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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第一章 ゲームプランナーの異世界を救う仕事
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31 雷刀山猫の動向

 全く有意義じゃない話し合いの後、日が暮れてしまったので夕食を御馳走になって、そのまま一晩お世話になった。


 一軒はティオルとティオルの母親の、もう一軒は姉夫婦の家ということで、ティオルは姉夫婦の家の子供部屋予定の空き部屋へ。そして俺がティオルの部屋で、ユーリシスが元姉の部屋で寝ることになった。

 正直、女の子の部屋のベッドで寝るのはかなり申し訳ない上に緊張したけど、他に部屋がないって言われたら仕方ない。

 おかげでぐっすり眠れたとは言えなくて、まだ日が昇る前に家人が起き出して仕事を始めた気配ですぐに目が覚めてしまった。


 ティオル達の朝は早く、忙しかった。

 牛……に似た動物と、鶏……に似た動物に餌をやって、村の共同の牧草地へと放ち、厩舎を掃除する。それがティオルとティオルの姉の仕事。

 その間に、畑に水を撒き雑草や害虫を駆除するのが母親と姉の旦那さんの仕事。


 手伝いを申し出たけど、客人だからとやんわり断られてしまった。

 まあ、素人が手を出したところで、むしろ仕事が増えるだけかも知れないから、無理には言い募らなかったけど。


 朝食後もティオル達はまだまだ仕事があるそうなんで、雷刀山猫ライトニングサーベルワイルドキャットに破られ侵入されてしまったっていう防壁の様子を見に行くことにした。


「ここか……一応修理はしてあるけど、なんか心許ないな……」

 防壁の板が腐っていたせいか、外から突き破られて空いた大穴。それを応急修理で打ち付けた板で塞いでいるけど、思い切り体当たりされたらまた突き破られてしまいそうだ。


「防壁の補修や建て替えはしないのかな……普通に古臭くなってるし、他に腐ったり脆くなったりしてる箇所があったら、そこからまた入り込まれるかも知れないのに。それともそんな予算がないくらい貧しい村なのか?」

 あの村長、まさか予算をケチってるんじゃないだろうな。

 まあ、自分の身も危なくなるんだし……さすがにそれはないか?


 そこはかとなく不安を覚えつつ、打ち付けられた板の隙間から外を観察してみる。

 森とは反対側になるおかげか視界は開けていて、木々がまばらに生え、下草が伸び放題に伸びていた。


「さてとそれじゃあ昨夜(ゆうべ)のうちに追加して貰った機能を試してみるか」

 ホロタブを立ち上げて、板の隙間から村の外を映しつつ雷刀山猫の痕跡を検索すると、すぐさま壁の穴から中に侵入して出て行った複数の足跡が表示された。

「一匹、二匹……全部で六匹か……十数匹にもなる群れじゃなくて良かった……と言うべきか?」

 ただ対抗手段が何もない現状、一匹だろうが何匹だろうが大差ない気がする。


「それにしても、こんなにあっさり判明するなら数の調査は俺一人で十分だったな」

 草が生い茂ってて地面はよく見えないし、しかも一週間近く前の痕跡で、足跡なのかただの地面の凹凸なのか見た目には全く分からないのに、ホロタブで区別が付くように表示させただけでこうまでハッキリと把握出来るとは。

 ホロタブ便利すぎだろう。


 狩人とかレンジャーとかの追跡スキルも、ここまで高精度で調べられないんじゃないかな。

 でも、運営側(創造神)公認だから、元来の意味でも最近よく使われている方の意味でもチート能力じゃなくて、デバッグモードの活用ってことでご容赦願いたい。

 何しろ、俺の能力じゃなくて、借り物の便利道具みたいなもんだし。


「とはいえ、グラハムさん達を調査に雇ったのは、あわよくばそのまま討伐も依頼できないかなって期待があったわけだし……何かしら別の手段を考えないと」

 それを考えるためにも、雷刀山猫の群れが現在どこにいて、どう行動するつもりなのかを把握しておきたいな。


 ホロタブの画面を切り替えて、リセナ村の周辺マップを表示する。

 それから、魔物の縄張りを表示するように選択して、リセナ村をタップ。

 すると、リセナ村を外周付近に含めた、およそ直径数キロメートルの歪な円が表示された。

 その歪な円の中に、そこを縄張りにする六匹の雷刀山猫が光点で表示される。

 ステータスを確認すると、雄が一匹、雌が五匹だ。


 『アックスストーム』のメンバーと一緒に襲われた時も、雄が一匹で後は雌ばかりだったから、雷刀山猫はライオンみたいな生態をしているのかも知れないな。雄にはたてがみもあったし。


 群れのボスだろう雄をタップして、その移動した軌跡を表示する。

 全日設定だと生まれてから今までの全ての軌跡が表示されてわけが分からなくなってしまったから、取りあえず直近の十日だけに絞る。

 分かりやすく減ってくれたその軌跡は、縄張りの中をぐるっと反時計回りに動いて、その途中でリセナ村に立ち寄り防壁内へと侵入していた。


「村人が誰も抵抗しない村なんて、必ず餌になる家畜がいる安全な餌場に過ぎないんだから、また来るに決まってるよな。移動ルートや距離を考えると、次に村に来るのは三日後か四日後か……時間が全然ないな、間に合うか?」


 すでに王都へ新しい冒険者を雇いに戻る時間はない。

 次に村へ来た時、家畜を犠牲にして日にちを稼げば打てる手は増えるけど……。

 何も把握していない村人達……特にあの村長に怪しまれないよう説得するのは骨が折れそうだし、食われた家畜の分だけ村人は生活が苦しくなってしまう。それが分かってて家畜を提供してくれるお人好しはいないだろうな。

 ティオルが俺達を連れて来たんだから、ティオルの家から出せって言われそうだ。


 第一、魔物に生け贄を差し出して延命なんて現実的じゃないな。

 いい餌場にされて近くに居座られかねないし、生け贄を差し出すのを止めたらすぐさま村人が餌食にされるだろうし。

 何より被害が出るわけだから、ティオル達の立場が一層悪くなってしまう。


「……なんとしても方策を立てて間に合わせないとまずいな」


 作戦を考えながら、他にも腐っている箇所がないか防壁の内側をぐるっと見て回る。

 複数箇所から侵入されたら目も当てられないし。

 幸い、すぐさまどうこうなりそうな箇所はなかったけど、補修した方がよさそうな箇所はいくつか見つかった。


 たまたま見かけた村長にそれを伝えたんだけど……余所者が余計な真似をするなとばかりに睨まれてしまった。

 随分と嫌われたもんだ。



 ティオルの家の近くまで戻ると、ティオルの家の庭で、ティオルが同い年くらいの五人の少年少女に取り囲まれているのが遠目に見えた。

「友達同士、仲良くお喋りしてる……って雰囲気じゃないな」

 急ぎ足で近づいていくと、その少年少女達は俺に気付いたようで、疎ましそうに俺を睨んでから早々に去って行った。


 遅ればせながらティオルに駆け寄ると、ティオルは俺の視線から逃げるように俯いてしまう。


「ティオル、大丈夫か?」

「はい、大丈夫です」

 俺から視線を外した時点で、ちっとも大丈夫じゃないだろう。


「ミネハルさんはどこに行ってたんですか?」

 俺が次の台詞を言うより先に顔を上げて普段通りにそう言われてしまうと、これ以上は突っ込めないじゃないか。

「あ、ああ、防壁をぐるっと見て回ってたんだ」

「ミネハルさんがわざわざそんなことを? 見回り当番の人の役目なのに、ありがとうございます」


 多分、色々酷いことを言われたはずなのに、それを隠して普段通り振る舞って、丁寧にお礼まで言ってくれるなんて。

 本当に、村長を始めさっきの連中に、このティオルの礼儀正しさを少しは見習って欲しいもんだ。


「それで、ティオルはこれから何を?」

「午前中の仕事は終わったから少しお休みです。それで、少し剣術の稽古をしようと思って」

「休憩時間はちゃんと休憩しないと倒れるぞ?」

「こういう合間の時間を使って稽古しないと、なかなか時間が取れないんです。後で休憩はちゃんと取りますから大丈夫ですよ」

 過労で死んだ身としてはかなり心配だし、剣術の稽古っていうのも興味があるな。


「お邪魔じゃなかったら、その稽古を見ててもいいかな?」

「見て楽しいものじゃないと思いますけど……それでもいいなら、いいですよ」

「ありがとう。じゃあ邪魔にならないように隅っこで大人しくしてるんで、俺のことは気にしないで普段通りにやっていいから」

「はい」

 ティオルは家から剣と盾を取ってくると、一人で剣術の稽古を始めた。


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