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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第二章 アップデート『新たな試練と恩寵』
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44 ゲームプランナーの理屈と神の真理 1

 次の瞬間、俺の視界も身体もユーリシスが放った雷撃に飲み込まれて……。


「…………!?」


 はっと我に返ると、右手を振り下ろしたポーズで、少しは溜飲が下がったって顔をしたユーリシスがすぐ目の前にいた。


「おい、またか!? 『むかついたから取りあえず殺してスッキリしとけ』みたいなノリでポンポン俺を殺すなよ!?」

「被造物たる人間ごときが創造神たるこの私を侮辱して許されるとでも? 万死に値します」

「侮辱したわけじゃなくて、事実を告げただけだ!」

「身体を新たに創造し魂を結びつけて転生させ直しました。何も問題はないでしょう。言葉を選びながら説明を続けなさい」


 俺を殺すことに遠慮も躊躇いもなくなってないか?

 俺の知らないところ(消された記憶)で、もっとポンポン殺されてるんじゃないだろうな?

 プライドだけは無駄に高いんだから、使いづらい部下だよ、まったく。


「ふぅ……問題は大ありだけど、長くなるから今は脇に置いておく。話を続けるぞ」

 改めて仕事モードに切り替えて、表情を改め背筋を伸ばす。


「言っておくけど、ああ言ったのは根拠があっての話で、侮辱でも批判でもないからな。ユーリシスはこれまで何度も、自分の創った世界はゲームとは違うって主張してたけど、『ゲームかよ!』って突っ込みたくなる要素がしっかりあるぞ。そのゲーム的な要素と現実が上手く噛み合わずに中途半端だから、バランスが悪いんだ」


 不快そうに、ユーリシスの眉がピクリと動いた。


 その根拠を示すため、ホロタブを起動する。

 SF作品でよく見られる何もない空間にホログラフィーで浮かび上がった通信画面、そんな感じのタブレットサイズの光の画面を、くるりとユーリシスの方へと向けた。

 画面には複数の武器のシルエットとそれぞれに重ねて一つの数値……補正値を表示させている。


「攻撃力やダメージを算出する数式を調べたところ、武器には種類ごとに補正値が設定されているな。それも両手斧の補正値が最も高く、短剣の補正値が最も低く」


 数式と言っても、ゲームのプログラムで組まれているような簡単な数式じゃなく、物理学や数学で用いられるような、現実世界の自然現象を説明するための数式で、膨大な変数があって複雑怪奇極まりない。

 ところがその補正値を示す変数だけが、ゲームで使われている数式のような作為的で不自然な係数として組み込まれていた。

 おかげで悪目立ちしていたから、すぐに目に付いたというわけだ。


「この補正値って存在が、まさにゲームならではじゃないか?」

「そのようなことはありません。自然の摂理に基づいた必然です」


「自然の摂理、ね……。例えばメイス――要はメイスという武器にカテゴリーされる形状に素材を加工して殴ると補正値が入るのに、同じ質量と材質の素材をただの棒状で殴ると補正値が入らない。これがユーリシスの言う自然の摂理なのか?」

「その通りです」

 断言したか……俺には非常に不自然な補正値にしか思えないんだけど。


「武器の形状を取った時点で補正値が入るようになる理由はなんなんだ?」

「武器とは敵を殺傷するために作られた道具です。それ以外の道具や、ましてや加工前の素材の形状のままのそれとは、一線を画します。ここで言う敵とは、自然界における生存競争の相手です。獣や魔物が己の肉体と魔法を駆使するのに対して、人は武器という道具を発明――正しくは私が用意しておいた武器という道具の概念を発見し開発、使用するに至りました。つまり、武器における補正値とは、人が獣や魔物と違う、神たる私の姿に似せて創られた知的生命体である証であり、創造神たる私からの恩寵なのです」


 要約すると、『自分に似せて作った人はすごいんだぞ』って、特別感を出したかったから、そういう補正値を導入したってわけか。

 思わず溜息が出る。

 それでバランスが取れているなら、それはそれで良かったんだけど……。


「武器って大きなカテゴリーで補正値が付くならともかく、両手斧がずば抜けて高くて片手剣や短剣は正直悲惨なくらい低いんだけど、こんな数値にした理由は?」

「与えるダメージの大小、その性能に合わせて差を付けるのは当然でしょう」


 うん、それで生まれた大きな格差が、人類の生き残りを無理ゲーにした原因だ。


「それじゃみんな両手斧しか使わなくなるだろう?」

「それが何か?」

「いやいや、『それが何か?』って……それじゃあ他の武器の存在意義は?」

「両手斧を使うに至れなかった者が使う、両手斧の代替品に過ぎません。極論を言えば、なくても問題ない物です」


「いやいやいやいや、なくても問題ないって、大ありだろう!? それじゃ戦術に幅がなくなって、汎用性も多様性もあったもんじゃないぞ!?」

「汎用性や多様性など必要ありません。必要なのは最強の武器による最強の戦術です。唯一無二のそれにより立ちはだかる敵を滅すれば、何も問題ありません」


 そういう理屈での数値設定なのか……。

 でもそれじゃ大きな矛盾を抱え込んで、バランスが悪くなるのも当然だ。


「無知なお前に一つ、世界の理、神の真理を授けましょう」

「ほほう? 拝聴させて戴こうか」

 ユーリシスは軽く咳払いをして、限りなく上から目線で、朗々と語り出した。


(ゼロ)と一では、天地開闢(てんちかいびゃく)以前と以後ほどの筆舌に尽くしがたい違いがあります。そして、一と二の間にも、天地開闢前後ほどではありませんが、天と地ほどに圧倒的な開きがあるのです」

「零と一の間にって言うのは同感だ。『有る』と『無い』とじゃ全然違う。だけど、一と二の間にもか?」


「一とは唯一無二、他に変わりが存在し得ない至高の状態です。しかし二、正しくは二以上とは、どちらがより優れているか比較され、劣る物は淘汰され、やがて一へと至る過程の、不完全な状態を表しているのです」

「なるほど、それは確かに真理だな」

 ただし、『ある一面においては』という前置きが付くけど。


 俺が同意したことで、ユーリシスが得意満面になって俺を(さと)してくる。

「つまり、複数の種類の武器が存在するのは、人が最強を求め手にするためのプロセスに必要な物であり、両手斧という最強の武器を手にし、その行使を選択した以上、両手斧以外は淘汰された存在なのです」


 創造神たるユーリシスのこの理屈と思考が、被造物たる人類に少なからぬ影響を与えているとしたら……両手斧一択って現状を作った理由の一端が垣間見えた気がするな。

 何しろ、全人類における武器を持って戦う人達のうち、実に八十四パーセントが両手斧を選択しているんだから。


「ユーリシスのコンセプトは分かった。その上で敢えて言わせて貰うと……」

 一度言葉を切って、真っ直ぐにユーリシスの目を見る。


「だから人類が滅亡して世界は滅んだんだ」

「……っ!?」


 邪神のような形相で、怒りのオーラをほとばしらせるユーリシス。

 でも、それに怯むことなく、主張すべきを主張させて貰う。


「自分で言ってて矛盾に気付かないか? 人類も魔物も含めて『唯一無二で最強』の一人か一匹が残るまで争い続ける運命の世界だ、っていうならそのコンセプトと合致する。でも、あの世界はそこを目指しているようには見えない。人類の祖先となる種族が、人間、エルフ、ドワーフ、獣人と様々な種族に進化して多様性を獲得したことがその証左だ。そもそも、そのコンセプト通りいくなら、生命は最初から『唯一無二で最強』の人類を一人作っておしまいで良かったはずだろう?」

「それでは知的生命体としての活動も、文明や文化も(おこ)りません」


「それはつまり多様性が必要だったってことだよな? 文明や文化のために多様性が必要なのに、そこで生み出された多様な武器も戦術も最強一つ残して不要って、コンセプトが真逆だと思わないか?」

「っ……」


「冒険者が雷刀山猫ライトニングサーベルワイルドキャットの討伐依頼を避けるのは、一撃は大きくても取り回しが悪い両手斧じゃ、雷刀山猫の素早い動きに太刀打ち出来ないからで、ティオルが勝てたのは、取り回しのいい盾で攻撃を防いで片手剣で素早く反撃できたからだ。この結果で答えは十分だろう」

「それはお前が新しいスキルを授けた結果です。ならば、両手斧でも雷刀山猫に勝てる新しいスキルを授けても良かったはずです。しかも、結局あの新しいスキルがあろうとも、剣と盾では帝王熊(エンペラーベア)には勝てません」


「ああ、それは敢えてそういう性能に設定したからだ」


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