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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第二章 アップデート『新たな試練と恩寵』
49/120

49 グラマラスな猫耳猫尻尾

 明けて翌日。


 職人街を回って交渉すること十数人目、なんとか剣と盾を作ってくれる工房を見つけることが出来た。

 と言っても、剣と盾を実際に作った経験がない職人ばかりで、説明と説得にかなり時間が掛かった挙げ句、足下を見られて高い手間賃を取られることになったけど。


 ともかくこれで、ティオル愛用の片手剣のメンテと、俺用の軽くて短めの片手剣、そしてティオルが使っている盾と全く同じ盾をティオルと俺の分で二つ、無事に発注できて、なんとか装備を揃えられそうだ。

 まあ本音を言うと、予備と布教用でさらにそれぞれ二つずつ作って貰いたいところだけど。


 この世界、どうやら収納魔法のような便利な魔法や道具は存在しないらしい。

 魔法システムの改変に着手したら、いつか折を見て導入したいところだ。



「ところで、ユーリシスはなんでさっきから不機嫌そうに俺を睨んでるんだ」

 工房からの帰り道、隣を歩くティオルに聞かれないように、こそっと確認する。

 すると待ち構えていたみたいにユーリシスが右手を振って、疑似神界を展開させた。


「少し、金遣いが荒いようですが?」

「ああ、そのことか」


 普段の宿代や食事代だけならまだしも、昨日の装備一式や、今日の装備製作の代金はかなり掛かったからな。

 漫画やアニメで見るような、金貨がジャラジャラ入った袋をドンと置いて支払うみたいに。


「謂わば必要経費だから、ここは了承して欲しいところだけど。別に贅沢や、酒だ女だ博打だなんてことには使ってないだろう?」

「それは分かっています。ですが、最初こそ使うことに感謝し躊躇いを覚えていたから大目に見ていましたが、もはや感謝を忘れ、自制を失っているのではありませんか」

「いや、自分で稼いだ金じゃないから感謝してるし、躊躇うし、十分後ろめたいぞ?」


 何しろ、魔物に殺された冒険者や行商人達の所持金だった野ざらしで放置されているお金をホロタブで検索して、その座標を俺の手の平の上の座標に書き換えて手に入れているんだからな。

 つまり、拾った他人のお金を使って飲み食い買い物してるわけで。

 正直、食事は美味くないし寝るのも落ち着かないから、早く自分の稼ぎで払いたい。


「ただ少し考え方を変えてみたんだ。この国だけでも、爵位と領地を私兵付きで買えるほどのお金が、野ざらしで放置されてるんだろう?」

 しかも、冒険者や行商人が魔物に殺されるたびにそれは増えていくわけで。

「つまり、それだけのお金が市場(しじょう)から消えてしまっている。装備品や商品なんかを考えるともっとだ。このリグラード王国は大国だからいいけど、小国だといずれ経済が立ちゆかなくなってもおかしくない」


 それにはかなり長い年月が必要になるけど、この世界はすでに、少なくとも六百年以上その状況が続いている。

 俺が知らないだけで、すでに財政破綻で消えた小国があるかも知れない。

 魔物に奪われた領域を含めて全世界で考えれば、どれほどの金品が失われていることやら。


「だから市場に戻していると?」

 ユーリシスは効果に関して懐疑的なようだ。


「確かに全体から見れば微々たる額なのは認めるよ。だけど、誰も損をしない、やってマイナスになる話じゃないんだ。もしそのお金が巡り回って魔物への対策資金になったり、無理な行商を控えたり護衛を多く雇ったり出来れば、無駄に死ぬ人も減らせるはずだ」


 俺が金が欲しいってだけなら、神の権能を使って金貨の複製を作ればいい。

 神の御業でしたことが人の法で裁かれることはないって、ユーリシスからのお墨付きもあるしな。

 それなら事実上、お金のステータス欄は意味をなくす。

 ただそれをすると、俺の経済観念が破壊されてしまいそうで嫌だ。


 他に、同様にアイテム製作チートってぽい真似をして稼ぐって手もあるけど、そもそもの目的が違うし、やるにしても多分それは時期尚早、今は下策だ。

 俺の所に大金が集まったら、逆に市場に出回る金が減ってしまう。

 それで集まった金を使うためにさらなるアイテム製作をしていたら、そっちに忙殺されて、魔物対策どころじゃなくなってしまうかも知れない。


 もしそういうことをするのなら、ある程度人類側の戦力が揃って、生活が豊かになることがより人類の生存確率を上げると予測が立ってからだ。

 今のままじゃあ、何を開発しようが魔物に滅亡させられてしまうから意味がない。


 かといって、近代兵器や、大量殺戮、破壊兵器の開発での戦力増強は、魔物に勝った後、ほぼ確実に人類同士の世界大戦が勃発するので却下だ。

 何より、この時代の世界観に合わない。


 だから自制の意味も含めて、野ざらしのお金に手を付けているわけだ。


「ということで、納得してくれるか?」

 ユーリシスはしばし思案すると、不承不承という顔で溜息を吐いた。

「そういうことでしたら多少は目を瞑りましょう。ただし、欲望にまみれて私利私欲のために使った場合は容赦しません」

「ああ、それでいいよ。俺も気を付けるから」


 これで話は終わったと、ユーリシスが肩の力を抜いたところで、ふと思い出す。


「先に断っておくけど、ユーリシスが『まずこの世界で一般的に普及している魔法学の知識を学びなさい』って言ったんだからな? そのための魔法書を買うから、またまとまったお金を使うんで、それも文句を言わずに了承してくれよ」


 文句は言われなかったけど、すごく憎たらしそうな顔で睨まれた。

 意図して煽ったわけじゃないからな?



 現実世界へと戻って、そのまま三人で冒険者ギルドへ顔を出す。

 冒険者らしい装備も調(ととの)えたし、これでもう胡散臭い連中とは言われないはず。


 というわけで、依頼した剣や盾の製作が終わるまで、パーティーメンバーの募集を再開することにした。

 もちろん、グラハムさん達のアドバイスを生かして、ソロで魔物と戦いたくない人が一定数いるというのを前提に、セールスポイントはそのままに、説得やアプローチ方法を変更しての挑戦だ。

 加えて、もし王都から活動拠点を移すのなら、行く先や道中の情報を、詳しそうな冒険者から聞きたいっていうのもあった。


「なるほど、中の街道では今、行商人の護衛の依頼が増えてるわけですね」

「そういうこった。魔物の仕業に見せかけた盗賊なんてのも出没するしな。護衛は人数が多ければそれだけ襲われにくくなる。だから町を移動するなら護衛として行商に同行した方が、無駄もないし安全なんだが……」

 話を聞いた冒険者に、胡散臭そうに見られてしまった。

 おかしい、武器こそまだだけど、かなり冒険者っぽい格好になっているはずなんだけど。


「中の街道沿いの町や村では、魔物討伐の依頼が多いんですよね?」

「ああ、たまにここらと同じ狼や山猫も出るが、魔物の種類も数も多いし、王都の周りでやってくより駆け出しが腕を上げるには悪くないんだが……」

 またしても、まさかお前達が魔物討伐するつもりか、って胡散臭そうに見られてしまった。

 せっかく装備を調えたのに、あんまり効果がないな……。


「ところで俺達、パーティーメンバーを絶賛募集中なんですが――」

「そういうのは間に合ってるよ。話がそれだけならもう行くぜ。じゃあな」

「――って行っちゃったか……」

 話すら聞いて貰えないなんて、俺達の悪い噂が広がりすぎているのか、装備を調えても俺達じゃ冒険者っぽく見えないのか……。


「また駄目でしたね……話くらい聞いてくれてもいいのに」

 ティオルが唇を尖らせる。

「まったくだな。話を聞いて貰えないと始まらないのに」

 やれやれと、ティオルと二人で、ユーリシスが待つテーブルへと戻る。

 最近、このテーブルが俺達の指定席っぽくなりつつあって、ちょっと複雑だ。


「これは本当に活動拠点を移して、そっちで募集した方が早いかも知れないな」

「そうですね。中の街道の先だと、本当にこの辺りより魔物も弱いみたいだし、もしかしたらあたし達三人だけでも倒せる魔物もいるかも知れないです」

 そうなれば、実績を積めるから、より勧誘しやすくなるか。


「剣と盾が仕上がったら移動しようか、拠点」

「はい、ミネハルさんが行くなら、どこへだって」

「ユーリシスもいいよな?」

王都(ここ)では(らち)が明かないようですし、構いません」

「よし、決まりだ」

 これでティオルにもようやく戦って貰えるし、ティオル英雄化計画の再開だな。


「あのぉ……メンバーを募集してるパーティーがあるって聞いたんですけどぉ、あなた達ですかぁ?」


 不意に耳に飛び込んできた、おっとりした女の人の声に、俺とティオルは思わず腰を浮かしてそちらを振り向く。


 と、声の主らしい女の人が、掲示板の前で依頼書を見ていた冒険者達に話しかけていた。


「……あたし達にじゃなかったんですね」

 いやもう、俺もがっくりだよ。

 椅子に座り直しながら肩すかしを食らった気分になったけど……やっぱりそれって俺達の話を聞いて訪ねてきてくれたんじゃないか?


「……!」

 期待を込めてその女の人をよく見て、思わずテンションが爆上がりしてしまう。


 何しろ、赤茶色のウェーブが掛かったショートカットの髪の中から猫耳が覗いていたからだ。しかも、猫尻尾まで揺れている。

 斜め後ろ姿からはハッキリと容姿や年齢は分からないけど、声の調子からまだ若く、俺より下で、ティオルより上くらいだろうか。

 両手斧にしては多少小振りなサイズのそれを背負って、革製の肩当てと腰当て、籠手とブーツを身に着けていた。

 ただし、胸当ては装備していない。


 なぜなら……。


 斜め後ろからでもとんでもない代物だって分かるくらい、胸が大きかったからだ。

 CやDどころじゃない。Gか、Hか、それ以上か。とにかく巨乳グラビアアイドルかってくらい、前方に突き出て、左右からもはみ出ている。

 少なくとも俺の知っている範囲の胸当てじゃあ、あのサイズの胸は到底入らない。


 というか、この世界、ちゃんと巨乳の女性がいたんだな……。

 Bでも巨乳ってくらい、胸の小さな女の人しかいないと思っていたよ。


「……なんですか、不愉快な気配を感じますが」

「いや、なんでも」

 ユーリシスもさすがにそんな偏った人類の創造の仕方はしなかったようだな。

 それはさておき。


 見事なのは胸だけじゃなかった。

 腰回りやお尻、腕や太股にもしっかりと肉が付いていて、非常に肉感的な……下世話な言い方をするなら、男好きのする非常にエロい身体をした猫型獣人の女の人だった。

 その横顔は、グラハムさんタイプとは違って、普通に人間と変わらない顔つきだ。

 最初に情報収集した、(いち)の露店で吊し売りの服を売っていたウサギ型獣人の女の人と同じタイプだな。


 こんなエロい身体……じゃない、グラマーな女の人なら、男達は大歓迎だろう。

 もしあの話しかけられたパーティーもメンバーを募集していたら、せっかくの加入希望者を取られてしまうかも知れない。


 思わず手に汗握り、動向を注視しようと身を乗り出す。


 声をかけられた冒険者達は、自分達が話しかけられていると気付いて振り返り……。

 全員が一様に、まるで汚物でも見るような蔑む顔を、そのグラマーな猫型獣人の女の人へと向けた。


「オレ達じゃねーよ。つーか、仮に募集してても、オマエみたいなのに用はねーよ」

「そんな駄肉ぶら下げて、よくパーティーに入れてくれなんて言えるわね、このブス。わたしなら恥ずかしくてとてもじゃないけど言えないわ」

 まるで虫でも追い払うように、しっしと手を振って、全員が大爆笑する。


 その無下で理不尽な扱いに、グラマーな猫型獣人の女の人は、俯いてうっすら涙を浮かべると、羞恥にプルプルと震えた。

 へにょっと伏せられた猫耳と、動きを止めて元気なく垂れてしまった猫尻尾が、物悲しさを漂わせている。


 ……分からない。

 なんでそんな反応になるんだ?


 下卑た顔でその巨乳をジロジロ見て、いかにも下心ありますって感じに大歓迎してパーティーに招き入れるなら話は分かる。

 チラッと見える横顔だけでも結構な美人に見えるから、その美貌や巨乳やスタイルに嫉妬するなら話は分かる。


 駄肉ってなんだ?

 ブスってなんだ?


 ユーリシスは、そのグラマーな猫型獣人の女の人を見て、わずかに眉をひそめていて、あまり好意的に見ていないみたいだ。

 しかもティオルまで、その扱われ方に同情はしているみたいだけど、どこかがっかりしたように浮いていた腰を下ろしてしまった。


 いやもう、本気で分からない……。


「メンバー募集してんのは、そっちの胡散臭い三人組んとこだぜ」

 どっちを揶揄して笑っているのか分からない顔と言い草で、一人が俺達の方を顎でしゃくる。


「失礼しましたぁ……」

 消え入りそうな声で、泣き笑いのような愛想笑いを浮かべてペコッと頭を下げると、そのグラマーな猫型獣人の女の人が俺達の方を振り向く。

 そして俺と目が合うと、一連のやり取りを見られていて恥ずかしかったのか、真っ赤になってしまった。

 その顔を見て、思わず息を呑んでしまう。


 ブスどころか、すごい美人だ……!

 口ぶりもさることながら、おっとり感がすごい垂れ目だけど、というかだからこそ、エロい身体のおっとりお姉さんって感じで、ちょっとこう……グッと来るものがある。

 しかも眼鏡をかけているんだけど、その眼鏡が黒縁の少し野暮ったいデザインのおかげで、高嶺の花のおっとりお姉さん感が緩和されて、俺でも手が届きそうな期待が持てるおっとりお姉さん感が出て、すごくいい。

 これで俺がまだ中高生だったら、一目惚れして甘えていたかも知れない。


 そのグラマーな猫型獣人の女の人は、しばし躊躇った後、怖ず怖ずと俺達のテーブルに近づいてきた。

 歩くたびに、その大きな大きな胸が上下に弾むわ、お尻が左右に大きく揺れるわ、正直目のやり場に困る。


「ミネハルさん……」

 だけど何故か、ティオルがなんとも言えない困ったような顔で俺を見てくる。

 せっかく待望の加入希望者なのに、ティオルらしくない反応で、あまり入って欲しくなさそうだ。


 先の冒険者達も、ニヤニヤと物見高そうにこっちを見ている。

 俺達が、自分達と同じ反応で断るとでも思っているんだろう。

 俺達も彼女も、どっちも思惑通りにいかなくて残念な目に遭ってしまえ、くらいは思っていそうな嫌らしい目と笑みだ。


 とにかく、周りの反応の理由がさっぱり分からないし、今の俺達は贅沢を言える立場にない。

 強いて言えば、どうせなら両手斧以外の武器を使っている人が良かったけど、それも些細な問題だ。

 なので、俺は躊躇うことなく立ち上がって、そのグラマーな猫型獣人の女の人に向けて愛想良く笑いかけ、丁寧に話しかけた。


「俺達が、あなたがお探しのメンバーを募集しているパーティーだと思います。あなたのお話を聞かせてくれませんか? そして俺達の話も聞いて加入を検討してくれると嬉しいです」

 途端に、ギルド内にどよめきが走った。

 何より、俺にそう声をかけられた本人が、一番目を丸くして驚愕していた。



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