54:苦手なもの
誰にだって苦手なものはあるのです。
皆さんに支えられて月間ランキング1位をいただきました。
本当にありがとうございます。
アクセス数は170万に到達し、ブックマークも6000を越えて、感想も80を越える数いただきました。
書き始めた頃には考えられなかった事ですが、皆さんのお陰でこうして私の物語を書いていけております。
これからも頑張りますので、是非よろしくお願いします。
マジックアイテムであるタグを使いシルトたちが無事にニルスフィアに帰還したのを見届け、俺たちは人探しを始めたわけだ。
どうやら星読み人のスキルにて風景が夜空になったのだが、戦闘終了後には元に戻った。当たり前ではあるのだけど。
けど思っていた以上にウェルネスシールとの戦いは時間がかかっていたようで、空は茜色に染まりもうすぐ夜だ。
これで目的の流れ星が見える場所で焚き火をしている人に出会えるかもしれない。
「でも凄かったね。『星読み人』の専用スキル。風景まで変えちゃうんだもん」
「だな、効果もかなり強かったよな?俺あんまり支援系のスキル弄った事ないから分かんねぇんだよ」
何度も言うが俺が支援系のジョブ、というかゲームで支援系のキャラクターで遊んだことはない。さらに言えばオンラインだと、一般的な評価と個人としての評価は必ず同じとはならない。なので結構不安だったというのが本音だった。
けど、三人の評価的には高そうなので良かった。
「まぁお前はどっちかというと前線で戦うって感じだしな」
「アタシが思うには多分突き詰めれば支援系の中では最強クラスのジョブだと思うよ?一つのスキルで重ねがけ出来るのが何より強いよ」
なるほどな。やっぱりこのジョブ相当強いのか。入手方法が特殊すぎるだけはあるみたいで何よりだ。
ポイント高いのはエクストラモードでやっている俺にも感覚としてバフが機能していると理解できるところが尚良し。詠唱も特にないので前線で戦いながらも使えそうだし万々歳である。
「あと『全反撃状態』?あれがスゲェ」
「わかる!!アタシ実は攻撃掠ってたんだけどダメージ受けなかった上に次の攻撃でいつもの倍以上出たから驚いたよ!!」
見えてないところで『全反撃状態』は発動していたようだ。兇波鋭豹との戦闘中だろうか?レイレイのレベルで倍以上のダメージを出せたんだからやっぱり相当強力な効果だな。
「私は単純に魔力バフの重ねがけがありがたかった。クセになる威力で楽しかった」
そんなこんなで三人も体験した星読み人の効果に大絶賛の様子だ。
だが考え方によっては敵が弱すぎて楽しめない可能性も出てきたわけだし使い方は要注意だな。上げすぎてゲームバランス崩すのは不本意だし。
それを言ってしまえば俺が使う3つの流派もどうするんだと言う事になるのだが。
「そう言えば探してる人の手がかりって、確か焚き火でなにか焼いて食べてるっていってたよね?」
「そう言ってたわ。けどそれだけだと特定するのはちょっと難しいかもしれない」
「あの海岸バーベキューに向いてるからねぇ・・・結構な人数かぁ。手当たり次第聞いて回る?」
「それしかないだろうな」
探している人の特徴まではわからないし手当たり次第で探すしかない。ちょうど四人いるし手分けすればなんとかなるだろう。
方針は決まった。それじゃあ早速探しに行こうか。
「「「「・・・・・・・」」」」
流れ星がキラキラ流れる夜空が有名で観光エリアとしても有名な『流星海岸』。多くのプレイヤーが夜になると集まりBBQや花火などをしており繁盛していると噂の有名なエリアだ。
そのはずなのだが・・・・・・・・・・・
わらわらと埋め尽くさん勢いでエリア中にいたのはウツボとカニを足して2で割ったような姿をした奇妙なモンスター。見た目は完全に蟹、それも茹でたてのように綺麗な赤みがかっている。
けど二つの鋏がウツボで自分の意志があるように動いている。これなんてキメラ?
俺たち以外のプレイヤーも勿論いて、現在進行形でキメラ駆除に追われている。
「なぁ・・・・あれなに?」
「ウツボガニだね」
そのまんまの名前だな。ウツボガニ。結構簡単そうに駆除されているからそこまで強いモンスターではないだろう。けどなんだろう?体をゾゾっと舐めまわすこの悪寒。
「多分繁殖期だったんだろうね。そうじゃなきゃここまでたくさん出てこないもん」
「まぁ大した敵じゃないし他の連中も戦ってるからサクっとやっちまおうや」
うん。それは同意。けどやっぱり悪寒がすごいんだ。何というかあれだ。生理的に無理な存在を前にした奴が発する独自の気配?『殲滅してやる』と言わんばかりの嫌悪感?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう言えば唯の苦手な動物って蛇だったなぁ・・・・・・・・・・チラッ・・・・・。
「天獄をここへ、全ての生命は万象の元全て灰へとかえもぐっ!?」
「はいはいよーしよし。落ち着けリーク」
目が完全に逝っていた。ブツブツと何かを詠唱していたし感じた力は前にゴブリンを全滅させるのに使っていた『アルマサルヴァトーレ』の比ではなかった。
前に言っていた『星の叫び』だかそんな感じの魔術使おうとしていたに違いない。
口を押さえ詠唱を止めてリークを宥めるとそのまま目頭に涙を浮かべて抱きついてきた。
「もうやぁ・・・蛇嫌いぃ・・・・」
「よしよし怖くないから泣くなよー・・・・レイレイ、ゴリラ。悪いけど今日終わりだな。リークがもうだめだ」
「だらし無いわね女狐」
怒るレイレイだけどお前だって飛ぶ虫ダメだろうに。見ただけで悲鳴あげるくせに何言ってるんだか。
「ま、今日はいいんじゃないか?また明日にしようぜ」
「もうやだぁ・・・・」
「はいはい今日はもう終わりだから泣くなって」
蛇でダウンしたリークのこともあり、今日はこれでお開きとなった。
イベントということもあり俺たち以外の誰かが見つけるか進めるかする可能性もあるし、最終的に俺としてはあの侍ゴブリンさえ倒せれば個人的な成果としては満足だ。
次はどんな事が起きるかな。
三人がログアウトしてからどれくらい経過しただろうか。
「・・・・・・・ッ」
ウェルネスシール戦の時たまたま見かけた小さな洞窟。このエリア自体あまり人気もなく、モンスターの気配もあんまり感じない。
修行には絶好の場所だった。
イメージするのは天津雀を使いこなす自分の姿。少しずつ天雷の精度を上げながら抜刀を繰り返す。
この程度ではまだまだ足りない。天雷雀の精度では侍ゴブリンには遠く及ばない。対峙したからこそ分かるやつの強さに俺の心は踊っている。
俺を越える強敵を前に闘志が沸き上がる。
小細工なしで奴に勝ちたい。それくらい俺にとっての侍ゴブリンの存在は大きなものだ。こんなにも心を奪われる存在だとは思わなかった。
「・・・・イデッ」
剣を振るう手に力が入りすぎた。もう少し力は抜くべきか。それなら天雷をもう少し強くしても耐えられそうだ。
「超越流派抜刀術『天津スズメ゛ッッ!!」
駄目かっ!?痛すぎんだろ畜生め。
体の動きは多分大丈夫なはず、けど抜刀したあとの切り裂きから納刀まで右腕が持たない。
今日何度目かになる腕の負傷。速度と天雷の精度、そして右腕がその負荷に耐えられずに遠心力を受けたまま吹き飛んでいく。
月光流の応用で可能な限りの衝撃緩和はしてるつもりだけど、最後に何かが足りていない。
「う・・・・腕ぇ・・・・・・」
やべぇ、痛すぎて気を失いそう。早いとこ見つけてくっつけないと落ちる。
『ここだここ』
ギルファーが口に腕を咥えてやってきた。背中には見覚えのないリュックを背負っており何かを入れているようだ。気が付けばどこかへ行っていたギルファー。今まで何をしていたんだろう。
「腕」
『気の向くままにぶらついていただけだ。それより使うがいい。どうせ持っていないだろう?』
リュックから器用に取り出したのは回復ポーションだった。そのまま腕を受けとると、断面に合わせてギルファーはポーションをかけてくれた。
「お前・・・これ・・・・・・」
『さぁな。それよりも使うがいい。我からの慈悲だぞ』
「あぁ・・・」
ポーションが断裂した腕を優しい光で包み込む。光が収まると共に腕が元に戻っていく。ブドウの果汁もそうだったけど回復アイテムの効果がかなりすごいな。
ポーションの効果で痛みも和らぎ、意識もしっかりとしてくる。少し休めばまた剣を振れそうだ。
「それで、どうしたんだよ?なんか聞きたいことでもあるんだろ?」
コイツがこうして気を利かせることなど何かある時くらいしか無かった。今回もそうだったようだ。腕を舐めその感覚を確かめるとギルファーは静かに口を開いた。
『勝てるのか?』
何にと聞き返さずともわかる。
「勝つさ。当たり前のこと聞くんじゃねぇよ、俺は剣聖だぞ?」
『そうか。ならばいい。我は寝るが必要ならば起こせ』
その場で丸まりギルファーは規則正しい寝息をたてて寝てしまった。相変わらず心配の仕方が下手くそな奴だよお前。
侍ゴブリンに俺の腕が斬られたあの時、一瞬ではあるがギルファーは殺気をばら撒いていた。敵味方関係なく邪魔する全てに殺気をばら撒き、即座に離脱と迎撃できるように帯電の用意をしていたのだ。
俺が即座に止めろと視線を合わせたことでコイツは大人しく殺気を引っ込めたけど、もしそうしなかったらあの場で暴れていた可能性だってある。
こいつ敵と好敵手には厳しいし上から目線だが、味方や身内になるとすごく甘くなる。態度と口は変わらずともその心は敵対していた時とは全く違うのだ。不器用なんだコイツ。だからどうやって接したらいいかわからなくてこんな形でしか表現できないのだ。
本当は休んでほしいんだろうけど、俺が素直に聞かないのを何となく察したからこうしてアイテムを用意したんだと思う。
多分だけどこのリュックとアイテムだが自分で買い揃えたんだろう。金の稼ぎ方と購入の仕方を教えたことはないけど、結構頭いいから見ていれば自然と覚えるのだ。ゲームは違えどもギルファーはそう言う奴だとこの二日一緒にいてわかった。
「ったく・・・だから嫌いになりきれないんだよアホ犬ギルファー」
柔らかい毛並みを撫で休憩した後、アイテムが尽きるまで、俺は再び修行を再開した。
不器用な優しさを持つ狼と文字通り腕が吹き飛びながら技の完成を目指す主人公のお話




