59:共闘
「オラァ!!」
『ギギィ』
時間はさらに進み『星読み』のスキルの影響もあり空は星空だがおそらく既に夜明けは過ぎているだろう。更に数回剣を振るい続けているが、ダメージを与えている感覚はない。
動きは鈍らないし爪は破壊できない。こうなれば間違いなくイベント戦だろう。だとしたら困った。イベント開始のフラグ、つまり突然変異の原因は間違いなく関節への連続攻撃。
それ以外のイベント発生条件なんだ?全然わからん。可能性としては天匠流の師範に会ったことだろうけどあの様子だとこの戦いに来ることはないだろう。
そうなれば別のフラグを立てておく必要があるのだがそれに関しては全く覚えがない。あれこれ詰んだ?
「どうすんだよこれぇっとあぶなっ!?」
また回転して突っ込んできやがった。しかも今度は爪の上下移動アリとかこいつ学習してんじゃねーかよ頭良すぎかよ。
だからといって乗れなくなるわけじゃないけどな!!”視える”動きを瞬時に捉え回転に合わせて再び飛ぶ。
そのタイミングに合わせて蟹は逆回転を始めた。これでタイミングをずらして着地できなかった俺を仕留めようとしたんだろうが残念だったな。
「“視えて”るって言ったんだがなぁ!!『鏡雀』!!」
最初からそのタイミングで飛んだんだから無駄なんだよ!!
逆回転を始めた爪に飛び乗り鏡雀での居合い切りを放つ。勿論ダメージはない。ダメージないのに攻撃する理由?んなもん一つだろ。
「サンドバックが欲しかった所だよ!!」
動く相手に修行できるとか願ってもないことだ。このまま俺がくたばるか相手が根を上げて逃げるまで付き合ってもらうぞ。
今度は天雷状態ではないのでさっさと切り裂いて衝撃に身を任せてそのまま吹き飛び離脱。とりあえず軽く100回くらいはやってみよう。
もしかしたら急にカニの体が硬くなってダメージが通りにくくなっただけの可能性も0ではないし。
『おい貴様。向こうから10人ほどこちらに来るぞ』
そんな矢先だった。ギルファーが雑魚を全滅させつつ近寄ってきて何者かの接近を知らせてくれた。
言葉が向く先を見れば確かに重装備の1団がコチラ目掛けて駆けてきている。装備はバラバラだが隊列はしっかりと組まれており、後方には魔法ジョブと思われる格好をした人間も見られる。
十中八九先ほどのモンスター出現のアナウンスを聞いて駆けつけた時代人で間違いないだろう。
「オラテメェら!!隊列乱すんじゃねーぞ!!ポッとでの新人に遅れとるわけには行かねーぞ!!ゴーゴー!!」
それを言うなら『パッと出』では?どっちでもいいけど。
そんな号令とともに彼らが蟹・・さっきからずっとカニ蟹言ってるけどちゃんとした名前では『ブレイドキャンサー』なんてかっこいい名前あるんだよなこいつ。カニのくせに。
ともかく、カニに向かって突っ込んでいく。その1団から一人が離脱しこちらに駆け寄ってきた。先ほど号令をかけていたやつだ。
筋肉轟々で身長は2m以上ありそうな巨体で見るからにパワーファイター。だけど持っている武器は杖であることから魔術ジョブのようだ。
「おう、お前が最近噂の剣聖とか言ってる奴だな」
「アールだ。アンタは?」
「俺は剛リキ。クラン『剛戟』でクランマスターやってる。悪いがあのカニは俺らが倒す。お前に倒される前にな」
へぇ?つまりこいつらは俺の獲物奪うってことか?それならそれなりの対処するぞ?俺は聖人じゃないからな。
「だが勘違いするな。お前の邪魔したいわけじゃねぇ。お前に勝ちたいだけだ」
「は?勝ちたい?」
「お前が今回のイベントのトリガーを引いたことはよく知ってる。だからこそお前みたいな新人に持ってかれてばかりじゃ情けねぇんだよ」
「ほう?続けな」
面白いこと言うじゃないか。先輩としての意地ってところか?
「つまりだ。俺らも大金星上げてテメェに”上級者としての意地”って奴を見せてやろうってことだよ」
「・・・・ふっ・・・面白いじゃねぇか!!その勝負乗った!!」
つまり強奪ではなくて早い者勝ちってことか!そういうことなら乗った!!誰かと競うのも悪くない。むしろこれこそオンラインの醍醐味といってもおかしくない!
俺の言葉を待っていたとばかりの笑みを浮かべる剛リキ。彼は大きく息を吸うと再び大声を上げた。
「テメェら!!この”新人”が勝負に乗った!!クランの意地見せてやるぞ!!!」
「「「「「「「「「「オオオォォォ!!!!!」」」」」」」」」」
「間違ってもカッコ悪い“邪魔”だけはすんじゃねーぞ!!した奴は私刑だから覚悟しとけ!!」
「「「「「「「「「「アイアイサー!!!」」」」」」」」」」
号令とともに雄叫びを上げる彼らのクラン。ちょっとブルっと来たくらいだからかなり声はでかい。
「って訳だ“新人”。テメェはテメェでやれ。俺らは俺らでやる」
「いいねぇ。協力じゃなくて共闘・・・その方が俺好みだ・・・・あ、けどその前に一つ」
コケっという効果音が欲しい感じに体を揺らしてくれた剛リキ。結構ノリがいいな。
「んだよ?言っとくけど支援は範囲内にいればテメェでも受けられるから好きにしろ」
それはありがたい。支援なしではかなり分が悪い。範囲内にいれば受けられるならありがたくその恩恵を受けよう。それよりもだ。
「アイテム分けてくんない?」
「・・・・ったく、“新人”がよくやるミスしてんじゃねーよ」
そう言いながら回復アイテム一式を取り出して俺に分けてくれた。ポーション2つとブドウ3つ。気前がいいな。
「すげぇ助かる。これで踵の傷治せるわ」
「今後は多めに持ち歩くことだな。覚えとけ“新人”」
見た目に反してかなりいい人だな。できれば今後も仲良く出来たら嬉しい。その為の第一歩のためには何か返礼をしないとな。ブドウで踵を回復しつつオレが知る情報を話した。
「一つ情報だ。あいつ多分イベントレイドだ」
「だろうな。特殊サブシナリオの時点でそうだと思ったよ」
「あれ?知ってたの?」
「覚えとけ“新人”。イベント中の特殊サブシナリオはほぼイベント戦が絡む。条件は色々あるけど一番は気長に根気よく粘ることだ。そうすれば勝手に進むこともあれば『条件満たさないと倒せない』と分かることもある」
つまり根気よく戦って判断しろってことか。場合によっては批判されそうだけど其の辺どうなのだろうか?
「ちなみに根気よくってどんくらい?」
「全部聞こうとすんじゃねぇ。少しは自分で覚えていけ」
おっといけない。久しぶりに色々気になることがありすぎて、あと共闘なんてリークやシルト達以外とは初めてで、つい聞いてばかりだった。
反省反省。ゲームに最短距離なし。答えは自分で見つけるべしだな。ちょうど踵もくっついた。感覚も問題なし。
「ごもっとも。それじゃぁ第二ラウンド参加してきましょうかね!!」
カニとの戦闘に入っている彼らに続くように再び戦線に復帰する。改めてみれば随分統率が取れてるしひとりひとりの動きに無駄が少ない。
盾持ちが攻撃を防いでその隙に攻撃、支援はタイミングを見て回復やバフ。それを言葉発せずに意思疎通できているからこのクラン相当戦いなれている。
足引っ張らないように注意しないとな。
俺の接近に気づいたカニが俺へと攻撃の矛先を変えようとする。だがそれを逃すほど彼らは甘くない。怒涛の攻撃がカニを襲いその自由を奪う。
その為カニはそれに対処するため再び矛先を彼らへと向けるが今度は俺に隙を晒したわけだ。
「超越流派抜刀術『天津雀』!!」
衝撃の蓄積はさっきまでの殺り取りで十分にある。回復アイテムも少しもらったことだし練習中の一段階上の天雷状態でいってみようか!!
先程は一度で4回攻撃の4連続。今度は5回の5連続攻撃で行ってみよう!!
光速の領域へと手を伸ばす勢いで放つ居合い切り。ここで決まればカッコいいのだがそうは問屋が卸さない。
「イッヅッ!!」
吹き飛びはしなかったものの腱が悲鳴を上げた。まだ体はこの段階の速度に慣れてないってことか。
不完全な状態で放たれた攻撃はカニの体に傷つけることはなく、またダメージも相変わらず与えられて・・・・・なに?
「傷が・・・できてる?」
今放った天津雀。剣筋が振れてまともに斬れなかった筈なのにカニの体に極僅かではあるがさきほどなかった傷が増えている。
どういうことだ?今の攻撃は確かに失敗したはずだ。それなのに“傷が出来ている”。クソだめだわからん。
「オラ何してる“新人”!!『エリアエイド』!!」
剛リキの回復魔術が発動し俺の傷も一緒に前線で戦う彼らの傷も癒していく。言葉は荒々しいけどむちゃくちゃ優しいじゃねーか。
「ありがとよ剛リキ!!あと今こいつに傷増やせた!!まだ何回か怪我するかもだから回復頼んでいいか!!」
「怪我前提で話すんじゃねぇ!!怪我しないように戦えや!!」
これまたごもっともです。でも今の失敗した攻撃で傷を増やす何かがあったのは間違いないんだ。それさえ見つけられれば必ず倒せる。
「お師匠!!着きました!!」
「わかっておる」
彼らがこの戦場にたどり着いたの俺が攻略の糸口を見つけかけたそんな時だった。
師弟コンビついに登場




