61:彼女の天匠流
「勝負は俺の勝ちだぜ剛リキ先輩?」
「かぁー!!んなもん見せられたら嫌でも納得するしかねぇじゃねーか!!」
「ちょっ?!ワシャワシャしないでくれないかっ!?」
戦いを終えて勝利宣言をしてみればどこか嬉しそうに悔しがりながら頭をワシャワシャされた。しかも頭がっしりとホールドされたから地味に逃げられないんだけどっ!?
「だが俺からしたらまだ新人だ!調子のるんじゃねーぞ?」
「わーかったからワシャワシャすんのやめてくれないかなっ!?」
「「「「「「「「「「そうだぞ新人!!」」」」」」」」」」
人増えたァ!?みんなでワシャァってするな!?これかなり恥ずかしいんだぞ!?くっそうこうなったらギルファー!!出番だ何とかして!!
『zzzzz・・・・・』
こんにゃろう寝てやがる・・・・!!!!肝心な時に寝るんじゃないよこのアホ犬!!
「なかなか面白いことになっておるのぉ五代目よ」
「ストップストップ!!話しかけられてるからストッププリーズ!!」
ようやくワシャワシャ攻撃から解放された・・・なんかドッと疲れた気がする。気を取り直して歩み寄ってきたギンと刀気に顔を向ける。そう言えば彼女たちにも改めてお礼を言わないとな。
「ギン。あなt「感謝するぞ五代目よ。妾の剣を認めてくれて」・・・感謝・・・あれ?」
俺が感謝するはずだったのに何故か感謝された。俺何か特別なことしただろうか?
「ふふふ、わからん。そう言いたげな顔じゃのう?」
「そらそうだ。俺が認めるも何もアンタは14代目継承者なんだろう?なら既に認められているはずだぞ?」
『剣聖物語』にて流派の継承者として認められるには当代、つまりその時にいる継承者から認められなければ継承者として名乗ることはできないのだ。
後継者として名乗るためには各奥義の師範から認められれば叶うが、継承者として認められるには師範代を超える実力者、つまり継承者に認められなければ名乗ることができないのだ。
つまり既にギンの剣は認められているはずだ。俺に認められたからといってそこまで感謝することはないだろうに。
「ちと昔話をさせてくれ。妾は血を見るのが嫌じゃ。幼い頃のトラウマでの。今でも人の血を見るのは嫌で仕方ない。そして妾は人ともモンスターとも違う種族。昔から金目当ての愚か者に狙われることが多々あっての」
昔を思い出すように話し出すギン。よくある話だ。珍しい種族を捕まえて高く売りさばく。奴隷にされたり愛玩動物のように扱われることもある。胸くそ悪い話だ。
「妾も幼い時そんな輩に捕まりそうになった。銀狐が人前に出るのはそうそうないからの。妾もあの時は幼すぎたのじゃ。捕まってありふれた末路を辿るはずじゃった妾を助けてくれたのが師匠じゃ。助けてもらった妾はそのまま師匠へ身を守るための力、天匠流を教えてくれと頼み込み弟子にしてもらったのじゃ」
「いい師匠さんだったんだな」
「じゃの。師匠によれば妾は筋が良かったそうじゃ。他の者と修行を重ね、ともに高みを目指し磨きあった。後継者として認められるのにそう長くは掛からんかったの」
それはすごい。確かにさっき見せてくれた彼女の剣は並大抵のものではなかった。峰打ちで敵を切り裂けるなんて簡単にできるものじゃない。
元々センスはあったのだろう。そしてそのセンスは天匠流と相性が良かったのだ。
「でも妾は・・血を見るのが怖かったのじゃ。剣は磨かれど、精神は強くなれども・・・妾の奥底にある血への恐怖は拭えんかった」
トラウマはそう簡単には拭えない。似たような体験をした連中が俺の周りには三人ほどいるからそれはよくわかる。
簡単に拭えるならトラウマになんてならない。例え己を磨く武道を修練する人間であってもだ。
「そんな毎日を過ごしておる内に、妾は当時の継承者13代目継承者にそのあとを継ぐ者、14代目として認められその名を襲名した。嬉しかったのじゃ。妾を助けここまで鍛えてくれた師匠にこんな形で恩返しが出来ると思っての」
弟子が師匠である自分を越える。俺はまだその感覚は分からないがきっと嬉しいんだろうな。自分が育てた弟子が結果を残し大きく育った姿を見れるんだ。嬉しいに決まっている。ここで終わればハッピーエンドだろうけどそうはいかないようだ。
「14代目となった妾はひとつの可能性に手を出したのじゃ。血を見たくなかった妾が求めた天匠流の形。それは殺人剣ではなく活人剣。殺さずに生かす剣を天匠流で生み出そうとしたのじゃ。鏡雀ではどうしても殺人剣にしか成らんからの。三年の歳月をかけた。速度を殺さずに人を生かす剣。そして完成したのが『都燕』。天匠流の新しい形を妾は作ろうとしたのじゃ」
「・・・・・・・・」
「じゃが・・・・妾が生み出した『都燕』は認められることはなかった。このような剣、天匠流ではない。こんな下らないものは天匠流の侮辱である。他の師範にも、弟子たちにも、そして・・・信じていた師匠にさえ否定されたのじゃ、妾の剣を」
「・・・・・・・・」
「妾は生み出したそれを封印し、彼らに謝罪した。彼らも妾のそれを『戯れ』として流してくれたから14代目としていることができた。ただ血を見たくなかった、自分の身を守りたかった小娘だった妾のそんな願いなどで、長年続くモノを変えるなど出来る訳がなかったのじゃ」
「・・・・・・・・・」
「15代目を後に続くものに託し、妾はあの島へと移り住み過ごしてきた。それまで続いていた人の営みから離れるのはちと寂しかったがの。それでも誰かに妾の剣を否定されるのはもう嫌じゃった」
「・・・・そっか」
「うむ。これがお主にお礼をいった理由じゃよ。どんな形であれ最強と呼ばれた5代目に認められたのじゃ。これで少しは気持ちが晴れた」
「・・・その話を聞いた上で俺の感想言ってもいいか?」
「よい。どう思ったのかの?今の妾なら多少キツイ事を言われても平気じゃぞ?」
なら遠慮なく。とりあえず深呼吸。言いたいことは頭の中でまとめてっと・・・よし。
「その時の師範代も弟子も馬鹿だ。アホすぎる」
「な・・・なんとっ!?」
「そもそもだ。もし『鏡雀』を至高の抜刀術とするなら俺なんて邪道も邪道だぞ」
ベースは鏡雀だが形も動きも鏡雀とはかけ離れている。血涙雀とかどうすんだよ。自爆しながら敵を斬るとかしてるんだぞ?
「天匠流の真髄は究極の抜刀術。殺人剣だろうが活人剣だろうが究極を超える速度を求めるための技ならばそれは天匠流の教えには背かない」
「う・・・・うむ・・・・そうかもしれんが・・・・じゃが・・・」
「自信を持てギン。お前は速度を求めながらも人を殺さない、人に血を流させない新しい天匠流を作り出してくれた。それは素晴らしいことだ。これから言う言葉を今言ってももう遅いかも知れない。お前の心を覆うその馬鹿共の言葉を消すことは出来ないかもしれない。でも言わせて欲しい」
俺に新しい可能性を見せてくれたこと、何より大好きな天匠流をここまで紡いできてくれたこと。ゲームの中、歴史。
例え仮想であっても『剣聖物語』の一ファンとして、何よりその剣を継承してきたものとして、どうしてもこの言葉を今言わなければいけないと思った。
「ありがとう。天匠流に新しい可能性を見せてくれて。貴女が生み出した天匠流抜刀術『都燕』を俺は誇りに思う。そしてそれを生み出した貴女を、俺は誇りに思う」
「・・・・・っ!!!」
「お・・お師匠っ!?」
「す・・すまぬ。ちと顔を見んでくれ・・・感情が・・・・お・・抑えられん・・・・」
心に響かせることができたのだろうか、深く覆う言葉の闇を晴らすことが出来たのだろうか。それは彼女にしかわからない。けど確かに、俺の言葉はしっかりと彼女に届いたようだ。
涙声で顔を見るなと言いながら、必死に叫ぶのを堪えている。もしバレたら後でリークに泣かれるかもしれないけどここでこうしないと男じゃないし、俺じゃない気がする。
「俺の胸でいいなら貸そうか?」
「・・・・・すまぬ・・・借りさせてもらおうかの・・・・・・っ!!!」
胸に顔を埋めて溜まっていたモノを吐き出すように泣き叫ぶギン。誰もがそれを見守りながら、彼女の心が晴れるまで、誰ひとりとして言葉を発することはなかった。




