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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第三章 アップデート『天より来る魔狂星』
103/120

103 勢いで初デート?(レイテシア)

 レイテシアさんの気分転換に付き合うのは別に構わない。

 代わりに色々な魔法を見せてくれるなら、いくらでも付き合おう。

 ただ……。


「その……腕を組んで歩かないと駄目なんですか?」

「あら、いいじゃない。こういう時、女性をエスコートするのは男性の役目よ?」


 町の大通りを歩きながら、ウキウキと楽しげに笑うレイテシアさん。

 その横顔は、気分転換できて楽しいと言うよりも、俺をからかえて楽しいって思ってるようにしか見えない。


「こういうの慣れてないんで、お手柔らかにお願いします」

 からかわれるのは遠慮したいけど、こんな美人の年上の女性と腕を組んで歩くなんて初めての経験で、果たしてどんな顔をしたらいいのやら。

 胸の脹らみは小さいとはいえ、やっぱり腕に当たると緊張と罪悪感と、ちょっと嬉しいのを顔に出さないようにする苦労が大変だ。


「女の子三人もパーティーに(はべ)らせている割に、意外と初心(うぶ)な反応ね?」

「誤解を招きそうな反応は止めて下さいよ」

「でも、少なくとも、ティオルちゃんとララルマちゃんは貴方に気があるでしょう? その顔、ちゃんと気付いているわね。なら、それに応えないのは何故なのかしら? 好みじゃないから? それとも、本命は美人のユーリシスちゃんだから?」


 好みの問題で言えば、ティオルもララルマもかなり好みだ。中身を考えなければ、ユーリシスも見とれるほどの美人だと思う。

 でも俺を取り巻く状況は好き嫌いだけでは動けないから、困っているとも言える。


「なんでそんな根掘り葉掘り聞こうとするんですか? 俺の好みなんて聞いたところで、つまらないでしょう」

「あら、幾つになっても女にとって恋バナは心の栄養よ。それが他人の恋バナで、ちょっとした波乱のスパイスが利いていれば、最高の娯楽ね」

 楽しそうに言い切るな。

 どの世界、どの時代でも、女性は女性ってことなんだろうか。


「……混ぜっ返すのは勘弁して下さいよ?」

「大丈夫よ、わたしは積極的に関わって楽しもうって演出家じゃないわ。距離を置いて無責任な観客でいる方が気楽だもの。でも、相談されれば別よ? 真剣に考えてアドバイスしてあげるわ。それで、どうかしら?」

「結構です」

「あら、そう? それは残念ね」


 口で言うほど残念そうじゃなくて、本当に、ただの暇潰しの気分転換になればいいや程度だったらしい。

 それでからかわれる身としては迷惑な話だけど。


「ところで、詳しく聞いてませんでしたけど、レイテシアさんはどうしてドルタードに? わざわざ俺を訪ねてきたわけじゃないですよね。長く滞在してますけど、自分の研究はいいんですか?」

「ドルタードには魔石の買い付けに来たのよ」

 本当に話題はなんでもよかったのか、あっさり新しい話題に乗ってくれる。


「交易都市って言うだけあって、幾つもの大きな街道が交差するドルタードの町は、各地の鉱山から産出した魔石が集まってくるわ。質を考えると、いい物はほとんど王都に流れていっちゃうのだけれど、王都は王城や魔法学院がほとんどを買い占めてしまうから、個人ではなかなか手に入らないの。だから最高品質とはいかなくても、ドルタードだと比較的手に入れやすいのよ。王都までの輸送費も上乗せされないから、その分価格も抑え目になるのが魅力ね」

「そんなにいい魔石が必要なんですか?」


「そうね。杖に嵌める魔石は質の悪さを大きさで補えばいいから、冒険者にとってはむしろ安物の魔石の方がありがたいでしょうし、アクセサリー型の発動体に嵌める魔石はそこそこの品質があればいいわ。でも、魔法陣の材料としては品質が良くないと駄目ね。魔法陣の発動に必要な魔力量が違ってくる上、発動する魔法の持続性や安定性も大きく変わってくるわ」

「でも、アクセサリー型の発動体も魔石のせいで値段が高くなってますし、それがそこそこの品質でいいのなら、いい品質の魔石って相当高いでしょう?」


「ええ、かなり高いわよ。おいそれと実験で消費してしまうのを躊躇うくらいにはね。しかも、ただでさえ魔石は高価な品なのに、北方はともかく南方は領地の放棄で鉱山が閉鎖されて産出量が減っているから、値上がり傾向が続いているわ。もしまたどこかの領地が放棄されて鉱山が閉鎖されたら、個人で研究している学者達には手が出なくなって研究が頓挫するわね。そんなことになれば魔法学の発展が止まってしまって、人類にとって大いなる損失よ」


 やっぱり領地の放棄は、様々な技術の発展にブレーキをかけてしまっているんだな。

 思い返せば、人類が生存領域を魔物に奪われ始めた六百年前、その当時が元の世界と比較して例えば十五世紀頃って考えるなら、今この世界は二十一世紀ってことになる。

 その発展の差は比較するまでもない。


「何かこう、一気に魔石や金属、貴金属が手に入るような方法はないんですか?」

「あれば誰かがとっくに思い付いて実行していると思うわ」

「ですよね……」


 俺が出来る範囲で供給量を増やせる手段と言えば、所有権が失われた貨幣を神の権能で座標を書き換えて手元に持ってくるみたいに、鉱山から鉱石や原石を……ってくらいしか思い付かないな。

 でも、個人で(さば)くには出所が怪しすぎて駄目だろう。

 それこそ、俺が領地貴族にでもなって、自分の領地から産出してますって(てい)でも取らない限りは。


「国や領主は、なんで領地を取り返すために軍を動かさないんでしょうね。軍が魔物をもっと討伐してくれていれば、人々の生活だってもっと楽になるのに」

「それは……」

 ん? 何故そこで言い淀むんだ?


「そもそも軍を動かして取り返せるのなら、始めから奪われていないと思わない?」

「それはそうですけど」

 誤魔化した?

 レイテシアさん、国が軍を動かさない理由を何か知っているのか?


 そこを突っ込もうとするより早く、レイテシアさんが話を進める。


「知っている? 実力不足の冒険者の中には、魔物に殺されて戻ってこなかった冒険者の情報を集めて、杖の魔石や金属製の武器を回収して、それを売って生計を立てている連中もいるくらいよ。普通に考えれば魔物に遭遇するリスクと探して歩く労力と売値が釣り合わないところだけれど、値が上がっている今、十分に儲けが出るんでしょうね」


 うん、あからさまに誤魔化している。

 何か口にしにくい理由でもあるのか?

 というか、そもそも何故レイテシアさんが、そんな国の事情を知っているんだろう。

 でも、今そこを突っ込んで根掘り葉掘り聞いても、答えてくれなさそうだな。


 あっ、そういえば、ここの領地を治めている伯爵がパトロンだって言っていたし、そこから知ってしまって、おいそれと口に出来ないのかも知れない。

 だとしたら、ここは誤魔化されておくしかないかな……これまでの『縁』を考えると、きっと知るべき時が来たら耳に入るだろう、多分。


「そんなことを仕事にしてる冒険者がいるんですね、知りませんでした」

「しかも、そんな彼らのおかげで、多少は品薄が緩和されて恩恵を受けているのだから、死者への冒涜とか、死体漁りのハイエナとか、一概に彼らを侮蔑してやめさせるわけにもいかないのが少し癪だわ」

 貨幣については俺も同じ事をしているわけだから、ちょっと耳が痛いな。

 俺がそんな彼らを批評するのは筋違いだし。


「綺麗事だけでは世の中は回らないって証拠ね」

 なんだか妙な含みがあるように聞こえる言葉だな。


「それで、目的の魔石は買えたんですか?」

「幾らかはね。けれど、中の街道経由で入ってくるはずの品の到着が大幅に遅れていて、無駄に長居している状況よ。噂では、輸送していた隊商が魔物に襲われたせいで、町へ引き返したらしいわ。その時、積み荷を放棄して逃げ帰ったなんて事態だけは勘弁して欲しいわね」


「詳細は分からないんですか?」

「仕入れで懇意にしている行商人や冒険者から聞いた噂話程度だから、詳しいことは全然よ。だから中の街道経由での入荷は未定で、今回の買付けは諦めたわ。もうこれ以上、ドルタードに留まる意味はないわね」

「じゃあ研究室のある城下町に戻るんですね」


 それはちょっと残念だな。

 もっと色々と話を聞きたかったし、揺さぶって本当の魔法システムに至る糸口を見付けるヒントを与えたかったけど、無理に引き留めるのも悪いし仕方ないか。


「あら、つれないわね。わたしがわざわざこの町に残っていたのは、買付けばかりが理由じゃないのよ?」

 耳元に口を寄せての甘い囁きと、流し目。

 でも、わずかに目も口元も笑っている。


角穴兎(アルミラージ)の肉、美味しいですからね。まだまだ物珍しいですし」

 だから、一緒に食事をしたとき、レイテシアさんが物珍しさから角穴兎肉のロースト、テリーヌ、ワイン煮込みなんかを次々と頼んで、食べ過ぎていたのを思い出してやり返してみる。


「あら、つまらないわ」

 からかいが上手くいかなくて、ちょっと拗ねた顔をするレイテシアさん。

 一応、未婚の淑女が未婚の男性をあまりからかうべきじゃないと思う。レイテシアさんは特にスタイルも良くて美人なんだし、本気で勘違いした野郎が出てきたら大変だ。


 その後、色々と愚痴めいた話が続いて、俺は適当に相槌を打って話を合わせておく。


 冒険者だけをしていては分からない、知識階級の様々な情報や科学技術のレベルがうかがえて、非常にありがたい。

 特に俺はなんちゃって学者だから、学者っぽい振りをするにしても、その界隈の知識がないとボロが出やすいからな。

 これなら、愚痴くらいいくらでも付き合えるってもんだ。


 ふと、じっと顔を見つめられているのに気付く。


「えっと……どうかしました?」

「ミネハル君、変わっているわね」

 レイテシアさん程ではないと思うけど、それは言わぬが花だろう。


「俺、そんなに変ですか?」

「変ではないわ、変わっているだけよ」

「そんなに変わってますか?」

「ええ」

 ノータイムで頷かれてしまった。


「色気もないわたしの研究に関係する話題ばかりで、興味がなければ退屈極まりない話なのに、話を遮ることも話題を変えることもしないでちゃんと付き合ってくれるなんて、十分変わり者じゃないかしら?」

「それは、俺にとっても勉強になる話ばかりだからですよ」

「あら、そうなの? それなら話をした甲斐があったわね」

 そして、それにしても、とレイテシアさんが苦笑する。


「曲がりなりにも女性をエスコートしているのに、お茶をするでもなく、食事をするでもなく、ただ歩いて話をするだけで、女性に対する紳士的な気遣いが全然足りていないんじゃないかしら?」

「うぐっ……それは、経験不足で済みません」

「それはわたしに対して、女性としての興味がない現れでしょうね。わたしは気にしないけれど、相手によっては失礼よ?」

「ぐっ……ご忠告感謝します」

 先日、ララルマに似たようなことを言われたばかりだよ。


 喋り疲れて喉が渇いたって内容を遠回しに催促されて、精一杯女性を持て成すにはどうするかを考えて、先日ララルマに案内されたカフェへと行く。

 外はまだ暑いから、お茶をするのは店内でだけど。

 駄目出しはなかったから、及第点だったと思っておこう。


 レイテシアさんは紅茶で喉を潤した後、話を大きく変えて、俺達パーティーメンバーの出会いやこれまでどんな仕事をしてきたのか、なんて話から始まって、さらには俺の学者としての話、専門知識なんかを聞きたいとせっつかれてしまった。

 当たり障りのないレベルで誤魔化しながら話すのが大変だったけど、なんとかレイテシアさんの知的好奇心を満足させられるだけの話は出来たみたいで、胸を撫で下ろす。


「やっぱりミネハル君は変わっているわ。それほどの科学的な知識を持っていたら、王立の研究所でも働けるでしょうに。それを冒険者になって、魔物の博物誌を執筆したいだなんて」

「ま、まあ、魔物をどうにかしないと、遠くない未来、人類は魔物に住む土地を全て奪われて滅ぼされてしまいそうじゃないですか。なのに科学技術の発展だけをさせても、意味がないでしょう」


「こう言ってはなんだけれど、たかが市井の一介の学者が考えることかしら? まるで国王や領地貴族みたいな視点と考えね。いっそどこかの領地貴族か、王家に婿入りしてみたらどうかしら? トップに立てば、人とお金が許す限り好きな政策を打てるわよ」

 クスクス笑いながら言うけど、そういう面倒事は勘弁したい。


「そんなの柄じゃありませんよ。それに、どこかの領地や国に縛られたら、それ以外の領地や国は救えないじゃないですか。その領地だけ、国だけ助かっても、他が滅びたら意味がないでしょう? まあ、一介の学者や冒険者だと限界もあるんで、懇意に出来る権力者の知り合いは一人くらい欲しいところですけど」

「…………」

 なんだろう、目を丸くして唖然として。


「俺、何か変なこと言いました?」

「いいえ、やっぱり貴方、変わっているわ」

 笑われてしまった。

 ちょっと釈然としないな、そんなに可笑しなことを言ったかな?



 ともあれ、それがレイテシアさんの何をどう満足させたのかは分からないけど、いい気分転換になったらしい。

 約束通り、色々な魔法を披露して貰えて大助かりだった。

 ただ、俺がすぐに覚えて真似して使うと、複雑な顔をされて、最後には諦めたように大いに呆れられてしまったけど。


 でもそれって、俺がすごいとかチートとかって話じゃなくて、単にレイテシアさんを始めとしたこの世界の全員が、魔法システムを誤解して存在しない呪文にこだわり縛られているから、なんだよな。

 だから、俺が褒められたり自慢したりするような話じゃない。


 いずれ、正しい知識が広まれば、俺みたいに見ただけでポンポンと魔法を使える奴がゴロゴロ出てくるはず。

 多分、レイテシアさんなんてすごいレベルの魔術師になるんじゃないかな。

 そう思うと、その時が今から楽しみだ。



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