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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第三章 アップデート『天より来る魔狂星』
116/120

116 魔法学会 3

「静粛に願います。続けての発表を行いますので、静粛に願います」

 司会進行役の静かだけど有無を言わせない声がマイクを通して響き、騒然としていた大講堂に静けさが戻る。


 と言っても、もう白けて冷めた雰囲気はない。

 次も同じくらいしょっぱい発表だったら怒鳴りつけてやろう、みたいな、ピリピリとした雰囲気だ。


「それでは二人目の発表者、エリオット・バングナー君」

 司会進行役に呼ばれて、三十代後半か四十代前半くらいの、ガチムチで目つきの鋭い猫型獣人の男が演壇に上がった。


 このエリオットも貴族なんだろう、服装がやっぱり上質だ。

 ちなみに、猫耳、猫尻尾は、ララルマが茶虎という感じの毛並みに対して、アメリカンショートヘアっぽい感じの毛並みだ。

 だからどうだって話だけど、やっぱり、猫耳、猫尻尾は男が付けていても、見ていてちっとも嬉しくないな。


 そんなことを考えていたら、レイテシアさんがまたしてもこそっと教えてくれる。


「バングナーはシルベスト子爵よ。自分が学会員になったことを切っ掛けに、領地の高等学校で魔法科を新設して、成績優秀者には王都の魔法学院に入学する補助金を出したり、魔法学院卒業後は領地で雇用して抱え込んだり、魔術師育成に力を入れているわ」

「へえ、やり手の領主なんですか」

「と、思うでしょう? ところが、これもまた残念なのよね」

 リカルドの時のような毒はないけど、苦笑を抑えきれないようだ。


「そもそも、魔法学を学ぶにはお金が掛かるのよ。魔法書の値段を考えれば分かるでしょう?」

 確かに、相当な金額が必要で、一般庶民が手を出せるような額じゃない。


「つまり、魔法科に入学出来る時点で、魔法学院への入学に補助金を必要としていないのよ。それに魔法学院にだって特待生制度くらいあるわ。だから、生徒やその実家にしてみれば、いらぬ恩を押し売りされているようなものね。貴族であれば自分の領地で働かせた方がいいのだから、バングナーに横取りされたくないでしょう。それは豪商達にしても同じ。そして中途半端な成績の者は雇用する意味がない。そういうわけで、せっかくの政策も上手くいっていないというわけよ」

「対象と制度が噛み合ってないわけですね」


「ええ、その通りよ。ところがその事実に気付いていないのか政策の失敗を認められないのか、自分の論文が認められて博士号を得られたら、そんな自分の元に成績優秀者が集まってきて政策が上手く回るはず、と考えているのよ。だからウェブルース共々、大した成果ではなくてもすぐに論文を出して発表したがるの」

 なるほど、それは確かに残念だ……。


 本人は、まさかそんな辛口のコメントをされているとは、夢にも思っていないだろうな。

 エリオットは澄まし顔で一つ咳払いすると、苦笑を浮かべて全員の顔を見回し、最後に席に戻ったリカルドで目を留めた。


「学会員の皆さん、あまりご機嫌がよろしくないようですな。児戯にも等しいお披露目をされただけでは仕方のないというもの。ですがご安心下さい、私が発表するのは『新たな呪文と術者による威力制御の幅』です。残念なことに、リカルド君に一番手を取られてしまったために私のお伝えすべき研究成果の半分を先に言われてしまったわけですが、手間が省けたとも言えるわけですから、それはよしとしましょう」


 リカルドが苛立たしそうに睨み返すのを、エリオットは優越に浸った笑みを浮かべて受け流すと、正面に視線を戻した。

 こっちもリカルド同様、自分の成果を誇示したい上に、性格もあまりよろしくないようだ。


「呪文の語句を入れ替えることで、これまで使用が不可能だった魔法が新たに発動したことは、すでに皆さんもご存じの通りです。その原因となったのは恐らく、先日の虹色に輝く星が空より降ってきたことと無関係ではないでしょう。残念ながら現時点ではまだ星の欠片の回収や研究が行われていませんので仮説の域を出ませんが、恐らく皆さんも感じたとおり、あの日は魔力に乱れがありました。それで証拠は十分、それ以外に原因はあり得ないでしょう。よってここでは、虹色に輝く星との因果関係は説明できませんが、因果関係があるという仮説を前提にお話しさせていただきます」


 要約すると、自分も原因は分からないけど、それは他の全員も同じだろうから、さっきみたいな突っ込みはしてくれるな、と言ったところか。

 そこからも、色々と理論立てて説明が続くけど、要約すると、やっぱり原因は分からないけど、体内の魔力にも乱れを感じたから、それが理由でこれから説明することが出来るようになったと思う、というものだった。


 一言、そんな風に簡単に言えばいいのに、貴族風の持って回った言い回しは聞いていて難解で本当に面倒だな。


「それでは実演することで、術者のイメージにより魔法の威力制御が可能になった証をご覧に入れましょう」

 エリオットも開いた壁の向こう、外へ向き直って右手を突き出した。


「まずはこれまで同様のものをお見せします。『凍える氷よ、我が元に集え、一つの槍の形となりて、我が敵を貫け、飛べアイシクルランス』」

 エリオットはアルクレーゼ派の呪文を使うらしい。

 これまで何度もレイテシアさんが見せてくれた、普通サイズと威力の『アイシクルランス』だ。


「では続けて、これまで不可能だった術者による威力制御がされた『アイシクルランス』をお見せいたしましょう。『凍える氷よ、我が元に集え、一つの槍の形となりて、我が敵を貫け、飛べアイシクルランス』!」

 より気合いの入った呪文詠唱をして、さっきより一回り大きなサイズで、丸太に命中したときの音も大きく威力がある『アイシクルランス』を撃ち出した。


「ご覧の通り、虹色に輝く星が降ってくる以前とは異なり、術者が呪文詠唱中により大きく威力のある『アイシクルランス』をイメージし、それに相応しいだけの魔力を使用することで、魔法の威力制御が可能となったのです」

 リカルドみたいな自画自賛や美辞麗句で飾り立てることはなかったけど、ベクトルは同じだな。

 さあ驚け、褒め称えろ、そういった感情が、言葉の端々や表情からダダ漏れだ。


「エリオット・バングナー、それだけか?」

 またしても、白髪のエルフの老人が口を挟んで確認する。

 途端に、エリオットの頬が引きつった。


「そうですが、それだけということはないでしょう。これほど画期的な発見をしたのですよ。この理論を応用すれば、様々な分野において、飛躍的に発展が望めるはずです」


「ではどのような分野に応用し、どのような発展が見込めるのか、見解を聞かせて貰おうか」

「そ、それは……」

 突っ込まれて、いま慌てて考えているのが丸分かりの顔だ。


「それではリカルド・ウェブルースと変わらんな。その程度のことであれば、お前に教えて貰う程のことではない」

 白髪のエルフの老人が容赦なく切り捨てた途端、他の学会員達も一斉に怒声を上げ始めた。


「そうだ、その程度のことなら、とうに我々も気付いている!」

「まず、各地に落ちたあの虹色に輝く星を回収し、研究して成果を出してから、同時に発表すべきことではないのか!」

「そもそも、そのように扱えるようになった魔法を、どのような分野や技術に生かすのか、先を見据えた研究をすべきだろう! いや、それ以前に考えてから口にしろ!」

「功に(はや)りおって! とっとと引っ込め!」


 またしても飛び交う文句と罵声。

 今のお粗末なやり取りを見たら、他の学会員達が怒るのも無理ない話だ。


「ぐっ……」

 エリオットは言葉に詰まって拳を握り締めると、演壇を降りて、すごすごと席に戻って行った。


「静粛に願います。続けての発表を行いますので、静粛に願います」

 司会進行役の落ち着き払った全くブレない声が、またしても大講堂に響く。

 もしかしたら、しょっちゅうこんな感じになって、騒ぎを静めるのが作業と化しているのかも知れないな。


「それでは三人目の発表者、ギルバル・ガラン君」

 上質な服を着ているけど、他の発表者と比べると一段も二段も落ちる服装の、まだ二十歳になってなさそうなエルフの男が、オドオドビクビクしながら演壇に上がった。


「ウェブルース君、バングナー君と内容が被るので、僕から発表出来ることはありません。済みません」

 ペコペコ頭を下げると、そそくさと演壇を降りて逃げるように席に戻ってしまった。


 前の二人があれだけブーイングを浴びていたからな。

 あれ以上新しいことを言えないなら、自分はもっと酷いブーイングを浴びるだろうし、そりゃあ何も言えないよな。


「ガランは王都方面で幅を利かせている大手商会の、ガラン商会の跡取り息子よ。当然博士号を欲しがっているし、あわよくば一代限りでいいからと、騎士爵の叙爵まで狙っているわ」

「博士号はともかく騎士爵狙いですか? 今の本人のオドオドぶりを見ると、そんな野心を持ってるようには見えなかったですけど」


「本人もその気になっているけれど、それ以上に父親、つまり今の会頭が特に熱心にね。一代限りの騎士爵とはいえ爵位持ちになれば、商売に有利でしょう?」

「なるほど……というか、三人ともそんなのばっかりって……」

「だから、こんな中途半端な時期に、ろくに研究する時間もないままで論文発表しようなんて者は、その程度のものなのよ」

 そんなことよりもと、レイテシアさんが不敵に笑う。


「さあ、次はわたし達の番よ」


 ギルバルがとっとと降りてしまったから、それ以上ブーイングを浴びせかけられなくて全員のストレスが増した、一層ピリピリとした空気に変わっていた。

 普段なら流されそうな些細な事にも突っ込まれて、容赦ないブーイングが飛んできそうな雰囲気なんだけど。


 というか、この空気の中、俺達が発表しないといけないのか?

 なんの罰ゲームだ?


「それでは四人目、本日最後の発表者、レイテシア・オランド博士、共同研究者でゲストのミネハル・ナオシマ君」

 名前を呼ばれてレイテシアさんが席を立ち、俺の腕も引っ張って俺を立たせる。

 途端に厳しい視線が値踏みするように俺達……特に俺に集中してきた。

 無遠慮にジロジロと見られて、居心地悪いったらない。


 なのに、レイテシアさんは臆することなく、むしろこれから全員の反応がどう変わるかを想像すると楽しみで仕方ないとばかりの笑みを浮かべて、颯爽と最上段から降りて行き、堂々と演壇に上がった。

 その後ろから、できるだけ目立たないように、空気になるように徹しながら付いて行って、続けて演壇に上がる。


 レイテシアさんがマイクの正面に、俺がその脇で一歩下がった位置に立つと、レイテシアさんが口を開く前に、例の白髪のエルフの老人が不信感いっぱいの厳しい声をかけてきた。


「オランド博士、よもやのまさかではあるが、あれらと同じようなことを言い出すのではあるまいな」

 釘を刺すような厳しい口ぶりだけど、レイテシアさんは他の三人と違って博士号を持っているからか、一応丁寧に接してくれているようだ。

 そう考えると、レイテシアさんって実はすごい人なんだろうか?


「ご安心下さいブレーク博士。あんな誰でもすぐに気付くようなことを、さも自分しか気付いていないと思い上がった勘違いをするような、厚顔無恥な真似はしませんわ」

 レイテシアさんがチラリと一瞬リカルドへ目を向けて、白髪のエルフの老人、ブレーク博士と言うらしいけど、その人に視線を戻す。


 リカルドのギリリと奥歯を噛みしめる音がここまで聞こえてきそうな、憎々しげな視線を向けてくるけど、レイテシアさんは飽くまでも涼しい顔をして無視だ。

 どんな因縁があるのか知らないけど、どうやらかなり根深いらしい。


「今回の開催では先の三人が強い要望を出したようですが、わたしはそのような要望は出していませんでした。当然、今回の異変に気付いて急ぎ研究を始めましたが、未だ発表出来るほどに進んでいなかったためです。ですがせっかくの機会ですし、まだ研究途中ではありますが現時点までの成果をお伝えしたく、急遽論文をまとめての参加を取り決めたのです」


「オランド博士がそこまで言うのであれば、期待してもいいのだろうな?」

「ええ、ブレーク博士と他の皆様の期待を、決して裏切らないとお約束します」


 レイテシアさん、いい笑顔でハードル上げてくれるよ。

 俺達を値踏みする視線が、一層厳しくなっているんだけど。

 レイテシアさんが俺を振り返って、俺にだけ聞こえるように囁く。


「さあ、始めましょうか。他の三人には可哀想だけれど、わたし達の引き立て役になって貰いましょう」

 実に楽しげに言って、俺の肩を軽く叩いた。

 まったく、レイテシアさんって実はいい性格していたんだな。


 でもまあ、せっかくの正しい知識を広められるチャンスなんだ。事ここに至っては、どれだけブーイングを浴びようが信じて貰えなかろうが、改変した魔法システムのお披露目を止めるつもりはない。


「どうなっても知りませんからね?」

「ええ、度肝を抜いてやりましょう」


 俺達は拳を打ち合わせる。

 そしてレイテシアさんは前に向き直って、一切臆することなく発表を始めた。


「さて、それではわたし達の研究成果、『魔狂星により狂わされた魔法の法則と、術者のイメージによる呪文の語句の制限解除』について説明します」

 レイテシアさんの『魔狂星により狂わされた魔法の法則』という言葉に、大講堂にどよめきが走った。


 魔法の法則が狂った。

 それはかなり大胆な発言と言えるだろう。

 他の三人も、そして恐らくはこの場のほとんどの学会員も、既存の魔法の法則に、新たな法則が加わったくらいにしか考えていなかっただろうから。

 しかもその既存の魔法の法則は、呪文という本来仕様にない法則に縛られた、間違った法則に従っているものだしな。

 レイテシアさんには、まずその事実を突きつけて貰おう。


「呪文の語句を入れ替えることで新たな魔法が発動することや、術者のイメージで魔法の威力が変更できるのは、皆さんもご承知の通りで、先の発表でも言及されていたので割愛します。わたし達もその原因を先日の虹色に輝く星にあると仮定し、かの星を魔法を狂わせた星、魔狂星と名付けました」


 魔狂星の意味と名前が浸透するのを待つように、レイテシアさんが一旦言葉を切る。

 それから、先の演壇に立った三人の話と学会員達の反応から、前置き部分は省略し、説明の順番を変えることに決めたようだ。


「この魔狂星により何が引き起こされたのか。原因やその過程は未だ不明ですが、結果だけは明らかです。その結果がどのようなものなのか、結論から先に申し上げます。それは……」

 そして一拍溜めて、全員の注目を集める。


「呪文の語句の分類や体系化など全く無意味、呪文など、もうどんな語句を使おうが、なんでも構わなくなったのです」


 その結論を口にした瞬間、学会員のほとんどが机を乱暴に叩き、椅子を蹴倒して立ち上がり、大講堂が揺れるほどの怒号と罵声を上げた。


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