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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第一章 ゲームプランナーの異世界を救う仕事
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15 冒険者への依頼

「さて、登録も終わったし、誰かに話しでも……」

 と振り返ってみれば、冒険者はすでに誰もいなかった。

 どうやら話を聞いて登録している間に、三人いた冒険者達は帰ってしまったらしい。

「参ったな……どうしたもんか」


 と、頭を悩ませていたら、ドアが開いてドヤドヤと数人の冒険者が入って来た。

「リーダー、こいつです。今日貼り出されたばっかりみたいですぜ」

帝王熊(エンペラーベア)討伐か、こいつは運がいい!」

 先頭で案内している冒険者は、さっき俺達が入ってきた時に依頼書を見ていた三人のうちの一人だった。

 案内されたリーダーだという男は、その依頼書を壁から剥がすと、真っ直ぐカウンターへ向かう。


「姉ちゃん、この依頼、オレら『アックスストーム』が受けるぜ」

「いつもありがとうございます。帝王熊の討伐依頼ですね、承りました」

 その冒険者達は常連なのか、特に注意事項や契約上の確認などなく、すぐさま契約書類が作られていく。


 こいつはチャンスかも知れない。


 手続きが終わってから、どう話を切り出そうか考えていると、にわかに外が騒がしくなり、またしてもドヤドヤと冒険者達が入って来た。

 で、すぐさまカウンター前に集まっている『アックスストーム』って名乗った冒険者達を驚愕の顔で指さす。

「お前ら、まさか!?」

「おうよ、帝王熊は先に戴いたぜ」

「畜生! 遅かったか!」

 ふむ、帝王熊の討伐依頼って、そんなに人気なのか?


 と、またしてもドタバタと別の冒険者達が走り込んできた。

「くそっ、出遅れたか!」

 地団駄を踏んで悔しがる、さらに後から入って来た冒険者達。

 どうやら最初に見た三人はそれぞれ別のパーティーに所属していて、早い者勝ちで依頼を受けるために仲間を呼びに行っていたみたいだな。


「オマエらせっかく来たんだ、代わりに雷刀山猫ライトニングサーベルワイルドキャット討伐でも受けてったらどうだ? 選り取り見取りで余ってるぜ?」

「冗談だろ」

「命がいくつあっても足りねぇよ」

 『アックスストーム』のリーダーが揶揄すると、他の冒険者達は、みんなすごすご引き下がって出て行ってしまった。


 やたらと長い名前の雷刀山猫だけど、所詮は山猫だろう? 帝王熊の方がよっぽど怖くて危険そうだけど、そんなに恐れられて人気がないのか?

 貼り出されている依頼書をざっと眺めていくと、確かに十枚近く、雷刀山猫討伐の依頼書は出ていた。というか、依頼書のおよそ半数近くが魔物討伐だ。

 対して、帝王熊の討伐依頼は一枚も残っていない。


 これが意味するところは――

「ありがとよ姉ちゃん。今回もきっちり仕留めてたっぷり儲けてやるぜ」

 ――おっと、どうやら手続きは完了したみたいだな。

 カウンターを離れてドアへ向かう『アックスストーム』の面々の前へ、緊張でバクバクする心臓を宥めながら、にこやかな笑顔を作って進み出る。


「今日は、帝王熊の討伐依頼を受けた皆さんにお願いがあるんですが、話を聞いて戴けませんか?」

「あん、なんだ兄ちゃん?」

 リーダーが強面をしかめて、ずいと身を乗り出して俺の顔を覗き込んでくる。

 やばい、かなり……滅茶苦茶怖い。


 何しろそのリーダー、身の丈二メートルはある虎型獣人だ。

 顔はまんまタイガーマスクって感じで、そのごつい体躯には文字通り虎縞の体毛が生えている。腕の筋肉だけで、ユーリシスのウェストより太そうだ。

 装備は革製の胸当て、腰当て、肩当て、籠手、ブーツ、脛当てと、他のパーティーメンバーより充実していて、文字通り野獣のような迫力がある。

 だけど、いきなり話しかけた俺に対して『邪魔だ失せろ!』なんて乱暴しない辺り、見かけと態度が粗野なだけで、中身は悪い人じゃないのかも知れない。


 だから一度深呼吸して、丁寧な物腰を心がける。

「俺の名前は直嶋峰晴……いや、ミネハル・ナオシマって名乗った方がいいのかな? ほんの今さっき、冒険者になったばかりなんです」

 名刺代わりに、冒険者の身分証を差し出す。


「どこのボンボンか知らねぇが、オマエが冒険者? 新人にしてもお粗末すぎんだろ」

 リーダーは俺の頭のてっぺんから爪先まで、無遠慮にジロジロと値踏みして苦笑を浮かべる。

 他のメンバーに至っては、失笑しているし。

 まあ、俺もデスクワーク舐めんなってくらいひょろい身体をしているから、失笑されても仕方ないって思うし、特に気にしない。

 そもそも、冒険者って肩書きはただのアンダーカバーだ。


「耳慣れねぇ名だが、その新人がオレらになんの用だ? パーティーに入れてくれなんて冗談ならよそでやってくれ。依頼を受けたばかりで忙しいんだ」

「その依頼についてなんですけど、俺達にその仕事を見学させて貰えませんか?」

「はあ? 見学だぁ? 『俺達』って他に……」

 俺がチラッと視線だけで、尊大な態度で椅子に腰掛けているユーリシスを振り返ると、リーダーは呆れて二の句が継げないって顔になる。


「魔物討伐を世間知らずのボンボンとお嬢ちゃんの娯楽か暇潰しくらいに思ってるんじゃねぇだろうな? こちとら命を賭けて魔物とやり合ってんだぞ」

「いやいや、娯楽なんてとんでもないです」

 自分達の仕事にプライドを持ってるみたいだし、むしろ好感度アップだ。

 適当に誤魔化すよりここは正直に言った方が心証いいだろう。


「実は俺達、実際に冒険者がどう魔物と戦っているのか、どんな魔物がどんな風に襲ってくるのか、色々と調べたいんです」

「はあ? そんなこと調べてどうしようってんだ?」

 さすがに『世界をゲーム化して救うための情報収集です』とは言えないな……どう言えば納得してくれるかな?


 と、思わぬ所から助け船が出た。

 リーダーの後ろに控えていた、他のメンバーより比較的まだ細身の杖を手にした人間の男が、思案して俺に確認してくる。

「君、学者か何か? (まれ)に聞くんだが、博物誌や魔物図鑑の編纂(へんさん)かなんかのために実地で調べたいからって、護衛依頼を出してくる人がいるらしいんだが」


 おおっ、いいねそれ。

 冒険者や魔物のことを調べやすいアンダーカバーだ。

「はい、実はそんな感じなんです」


 これ幸いと勢い込んで乗っかると、助け船を出してくれた男が笑いを堪えたような微妙な顔になった。

「そ、そうか。じゃあ是非ともロッズウォルト博物誌より役に立つ物を編纂してくれ」


 ロッズウォルト博物誌?

 よく分からないけど、この微妙な顔からすると、その博物誌は相当に微妙な代物なんだろうな……。

「もちろん、そのつもりです」

 取りあえず、やる気に満ちたいい顔をして乗っかっておこう。


 参考までに、後でロッズウォルト博物誌っていうのを調べておくかな。

 もしかしたら、有益な情報が載っているかも知れないし。



 その後、足手まといだから付いてくるなとリーダーに断られそうになったけど、王都に無事戻ってくるまでの護衛を依頼するってことでなんとか話を付けて、同行する許可をもぎ取ることが出来た。



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