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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第二章 アップデート『新たな試練と恩寵』
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62 角穴兎 2

 日が暮れきってしまう前に、俺達は冒険者ギルドへと駆け込んだ。


 冒険者達が依頼を終わらせて戻って来る時間帯のせいか、カウンターは四人体制で回しても列が出来ていて、冒険者達が受付で報酬を受け取り、今夜はどこで飲むかなんて話を実に楽しそうにしている。

 おかげでギルド内は常になく人でごった返していて、賑やかだ。


「すみません、通してください」

 そんな中を、深刻な表情のティオルに手を引かれ、さらには不安げで困惑を隠せないララルマに背中を押されて急かされながら、カウンターへと向かう。


「おい、オレ達が先に並んでんだぞ、抜かしてんじゃねぇよ!」

 先に列に並んでいたまだ少年くらいの冒険者が、横を通り過ぎようとしたララルマの腕を掴んだ。


「横からごめんねぇ、でもぉ、緊急事態なのぉ」

 その少年の冒険者に謝るために自分は足を止めて、ララルマは俺の背を押してカンターの前に押し出す。


「ちゃんと順番は守って欲しいんすけど。緊急事態ってなんなんすか?」

 ティオルが狙ってその位置に来たのか、丁度いいことに、融通の利きやすいクルファが目の前に座っていた。


 ティオルが俺を振り返って、深刻な表情のまま頷く。

 俺も、作った深刻な表情を崩さないようにして頷くと、袋の中から角穴兎(アルミラージ)の死体を取り出してカウンターに置いた。


「あんた達、確か『兎狩り』の依頼を受けてたっすよね。鑑定と買い取りなら倉庫の方で済ませて、討伐確認の札を受け取ってから受付に――」

「よく見てくれ、こいつはただの兎じゃない」


 クルファの『そんなことも知らないで冒険者やってんすか?』とでも言いたそうな顔の台詞を、わざと大きな声で遮る。

 俺の声に、側に居た冒険者達の何人かと、受付のお姉さんが興味を惹かれたのか、カウンターの上に転がされた角穴兎を見る。


「あれ? この兎……なんか変じゃないっすか?」

 さらにクルファの訝しそうな台詞に、横入りくらいにしか思ってなかったらしい冒険者達の視線も集めることに成功した。

 ある程度の注目が集まったところで、重々しく、だけど周りによく聞こえるように少し大きな声で告げる。


「こいつは恐らく新種の魔物だ」


 途端に、ギルド内にどよめきが広がる。


「新種の魔物だと!?」

「そんなわけねぇって、勘違いじゃねぇのか?」

「いや、よく見ろこの兎、角があるぞ!?」

「おい、マジかよ! こんな兎見たことねぇ!」


 そんな驚きの声を聞いて、半信半疑だった連中も、興味がなかった連中も、カウンターの周りに集まって騒然となる。


「わ、私、支部長を呼んでくるわ!」

 受付のお姉さん達もパニックといった感じで、他の業務が完全にストップしてしまい、クルファに拳骨を喰らわせていた受付のお姉さんはカウンターを出ると二階に駆け上がっていき、それ以外の人は話を聞こうと俺達の周りに集まってくる。


「あ、あんた達、この魔物、ど、どこで見つけたんすか?」

 動揺を隠せないクルファに、依頼を受けて向かった森で見つけたことを説明する。


「取りあえず、倒せはしたんすよね、ここにこうして死体があるわけだし?」

「はい、あたしとララルマさんの二人が前衛で戦いました」

「アタシが止めを刺しましたぁ」


 二人の台詞に、一瞬、ギルド内が静まり返ると、わずかに弛緩した空気が流れた。

 そして、一部の冒険者達から緊張感のない揶揄が聞こえてくる。


「こんなお嬢ちゃん達が倒せるなら、大した魔物じゃなさそうだな」

「おいおい、剣とメイスと盾なんか使ってんのか? どんな物好きだよ。そんなゴミ装備で倒せるんじゃ、こりゃ騒ぐほどのもんじゃねぇな」

 そんな声を聞き咎めたティオルが眉を吊り上げて、その冒険者達の方を振り向く。


「あたし達でも倒せた魔物だから弱いのかも知れないですけど、普通の村の人や町の人が襲われたら大怪我するんですよ!? ここ、見てください!」

 何度も角を受け止めたへこみで表面がボコボコになった盾を周りに見せつけながらのティオルの剣幕に、軽口を叩いた冒険者達はさすがに口をつぐむ。


「それにぃ、一匹だけじゃなくってぇ、群れで襲われたんですよぉ」

 ララルマもボコボコになった盾と、跳んでくる角穴兎を何度かかわしきれずに角で引き裂かれた服と、その下の切り傷を、血の滲んだ包帯を解いて見せつける。


 そこでようやく周囲も気付いたらしい。盾を見せつけているティオルの右脚や、実は俺の左腕にも、血の滲んだ包帯が巻かれているのを。

 そう、ティオルとララルマがここまで深刻になったのは、町へと戻る途中、角穴兎の群れと遭遇をしてしまったからだ。


 俺はホロタブで監視していたんで遭遇するのは分かっていたから、『新種の魔物が複数いる』、『単独のみならず群れでも襲ってくる』、あわよくば『魔法を使う』ところを、何も知らない二人に目撃者になって欲しくて、むしろ遭遇戦になるように帰り道を誘導したくらいだ。

 だけど二人にとっては不意の遭遇戦だったわけで、正体不明の新種の魔物の群れが相手だってことに焦って軽くパニックになってしまい、対処が遅れて翻弄され、何度か掠り傷を負ってしまった。


 角穴兎は元の世界の伝承を参考に創造した魔物とはいえ、俺とユーリシスを創造主として攻撃しないような命令が組み込まれているわけじゃない。そんな命令を組み込んでいたら不自然極まりないからな。

 だから容赦なく俺も狙われて、俺の盾の技量じゃ到底捌ききれないと判断したんで、大怪我をする前に撤退したというのが顛末だ。


 本当に、三人とも、深く肉を抉られたり突き刺されたりする程の大怪我をしなかったのは不幸中の幸いだった。

 ちなみに何故かユーリシスだけ狙われずに無傷のままなんだけど、ティオルもララルマも、そして受付のお姉さん達や冒険者達でさえ、それを疑問に思ったり気付いたりした様子はなかった。


「新種の魔物だそうだな。詳しい話を聞かせてくれ」

 俺達以外の全員がある程度の危機感を覚えたところでタイミング良く、呼びに行った受付のお姉さんと一緒に、支部長らしい狐型獣人の筋骨逞しい中年男性が二階から降りてきた。

 なので『遭遇して知り得た情報』という(てい)で、曖昧さを残しながら俺が作った設定を報告する。


「最初に遭遇したのはこいつ一匹だけで、ご覧の通り、うちのパーティーメンバーのティオルとララルマの二人だけで、なんとか倒すことは出来たんだ」

 付け加えて、どんな動きや攻撃をしてきたかの説明もする。


「帰りに五匹の群れに遭遇してしまって、さすがに五方向から次々に角を向けながら跳んで来られては全てを防ぎきれなくて、この情報を持ち帰るのが最優先だと思って撤退したんだ。そうしたらこいつらは、ある程度までは追ってきたけど、途中で追うのを止めて引き返していった。もしかしたら、たまたまその群れの巣穴の近くを俺達が通りかかったことで、縄張りから追い出そうと攻撃してきたのかも知れない」

 推測っぽく言っているけど、これは完全に俺の設定通りだ。


「だとすると、一般人が巣穴に近づくのは危ねぇな」

「縄張り意識が強いのかもな。しかも、攻撃的な性格なのかも知れない」

「本当に縄張りが関係あるのか? 餌を食ってる最中に邪魔されて、横取りされまいとしただけとか?」

「しかし、群れともなると、今までいったいどこに潜んでいたんだ? よくこれまで発見されなかったな」


 などなど、冒険者達が色々と予想を立てて話し合うんで、正解とも不正解とも言わず、好き勝手予想するに任せておく。

 俺が全て正解を報告してしまったら不自然だし、他の冒険者達が調査してくれた方が角穴兎の噂が広がりやすい。


「どんな魔法を使うか分かったか?」

 支部長が尋ねてくるんで、俺は首を横に振る。

 残念ながら、魔法を使うところまではいかなかった。


 角穴兎の瞳は通常、深紅色をしている。それが鮮やかな紅色の瞳に変わったら、魔法を使った合図だ。

 魔法の内容は、凶暴化(バーサーク)

 追い詰められると、自らの精神に干渉して恐怖を打ち消し攻撃性を高め、若干だけど攻撃力と防御力が増し、積極的かつ獰猛に敵に立ち向かっていくようになる。

 まさに『窮鼠猫を噛む』って感じに。


 余談だけど、元の世界では、以前はウサギもネズミと同じネズミ(もく)齧歯目(げっしもく))に分類されていたけど、歯の違いから今は独立してウサギ(もく)らしい。


 それはともかく。

 これらの魔法の情報は、冒険者達が実際に討伐する過程で暴いて貰おう。

 あまりにも間違った情報が広がるようなら、その時改めて俺が正しい情報を広めて訂正するってことで。


「そうかよくやってくれた」

 支部長は俺達にお褒めの言葉をくれると、受付のお姉さん達に次々に指示を飛ばしていく。


 どうやら、冒険者ギルドが依頼主になって、調査依頼を出すらしい。

 さらに、この地方を統治するホドルト伯爵に第一報が上げられ、近隣の村や町へ、注意を呼びかけるために人を走らせてくれるそうだ。

 それで情報がある程度出揃ったら、ホドルト伯爵に正式な報告を上げる、そういう手順らしい。


「ふむ、そういえば、この魔物の名前はどうするかな……」

 おっと、違う名前を付けられたら、俺が混乱してしまう。

 なので、僭越ながらって顔をしながら、控え目に手を挙げる。


「暫定ですけど、見た目から、角穴兎って俺は名付けて呼びました」

「角穴兎か……確かに、見た目通り分かりやすい名前だ。よし、その名前で依頼書と報告書に載せよう」

 ふぅ、上手くいった。


「ああ、君達これを」

 受付のお姉さんに用意させた革袋を、支部長が俺に差し出してきた。


「これは?」

「ここ数十年、新種の魔物の発見がなかったから知らん者も多いだろうが、新種の魔物を発見し、その第一報を持ち帰った者には褒賞金(ほうしょうきん)が出るんだ」

「えっ……!? そうなんですか!?」

「そこまで深刻に危険な魔物とも思えんが、魔物は魔物だ。遠慮なく受け取るといい」


 受付のお姉さん達が拍手してくれて、それに釣られて周りの冒険者達も拍手してくれる。

 『上手くやったなこの野郎』とか、『今度(おご)れよ』とか、そんな声まで飛んでくる。


「あたし達、すっごくすごいことしちゃいましたね」

「なんかぁ、照れちゃいますねぇ」

 嬉しそうで誇らしげなティオルとララルマ。

 ここで遠慮は……空気が読めてない奴だよなぁ。


「えっと……ありがとうございます?」

「うむ、これからも頑張ってくれたまえ」

 支部長は俺の肩を叩くと、角穴兎関連の資料を作るために二階へと上がっていった。


 冒険者達は、弱そうな魔物だから興味なしって連中もいたけど、受付のお姉さんを相手に角穴兎の調査依頼を受ける手続きをしたり、俺達に話しかけてきて角穴兎の詳しい話を聞こうとしたり、再び騒然となる。

 結局俺達はその日、夜遅くまで話を聞きたがる冒険者達に付き合わされたのだった。



 それにしても、まさか褒賞金が出るなんて考えてもいなかったよ。

 それを俺が受け取るのって……完全にマッチポンプだよな?

 くっ、良心がチクチクと……。



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