1投目 ここは何処じゃ!?
小鰭 漁介は、小さな島で生まれ育ち、海をこよなく愛する釣り人である。
「おっ、見えてきたのぅ」
漁介は、とある場所に向かっていた。島の北部にある鬱蒼とした茂みを抜けた先にある、小さな砂浜。まだ釣り仲間の誰にも教えていない、漁介の秘密の釣り場である。
いつものように茂みの前に乗ってきた自転車を止め、釣り道具とラジオ、少しの調味料とフライパン、それと魚図鑑を入れたリュックを背負い、茂みをかき分けて奥へと進んでゆく。
「よっしゃ、とうちゃ…ん?」
茂みを抜けてすぐ、漁介は異変に気付いた。
「なんじゃ、やけに浜も海も綺麗じゃのお…」
いつもは漂流物で汚れている砂浜と海が、妙に綺麗なのである。漁介がいつも掃除して帰っているとはいえ、最後に来たのは1ヶ月も前で、漁介以外にここを知る人もいない。しかも海は南国の海のように透明になっていた。
不思議なこともあるもんじゃのう、と思いつつ、漁介は針に餌のゴカイを付けて、釣りを始めた。
投げてからしばらくして、コンコンッ、と反応があった後、竿が大きくしなった。初ヒットだ。
「よし、喰ったッ!」
漁介はすかさずフッキングした。糸のテンションに気をつけながら、素早くリールを巻いていく。しかし、最初の引きは良かったもののあまり重くない。どうやら小さな獲物のようだ。
上手く釣りあげることに成功し、漁介は獲物を確認する。
「さあて、チヌ※1の子どもか何かかのう?」
そう呟きながら確認すると、
「な、なんじゃこいつは!?」
と、漁介はつい大声で驚いてしまった。なんと釣った魚は、デメニギス※2のように頭部が透明な魚だったのである。
「こ、こいつはデメニギスか…?じゃけどデメニギスは日本じゃ岩手の方の沖にしかおらんはず…そもそもこいつは深海魚じゃけえ浜釣りで釣れるわけがないじゃろうに…」
漁介は背負っていたリュックの中から魚図鑑を取り出し、獲物を観察しながら図鑑のデメニギスと照らし合わせる。しかし特徴が一致しない。どうやら図鑑に載っていない魚のようだ。
さすがにこれは何かおかしい、と漁介は思い、ラジオの電源を入れた。しかし、何も聞こえてこない。漁介は釣りをする時はいつも島のラジオ局の放送を聞きながら釣りをしていたため、周波数は島のラジオ局に合わせている。そのため、いつもなら島のラジオが流れるはずなのである。しかし、ザアザアと音が流れるばかりでその他は何も聞こえない。念の為周波数を確認してもしっかりと合っている。
「い、一体何が起こっとるんじゃ…!?」
不安な思いに駆られながら、漁介はズボンのポケットに入れていた携帯を見る。画面右上の通信を示すマークの表示されるはずの所には、ただ「圏外」の2文字が表示されていた。
「う…嘘じゃろ…?携帯もつながっとらんとは…この島は携帯を使えるはずじゃ、前はこの浜でも電波は届いとったのに…」
漁介は、自分の身に何が起こっているのか確かめるべく、茂みの外へ戻ってみることにした。茂みをかき分けて外に出るとーーーーーーーーーー
「こ、ここは…一体何処じゃ!!??」
ーーーーーーーーーーそこは、漁介の見覚えの全く無い場所だったのである。
〇用語説明
※1関西地方を中心とした地域でのクロダイの別称。大きなものは引きが良いため釣り人に人気の魚。
※2太平洋北部の亜寒帯海域に主に生息している深海魚。日本では岩手県以北の沖合に生息。透明な頭部と望遠鏡のような筒状の眼球が特徴。
どうも、駆け出し小説家(笑)すしざんまいです。これが初作品、初投稿になります。文才はありませんが、読んでいってくだされば嬉しいです!気軽に書いていこうと思っておりますので、投稿頻度はまだ決めていません。「早く続きが読みたい!」というお声が多ければ、更新ペースを早めようかなと思っています。
あとコメントは全て読ませて頂きますので、この作品を読んでくださった優しい方々は是非、コメントよろしくお願いします! 皆さんのコメントを参考にして、成長していけたらなと思います。