19 SSRより超レアな出会い
今回『アックスストーム』の魔物討伐に同行出来たのは、想像以上にラッキーだった。
魔物対策の具体案を立てる前にどうしても現場を見ておきたかったから、気さくに話が出来る人達で本当に助かったよ。
何しろ、この世界の冒険者って、ラノベやアニメでよく見る冒険者のイメージと重ならない部分が色々あるもんだから、どう判断すればいいのか困っていたんだ。
まず、俺達が乗っている荷馬車なんだけど、やたらと大きい。
アニメや漫画でよく見る行商人の荷馬車の、ゆうに倍以上はある大型サイズだ。
それなのに、乗っているのは俺とユーリシスとティオルのお荷物三人組だけで、後は御者台に『アックスストーム』のメンバーが交代で一人、御者しているだけという。
俺達以外に荷台に載っているは、まずは全員の数日分の水と食料、そしてテントその他の野営道具。ロープの束が五つと、折り畳まれた一枚の大きな布。後は何が入っているのかよく分からないけど、色々と道具を詰め込んであるらしい一抱えもある袋が二つ。それと一抱えある中身が空の木箱がいくつか。さらに、馬達の為の飼い葉になる藁束。
そして、七本の両手斧。
なぜか両手斧ばかり七本もだ。
それだけ載っていても荷台にはまだまだ余裕があって、ガラガラに空いていると言っていい。
さらに言えば、荷馬車を引くのは元の世界の馬とほぼ同じ姿形の、太く低くガッシリとした道産子のようなパワフルな馬だ。それが四頭立てなもんだから、馬達はパワーが有り余っている感じで荷馬車をグングン引いて進んでいく。正直、二頭立てでも十分だったと思う。だけど質問してみたら、帰りを考えると四頭必要なんだそうだ。
で、両手斧ばかり七本も載っている理由は、『アックスストーム』が八人パーティーで、グラハムさん含む七人が両手斧を使っているから……だろうな。
太くて短い両刃、柄の長い片刃、とにかく大きな両刃、先端に小さな槍の穂先が付いている片刃、などなど、種類だけは豊富で、両手斧の見本市みたいだ。
さらに言えば、七人全員がちゃんと両手斧を背負っていて、荷台のは予備っぽい。
そして残りの一人が、冒険者ギルドで助け船を出してくれた人間の男で、杖持ちという構成だった。
一応、道具の入った袋の影に弓矢が一組載せてあるから、誰か使いはするんだろう。
パーティーメンバーの種族は、グラハムさんが虎型獣人で、それ以外のメンバーは人間が二人、ドワーフが三人、エルフが一人、犬型獣人が一人。
全員男で、年齢はおよそ二十代前半から四十代前半くらい。
交代で御者をしてる一人以外全員、道産子のようなパワフルな馬に乗っている。
俺達が払った護衛報酬があるからこその大盤振る舞いって話で、四頭立ての荷馬車は毎回必須らしいけど、御者以外のメンバーは徒歩が普通らしい。
ちなみに馬も荷馬車も全部冒険者ギルドからのレンタルだそうだ。
冒険者ギルドがそういうレンタルサービスをやっているって追加情報を得られたのも、非常にありがたかった。
休憩の準備中、一応護衛対象のお客さんってことで手伝いは断られたんで、持て余した時間を使って、グラハムさんに疑問をぶつけてみる。
「ところで、杖の人以外は、みんな両手斧なんですね」
「何言ってんだ、当たり前だろう。両手斧以外、何を使えってんだ?」
その返事がこれだ。
「両手斧一択ですか?」
「魔法が使える奴は杖を持てばいいし、魔物に近づくのが怖ぇなら弓でもいいだろうが、殴り合うなら両手斧じゃねぇと駄目だろうが」
『金持ちのボンボンってのはそんなことも知らねぇのか?』みたいな呆れた目で見られてしまったわけだけど、どうやらこれも、この世界じゃ常識みたいだな。
「鍛え上げた肉体のパワーを乗せて、ドガンと魔物に叩き付けてぶち殺す。その破壊力こそが正義ってもんだろう」
「そういうもんなんですか?」
「ああ、そういうもんだ」
最初に市で見かけた男六人組の冒険者達も、果物の露店前で見かけた女四人組の冒険者達も、一人を除いて全員が両手斧だった。
恐ろしいことに、今日までに見た冒険者の武器は、両手斧と弓と杖だけという……。
ティオルが剣と盾を持ってはいるものの、ティオルはただの村娘だ。
剣と盾こそスタンダードで、後は槍とかの長物を推奨くらいに思っていたのに。
それが、この偏り。
圧倒的な両手斧率の高さ。
そこはかとなく嫌な予感がしないでもないけど……ユーリシスが言うように、俺がゲームの常識で考えてしまって、現実とのギャップに戸惑っているだけなんだろうか?
荷馬車を降りて一息吐くユーリシスの隣に腰を下ろして、声を潜める。
「なあユーリシス」
「なんですか、滅ぼしますよ」
「俺だってお尻が痛いんだ。だから話しかけたくらいで滅ぼさないでくれ」
かなりイライラしてるな。
分からないでもないけど、いちいち俺を睨むのは止めて欲しい。
「それよりホロタブ使いたいんだけど、いいか?」
「その程度であればいちいち私に許可はいりません。好きに見ればいいでしょう」
「そうか、ありがとう」
よほどお尻が痛いのか疲れたのか、どこか投げやりな感じだけど、許可が出たんで早速手元にホロタブを表示する。
武器を持っている人達を対象に、『両手斧』や『片手斧』、『両手剣』や『片手剣』など、武器の種類ごとの使用率を、全世界で検索かけて円グラフにして表示してみた。
「なんっ……!?」
なんだこれ!?
思わずそう叫びそうになって、慌てて口を塞ぐ。
八十四パーセント強が、たった一色で染まっていた。
両手斧だ。
次いで、弓が八パーセント、杖が五パーセント。
さらに片手斧と両手槍がほぼ一パーセントずつ。
それ以外の武器は合計して一パーセントにも満たない。
「なあユーリシス、これ、いくらなんでも偏りすぎじゃないか!?」
こそっと訴えかけるけど、返ってきたのは冷めた目だ。
「一番優れた武器を選ぶのに、なんの疑問があるというのです」
「種族でも武器でもスキルでも、ゲームでこういう極端な偏りを見せる時は、大多数を占めるそれの性能がぶっ壊れているか、他がしょぼすぎて大本のバランスが悪過ぎるかのどっちかなんだが!?」
「これはゲームではなく現実だと、何度言えば分かるのですか」
いやしかし、だとしてもだ。元の世界の歴史だって証明している。弓や槍を除外して考えれば、主力武器は剣や刀だし、敵の攻撃を受ける最前面は片手武器と盾の構成だ。
「剣より斧が発達した歴史があるとしても、なぜ両手斧ばっかりなんだ? それなら片手斧と盾でもいいはずだ。肝心の盾持ちは全世界で――」
改めて数値を確認して、驚愕に声を失ってしまう。
たった五人!? この世界で盾を使っているのがたった五人!?
「――いやいやいやいや、たった五人しかいないって、いくらなんでもちょっと普通じゃないだろう!?」
ユーリシスに詰め寄って、はっとティオルを振り返る。
地面に腰を下ろして所在なげに休憩しているティオル。
SSRより超レアな全世界でたった五人しかいない盾持ちの一人が目の前に!
俺の驚愕の視線に気付いたらしいティオルが、その視線の意味が分かっていない困った顔で、小首を傾げながら微笑む。
すごい巡り合わせがあったもんだ。
俺のゲーマーとしての、そしてプランナーとしての勘が感じ取ったのは、このことだったのかも知れない。
だとすれば、考えるまでもなく、この巡り合わせを活かさない手はない。
情報収集のために、ティオルの隣に座り直す。
「ティオル、少し話を聞かせて貰ってもいいかな?」
「は、はい、いいですよ。でも、あたしで答えられるようなこと、あるでしょうか?」
「ああ、もちろん。ティオルについて聞かせて欲しいんだ。特に、どうして剣と盾を使ってるのか、とかね」




