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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第二章 アップデート『新たな試練と恩寵』
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57 服飾職人と駄肉趣味

「ここがオレの工房だ、入ってくれ」

 シャルスと名乗ったその若いエルフの男に案内されたのは、職人街の外れ近くにある自宅兼工房だった。


 雑然と工房と民家が建ち並ぶ中で一際小さな木造の家の中は、様々な種類の布や毛皮、レースや紐、針刺しやハサミ、などが机の上や床に所狭しと散らかり、部屋の隅にはドレスフォーム(首と腕のないマネキン)が作りかけの衣装を着せられて雑然と並んでいた。

 裁縫なんてしないから、作りかけの衣装を見ても善し悪しがさっぱり分からない。


 シャルスには気付かれないように、チラッとララルマを見る。

「なんですかぁ?」

 うん、アイコンタクトだけじゃまだまだ伝わらないらしい。

 だから声を潜めて尋ねる。


「彼の腕前とかどうだろう?」

「あぁ~……アタシも普通のお裁縫レベルでしかないんでぇ、細かいことは分からないですけどぉ、悪くはないんじゃないかなぁ?」

 他に判断基準もないから、ララルマの目を信じることにする。


「散らかっていて悪いな、適当に座ってくれ」

 シャルスは生地の束やらなんやらを抱えて別の場所に移動させたり積み上げたりと、なんとか座れる場所を作ってくれた。


 とはいえ、密着して座ってギリギリだ。

 その狭さにユーリシスのご機嫌がさらに斜めになっているみたいで、早めに話をまとめることにする。


「前置きもなしに早速本題で悪いけど、実は俺の考案した下着を作ってくれる職人を捜しているんだ」

「ああ、小耳に挟んだからオレから声をかけたんだ。なんでも変わった下着が欲しいらしいな。それで、どんな物だ?」


 続けて、既存の男物の下着について、あれこれと改良アイデアを語ってくれる。

 どうやら、俺の下着だと勘違いされてしまったらしい。

 だから、間違いを正すために、ララルマを紹介する。


「作って欲しいのは彼女のための下着なんだ」

 俺がララルマに、ついその胸元に目を向けると、シャルスは改めてそのサイズを確認して目を見開いた。

 駄肉がどうとか、不愉快そうに暴言を吐くかと思いきや、何故か口元に愉快そうな笑みを浮かべて俺に目を戻す。


「それで、どんな下着なんだ? デザインは? 機能は? 目的は?」

「デザインは変に凝って耐久性が落ちたり金具なんかあったりすると危険だから、取りあえずシンプルで構わないけど、とにかく丈夫なのが第一だ。彼女の胸を収めた上で保持して、激しく動いても振り回されることなく戦闘にも耐えられる、『スポブラ』って呼ばれる下着を頼みたい」

「なっ……!?」


 よっぽど想定外だったのか、驚愕に目を見開いて、俺とララルマを見比べる。

 ララルマが恥ずかしげに両腕で胸を隠して縮こまってしまったから、もっと堂々としているように、その肩に手を置いた。

 チラリと俺を見たララルマは小さく頷くと、恥ずかしさを隠しきれないままだったけど腕を下ろして、背筋を伸ばして顔を上げた。


「なるほどな、そういうことか……いいぜ、詳しい話を聞かせてくれよ。その『すぽ……』なんとかって下着について」

 シャルスは何を納得したのか、いい笑顔になって身を乗り出してきた。


 何が切っ掛けで乗り気になってくれたのかは分からないけど、こっちとしてはララルマに不愉快な思いをさせないでくれただけでもありがたい。

 だから、これまでの職人にしてきたよりも、より詳しくプレゼンする。

 時々質問を挟む以外は黙って聞いていたシャルスは、俺のプレゼンが終わると、難しい顔になって真剣に考え込んだ。


「今聞いた話が本当なら、かなり手間が掛かるが作れないことはないな……そこまでの代物に仕上がるのかは、正直半信半疑だけどな」

「理論上は作れるはずだ」

 何しろ、ユーリシスとホロタブで導き出した、この世界のこの時代でも十分に揃う素材と可能な製法だ。


「少し余分に材料も揃えてあるから、多少失敗しても大丈夫だ」

 荷物の中から、魔物の毛や植物の茎、鉱物などを山と取り出して並べる。


 これらの素材は、さすがに討伐、採取、採掘に行って集める時間が惜しかったんで、俺が神の権能を使って創造した物ばかりだ。

 恐らく、失敗分を含めても十着分くらいは作れるはず。


「準備がいいんだな」

「それだけ重要で早急に必要なんだ。報酬も十分に支払わせて貰う」

 期限や報酬なんかの契約条件も提示して、シャルスの返答を待つ。


「そうだな……引き受けるに当たって、二つほど条件を出していいか?」

「その条件っていうのは?」

「一つは、この仕事は服飾ギルドを通さないで依頼して欲しい」


 よく知らないけど、冒険者に依頼を出すのに冒険者ギルドを通すように、服飾職人に依頼を出すのに服飾ギルドを通す必要があるらしいな。

 しかも、それを通さないでって言うのは、ちょっと穏やかじゃない。


「面倒事はごめんなんだけど、その理由は?」

「その面倒事にならないためだな。こういう前例がない、しかも成否も怪しい物を作る仕事となると、ギルドが煩いんだ」


 シャルスの説明によると、今の服飾ギルドのギルドマスターは、頭が固くて保守的らしい。

 その後の仕事や儲けに繋がらないような仕事に関しては厳しくチェックして、職人に依頼を回す以前に、依頼そのものを断る場合もあるそうだ。

 だとすれば、これまで話を持ちかけた職人達が断ってきたように、服飾ギルドで門前払いを喰らいかねない。


「それだとギルドに睨まれないか?」

「もう十分睨まれてるし、師匠からも破門されそうで、半分師匠の工房から追い出されてるも同然だから、その心配は無用だな」

 だから、自宅を工房にして、こんな状況ってわけか。


「オレは新しい物、未知なる物に挑戦したいんだ。似たようなデザイン、無難な仕事。そんな挑戦も独創性も入り込む余地がない凝り固まった価値観の中で腕を腐らせていくなんて、まっぴらごめんだ」


 こんな奴に頼むのが不安なら出て行ってくれて構わない。

 そんな顔で、シャルスは腕を組むと、挑戦的な目で俺を見てきた。

 だから、俺も挑戦的な目でシャルスの視線を真っ直ぐに受け止める。


「いいね、そのくらいの気概がある奴じゃないとこの仕事は任せられない」

 俺達は、どちらからともなくニヤリと笑みを交わた。


「それで、もう一つの条件は?」

「それなんだけどよ……」

 なんだ? 急に歯切れが悪くなったな。

 なんとなく視線を逸らしつつ、鼻の頭を掻きながら、条件を提示してくる。


「新しく作る『すとれっち素材』が余ったら、サイズ違いで『すぽぶら』を一つ作らせて欲しいんだ。その分の報酬は減らしてくれて構わないからよ」

「余った素材は俺に返して貰う必要はないし、報酬の一部だと思って受け取って、好きに使ってくれて構わないけど? それで報酬を減らすつもりもないから、安心して作ってくれていい」

「そ、そうか。それを聞いて安心した」


 なんでそこなことを? と、思った時だった。


「邪魔するよ」

 年の頃はシャルスと同じくらいの、エルフの女の子が一人、ノックも遠慮もなしに部屋へと入ってきた。


「フラン!? どうしてここに!?」

 どうやら顔見知りらしいシャルスが、慌てて立ち上がる。

 その顔が、何故かちょっと赤い。


「シャルスが妙な依頼をしたがる連中を自宅の工房に連れて行ったって聞いてね。おかしな仕事を抱え込んで、またぞろギルドと師匠に睨まれるんじゃないかと思って、忠告に来てやったんだよ」

 フランと呼ばれたその女の子は、腰に吊していた小型のハンマーを手に取ると、くるくると回して、ビシッと俺達を指した。

「あんた達だね、シャルスに妙な仕事をさせようってのは」


 ちょっときつめの吊り目と、女性冒険者程じゃないけど、よく鍛えられて引き締まった筋肉。この世界では、美人と呼ばれる容姿だ。

 服装はツナギを着ていて、何かの職人っぽく見える。

 ただ、注目すべきは、その胸だった。

 恐らくCは優にある。この世界にしては珍しい、巨乳だ。


「彼女はフラン、オレの幼馴染の鍛冶職人でな」

「ああ、なるほど」


 二つ目の条件の意味が、一瞬で理解出来た。

 彼女も、鍛冶仕事の際に胸が揺れて邪魔なんだろう。

 俺とティオル、そしてララルマの生温かい視線に気付いて、シャルスが顔を真っ赤にしながら咳払いする。


「ま、まあ、そういうわけなんだ」

「ああ、了解だ。これはいい品が期待できそうだ」


 その雰囲気に、乗り込んできた勢いが肩すかしになってしまったようで、フランが微妙な顔になって小首を傾げた。

 ともあれ、隠すことでもないんで、フランにも事情を説明する。

 もちろん、シャルスの提示した二つ目の条件は秘密で、だ。

 フランはララルマの胸を見て、自分以上に大きい胸を見たのは初めてなのか、かなり驚愕した上で納得してくれたみたいだった。


「ともかく、これで契約成立だな」

 シャルスが手を差し出してきたんで、俺も立ち上がってシャルスの手を握った。

「ああ、契約成立だ。よろしく頼む」


 それから奥の部屋でララルマの採寸をするために、フランが協力を申し出てくれた。

 ちょっぴり不安そうなララルマに、ティオルが付き添ってくれることになったから、ついでにティオルも一緒に採寸して貰うことにする。

 ユーリシスも一緒にどうかと提案する前に、冷たい侮蔑の視線が返ってきたんで、無理にとは思わないから、大人しく引き下がっておいた。


 そして二人が採寸している間に、念のため追加でティオルのスポブラも依頼して、それから改めてシャルスに一つ相談してみた。


「これでスポブラの件は目処が立ったとして、ララルマ用の胸当ても作りたいんだ。同じように引き受けてくれる革鎧職人に心当たりはないか?」

「へへっ、あんたって男は」

 何故そこで、ちょっと感動したっていい顔で嬉しそうにする?


「いいぜ、そういうことなら丁度いい知り合いがいる。一緒に頼んでやるよ」

「それは助かるな、よろしく頼むよ」

 ララルマとティオルの採寸が終わって、俺達はシャルスに案内されて革鎧職人の工房を訪ねた。


 シャルスの口利きのおかげで、すんなりと仕事を引き受けて貰えたんだけど……。

 その革鎧職人はルーシャという名の、ララルマと同い年くらいの人間の女の人で……ちょっと変わった嗜好の女の人だった。


 ともあれ、これでララルマの防具は一通り入手の目処が立った。

 完成が楽しみだ。



◆◆◆



「いやぁ~、それにしてもあのララルマって子、おっきかったわねぇ。フラン以上におっぱいがおっきい子、あたしゃ初めて見たよ。あんなサイズで胸当てを立体的に作るのは初めてだし、シャルスってば面白そうな仕事を紹介してくれたわね」

「オレが言うことじゃないかも知れないけどよ、他人事には思えなくってな」

「ああ、きっとわたし以上に苦労してきたんだろうね」


「ふかふかでや~らかくて、いい揉み心地だったねぇ。こんな時ばかりは、女として生まれて良かったって、あたしゃしみじみ思うよ」

「も、もう、ルーシャったらやめなよ。ララルマって子、かなり恥ずかしがって困ってただろう。胸に駄肉が付いてるってのは、本人にとっては深刻な問題なんだ。わたしだって……」


「フランちゃんってばヤキモチ? 大丈夫、あたしゃ、フランのおっぱい一筋さ」

「そういうことを言ってるんじゃない。まったく、こんな駄肉のどこがいいんだか」


「フランちゃんはもっと自分のおっぱいに自信を持つべきね。しっかし、あのミネハル君だっけ? まさかシャルス以外に駄肉趣味の人がいたなんて、あたしゃそれが一番びっくりだったよ」

「オ、オレは駄肉趣味とは違うからな!? 駄肉趣味はルーシャだろう!?」

「はいはい、好きになった子が、たまたまおっぱいがおっきかっただけ、だっけ?」

「ぐっ……」

「も、もう……」



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