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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第二章 アップデート『新たな試練と恩寵』
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64 盾のすごい可能性

 五匹の角穴兎(アルミラージ)は突っ込んでいく俺達に気付くと、『キィィッ!』と威嚇の声を上げてすぐさま戦闘態勢に入った。

 そして、射程圏内に入ったと見るや後ろ足で力強く大地を蹴り、角を真っ直ぐに俺達へ向けて跳んでくる。


 ティオルは一匹の軌道上から身をかわして避けると、もう一匹は敢えて盾を斜めに構えて、角で表面をガリガリ削られながらも受け流す。

 ララルマはまだ受け流しが上手く出来なくて、一匹から身をかわし、一匹を盾で受け止める。


 俺は最初から回避は諦めて、ティオルを狙う最後の一匹の軌道上に割り込み真正面から受け止める。

 そして、重く、盾の表面がへこむほどの衝撃をよろけながら堪えて、すぐに体勢を整えると、跳ね返り着地したばかりのその一匹に向かって剣を振り下ろした。

 しかしそいつはすぐに大きく跳ねて走り、俺の剣は難なく避けられてしまった上、視界外へ逃げられて見失ってしまう。


 本来、敵を見失うのは致命的なミスだ。

 だけど俺は慌てず、しかし素早く状況を確認し把握する。


 俺の眼前、視界のほとんどを占める位置には、起動させたホロタブの画面があった。


 普通に正面の光景を映し出しながら、画面左上にMMORPGのパーティー表示のように、俺とティオルとララルマとユーリシスの名前を、名前の前にはナンバーを、それぞれの名前の下にはHPとMPとスタミナのゲージを表示させて、味方の状況を即座に把握出来るようにしている。

 加えて、画面右上には、謂わば同盟(アライアンス)を組んだ『ゲイルノート』のメンバーを、以下同文で把握。

 同時に、画面右下には俺を中心としたレーダーを表示させていた。

 アクションゲームでお決まりの、俺の身体の正面がレーダーの上方向を向いて、周囲の敵味方を光点で表示させる奴だ。


 ユーリシス達味方を青、敵の角穴兎を赤、『ゲイルノート』のメンバーを緑。

 そう色分けしたナンバー付きの三角形の光点で向きも含めて表示して、さらに俺の担当している角穴兎、つまり俺が標的(ターゲット)にした角穴兎の光点には白で縁取りして目立つようにしておいた。


 その上で、画面中央下には、その標的にした角穴兎のHPとMPとスタミナのゲージを表示させている。

 おおよそ、MMORPGの戦闘画面の構成だ。

 気分はVRMMORPGだな。


 おかげで、見失った角穴兎がどっちへ逃げたか即座に位置を把握出来て、右後方へ回り込んでいくそれを追ってすぐさま振り返った。


 ララルマも俺と同じくメイスの攻撃を外していた。

 でも俺とララルマのこの初撃は避けられて構わない。

 当たればラッキー程度で、避けられても角穴兎が散ってくれて、それぞれの担当分に集中しやすくなる。


 攻撃を外した俺とララルマは、さらに左右へと広がって、三人で半包囲するようにポジションを取った。

 数に勝る敵を相手に分散するのは本来愚策だけど、角穴兎相手の場合、弱い魔物だから平気って言うのもあるけど、下手に近くに固まっていると、跳んできたのを避けたら他の誰かに当たりかねないからだ。

 せっかくの盾を生かした回避、受け流し、受け止めの防御の選択肢を、わざわざ自分達から受け止め一択に制限されるように動く必要はない。


 ティオルは避けて受け流した後なんで、角穴兎は二匹とも後方へ抜けてしまっているから、身を(ひるがえ)して盾を構え直した。

 視界の端で、ティオルが離れて見学している五人をチラッと見る。


「いきます!」

 いつも以上に気合いの入った掛け声を出して、自分が受け流したせいで着地の体勢が崩れた一匹目がけて駆け寄り、剣を振り下ろした。

 これは脱兎のごとく走って逃げられてしまうが、まるでそれを見越していたように、先に避けた一匹の方へとすぐに向き直っていた。

 その一匹がティオルへ駆け寄り角を向けて跳ぶ。


「『リフレクトアームズ』! やぁっ、『ライトカット』!」

「「「おおっ!」」」

 その場の、淡々と眺めているユーリシスと、自分の担当分の相手で手一杯のララルマ以外の全員が、驚きの声を上げる。


 ティオルは担当した二匹のうち近い一匹を攻撃で追い払い、余裕を持って対処しやすい遠目の奴に的を絞って、跳んできたところを『リフレクトアームズ』の反発力を利用して盾でかち上げ斜め上に飛ばすと、体勢を崩し宙に浮いて何も出来なくなったところを、『ライトカット』を一閃し一撃で叩き切ったのだ。

 あまりにも見事な連続技に、俺まで思わず声を上げてしまったくらいだ。


「まずは一匹!」

 得意げな、実にいい笑顔で、戦果を知らしめるティオル。


「アタシだってぇ!」

 それに触発されて、ララルマも奮起し声を上げる。


 一匹を真正面から受け止め、さらにもう一匹も真正面から受け止めるものの、その二匹目の時には盾を上から被せて叩き付けるように振り抜く。

 二匹目は遠くに跳ね返らず、着地の体勢が整わないままに地面に叩き付けられて、すぐさま起き上がって逃げられない。

 そこをララルマが真上からメイスを叩き付けた。

 一撃では仕留めきれなかったらしく、さらにもう一撃を叩き付けて、完全に仕留めてしまう。


「アタシも一匹やりましたぁ!」

 ララルマはメイスと盾に持ち替えて日が浅いから、まだメイススキルも盾スキルも使えない。

 もしメイススキルを使えるようになっていたら、最初の一撃で仕留めていただろう。


 これで二匹、レーダーに映る赤い光点が、死亡ステータスを示す暗く赤黒い色に変わった。


 担当が残り一匹ずつになれば、この一週間ですっかり角穴兎狩りに慣れた二人なら、そう間を置かずに仕留めてしまうだろう。

 そんな二人の様子を視界の端で確認しながら、俺は盾を構えたまま、ただひたすら正面から受け止め、なかなか当たらない剣を攻撃半分牽制半分で振るい続ける。

 二人が他を倒し終わるまで、一匹でいいから引き付けておく。それが今の俺の精一杯で、パーティー内の役目だ。


 だけど……。


「……え?」

 見学しているリーダーのローレッドに視線を向けると、目が合って不思議そうに首を傾げられた。


 ローレッドの注意を引いたところで、ユーリシスへ視線を送る。

「……何をさせようと言うのです」

 ユーリシスに意図は通じなかったみたいだけど、何かさせようってことだけは伝わってくれたんで、よしとしよう。


 そして、再び跳んできた一匹を、ララルマほど上手にとはいかないけど、ティオルとララルマに射線が通らない位置へ、盾を大振りして叩き落とした。


「ユーリシス撃て! 真似だけでいい!」

 そこでようやく意図を察してくれたユーリシスが、右手の人差し指で、叩き落とされた一匹を指さした。


「撃ちました」

 ユーリシスは口でそう言っただけで、実際には攻撃魔法を使わない。


 こういうただの生存競争、自然の摂理の弱肉強食による戦闘では、ユーリシスは自らの被造物たる魔物に対し、積極的な介入はもとより命を奪う攻撃は絶対にしないからだ。


「あ……!」

 俺が目を向けると、ローレッドは俺の意図に気付いたようで、自分の持っている杖を握り締めた。すぐさま側に居る同じ後衛で弓を使うリュシアンに話しかけて、いま学んだ情報を共有してくれる。

 ただ、ユーリシスがなぜ魔法を撃たなかったのかは、ひどく不思議そうに首を傾げていたけど。


 で、そうこうしている間に……。


「『リフレクトアームズ』! たぁっ、『ライトカット』!」

 ティオルが鮮やかな手際をアピールするように二匹目を仕留めて、それから俺の方へ加勢に来てくれると、俺が引きつけていた一匹も程なく仕留めてくれた。


 それよりほんのわずかに早く。

「えぇぃ! やぁっ!」

 ララルマももう一匹を仕留めたようだった。


 念のためホロタブでレーダーの索敵範囲を拡大して周囲を確認するけど、近くに魔物の反応はない。


「ふぅ……これで全部仕留めたな」

 所要時間はおよそ二分程。

 四人とも掠り傷一つなしの無傷の勝利だった。


「完璧ですね♪」

「余裕余裕ぅ、アタシ達もぉ、すっかり慣れたねぇ♪」

 はしゃいでハイタッチする二人と一緒に、見学組の方へと戻る。


「とまあ、こんな感じだけど、どうだったかな?」

「「「すっげぇ!!」」」

 呆けたようにしていた五人が、一斉に身を乗り出して異口同音に驚愕の声を上げる。


「盾があるだけでこんなに違うものなの!?」

「盾ってゴミ装備じゃなかったのかよ!」

「剣とメイスでも普通に魔物倒せてんじゃんか!」


 騒ぐ五人に、ティオルはその小さな胸を張り、誇らしげに頷いた。

「そうです、剣と盾は、お父さんが教えてくれた剣術は、こんなにもすごいんです」


「そっか、ゴミ装備とか言って悪かった。盾ってすごいんだな」

 一番小生意気で跳ねっ返りそうなラングリンが、両手槍を両肩で担いだポーズで、素直にニッと笑って賞賛してくれる。


「ほ……本当ですか? 本当にそう思ってくれますか?」

「ああ、みんなそう言ってたからそんな風に思い込んじまってたけど、本当はそうじゃないって分かったからな」


 ぱあっと顔を輝かせて、ティオルが俺を振り返る。

「ミネハルさん、聞きましたか!? 今の、聞きましたか!?」

「ああ、しっかりと聞いたよ。剣と盾は、ティオルのお父さんが教えてくれた剣術はすごいんだって、ちゃんと伝わったな」

「はい!」

 うっすらと目尻に涙を浮かべて、力強く頷くティオル。

 本当に、心の底から嬉しそうだ。


 と、そんなティオルを見ていたパプルが、犬そのままの顔をちょっと恥ずかしげに照れさせた。

「わたしも盾、使ってみようかな……?」

「っ!?」

 パプルの仲間よりも誰よりも、驚愕の表情でパプルを振り返り見つめるティオル。


「ほ、ほら、わたし両手槍だと取り回すの下手だから片手槍使ってるでしょ? どうせ片手空いてるから、盾を使ってみるのもいいかなって。それにそっちの、ララルマさんが盾で叩き落としてから殴ってたじゃない? 片手槍ならリーチがあるから、真似したら素早く仕留めやすいかなって思って」

 その言葉に、次第にティオルの顔が輝いていって、対照的にララルマの顔が驚きと戸惑いに染まっていった。


「アタシの真似ですかぁ!? だってアタシぃ、こんな身体ですよぉ!?」

「そんなの関係ない、っていうか、むしろそんな身体でよくあれだけ戦えるなって驚いたくらいだし……って言い方したら、ちょっと失礼だったかな?」


「アタシぃ、誰かにそんなこと言われたの始めてですぅ!」

 もっと大きな驚きでそんな言い回しは気にもならなかったのか、俺の腕にしがみついて飛び跳ねる。

「そ、そうか、良かったな」

 身体が振り回されるけど、あと、腕に思い切り押しつけられた巨乳の感触があれな感じで平静を装うのが大変だけど、ここはララルマの好きにさせてあげよう。


「そういうことならオレも両手槍やめて、剣と盾に変えてみっかな」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ、実はさ、両手槍ってリーチあるから選んだんだけど、懐に入られたらからっきしで、どうもオレに向いてないっていうか、使いこなせてないなって最近感じててさ。それで、今の戦いを見せられただろ? 盾で守って、剣でズバッていくの、すげぇ格好良かったもんな」

「――!」

 ティオル、口をはくはくさせて、もう感激と戸惑いに声もないようだ。


「リーダーとして武器を変えることには反対しないけど、盾とか片手剣とか、どこかで売ってたかな? 僕の記憶にはないな」

「確かに、わたしも盾は見たことないわね」

「私、片手剣なら見たことがある気がする……けど、どこの武具屋さんだったかまでは……」

 このいい流れ、ここは畳み掛けるところだろう。


「それなら、俺達の盾もご覧の通り、かなりボコボコでガリガリ削られてるから、そろそろ取り替えようと思ってたんだ。それを見越して、すでに作ってくれる職人を捜して新品を注文済みだから、それでよければ先に君達が買い取れるように話を通そうか? 片手剣を売っている店も心当たりがあるし、よければ案内するよ」

「ありがたいお話ですけど、いいんですか、僕達が買ってしまって?」


「ああ、俺達の盾はもう少しくらい保つと思うから、改めて注文すればいいし。勝手に話を進めちゃったけどいいよな、ティオル、ララルマ」

「はい!」

「もちろんいいですよぉ」

 二人とも、いい笑顔で二つ返事だ。


「そういうことなら、ありがたくお言葉に甘えさせて貰います」

 ローレッドは丁寧に頭を下げてくれて、他のメンバーも口々にお礼を言ってくれた。

 実に好感触で、お礼を言いたいのはむしろ俺達の方だよ。


「ねえ、盾を買ったら使い方、わたしに教えてくれないかしら?」

「あ、オレもオレも! 剣の使い方も一緒に教えてくれよ!」


 ティオルが見上げてくるんで、笑顔で頷く。


「は、はい! あたし、頑張って教えます!」

「ア、アタシもですかぁ!?」

「そうよ、盾を使う先輩なんだから。ララルマさんの戦い方、参考にしたいわ」

「アタシを参考にぃ……は、はいぃ! アタシでよければぁ!」

「よっしゃ、そうと決まればよろしく頼むぜ」

「楽しみね、約束よ」



 その後、俺達は冒険者ギルドに戻って報告を済ませ、素材を売り払って報酬を受け取ると、明日一緒に買いに行く約束をして、『ゲイルノート』の五人とはその場で別れた。

 五人を見送って、その姿が見えなくなった途端、ドンと勢いよくティオルが抱き付いてくる。


「ど、どうしたティオル?」

「ミネハルさん……ありがとうございます」

 俺の胸に顔を埋めたティオルは、涙声で微かに震えていた。


「お父さんの剣術を教えて欲しいって……そんな風に言ってくれる人に出会えたの、全部全部、ミネハルさんのおかげです……」

「それはティオルの努力の賜物であって、俺は何もしてないよ」

「そんなことないです……あの日、王都でミネハルさんが声をかけてくれなかったら……あの日、一緒に行こうって誘ってくれなかったら……こんなこと、絶対に起きませんでした……」

 どんどん涙で声が掠れていくティオルの頭を、そっと優しく撫でてやる。


「それもこれも、ティオルがお父さんの剣術に真摯に向き合って、信じて努力してきたからだよ。それがあったから、今があるんだ」

「……っ!」


 その後は、もう言葉にならなくて、ティオルは声を上げて泣いた。

 積み重ねてきた努力が今、実を結ぼうとしているんだもんな。

 つい俺ももらい泣きして涙ぐんでしまったのは秘密だ。



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