもりかと険しい視線が向けられるけど、当然スルー。

「確実に戦力増強に繋がるだろう?」


 しばしの黙考。

 その後に小さく溜息を吐いて、ローレッドへ顔を向ける。


「私は(ゆえ)あって、魔物を直接仕留めるための魔法は使いません。魔物の牽制や小娘達のフォローはしますが、直接的に魔物を倒すための指導を求めているのであれば、その期待に応えることは出来ません」

「そうなんですか?」

 ローレッドはその意味をしばし吟味するけど、敢えて踏み込んで理由を聞くような真似はしなかった。


「それなら魔物の牽制や前衛のフォローの仕方を教えて下さい」


 どうやら、断れたと思っていたらしい。

 頭を下げて頼まれたもんだから、少し驚いた顔をして、どうすべきか迷いを見せる。

 こんなユーリシスは初めてで、なんだかちょっと面白いな。


 面白がってたら睨まれた。


「いいじゃないか、戦力増強だ、戦力増強」


 ユーリシスは溜息を吐くと、頭を下げたローレッドに上から目線で言い放つ。

「この(創造神)に手ほどきを受けること、光栄に思いなさい。生半(なまなか)な覚悟で学ぶことは許しませんよ」

「はい、ありがとうございます! よろしくお願いします師匠!」

 師匠呼ばわりされて、なお一層困惑顔になったユーリシスは、仕方ないという態度を隠さないまま、指導するために場所を移していった。


「ユーリシスにとっても、多分いいことだと思うぞ」

 聞こえてるか聞こえてないか分からないけど、口の中で呟くように、その背中に声をかける。


 元の世界で俺が初めて神様に出会ったとき、神様は人間に身をやつしていて、すごく自然だった。

 多分創造神としてじゃなく、人間として人間に接することを楽しんでいたんだろう。

 それを真似しろとも馴れ合えとも言わないけど、ユーリシスにはせめてもうちょっと自然に人と接するようになって欲しい。


 現状、ティオルやララルマにすら、最低限度の関わり合いしかしてなくて、いかにも創造神として被造物たる人とは違うって雰囲気を醸し出しているからな。

 おかげでティオルもララルマも、ユーリシスとの距離感を未だに(はか)りかねているし。

 これを切っ掛けに、少しでも人と打ち解けられるようになってくれればと思うよ。


「さて、と」

 立ち上がって剣と盾を取る。

 休んで体力も回復したし、俺も少しティオルに打ち合いの稽古を付けて貰おうかな。



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