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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第一章 ゲームプランナーの異世界を救う仕事

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27 日常にありふれた戦い

「バカ野郎! テメェ何考えてやがんだ!」

 合流を果たしたグラハムさんが、今にもガブッと食らいついてきそうな険しい表情で、俺に向かって開口一番叫んだ。


 荷馬車で雄の追撃を振り切り、諦めて引き返していったのを確認した後、王都へ向かう道をひた走りに走らせる杖の男と揉めること十数分、なんとか説得して戦いの現場へと引き返してきたら、このお叱りというわけだ。


「オレは逃げろっつっただろう! 雄を引き付けろなんざ言ってねぇ! しかもノコノコと戻ってきやがって、もしオレらが全滅してたらどうするつもりだったんだ!? オマエらも食われちまって、オレらが犬死にするところだったんだぞ!?」

 いやもう本当に、ペコペコ平謝りだ。

「でも、あの時はああしないと全滅するかもって思って。それにグラハムさん達ならきっと大丈夫だって思ったから戻って来たんですよ。何よりせっかく勝って生き延びても、怪我の手当も出来ない、水も食料もないじゃあ、目も当てられないじゃないですか」


 釈明した俺に、グラハムさんは杖の男を睨んで、杖の男は疲れたように肩を竦めた。

 俺に視線を戻したグラハムさんは、呆れて言葉もないとばかりに天を仰ぐと、鋭い爪のある大きな手で自分の顔を覆って、盛大な溜息を漏らした。

 しばしの沈黙の後、天を仰いでいた顔を戻して、こんな馬鹿は初めて見たって表情で、もう一度盛大な溜息を漏らす。


「いいか戦場ではな、オマエみたいな馬鹿から真っ先に死んでくんだよ。そんな馬鹿を死なせねぇために、オレらがどんだけ苦労するか分かってんのか?」

「いやもう、本当にご苦労おかけしました」

 もう一度、丁寧に頭を下げておく。


 一応言い訳するのなら、グラハムさん達が生きていること、周囲にもう雷刀山猫ライトニングサーベルワイルドキャットがいないことをちゃんと確認してから戻ることを決めた。

 確認方法は至極簡単、ホロタブの検索機能だ。

 周辺マップを拡大して、GPSのように位置情報を検索。ステータス表示で生死を確認後、戻るよう杖の男を説得し始めたわけだ。

 当然、戻ってくる道中もホロタブで安全を確認しながらだったんで、危険は一切なかった。

 もっともこんなの説明しようもないから、大人しく叱責を甘受したわけだけど。


「それで、グラハムさん達の方はどうだったんですか?」


 聞いた話、俺達に釣られて雄が離れたせいで、どうやら雌達の連携にわずかな乱れが出たらしい。

 その隙を突いて、麻痺して倒れていたドワーフの男を守っていた三人が、牽制していた三匹のうち一匹に深手を負わせて均衡を崩し、なんとか盛り返したそうだ。

 さらにもう一匹に深手を負わせて形勢が完全に傾いたタイミングで、片目に怪我を負った雄が戻って来て雌達と共に撤退。深追いはせず、なんとか助かった、と。


「今回の結果は出来すぎだ。いつもこんな上手くいくなんて勘違いすんじゃねぇぞ」

「そうですよね、済みません」

 改めて頭を下げた俺に、グラハムさんは表情を緩めてニヤリと笑うと、ポンと俺の肩を叩いた。

「ま、しなきゃならねぇ説教はしっかりさせて貰ったわけだが、正直、オマエの機転には助けられたぜ。あのままオマエらが素直に安全な所まで逃げ出してたら、今ごろオレらはあいつらの胃袋の中だった」

 やっぱり、俺の予想は的中していたのか……良かった、人死にが出なくて。


 未だに麻痺の状態異常が消えず、地面に転がったまま動けないメンバーが二人。

 ティオルも手伝って、全員の怪我の手当てをしている。


「作戦が嵌まって良かったですよ。それもこれも、ティオルが頑張ってくれたおかげですから」

「あ、あたしですか? あたしは別に何もしてないですよ?」

 手当の途中でこちらを向くと、顔を赤らめてあわあわと慌てるティオル。

 そのキョドった様子がどこか小動物っぽくて、ちょっと和む。


「なんにもしてないなんてとんでもない。最初、その盾で彼を庇っただろう」

 馬達に飼い葉や水をやっている杖の男に視線を向ける。


「逃げる途中も、弓なんて使ったことがない俺を補助して雄を引き付ける手伝いをしてくれて、荷台に飛びかかられたときは、倒れて動けない俺の代わりに剣で切りつけて撃退してくれたじゃないか」

「あ、あれは、無我夢中だったから」

 謙遜した上で、何故か表情を曇らせて俯いてしまうティオル。


 そんなティオルの脇に置かれた二本の深い傷跡を残す盾を見つめて、グラハムさんはニヤリと笑った。

「そうか、お嬢ちゃんも身体を張ってくれたのか。盾なんざクソの役にも立たねぇなんて言って悪かった。おかげで助かったぜ、ありがとうよ」

 礼を言ったグラハムさんに続いて、他のメンバー達も口々に礼を言う。


「い、いえ、そんなあたしなんて……」

 せっかく認められたのに、ティオルは喜ぶどころか、逆に困惑してどうしていいのか分からないって顔で益々俯いてしまった。

 褒められたんだから素直に喜べばいいのに。


 そもそも、何もしてないと言えば、ユーリシスだ。

 少し離れた場所で、一人腰を下ろしてるユーリシスに近づいて確認する。


「なあ、ユーリシスなら、あの場はなんとか出来たんじゃないか? 魔法でも神の奇跡でも、どうとでも対処出来ただろう?」

「出来るか出来ないかで言えば、出来ました」

 手当てを終えて後始末を始めたグラハムさん達に目を向けたまま俺には顔を向けず、そして悪びれもせず、淡々と答えるユーリシス。


「じゃあ、なんでしてくれなかったんだ?」

 責めるつもりはないけど、この先似たような状況に陥ったとき、どの程度ユーリシスを頼れて頼れないのか、その線引きと理由は知っておきたい。


「私は神ですよ。それも、この世界の創造神です」

 そこで、ようやく俺に目を向ける。ただ、その瞳には特にどうこう言うような感情は含まれていなかった。

「確かに私は、お前に協力して人を滅亡から救うためにここにいます。しかしあの魔物も私の被造物です。それは人となんら変わりません。創造神として、特定の種族のために、弱肉強食によるただの生存競争への無意味な介入はしたくありません。仮に今回私が介入したとしても、人類滅亡の回避になんら()することはないのですから」

「なるほど……」


 被造物たる人が神の子なら、被造物たる魔物も神の子か。

 心情的にはともかく、理屈としては納得せざるを得ないな……。


 そんな俺の心情に気付いたのか、淡々とした口調を変えることなく、ユーリシスは言葉を続けた。

「今回は、あの者達が勝ち、魔物が負けました。人の立場から言えば、そうあるべきなんでしょう。しかし仮にあの者達が負けて魔物達の餌になったとしても、そのような事態はこれまでも数え切れない程起きてきた、そしてこれからも起き続ける、ごく当たり前の出来事です」


 そこで一旦言葉を切ると、立ち上がって真正面から俺を見つめてきた。


「お前が世界を救わなければ、最後の一人が消え去るまでその光景は続くでしょう」

 どこか他人事のように、だけど他人事には出来ないように、初めてわずかに声が揺らいだ。


「……そうだな、ユーリシスの言う通りだ」

 俺がチートっぽい能力を手に入れて無双することの無意味さがそこにある。

 こんな日常にありふれた戦いの一つ一つの勝ち負けに干渉したところで、大河に一滴の雫を落とすようなものだ。そんな小さな波紋なんて、すぐに流れに飲み込まれて消えてしまう。

 俺がすべきなのは、もっと大きく流れを変えることだ。


「責任重大だな」

「何を今更。世界の創造と救済は遊びではないのですよ」

 責任の重さに思わず苦笑してしまった俺を、特に責めるでも蔑むでもなく、ユーリシスの声音は、最後まで淡々としていた。



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