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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第二章 アップデート『新たな試練と恩寵』
56/120

56 最前線の町

 交易都市ドルタード。

 その名前の通り、交易で栄えている町だ。


「賑やかな町ですね」

 ティオルは門をくぐって町へと入ってから、ソワソワと物珍しそうに周囲を見回す。


「でも、なんだかちょっと王都に似てるような?」

「古くから栄えてる町だって話だからな。王都と同じ時代に作られたのなら、建築様式が似てておかしくないし、王都をリスペクトしてますってアピールに敢えて町並を似せたのかも知れないな」


 本当に、町を取り囲む石造りの防壁やメインストリート沿いに並ぶ石造りの建物などの建築様式から町の景観から、王都とほとんど変わらない。

 観光しに来たわけじゃないけど、王都から荷馬車で二週間もかけて移動してきたのに、この町ならではの特色が楽しめなくて残念だ。


「でも交易都市って呼ばれてるのは伊達じゃないみたいだ。ほら、ちょっと違う服装の人達が歩いてるし、露店で売られてる品に王都じゃ見ない物もあるぞ」

「あ、本当です、あれ、なんだろう?」

 興味を惹かれたのか、ティオルが露店に並ぶ品をわくわくしながら眺める。


 他にも王都と違うところは、ティオルが言ったように『賑やか』ってところだ。

 ただそれは、笑顔や活気に溢れてるって意味じゃなく、騒がしいけど明るい雰囲気はなくて、もっと言うなら緊張感や殺気立ってると言えなくもない。

 目にする冒険者の数も、王都より確実に多い。

 これが魔物と戦う最前線の町って奴なんだろうか。


「まずは町、見て回るか?」

「はい!」


 リセナ村からこれだけ離れた町を訪れるのが初めてだからなのか、楽しげなティオルを先頭に、町のどこにどんな施設があるか、つまりは今日から泊まる宿屋とか、冒険者ギルドとか、職人街とか、王都では見ない料理なんかを露店で買い食いしながら情報を集めて、そういった場所を順に回っていくことにする。


「この町もぉ、ちょっと懐かしいですねぇ」

「ララルマはこの町にも立ち寄ってたのか?」

「だってぇ、近隣の地方で冒険者が最も集まる最前線の町ですよぉ? アタシもこの町でならぁ、入れてくれるパーティーの一つくらい見つかるはずってぇ、意気込んで来たんですよぉ」

「ああ、なるほど……」


 ララルマの耳と尻尾がへにゃっとなって、今こうして俺達と一緒に行動していることから、結果はお察しだったな。

 俺が察したことに気付いて、ララルマが耳を戻して尻尾を揺らし、おっとり照れ臭そうに微笑んだ。


「苦い思い出に思うところがないわけじゃないですけどぉ、状況が違えば見える景色も違って見えるんでぇ、結果オーライでしたねぇ」

「なら、その選択が最高だったって胸を張って言えるように、俺も頑張るよ」

「うふっ、期待してますぅ」

 その笑顔に、ちょっと顔が熱くなってしまって、それを誤魔化すように前を向く。


 後ろから付いて来ているユーリシスの機嫌が多少悪いこと以外は、特に問題やトラブルもなく、安心安全な宿屋の部屋を取り、冒険者ギルドと職人街の場所を確認出来た。


「食べ歩きだけで十分にお腹も膨れたし、次はララルマの装備を調えに、職人捜しに行こうか」

「はいぃ、お願いしますぅ」


 王都を出発する時点でララルマに準備出来た装備は、メイスと盾だけだった。

 盾は、俺とティオルの剣と盾が完成したときに、こっそりと神の権能で一つ複製して、『こんなこともあろうかと予備を発注しておいたんだ』って誤魔化しておいた。


 メイスは普通に武具屋に売っていた物をそのまま買った。

 メイスを選んだのは、疑似神界でララルマの複製を創って、あれこれ武器を変えつつ複製した魔物と戦うシミュレーションを繰り返した結果、一番相性がよさそうに思えたからだ。


 ただ、パーティー加入の条件だからそれを受け取って練習してくれてはいるけど、ララルマ本人はまだ両手斧に未練があるっぽい。


「この斧ぉ……売らないと駄目ですかぁ?」

 メイスと盾を渡したときに、目を潤ませてそう懇願されたし、荷馬車に積んでこの町にもしっかり持って来ている。


 もし複数の武器を状況に応じて使い分けてくれるなら、それは検証する上で非常にありがたいんで、どっちも使いこなせるようになるよう本人の努力に期待したい。


 一方、防具とスポブラは移動先の町で用意することにした。

 何しろ、籠手やブーツは既製品で問題ないけど、胸当ては絶対に特注になるし、ブラはこれから初めてこの世界に誕生する下着だ。

 王都で作ったら、修理や予備が必要になった時、移動先の町でまた職人捜しから始めないといけなくて二度手間になる。


 何より一番の理由は、ユーリシスの説得に時間が掛かってしまったことだ。

 この世界のこの時代にはまだない、ブラジャーという下着、その素材となるストレッチ素材の概念や、それを作るための技術なんかを、俺が持ち込んで広めることが気に入らなかったらしい。


 ユーリシス曰く、俺の元の世界でも、ブラに相当する下着は紀元前くらいからあったらしいけど、現在の形になったのは十九世紀に入ってからだそうだ。

 つまり、それだけ時代を先取りしすぎているから、この世界の文化や技術の発展に少なからぬ影響を与えそうなのが懸念材料だったというわけだ。


 その懸念を払拭する説得材料に乏しかったのが、難航した主な理由だ。

 しかも、疑似神界内なら事実上説得は永遠に続けられるし、ぶっちゃけた話をいくらでも出来るもんだから、それを避けるためになかなか疑似神界を展開してくれなかったのもある。

 それで、この町へ移動しながらの、地道な説得と相成ったわけだ。


 そんな感じで説得に時間が掛かったけど、そこからは早かった。

 何しろ、普通なら何年もかけて延々実験を繰り返し、試行錯誤しながら素材の選別、技術の改良をしていかないといけないのに、ユーリシスとホロタブのおかげで、完成形から逆算して必要な素材や技術、中間素材を作るのに必要な薬品なんかも、全部一瞬で導き出せたからだ。


 後は、必要な知識と技術を職人に伝授して作って貰うのみ。

 意気揚々と職人街へやってきて、服飾関係の工房を当たってみる。


 ところが……。


「そんな商売になりそうにねぇもんを作ってられるほど、暇じゃねぇんでな」

「そんな作り方聞いたこともないな。本当にそんな代物ができんのか?」

 とまあ、異口同音に、当たった職人全員に断られてしまった。


「ならいいです、お騒がせしました」

 だから俺も、そう言って早々に次を当たることにした。


 素材も技術もまだこの世界にない革新的な物で、しかも駄肉と蔑む数少ない巨乳の女の人限定の下着ともなると、確かに半信半疑になるだろうし、作れるようになったところで商売にもならないだろう。

 でもそこで新素材の可能性や応用に目がいかない、思い至らない、そんな頭が固い保守的な職人なんかに俺も用はない。


「誰も引き受けてくれないですねぇ。普通の服だったら自分で仕立てられるのにぃ、ミネハルさんの言う『すぽぶら』ってぇ、特別製みたいですからねぇ」

「ララルマって裁縫出来るんだ? すごいな」

「アタシが着られる服ってぇ、古着でも売ってないからぁ」

「ああ、なるほど……」


 ついそこ(・・)に目が行きそうになるのを堪える。


「さすがに売り物には及ばないですけどねぇ。でもぉ、繕い物くらいならぁ、アタシやりますよぉ?」

 上目遣いで……これは家庭的な女性アピールだろうか?

 こういう時はなんと言うべきか……ギャルゲーの選択肢による模範解答が無難か?


「そうだな、もしその時はお願いしようかな」

「うふっ、任せてくださいぃ」


 ふと、服の袖が掴まれる。


「あたしはお裁縫苦手です……剣術の稽古ばっかりしてたから。お裁縫できない女の子は駄目ですか? 魅力ないですか?」

 こういう反応をされると、嬉しいやら恥ずかしいやら、ドキッとしてしまう。

 多分こっちも、同じく模範解答で間違いないはず。


「出来れば魅力の一つになるけど、出来なくても魅力がないことにはならないよ。ティオルの一番の魅力は剣術への誇りと姿勢だと思うから。でも心配なら、練習してみるのもいいんじゃないか?」

「アタシでよければ教えますよぉ。盾の使い方教えてくれてるお礼ですぅ」

「いいんですか? はい、お願いします」


 良かった、両方とも正解だったみたいだ。

 それにしても、なんだかんだこの二人は上手くやってるみたいで助かるよ。


 ちなみに……。


「……なんです、その目は」

「いや特に何ってわけじゃないけど、ユーリシスは裁縫とかしそうにないよな?」

「する必要がありません」

 そうだろうな、何しろ、必要な物は神の権能で創造してしまえばいいんだから。


「さすがお嬢様」

「お嬢様っぽいですねぇ」

 どうやらティオルとララルマはそういう意味で解釈したようだ。


「でもぉ、このまま誰も作ってくれなかったらどうしましょぉ?」

「うーん、手当たり次第に聞いて回ったから、仕込みとしては十分だと思うんだよな……イベント的に。そんなに掛からず発生してくれるとありがたいんだけど」

「イベントぉ? なんの話ですぅ?」


 などと、職人街の通りのど真ん中でやっていたら、明らかに俺達を目指してズンズン歩いてくる、ティオルより少し年上くらいの若いエルフの男が目に入った。


「お、イベント発生かな?」

 俺の台詞と視線に、他の三人がそちらに目を向ける。

 それに気付いたその若いエルフの男は足を速めて、程なく俺達の前で足を止めた。


「なあ、一風変わった下着の発注先を探してるってのは、あんたらか?」

「ああ、そうだけど」

「その話、オレにも聞かせてくれないか?」


 そうこなくっちゃな。

 無事、イベント発生だ。



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