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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第一章 ゲームプランナーの異世界を救う仕事
14/120

14 冒険者ギルド

「本気で昼過ぎまで寝るか?」

「『二度寝』を教えたお前が私を責めますか? 滅ぼしますよ」


 陽がすっかりと頂点を過ぎて傾き始めた頃、ようやく宿を出て俺とユーリシスは二日目の情報収集へと動き出す。

 照れ隠しの憎まれ口ならまだ可愛げがあるのに、二度寝を恥じ入るどころか、理不尽な責任転嫁するなとばかりに侮蔑するような目で俺を睨んでくるのは、それこそ理不尽だろう。


「それとだな、遅れを取り戻したいなら、もうちょっと早く歩けないか?」

「……お腹が重たくて、素早く動けません」

「ああ、そうだな。昼飯の食い過ぎだ」


 こちらは多少恥じ入る気持ちがあるらしい。わずかに目元を赤らめて、明後日の方へ視線を逸らしてしまう。

 食事の楽しみを覚えたのはいいけど、限度も一緒に覚えて欲しかった。


 置いていくわけにもいかないから、隣を歩くユーリシスに合わせて、のんびり散歩するくらいまでペースを落とす。

 世界を救うための情報収集へ向かうっていうのに、なんとも気が抜けるやり取りになってしまったもんだ。


「この時間だと、冒険者達はもう仕事に出て、ギルドには残ってないかもな……」

 昨日集めた情報によると、現状、魔物討伐の一番の戦力は冒険者になるようだ。

 だとすれば、魔物の脅威を押し返すために冒険者の協力は必要不可欠になるだろうし、冒険者ギルドのシステムとその戦力の実態を把握しておく必要がある。

 詳しく話を聞くのは当然として、出来れば魔物と戦うところを生で見てみたい。

 それらの情報を得た上で、世界を救う方向性について詳細を検討したいところだ。


 と、意気込んではいるものの……。

 それとは裏腹に、宿から三十分もあれば着きそうな距離をたっぷり一時間以上かけて、ようやく西区の大門にほど近い冒険者ギルドの前へとやってきた。


「うわ……ボロくて小さ……」

 冒険者ギルドだという石造りで二階建てのその建物は、思わずそう呟いてしまう程、薄汚れて小さかった。

 敷地はそれなりの広さがあるものの、本館はおよそ一軒家程度の大きさだ。

 本館の右隣には、三階建てほどの高さのある倉庫のような建物。

 左隣には十数頭は入れそうな厩舎。

 どの建物にも補修されていないヒビや欠けた箇所があちこちにあって、ひどくくたびれた感があった。


「魔物討伐の最前線で戦ってる冒険者達のギルド……ってイメージからすると、あまり儲かってないというか、権威も権力も感じられないな……」

 通りを中央に向かって少し歩けば、昨日情報収集した(いち)が立っている賑やかな区画になる。西区には他にも商店が多く軒を連ねていて、人通りが多く、他の地区より活気がある地区だ。

 だけど、ここは大門から近く行商人の荷馬車や旅人らしい人達が頻繁に行き交う割に、賑やかという雰囲気じゃない。

 何しろ、冒険者ギルドの建物が見えてきてからこうして建物の前に立つまでに、ギルドへ出入りした人は皆無で、誰もが冒険者ギルドには目もくれずに通り過ぎていく。


 そんなギルドの建物を見て、あからさまに眉をひそめるユーリシス。

「このような薄汚い場所が冒険者ギルドですか? 本当に役に立っているのですか?」

「この世界の創造神が自分でそれを言うのか?」

「神たるこの私が、被造物たる人が建てた物をいちいち把握や管理運営するわけがないでしょう」

「ああ、それはごもっともな話で」

 神は高みから見下ろし、ただそこに在るだけ、か。


「ともかく入ってみようか」

 あまり気乗りしないらしいユーリシスを促して、分厚く頑丈だけどくたびれている木製のドアを開いて、建物の中へと入る。

 建物の中は、外観と同じくくたびれた感じのする、役所みたいな造りになっていた。


 入り口正面から右側の壁際まではカウンターになっていて、俺と同い年くらいに見える人間の受付嬢が一人座っている。スペース的に四人は座って業務を出来そうな広さがあるけど、暇な時間帯だからなのか、今はその女性一人だけだ。

 カウンターの正面になる入口側の壁は一面まるまる掲示板で、羊皮紙の依頼書が何十枚と貼り出されていた。

 誰もいないかと思いきやラッキーなことに、話を聞けそうな蛮族スタイルの冒険者が三人、難しい顔をしながらそれを眺めて仕事探しをしている。


 入り口から向かって左側は、奥に二階へと続く階段と、手前に木製の椅子とテーブルが置いてあって、四人ずつ二組が座れるようになっていた。

 重たい武器や金属鎧でもぶつけたのか、椅子にもテーブルにも大きな傷が付いているところを見ると、冒険者の待ち合わせ用や休憩用かも知れない。


「閑散としていて有益な話が聞けるのか疑わしいですね。後は好きにしなさい」

 まだ着いたばかりで何もしてないのに、もはや興味は失せたって顔で、ユーリシスは左側の椅子に腰を下ろしてしまう。

 歩き疲れたのか、まだお腹が重たいのか、あるいは両方か。

 まあ、俺が話を聞く間、特に何をして貰うでもないから構わないけど。


 というわけで、まずは冒険者ギルドのシステムを詳しく把握するため、俺一人だけでカウンターへと向かう。


「済みません、初めて利用するんですけど、お話を聞かせて貰っていいですか?」

 受付のお姉さんは、一瞬チラリとユーリシスへ目を向けて、それから俺に目を戻すと、にこやかに対応してくれる。

「いらっしゃいませ。お仕事のご依頼についてでしょうか?」

 黒のゴシックドレスという装いで、どこか尊大な態度のユーリシスを、貴族の令嬢か商人の娘とでも思ったのかも知れない。

 だから、その勘違いに乗っかっておく。


「そうですね。あと一応、冒険者になるための手続きについてもいいですか?」

「はい、畏まりました。ではまず、お仕事のご依頼をされる場合ですが――」


 要約すると、以下のような手順だった。

 このカウンターで、依頼主の名前、住所、種族、性別、年齢、依頼内容、期限、報酬、未達成時の違約金、注意事項などを依頼書に記載。

 事務手数料として二十リグラの支払いと、記載した通りの報酬を必ずその場で前払いしてギルドに預ける。

 後は、その依頼書が壁に貼り出されるので、冒険者が受けてくれるのを待つ。

 以上。実にシンプルだ。


 とはいえ、付随する注意事項はそこそこあった。

 護衛仕事の場合は報酬を前払いと後払いに分けて、前払い分を依頼時にギルドに預け、後払い分を達成時に直接冒険者へ支払う必要がある、とか。

 依頼を受けてくれた冒険者がいるのかどうか、また魔物討伐や採集依頼であれば達成した証拠の品がギルドへ提出されているかどうか、それらを確認するには、基本的に依頼主が冒険者ギルドへ足を運んで確認しないといけない、とか。

 万が一依頼主と冒険者の間でトラブルが発生した場合、双方の話し合いによってこれを解決する必要があり、両者間のトラブルにギルドは一切関知しない、とか。


 しかも、魔物討伐の場合、魔物の種類さえ分かっていれば、その正確な数や巣が分からなくても依頼を出せてしまうのに、ギルドでは調査すらしない、とか……。

 それに加えて、調査しないのは魔物についてだけじゃなく、依頼人の身元や依頼内容についても裏付け調査をしない、という……。


 あまりにもあまりなんで、つい説明に割り込んで質問してしまう。


「万が一、依頼主が名前や住所など身分を偽って、偽の依頼や冒険者を(おとしい)れる依頼をした場合は?」

「繰り返しになりますが、依頼主に関して、ギルドで身元を調査することはありません。依頼時に報酬を預けて戴くことは変わりませんので。もし冒険者に対して悪意ある依頼をされた場合は、預けて戴いた報酬の返金はなく、その冒険者に対する見舞金として支払われます。また、そのような依頼主には、依頼を受けた冒険者および他の冒険者達から相応の報いが与えられる場合があります。そのような事態になっても、ギルドは一切関知いたしません」


 つまり、偽の依頼で冒険者が殺されたり、悪意ある依頼主が冒険者の報復で殺されたりしても、全ては自己責任で、ギルドは知らぬ存ぜぬ、というわけだ。

 信用第一はいいとしても、あまりにも自己責任の範囲が広すぎるシステムだ。

 これは、冒険者ギルドの役割や責任がかなり軽い……というか、ほとんど斡旋と受付窓口の機能しかない、と言うべきか。

 ギルドの取り分も、報酬の上前をはねるでもなく、事務手数料のみだし。

 その分、面倒事が起きても知りませんってことなんだな。

 道理で、建物がボロくて小さくて人員が少なくても構わないわけだ。


「ご依頼についての説明は以上ですがよろしいでしょうか? では次に冒険者になるためと、依頼を受けるための説明をさせて戴きます」


 要約すると、以下のような手順だった。

 このカウンターで、名前、住所、種族、性別、年齢を登録書類に記載。

 身分証と登録書類に、所謂IDと似顔絵が記載されることで本人証明とする。

 事務手数料と発行される身分証の代金として四十リグラ支払う。

 以上。

 依頼をするのに対して、登録はあまりにも簡単だった。

 手間なのは、似顔絵を二枚描いて貰わないといけないってところか。


 注意事項も多くはなかった。

 身分証を紛失した場合は、紛失したIDは失効し、新しいIDで再登録と身分証を発行して貰い、改めて四十リグラ支払う。

 紛失した物、再登録した物を含めて、登録書類はギルドが管理する。基本的に非公開だが、何かあればギルドの判断によって公開されることもある。

 そしてやっぱり、登録希望者の身元調査は行わないそうだ。


「もし犯罪者が正体を隠して登録した場合は?」

「そのまま登録されます。ただし、そうして登録した冒険者が犯罪を犯した場合、ギルドを通じて他の冒険者に情報が共有されます。冒険者は信用商売でもありますので、他の冒険者から命を狙われたり、悪質な犯罪の場合は懸賞金が懸けられることもあります」

「冒険者ギルドから、その冒険者へのペナルティは?」

「こちらのギルドでの依頼の斡旋をお断りしたり、悪質な場合は冒険者の身分証を失効させ返納して戴きます。そのような事態になった場合、冒険者全体の信用を(おとし)めたとして、他の冒険者達から所謂制裁的な措置が()られる場合がありますが、それは冒険者間のトラブルとして、ギルドは一切関知いたしません」


 これも全て自己責任で、ギルドは知らぬ存ぜぬ、というわけか。

 でも、身元調査をしないのは無責任……という反面、冤罪をかけられて逃げてきたり、犯罪から足を洗って更生しようとしたり、再出発するには都合が良さそうだ。


「続きまして、依頼を受ける場合ですが――」


 依頼を受ける手順はもっと簡単だった。

 壁に貼り出されている依頼書を選んでカウンターへ持ってくる。

 依頼を受ける冒険者は身分証を提出し、依頼の契約書類に名前とIDが記載される。

 以上。


 こちらの注意事項も多くなかった。

 依頼を達成したらギルドの受付に報告して、提出すべきを提出し、依頼時に預けられていた報酬を受け取る。

 冒険者側から依頼の達成を断念する場合、契約書類は破棄され違約金をギルドに預け、前払い報酬がある場合は全額返金する。

 当然、依頼主と揉めた場合、自己責任で話し合い、ギルドは一切関知しない。


 さらに時間をかけてもっと詳しく話を聞いたところによると、依頼するにせよ受けるにせよ、ちょっとした有料サービスやら、細かな契約の規約やら、書類の取り扱いやら、他にも注意して聞いておくべき点は色々あった。


「なるほど、よく分かりました。ありがとうございます」

 総括すれば、一般市民が冒険者を頼りにしている割に、冒険者側の自己責任が大きく、ギルドとしてのシステムやサービスは、あまり充実していないようだ。

 現代日本のおもてなし精神やサービスに慣れている身としては、かなり不親切な印象が否めない。

 これじゃあ、依頼主と冒険者の間でトラブルは絶えないと思う。


 特に魔物討伐で、魔物の数が分からないなんて依頼、危なすぎて受ける奴は普通いなさそうだし、受けたとしても食いっぱぐれて仕事がないような奴らとしか思えない。

 しかも、冒険者や魔物にランクがあるわけでもなく、依頼内容ごとに難易度設定がされているわけでもなく、好きな依頼を自己責任で好きに受けてくれ状態だ。

 あまりにもリスクが大きすぎる。

 俺なら、こんな不親切なシステムは速攻で没にして仕様変更する、絶対に。


 受付のお姉さんは、それで依頼ですか登録ですかと問うように、俺を見つめてきた。


「ユーリシス、ちょっとこっちにいいか」

 手招きすると、話があるなら自分がこっちへ来い、とばかりに動こうとしない。

 仕方なく、ユーリシスのところまで行く。


「この世界で俺達の身元を保障する人も身分を証明する物も何もないから、取りあえず冒険者として登録しようと思うんだけど、どうだろう?」

「私は神ですよ。この私の被造物たる人に存在を証明される物を与えられなければならないなど、滑稽を通り越して不愉快です」

「まあ言いたいことは分かるけど、そう言わずに。本当の事を言うわけにもいかないし、その辺りを誤魔化すためにも、持ってた方が何かと都合がいいと思う」

「……仕方ありませんね、気が進みませんが」


 というわけで、依頼を受けるかどうかはともかく、二人で冒険者として登録する。

 犯罪者であっても身元調査しないと言うだけあって、およそ冒険者に相応しくないだろう出で立ちの俺達であっても、特に追求されたり止められたりすることなく、淡々と手続きは進められた。

 記載した住所は適当に南区の宿屋にしておいたのに、突っ込まれもせず通るし。

 こんな調子で、よくこれまでやってこられたもんだな、冒険者ギルド。


 ちなみに、身分証明となる似顔絵の出来がユーリシスはかなり不満だったらしく、納得いくまで何度も描き直させて、絵描きさんにはちょっと申し訳なかった。



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