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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第三章 アップデート『天より来る魔狂星』
112/120

112 ゆるやかに育つ戦力

 バフ魔法の練習を始めてから数日後。


 朝練の後、真剣な顔でローレッドが杖を構える。


「『石礫よ、我が元に集え――』」

 他の『ゲイルノート』のメンバー達も、そんなローレッドを真剣に見守っていた。


「『敵を打ち砕くその形を、力ある言葉と共に集約せよ――』」

 特にリュシアンは手を組んで祈るように見つめている。


「『その身を一つの礫となして、敵を打ち砕き滅ぼす力となれ――』」

 俺も少し離れて見守っていて、おっと思う。


「『その衝撃に我に仇成す意志を挫かせ――』」

 呪文が省略されていた。


 普通なら『敵を打ち砕き滅ぼす力となれ――』の続きに、二小節ほど呪文が続くけど、それを完全に飛ばして省略してしまっている。

 そして……。


「『――飛べ、ストーンボルト』!」

 石礫が飛び、見事に魔法が発動する。

 途端に、『おおー!』と感嘆の声と拍手が鳴り響いた。


「師匠、ナオシマさん、呪文の省略出来ました!」

 興奮して頬を紅潮させた笑顔のローレッドが俺達を振り返る。

 長々とした呪文のうち、途中のたった二小節だけだ。

 だけど、たった二小節でも省略出来たことで、魔法の発動は確実に早くなった。


「前より魔力の流れがスムーズになって、これならもしかしてと思ったんですけど、僕が本当に呪文の省略まで出来るようになるなんて……これも師匠とナオシマさんのアドバイスのおかげです!」

 よっぽど嬉しいんだろう、いつも冷静に一歩引いて物事を考えているローレッドが、子供みたいにはしゃいでテンションが高い。


「これもローレッドの普段の練習の成果だな。これでローレッドも下級魔術師(メイジ)を卒業して今日から上級魔術師(ソーサラー)だ」

「はい!」

「お前にはすでに確固たるイメージがあったということです。これから練習を重ねていけば、そのイメージに従い、さらに呪文を省略していけるでしょう。これで満足することなく、精進を重ねていくことです」

「はい師匠!」


 そうは聞こえないけど、これでもユーリシスなりに褒めているんだろう。

 それが分かって、ローレッドも嬉しそうだ。


 ローレッドが『ゲイルノート』のメンバー達のところに戻ると、みんなして褒めて背中を叩いて、自分のことみたいにみんな嬉しそうだ。リュシアンなんて涙ぐんでいるし。


「彼にはミネハルさんがアドバイスしてあげたんですか?」

 そう話しかけてきたのはレジーだ。


 両手斧と魔術師の新人と三人でパーティーを組んで角穴兎(アルミラージ)狩りで冒険者を続けながら、たまにこうして朝練に顔を出しては師匠のティオルに稽古を見て貰っている。

 今日もたまたま、それも他の二人のメンバーも一緒に顔を出していた。


「ああ、アドバイスって程のことでもないけど、ちょっと話をね」

「そのアドバイス、うちのミレアにもしてあげてくれませんか?」

 ミレアはレジーと同じエルフの女の子で、それもあって意気投合してパーティーを組んだらしい。


「ああ、もちろん、俺でよければ」

 というわけで、ユーリシス、そしてレジーを交えて、ローレッドにしたのと同じ話をミレアにもしてやる。


 ローレッドの成功を見て刺激を受けたんだろう、ふんふんと頷くミレアは真剣だ。

 そうして話をしている間、もう一人の両手斧持ちのエルフの男の子は、両手斧を持ったララルマや片手斧二刀流のエンブルーと稽古をするようだ。


「あの……今教えて貰ったお話、他の知り合いの子にも教えてあげてもいいですか?」

 ミレアが怖ず怖ずと確認してくるんで、もちろんオーケーだと頷く。

 新人教育で、同じように魔術師として学んだ知り合いに教えてあげたいらしい。


 新人が多いけど、ちょっとずつ、ちょっとずつ、こうして知り合いと知識を広める輪が広がっていて、戦力の増強と底上げが出来ていると思うと嬉しくなってくる。


「俺達は仕事がない時の早朝は、だいたいここで朝練してるから、また何かあったら来るといいよ。いつでも大歓迎だ」

「はい、ありがとうございます」

 うん、いい笑顔だ。



 朝練も終わって、昼食が終わったら、今日は冒険者ギルドでレイテシアさんと約束があった。


「ミネハル君、ここの説明、もう少し丁寧に詳しく、それから格調高く書き直して」

「もう少し丁寧に詳しくはいいんですけど、格調高くって必要ですか?」

「魔法学会で発表する論文なんだから、様式美というものが必要なの。博士号や修士号を取って学会に参加するのは、貴族や豪商なんかの特権や財力を持っている人が多いから、自己満足も含めて、格調高くないとそれだけで馬鹿にされて聞き流されたり、読み飛ばされたりするのよ」


「面倒ですね、貴族って……」

「全く以てその通りよ。虚飾で偉そうに見せるのではなくて、論文の中身で勝負しろと言いたいわね」

 愚痴りながら、俺の書いたページを突き返してくるレイテシアさん。


「もういっそ、様式美が分かってるレイテシアさんが全部書いたらどうですか」

「駄目よ」

 間髪を()れずに却下されてしまった。


「この論文は、ミネハル君の着眼点や発想が大本にあるのだから、ミネハル君は共同研究者として、共同著者として論文を書く義務と責任があるのよ」

「共同著者って言っても、レイテシアさんはまだ呪文の語句がなんでもいいって俺の主張を全面的に受け入れたわけじゃないでしょう? なのにその内容を俺に書かせるのってどうなんですか?」


「先日、呪文で使える語句に地域性がある可能性を示したのはミネハル君でしょう。だとしたら、それも含めて、何故その発想に至ったのか、その根底に呪文の語句がなんでもいいって学説があるから、という内容を、わたしの主観で歪められていない説明が必要でしょう。わたしはその理論と可能性を踏まえて、これまでの学説と、魔狂星で歪められた魔法の法則について考察して、新たな学説としてまとめ上げなくてはならないのよ」


 というわけで、これまで侃侃諤諤(かんかんがくがく)議論して、実戦で使って、検証してきた理論を、こうしてまとめないといけなくなったというわけだ。


「ミネハル君も学者を名乗るのなら、論文の一本も書いて名前を売っておかないと、後々新たな発見をしたり理論を打ち立てたりしたとき、学会で誰にも相手にされないか、どこかの学者にその成果や名声を奪われかねないわよ」

「俺は別に学者として名前を売りたいわけじゃないんで、そうなったらそうなったでいいですし、これも全部レイテシアさんの研究ってことで発表していいんですけど」

 というか、むしろそうして欲しい。


 なのに……。


「駄目よ」

 さらに語気強く、間髪を容れずに却下されてしまった。


「他人の研究をさも自分の研究のような顔をして発表するなんて、魔法学の権威としてのプライドが許さないわ。学生の成果をさも自分の成果のように奪う教授もいるけれど、わたしはそんな厚顔無恥な学者にはなりたくないの」


 言わんとするところは分かる。

 学者として立派だとも思う。

 だけど、それに俺を巻き込んで欲しくなかった……。


「それならユーリシスも――」

「面倒はごめんです。お前が始めたことでしょう。ならば自分で責任を取って、自らの力でなんとかしなさい」

 ――と、最後まで言わせても貰えず、却下されてばかりだ。


 そのくせ、俺達の作業している間、手持ち無沙汰なのか、少し離れた席でぼうっと座っているだけなのが、少しばかり腹立たしい。


「えっと……ミネハルさん、これ、なんて読むんですか?」

「ああ、これは――」

 そんな俺達と同じテーブルで、ティオルが文字の読み書きの勉強をしている。

 ついでに、ララルマも一緒だ。


 ティオルはほとんど読み書きが出来なくて、辛うじて自分の名前を読み書き出来るかどうかなんで、ほぼ一から。

 ララルマは一部の依頼書は読めるけど、そういう限られた文字しか読み書き出来ないから、もっと読み書き出来るように。

 レイテシアさんに付き合わされて論文をまとめ始めてから、二人も一緒に勉強しているというわけだ。


 だったら、もっと静かな場所や宿でもいいんじゃないかと思うんだけど……。


「オランド博士、質問いいですか?」

 なんて、冒険者の魔術師達が、俺達の論文に興味を持って話を聞きたがったり、質問してきたりするんで、騒がしいのを我慢して冒険者ギルドの中で作業している。

 その効果は、思いの外、馬鹿にならないようだ。


 朝練で、ローレッドが呪文の省略を成功させて、ミレアが話を聞きたがった俺のアドバイス、『自分の実力は下級魔術師だから、最初から最後まで呪文を唱えないと魔法を撃っちゃいけない』と思い込まず『イメージがしっかり出来た後は、いちいち全部呪文を唱える必要なんてなくなる』と考えて呪文を省略する、という考え。

 この意見にはレイテシアさんも賛同してくれて、レイテシアさんが彼ら魔術師達に同様のアドバイスをしたところ、ベテラン冒険者の下級魔術師の中にも、呪文の省略を成功させる奴がちらほら出てきたらしい。


 それを聞きつけて、魔法学の権威たるレイテシアさんに話を聞きたい魔術師が急増しているそうだ。

 その中には、他の町から隊商の護衛でやってきた冒険者なんかもいたようで、もしその冒険者が他の町へ行って俺達のアドバイスを広めてくれたらもっと上級魔術師が増えて、確実に戦力が底上げされる。


 しかもそれに加えて、一部のスキルの威力が上がったり使い勝手が向上しているのを、原因と理由は不明だから研究はこれからだけど使い慣れたスキルほどそうなる、さらに魔物が強くなったのも魔法やスキル同様に魔狂星の影響で魔物の魔法の威力が上がったから、という結果もまたレイテシアさんが冒険者達に説明してくれたおかげで、それが原因で戸惑い混乱していた冒険者達の騒ぎも少しは沈静化してくれていた。


 それで納得した冒険者達が、その知識を冒険者達に広めてくれているらしい。

 この話もいずれ他の町へと伝わって、各地の混乱も収まっていくだろう。


 なんの肩書きもなければ実績も足りない俺が同じ説明をしても、多分ここまでにはならなかったはずだから、本当にレイテシアさん様々だよ。


 そういった様々なメリットを鑑みた結果、冒険者ギルドなんて騒がしい場所で、遠慮したい論文の作業を我慢してやっているというわけだ。

 おかげで、一応目論見が成功してはいるんだけど……。


「ミネハル君、主観を排して結論から先に書いて分かりやすくするのは構わないけれど、もう少し溜めて興味を惹く言い回しにして。結論だけ見て分かった気になって、その後の解説を読み飛ばされたら、その後の章で説明する内容への理解度が下がってしまうわ」

「はい……」


 大学時代の卒論を思い出すというか、新入社員の頃の企画書や仕様書作成を思い出すというか……リテイクが多すぎるのだけは勘弁して欲しい……。



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