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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第一章 ゲームプランナーの異世界を救う仕事
3/120

3 ゲームの世界とリアルの世界

 初回なので一時間ごとに三話連続投稿します。

 第三話。

 俺を包んでいた光が収まり、閉じていた目をゆっくりと開く。


「おおっ……ここが異世界!!」

 目に飛び込んできたのは、中世ヨーロッパ風に見える、だけど、明らかに元の世界では考えられない光景だった。


 石畳で綺麗に舗装された大きな通り沿いに、三階建てから五階建ての古く歴史を感じさせる石造りの建物がずらりと並んでいる様は、実に壮観だ。

 その通りの真っ直ぐ向かう先、恐らくは町の中心部だろう場所には、高く大きな王城がそびえ立ち、これもまた古く歴史を感じさせる壮麗さと重厚さがあった。町中であればどこからでもその威容を見ることが出来るランドマーク、文字通り支配の象徴だ。

 さらに町のどちらを向いても、高くそびえる城壁が見えた。城壁の上には等間隔に見張り塔があって、こちらは壮麗さよりも物々しさが勝っている印象だ。


 後から情報収集したことで分かったこの町の名前は、王都ラガド。

 この世界にいくつかある大陸の中でも最も大きなアルノメニア大陸の、西側沿岸部に位置する大国、リグラード王国の王都だ。

 最も栄えてる国のうち、ポッと出の怪しい奴でも自由に動き回って情報を集められる国の首都がいい。という俺のリクエストで女神様が選んで降り立ってくれたのが、この王都だ。

 そのいかにもな町並は、右を向いても左を向いても異国情緒、というか異世界情緒に溢れまくっている。


 まさに今、俺は異世界転生物の主人公になったわけで……。


「く~~~~……!」

 おかげでこう、胸の奥から忘れていた少年時代の熱い何かが溢れ出してくるというか、クリエイターとしての血が(たぎ)るというか。

 ちょっとどころじゃないくらい、テンションが上がってはしゃいでも仕方ないはず。多少なりともオタクの自覚があれば、きっと誰だって俺みたいになるはずだ。


 なんたって……。


「おおおっ、あれってやっぱりエルフ!? しかもこっちはドワーフ!? なっ、なんてこった、猫耳猫尻尾、うさ耳うさ尻尾の人までいるぞ!?」

 これぞまさに異世界の住人!

 そんな人達が、当たり前のように目の前を歩いている!


「創作の中でしか見られなかった世界が、今、俺の眼前に広がって……! ああ、感動で涙が……!」

 いやもう、年甲斐もなく大声ではしゃいじゃって、通り過ぎる人達からすごい不審な目で見られてしまったのはご愛敬ってことで。


 それと、これはテンションが上がるよりむしろ安心したというべきか、見かけは俺とほぼ同じ、普通に人間って呼べる人達も大勢歩いていた。

 服さえどうにかすれば、異世界人って正体がバレずに融け込めそうだ。


 ただ、少しばかりちぐはぐな印象を受けたのは、町並は中世の頃に見えるのに、大通りには近世に見られたガス灯のような物が等間隔に並んでいて、店のドアやショーウィンドウには普通にガラスが使われている店が多いという。

 いくら似ていてもやっぱり異世界。

 文明や文化、科学技術の発展の仕方が地球とまんま同じってことはないようだ。


「ん……?」

 ショーウィンドウに映った自分の姿に、ふと気付く。

 半病人みたいだった顔色は普通に健康的な色になって、ボサボサの髪と無精髭なんかは綺麗に整えられているけど、正真正銘俺だった。

 服も寝る前に着ていたスウェットのままだ。


「俺は俺のままなんですね?」

 振り返ると、俺のテンションに眉をひそめて若干引き気味だったらしい女神様が表情を改めると、淡々と説明してくれた。

「その通りです。ただしその身体はお前本来の身体ではありません。この世界の物質を用いて私がほぼそのままに創造しました。お前本来の身体は心臓麻痺を起こし、お前の部屋のベッドの中ですでに生命活動を停止しています」


「そう聞くと、ちょっとあれな感じですけど……赤ん坊に転生してやり直しじゃないんですね」

「受精卵に魂を結びつけて転生させるか、新たに創造した肉体に魂を結びつけて転生させるか、その程度の違いしかありません。まっさらな赤ん坊に転生させると脳の発達の仕方が元のお前と異なることで前世の記憶の欠落が発生し、生活環境に応じて別人格になる可能性があるので、敢えて元のお前の身体を複製したのです。ただ、完全に元のままの状態で複製すると、あまりにも不健康すぎていつまた心臓麻痺を起こすか分からないので、その辺りの不安要素は取り除いて健康体として構築していますが」

「なるほど、道理で健康的な顔色になってると思いました。ありがとうございます」

 これはすごくありがたい話だ。


「ちなみにこの新しい身体? は、ゴーレムみたいな作り物じゃあないんですよね?」

 自分で自分の身体に触れてみると、肌は柔らかく、体温も心臓の鼓動もある。呼吸に合わせて胸も上下していて、身体を動かしても全く違和感がない。


「創造したと言っても、土塊(つちくれ)などからではなく、水やタンパク質やカルシウムなどの生命に必要な元素や化合物を用いて創った、一個の生命です。だから元の自分自身の身体のままと考えて構いません。その証拠に、食事も睡眠も必要で、怪我や病気もし、いずれ老衰して死にます」

「なるほど……」

 イメージとしては、異世界に量子テレポートして肉体が再構築されたというか、異世界転生より異世界転移の方がしっくりくるな。


 いずれにせよ、まさに正しく異世界の住人になれたってわけだ。

 新たに世界へ加わった一員としての自覚を持って、さあここからどんな風にゲーム化して世界を救って、この世界を楽しんでやろうか、って町並を見回して……ふと気付く。



 ここは俺が暮らしていた世界じゃないってだけで、住人の姿形は違えど普通に人々が暮らしている、現実の世界なんじゃないか?

 ゲーム感覚で好き勝手に世界を造り替えるってことは、この世界で生きてきた人々の生き様や積み重ねてきた想い、そして未来への夢や希望を、俺が欲望のままに踏みにじる行為に等しいんじゃないか?

 もし、逆の立場でこの状況を捉えたら?



 その考えに至った瞬間、冷や水を浴びせかけられたみたいに、未知の異世界への期待と高揚感が吹き飛んでいた。


「危なかった……初心者クリエイターみたいな恥ずかしい勘違いで、世界を滅茶苦茶にするところだった」

 独りごちて胸を撫で下ろす。


 神様は言葉通り好き放題していいってお墨付きをくれたから、レギュレーションは存在しないと考えていい。

 『試された?』って思わないでもないけど、多分、世界を滅亡さえさせなければ本当にお咎めはないと思う。

 とはいえ、好き放題やるかやらないかは、また別問題だ。


 この世界の人々の生活を、想いを、夢と希望を踏みにじらない。

 これはレギュレーションだ。

 俺が俺にそう定めた。

 そしてその上で、ゲームプランナーらしくこの世界をゲーム化して救うんだ。


「うん、そうだな、それがいい」

 自分に言い聞かせるように頷き、数度ゆっくり大きく深呼吸をしてから、改めて気合いを入れ直す。


 確認するまでもないことだけど、ゲームは単純で、現実は複雑だ。

 そんな複雑な現実で、人々の暮らしに大きな影響が出ない範囲で小さな修正を重ねて、それが社会全体に浸透して結果が出るのに果たしてどれほどの時間がかかる?

 それを確認して、さらに修正を重ねて、その影響を確認して……なんて悠長にちまちまと検証作業を繰り返していたら、何十年、何百年掛かるか分からない。

 多分、世界が滅亡する方が早いと思う。


 だから、現実にゲームの概念を持ち込みゲーム化する。


 複雑な現実の土俵に俺が上がるんじゃない。俺のゲームプランナーとしての土俵に現実を引き込んで、俺の土俵で勝負する。

 恐らくこれが、もっとも単純で効率よく、かつ、最短で確実に世界を救う方法だ。


 だから、やれることとやれないこと、やっていいこととやっちゃいけないこと、まずは企画書や設定資料を読み込むように、しっかり情報収集して見極めないと。

 具体的に何をどう改変するかは、その後だ。


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