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ゲームプランナーなので無理ゲーな異世界を大型アップデートします  作者: 浦和篤樹
第三章 アップデート『天より来る魔狂星』
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102 意外と難しい魔術師稼業

 素材を回収した後、村に立ち寄り一休みさせて貰いながら、今回の戦いの感想や意見交換をする。


「初めて俺が後衛から魔法で削ってみたけど、いつも以上に早く倒せたし、悪くなかったんじゃないかな。角穴兎(アルミラージ)みたいに小さくてすばしっこいとまだ当てられる自信はないし、雷刀山猫ライトニングサーベルワイルドキャットも難しそうだけど、走らせさえしなければ的が大きくて小回りが利かない毒鉄砲蜥蜴ベノムショットリザード相手なら、衛生兵をしながらでも十分戦力になれそうだ」

 しかもその衛生兵をする回数も減らせるんだから、一石二鳥だろう。


「そうですね」

「確かにぃ、『ファイアアロー』で毒液を一回無駄に撃たせたのはぁ、ちょっと驚きましたけどぉ、助かりましたねぇ」


 よし、二人の反応も悪くなさそうだ。

 この調子で練度を高めれば、無理に急いでパーティーメンバーを増やさなくても、もっと強い魔物相手でもいけるかも知れない。


 ところが、ユーリシスが呆れたように大きく溜息を吐く。


「何がそんなに嬉しいのか知りませんが、浮かれていないで空気を読みなさい」

「俺が空気を読めてない? どういうことだ?」

 そんな俺の疑問に答えずに、ユーリシスがティオルとララルマに目を向けた。


「小娘も、駄肉猫も、何を遠慮しているのです。自らの命に関わることですよ。このような時に本音を言わずして、パーティーとしてやっていけると思っているのですか。ましてや、この男を射止めたいのであれば、言うべきことも言えずに顔色を窺うだけの関係でいいとでも思っているのですか」


 ピシャリとした厳しい物言いに、ティオルが真剣な顔で俯き、ララルマが困ったように苦笑する。

 もしかして俺、自分で気付いていないだけで何か失敗を……二人にとって危険な真似をしでかしてしまったんだろうか?


「ティオル、ララルマ、気付いたことや、困ったことがあったのなら、遠慮しないで言ってくれ。最初が肝心だから、ここで俺が勘違いしたままなら、これからも二人に迷惑をかけることになってしまう」

 俺が魔法を使うことで二人を危険に晒したり足を引っ張ったりしたら、本末転倒もいいところだ。

 そんなことしか出来ないなら、俺は魔法を使うべきじゃない。


 その気持ちが伝わったのか、ティオルとララルマは顔を見合わせると頷き合った。


「じゃ、じゃあちょっとだけ……えっと、毒鉄砲蜥蜴がミネハルさんの方を向いて毒液を撃とうとした時、あたしが『ホスティリティー』で挑発してタゲ(ターゲット)を取りましたよね? そこに突然『ストーンボルト』が飛んできて毒鉄砲蜥蜴に当たりましたけど、呪文はちゃんと聞こえるように唱えて欲しいです。小さくて声が聞こえないと、どこからどんなタイミングでどこを狙って飛んでくるのか予想が付かなくて、次にどう動けばいいか予想が立てられなかったり、急に動きを変えなくちゃいけなくなったりして、ちょっとやりづらかったです」


 あの咄嗟に無詠唱で使った時か。

 なるほど、呪文の詠唱は、前衛にどこからどんな魔法をどのタイミングで使うのかを知らせる役目もあったんだな。

 ソロならまだしも、一概に無詠唱で撃てればいいってわけでもないのか。


「済まなかった。これからは気を付けて、ちゃんと呪文が聞こえるようにするよ」

「えっと……それでその後、『ストーンボルト』の石礫が足下に転がっていて、遠くに蹴り飛ばさないと危なくて動きにくかったです」

「うっ……それは全然考えてなかった、以後気を付けるよ」


 まさかそんな弊害があったなんて、考えもしなかったな。

 だとすると、威力は大きかったけど、『アイシクルランス』も似たようなものかも知れない。石礫より遥かに大きいし。

 威力が低くても、後に何も残らない『ウィンドブレード』か、周囲への延焼さえ気を付ければ『ファイアアロー』がベターってことになるのかな?


「あっ、それから、『ウィンドブレード』は正面から飛んできたとき、すごくビックリして怖かったです。他の魔法と違って全然見えなくて、飛んでくる風を切る音がしたと思ったら、いきなりスパッと切れて、あれだと当たらないように気を付けて動くことも出来ないです」

「そ、そうか……使い勝手がいい魔法かと思ったけど、そういう問題もあるのか」

 真空の刃は光の屈折で一応見えはするけど、よほど注意して見ていないと見えないから、同士討ち(フレンドリーファイア)の危険があるんだな。


 意外と、どの魔法も一長一短で、使うのを選ぶのが難しいな。

 そういう意味ではバランスが取れていると言えるのが皮肉だよ。

 マンチキンに、最強のその魔法一つ撃てればいい、ってならないんだから。


「それならぁ、アタシからも一つぅ。今日はお試しみたいなところがあったからいいんですけどぉ、色々な種類の魔法を使われるとぉ、それぞれ飛んでくるタイミングが違ってぇ、そのたびにタイミングを計るのが大変でしたぁ。しかもぉ、魔法が当たった時にぃ、毒鉄砲蜥蜴の動きがいちいち違うのもぉ、次に自分がどう動けばいいのかぁ、迷っちゃってぇ、少しだけやりづらかったですぅ」

「ぐっ……済まない、初めて魔法が使えたから、あれこれ試してみたくて。そうか、確かに、魔法ごとに喰らった後のリアクションが違ったもんな。逆にそのリアクションを引き出すために使い分けるならまだしも、デタラメに好きな魔法を使われたら、前衛としては戦いにくいよな」


「あっ、でもぉ、アタシが言ったことはぁ、飛んでくるタイミングも敵の反応もぉ、慣れちゃえばいいだけですからぁ」

「うん、ありがとうララルマ。でも教えてくれなかったら、そんな単純なことにも気付かなかったから、教えてくれて助かったよ」


 俺、魔法で戦えたことに浮かれて、そんなこと考えもしなかった。

 上手くやれたつもりでこの体たらくだなんて、しっかり反省しないと。


「ありがとう二人とも、すごく貴重な意見だった。それと、ユーリシスも。魔法で戦うっていうのも、思っていた以上に難しいものなんだな」

「分かればいいのです」

 ユーリシスが偉そうに、鷹揚に頷く。

 ユーリシスが口を出してくれなかったら、本当に危ないところだった。


 本当に今更だけど、魔術師はただ魔法が撃てればいいだけじゃない。

 MMORPGでも後衛の魔法職は味方全員の立ち回りを見て、ダメージやその回復の推移を見ながら、見えないヘイトを計算して、自分の行動を決めて動いていたんだ。


 現実でも、それは当然変わらない……いや、ゲームだとカーソルを合わせていれば必中だし、味方の巻き込みや誤爆はないけど、現実は外したり味方を巻き込んだり誤爆したりする恐れがあるんだ。

 味方の位置取りと行動を先読みして、魔法の射線、そして行動ルーチンでパターン化されていない敵の動きと反応も考慮に入れないといけないから、よほど難しい。


「これからも気付いたことがあれば、今回みたいにどんどん言って欲しい。浮かれた勘違い野郎にはなりたくないからな」

「はい、分かりました」

「はいぃ、アタシもぉ、これからも気を付けて見てますねぇ」

「ああ、よろしく頼む」

 反省したなら、次はそれをどう生かすかだ。


「今の話を元に今後俺がどう魔法を使えばいいのか、その戦術を考えたいから作戦会議をしたいんだけどいいかな? 今みたいにどんどん意見を出してくれると嬉しい」

 こうして、俺達は初めて話し合って戦術を決めた。

 これまでは俺が考えて、三人に動いて貰うだけだったから、ちょっと新鮮だった。



 それから俺達は一週間ほどかけて、何度も毒鉄砲蜥蜴に挑み、戦術を試しては反省会をし、修正した戦術を試してはまた反省会をし、さらにララルマが両手斧に持ち替えた構成で同様に繰り返し、お互いの立ち回りを徐々にブラッシュアップしていった。


 そのおかげか、俺のレベルは、剣と盾は三レベルのままだったけど、魔法に関しては五レベルに成長していた。


 こうなると、もっと色々な種類の魔法を試したくなる。

 疑似神界でユーリシスに見せて貰うのもいいんだけど、あれからレイテシアさん、どうしたかな?

 様子見がてら、色々な魔法を見せて貰えるよう頼んでみよう。





 ドルタードへ戻った翌日、早速レイテシアさんが泊まっている宿を訪ねてみた。


「あれからどうですかレイテシアさん」

「どうもこうも、思考の迷路に嵌まっている気分だわ。それもこれもミネハル君のせいよ?」

「あ~……なんか済みません」


「いえ、違うわね。ご免なさい、今のは愚痴で八つ当たりだわ。わたしは魔法学の権威として独自に理論を打ち立てなくてはならないのに、それが上手くいかないからといって他人のせいにするなんて、どこかの魔法学院のいけ好かない教授みたいな真似をしてしまうなんて、反省しないと駄目ね」


 変わらず饒舌ではあるけど、ちょっと疲れ気味で、目の下にうっすら(くま)ができている。

 せっかくの美人がもったいない。


「ところで、わざわざ訪ねてきたのは、わたしに何か用があるんじゃないかしら?」

「ええ、もっと色々な魔法を使えるようになりたくて、レイテシアさんにお手本を見せて貰えないかと思ったんですけど……気分転換した方が良さそうですね?」

「そうね……なら、ミネハル君が気分転換をさせて頂戴。そうしたら、お礼に好きなだけ魔法を見せてあげるわ」



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