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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第三章 アップデート『天より来る魔狂星』
117/120

117 魔法学会 4

「ふざけているのか!?」

「オランド博士程の者が何を馬鹿なことを!」

「我々を馬鹿にしているのか!」

「博士号を持ちながらそれとは、先ほどの三人よりよほど(たち)が悪い!」


 ほぼ全ての学会員が、非難囂々(ひなんごうごう)、口から泡が飛ぶほどの罵声を浴びせかけてくる。

 中には、完全にレイテシアさんを馬鹿にして、腹を抱えて勝ち誇ったように笑っているリカルドやエリオットみたいな奴もいるけど。


 でもまあ、当然の反応だろう。

 レイテシアさんの話だと……。


「オランド博士、以前『実は呪文などなんでもいいのではないか』などと馬鹿なことを口にした者がどうなったか、知らぬわけではあるまい?」

「博士号剥奪の上、魔法学会から追放され、完全に干されたと聞き及んでいます」

 ……ということがあったらしい。


「それを承知の上で、先ほどの発言というわけかね?」

「その通りです」

 レイテシアさんは、見込み違いで残念だと言わんばかりのブレーク博士を、堂々と真正面から見つめ返す。


「ブレーク博士を始め、皆さんはどうやら思い違いを、いえ、現実が見えていないようですね」

 その態度に、より一層罵声が激しくなる。


 けれど……というか、罵声が激しくなればなるほど、レイテシアさんの不敵な笑みが深くなっていった。

 もう完全にこの状況を楽しんでいるな。


 ブレーク博士が手を挙げると、怒号と罵声が引いていき大講堂が静かになっていく。

 ただし、全員が落ち着いたというわけじゃなく、まだまだ怒りが燻っているピリピリした空気に支配されているけど。


「我々が思い違いどころか、現実が見えていないと、侮辱する気かね」

「侮辱するつもりは毛頭ありませんが、事実です。最初に言ったはずです『魔狂星により狂わされた魔法の法則と、術者のイメージによる呪文の語句の制限解除』について説明すると。魔狂星の落下前と後で、魔法の法則はすでに異なっています。魔狂星の落下前の法則と常識で論じていては、真実は何も明らかになりません」

 またしても怒号と罵声が上がるけど、ブレーク博士が手を挙げてそれを静めた。


「いいだろう、そこまで言うのであれば、オランド博士の研究成果を聞こう。ただし、納得いくものでなければ、分かっているな?」

「ええ、博士号剥奪の上、魔法学会から追放で構いません」

「それだけの覚悟があるというのであればいいだろう。皆も言いたいことが多々あるだろうが、しばし耳を傾けるように、良いな?」


 鶴の一声って言うのは、こういうことなんだろうな。

 渋々ながらも、全員が聞く態勢になってくれた。

 ブレーク博士ってかなりの重鎮みたいだ。


「ありがとうございます、では続けさせていただきます」

 勝った、とばかりの、にこやかな笑みを浮かべるレイテシアさん。


「魔狂星の落下前の法則では、ある魔法で使える呪文の語句は特定の種類に定まっていましたが、例えば『氷河』、『砂漠』、『大海』などは、氷、土、水に関連する語句であるにも関わらず、どのような魔法であっても発動させることが出来ませんでした。ですがこれらの語句は、実は地域性のある語句であり、魔法を発動させることが可能だと判明したのです」


「まさか、あり得ん」

「地域性のある語句とはなんだ?」

 思わず口をついて出たって感じの声があちこちで上がって、レイテシアさんがもったいを付けたように頷く。


「地域性のある語句とは、わたしが名付けました。地域性のある語句とは何か。それは、その地域に住む者、またはそれらの光景を目にしてイメージすることが可能である者であれば、呪文の語句として用い、魔法を発動させることが出来る語句のことです。それに気付くことが出来たのは、彼との出会いが切っ掛けでした」


 レイテシアさんが俺に顔を向けると、全員の視線が俺に集まる。

 最初の比じゃない厳しい値踏みする視線が突き刺さってきて、落ち着かないどころか外に逃げ出したいくらいだ。


「彼は何者だね?」

「彼はミネハル・ナオシマ。在野の学者で魔物についての研究を行い、そのために冒険者をしています」

 『冒険者』の単語が出た途端、どよめきと、失笑が聞こえてくる。


「はっ、冒険者だと? 馬鹿馬鹿しい。冒険者など、文字が読めないどころか、呪文を丸暗記しか出来ない無能揃いではないか」

 リカルドの完全に俺を見下した物言いに、レイテシアさんが逆に見下したように笑みを冷たくする。


「確かに大多数の冒険者はその程度でしかないですけれど、彼は違います。彼が魔法学を学びたがっていたので、わたしがアドバイスし紹介した、『基礎魔法学入門書』、『アルクレーゼ基礎魔法書』、『ゼルイン基礎魔法書』、『ジジル基礎魔法書』、『魔法の発展と呪文の変遷の歴史』の全てを読破し、学派ごとの呪文の語句の分類や考察の違いなどを自発的に学び、その後、ほぼ独学で魔法の発動に成功した努力した天才です」


 そう紹介されると、なんだか俺ってすごい奴みたいに聞こえるな。

 一部の人からは、一転して感心した目を向けられて、余計に落ち着かない。


「ウェブルース君は、これらの魔法書のうち何冊を読破し学びましたか? 読んだ魔法書の数が全てではありませんが、それらの努力を、ただ冒険者であるというだけで否定してよいものではないと思いますが」

「チッ……」


 リカルドの舌打ちが微かに耳に届く。

 またしても勝ったとばかりに、レイテシアさんの笑みが深くなった。

 二人の(いさか)いに、俺を巻き込まないで欲しいんだけど。


「今からこちらのミネハル君に、地域性のある語句を用いて、魔法を実演して貰おうと思います」

 レイテシアさんが改めて俺に目を向けてきた。


 いつまでもウダウダと言っていられないし、一度大きく深呼吸して、仕事モードに切り替える。

 要は、やることは社長やクライアントのお偉いさん方の前で企画書のプレゼンをするのと同じだ。


「ただいまご紹介にあずかりました、ミネハル・ナオシマです。魔法学の権威たる皆さんの前で僭越ながら、これまでの呪文の語句の分類、体系化が、すでに過去のものになってしまったことを証明するため、魔法の実演をさせていただきます」

 丁寧に一礼し、全員を見回して俺に注目が集まっているのを確認してから、外へ向き直る。


「比較のために、まずは『氷河』の語句を用いないで『アイシクルランス』を使います。魔力の感知に長けている方は、俺がどれだけの魔力を消費して魔法を使っているかも感知しておいて下さい。それではいきます、『氷よ敵を貫け、アイシクルランス』」


 普段通りの調子で、『アイシクルランス』を撃つ。

 毒鉄砲蜥蜴ベノムショットリザードを狩るのに何度も使っているし、もう動かない的ならど真ん中を外さない。

 見事、丸太のど真ん中に命中する。


 途端に、小さなどよめきが走った。


「呪文の詠唱がかなり短いな、たったあれだけで魔法を発動させるとは」

「聞いたことのない呪文の省略の仕方だ」

 などなど、反応は悪くない。


「それでは続けて、『氷河』の語句を用います。『氷河より来たりて、一つの槍となれ、アイシクルランス』」


 最初のより二回りほど大きな氷塊のような氷の槍になって、それを撃つ。

 途端に、大講堂の中は騒然となった。


「馬鹿な! 本当に『氷河』で魔法が発動するなんて!?」

「どちらも魔力の消費量が同じだと!?」

「なんだと!? あれで魔力の消費量が同じなどあり得るのか!?」

「そんなはずはない! 同じ魔力の消費で大きさが変わるなど!」


 そんな声で大講堂中がいっぱいになる。

 中でもエリオットは目を剥いて、声も出ないようだ。


 さらには慌てて席を立って降りてくると、外に向かって俺が唱えたのと同じ呪文を唱えて『アイシクルランス』を使おうとして失敗し、愕然とした表情で自分の手と俺とを見比べる者が何人も出る始末だ。


「ご覧の通り、ミネハル君は『氷河』の語句を用いても『アイシクルランス』を使えましたが、お試しになった学会員の方は使えませんでした。これは彼が『氷河』を実際に目にしたことがあり、その明確なイメージを持っているのに対し、お試しになった学会員の方は『氷河』を実際に目にしたことがなく、その明確なイメージを持っていないせいに他なりません。そうですよね?」

 レイテシアさんが補足して、それを確認するように試した学会員に目を向けると、その学会員はその通りだとばかりに頷いた。


「『氷河』の語句を用いた『アイシクルランス』が二回りも大きくなったのは、彼の持っている『氷河』の雄大なイメージ故に、本来であれば変換効率から生じるロスで霧散していた魔力が、霧散せずに氷の槍へと変換された結果です。これが地域性のある語句です。これは『砂漠』や『大海』などでも同様です」


 レイテシアさんの説明に応じて、『砂漠』を入れて『ストーンボルト』を撃つ。

 魔力が砂砂漠にあるような砂に変わり、やがて固まって、岩砂漠にあるような赤茶けた石礫になったのは、俺の砂漠に対するイメージのせいだろう。

 『砂漠』の語句でも魔法が発動しただけじゃなくて、その色の違いなんかでも、また大講堂の中が騒然となった。


 続きの説明は、実演も含むために俺が交代して行う。


「このように、術者のイメージによって、サイズや威力、外観が変化しますが、それは特定の語句に影響を受けるものではありません。例えば、『アイシクルランス』『ファイアランス』『ストーンランス』『ウィンドランス』」

 と、名前だけで『アイシクルランス』系の魔法を四連発する。


 一発目は、普通の氷柱のまま。

 二発目は、ランスの名前通り、三角錐の先端と、握る柄がある形状で。

 三発目は、普通に市販されている両手槍の形状で。

 四発目は、槍衾(やりぶすま)に用いるパイクのように六メートルほどの形状で。


「ご覧の通りサイズや形状などを想起させる語句を用いなくても、術者に確固たるイメージがあれば、好きなサイズと形状で魔法を使えます。このように、もはや語句に制限は存在しません」

 本当は『元から』なんだけど、魔法の法則が変わってしまったって論文のタイトルに合わせて、『もはや』としておく。


 俺が全て正解を見せるのはどうかと思うから、ヒントになる程度に、飛ばさずに固定したり、それを掴んで振るったり、一部の特殊な使い方を説明しながら実演してみせた。

 いちいち説明を止めたくなかったから、途中から無詠唱でも使いまくったけど。


「以上のことからお分かり戴けると思いますが、魔法を使うに当たって一番大切なのは術者のイメージであり、呪文の語句など、赤ん坊が掴まり立ちするための壁や家具、山道を歩く負担を軽減するための杖、その程度の役割しか果たしません。なので、もはや呪文など『術者がイメージさえしやすければ、どんな語句を使おうが構わないですし、イメージが確固たるものであれば呪文そのものが必要ない』んです」


 一通り説明が終わったとき、いつしか大講堂はしんと静まり返っていた。

 重鎮らしいブレーク博士は目を見開いて顎が外れたように口を開いていたし、他の学会員達も似たり寄ったりだ。

 リカルドとエリオットに至っては、今にも気を失いそうになっている。


「皆さん、お分かり戴けたでしょうか? ふふっ、少し刺激が強すぎたでしょうか。それでは以上で、わたし達の発表を終わりますが……」


 レイテシアさんが笑いを堪えた悪戯っぽい顔で頷く。

 これまでの学会員達の反応次第では止めておこうかと思っていたけど、ここまできたら俺も学会員達がどんな反応をするか見たいし、その悪戯に乗ることにする。


「それでは最後に一つ。イメージさえあれば、こんなのでも魔法はいけるんですよってことで、はい『石ころポーン』」

 まるで小さな子供が投げた小石が放物線を描いてポーンと飛んでいくように、『ストーンボルト』が飛んでいく。


 それを見た瞬間、学会員達の悲鳴のような怒号で大講堂が揺れに揺れまくった。



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