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53:決着



「それじゃ解除するよ・・・流石にもうキツいのもあるし」



『ギュルィィィイ!!!!!』



レイレイが施していた拘束が解除され、二回戦の火蓋は怒り狂う雄叫びとともに切られた。呼吸を整えて後方支援から最前線での戦闘へと移行。桜奏呼吸はそのやり方一つで相手の意識を自分へと集められる。



存在感を強くすることが可能なのだ。わかりやすく言うと存在感が違う。



「おらこいよアザラシちゃん。相手してやるよ」



『ギュルィィィ!!!』



簡単に挑発に乗ってくれたウェルネスシールは先程と同じように、けれど先程よりも早く地面を飛ぶように突撃してくる。前ヒレをクロスさせて来るあたり、殺意は高い。だがそうしてくれるならこっちだってやり方を変えるだけだ。



「それに真正面から来てくれるなら万々歳だ」



どんなに小細工しようが真正面からの突撃というのに変わりはない。その動きを逃さず”視れば”対処は可能だ。



『キュルルィ!!!』



俺に当たるギリギリのタイミングで広げられる前ヒレ。だけど動きを”視れば”どのタイミングで開くかは予想が可能。



さらに言えばこの程度の速度では俺からしたら速い部類には入らない。



流石に鋭く光るヒレを手で直接掴むことはしない。武器で受け止めるのだがそれだと即座に反撃には移れない。



ここで魔闘士スキルの恩恵が生きてくる。エクストラモードの恩恵でもあるからどっちとは言えないんだけどともかくだ。



両手で別の武器を構えられるというのはこの場では強みだ。右手に『双子星の剣』、左手には取り出した『恨血木の破斧』を装備。



「『白月』接続『滅剣アスクレス』」



前ヒレの先端が交差するのは俺の体の中心。そのギリギリのタイミングで『恨血木の破斧』を振るう。



『白月』で受け止め余分な衝撃は『アスクレス』で斬り消滅させる。本来は相反する技なので一度の行動で同時に使うことはできないのだが、そこは血の滲む約300時間の修行の成果だ。



『ゾディア』習得までお世話になった(殺され続けた)猪相手にひたすら繰り返したあの修行。



序盤で出てくる敵で突撃してくるのが猪くらいしかいなかったのでそこで只管練習した。そこまで最初から戻るのには最初の頃は3時間くらい、慣れてくると2時間弱で戻れるので一番修行がしやすいボスモンスターだった。



そんな訳で習得した相反する技の接続。ヒレを叩きつけた斧が衝撃を奪い、そして消し去ったことでヒレの動き、そして突撃してきた体がぴたりと止まる。



『ギュルィィ!!!?』



大きく仰け反りすぐさま回避、もしくは次の攻撃に移ろうとしたウェルネスシールだが、その直後、『恨血木の破斧』の毒がヒレから体に流れ牙をむく。



それにより一瞬だけ硬直したその隙を逃さない。左で受け止めた衝撃はそのまま右手に持つ『双子星の剣』の剣先へと集めている。



天雷も既に2分を超えた。体が悲鳴を上げかけているからこの一撃で天雷の分まで衝撃を叩き込む。

「接続奥義『水無月写鏡・天雷』ッ!」



天雷含めすべての衝撃を載せてウェルネスシール目掛けて剣を突き刺す。剣はヒレの間を抜けて焼き爛れた皮を深く突き刺す。傷口から噴射する白い飛沫が体に掛かり、ウェルネスシールは悲鳴を上げる。



「オラァ敵はアールだけじゃねーぞ!!!!」



「『スナッチハイド』」



「『ブラッドヴァイト』」



悲鳴を上げてその場で止まった敵を目の前にしてマー坊が何もしないわけがない。2振りの槍による連撃がヒレを切り刻み、トンファーの先端で鋭く光る刃が体を引き裂いていく。



それでもこの状況を打開しようと体を動かすウェルネスシール。その前にリークの魔術によって地面から出現した真っ赤な牙が、その巨体に深く食い込み内部へとダメージを与えながら、その動きを封じる。



『ギュルィィィィィイ!!!!!!!!』



「『ブラッドヴァイト』『ミラージュファング』『グリーディアギト』『カオスアギト』」



それだけでは済まない。さらに生えてきた赤い牙が脳天を突き刺し。空から現れた半透明の牙が尾ヒレを地面に縫い付ける。



後方から現れる巨大な顎が縫い付けられた尾から胴体に噛み付き、目元に現れた不気味な色が混色する二本の牙がウェルネスシールの顔を覆いかぶさるようにその目を潰し視覚を奪う。これで完全に自由を奪われた。



『ギュルイギュルイィィ!!!』



かろうじて動く胴体とヒレを激しく動かし暴れて難を逃れようとするウェルネスシール。それが引き金となったことで『水無月写鏡』で与えた衝撃が体内で爆発し、口から白い血液を吐きさらに苦しむ。



「月光真流奥義『十六夜天雷』接続『水無月写鏡』ッ!」



さらに今のジタバタで再び『白月』による衝撃回収ができたことで再び天雷を使用。先程よりも衝撃の量は落ちるがそれでも十分すぎる。



連続使用により体の節々が悲鳴を上げ心臓も悲鳴を上げている。



「ガァッ・・・!!」



これくらいで根を上げてしまえば侍ゴブリンには絶対に勝てない。悲鳴を上げるウェルネスシールの隙を見てポーチから回復アイテムを取り出して口に入れる。



ブドウなので食べやすくて助かる。そのまま噛み砕き体に効果を取り入れる。ブドウは直ぐに効果を発揮して体を癒してくれた。



「月光真流陸之型『照月』!」



触れた方向とは逆の方向に相手を吹き飛ばす衝撃を流し込む月光真流六之型『照月』。



突き刺し開いた傷口をさらに開くように、傷の両端へ武器を走らせながら放つ『照月』。衝撃が左右へと向かい、紙を破るように傷口がさらに開かれた。



『ギュィィィィィィ!!!!!』



その痛みで再び激しく悶えるウェルネスシール。再びそれが体内に送り込まれた衝撃の起爆へと繋がり傷口からさらに体液を吹き出す。



ダメージを受けすぎて動けないが、動かなければこれ以上の攻撃が来る。それを察して逃げようと動けば再び衝撃が爆発し動けなくなる。悪夢の無限ループである。



前ヒレはマー坊の攻撃により既にボロボロ。体を覆う毛皮も刈り取られ残っていたほぼ全てを失っている。



失った柔らかい肉の部分には追撃の魔術によりさらに深く埋め込まれつつある牙が襲い掛かり、逃げるために動いているのにも関わらず大きなダメージを負うことになってしまっている。



正面は俺が毟り開いた傷口から血を流し既に満身創痍。一気に仕留める。目配せで合図するとマー坊もリークもレイレイも俺のやろうとしていることをなんとなく察したのか動き出す。



「レイレイ!!こっからタゲ上に持ってけるか!!」



「余裕!!」



避ける余裕も体力もないかもしれない。だが万全を期すために一瞬だけこちらから視線を外したい。レイレイは言葉と共に大きく跳躍した。



「リーク!!牙二つ俺の目の前!!」



「すぐに出す!!」



深く突き刺す魔術の牙でその心臓を穿つ。目の前に展開された二つの魔法陣が牙を生み出していく。



「マー坊!!合わせろ!!!」



「上等!!」



俺の衝撃での攻撃とマー坊の高い攻撃力から放つ攻撃。ダメ押しとも言えるこの一撃で一気にHPを持っていく。



「『シャドウアイズ』!!」



「『ミラージュファング』」



『ギュルィィ!!?』



レイレイが上空へと飛び上がりスキルを発動させる。その効果はどうやら強制的に対象の視線を自分に向けさせるスキルのようでウェルネスシールは意図しないまま視線だけ真上に向かい俺を視線から離した。



そのタイミングで俺の目の前に現れるのはリークが生み出した二つの牙。近くで見れば逆だっており、一度食い込めば簡単には取れないようになっている。こんな牙が先程からいくつもウェルネスシールの体を食い破っていたのだ。



その牙が一つ俺の目の前に、もう片方は横に並ぶマー坊の前に。



牙の前には大きく開いた傷口。その奥に見える柔らかそうな肉。やることはもう決まっている。



「『星波ピスケス』!!」



「食らっとけや!!」



『キュルゥぅぅ!!!?』



傷口から広い液体を拡散させながら後ろから押し込まれるように深々突き刺さっていく二つの牙。片方の牙は力任せで押し込んだ分、傷が更に広がるように、片方は牙自体が振動し体内のまだ無事であった部分を揺さぶり破壊していく。



『ギュィィィッ!!』



命が終わると悟ったのだろう。死にたくないと傷をこれ以上受けながらも決死の覚悟で動き出すウェルネスシール。その姿はまさに生物が生きようとする覚悟だった。



逃がしてやるのは簡単だ。だけど一度戦い始めたのなら自分が死ぬ覚悟もしていなければならないのが戦いの掟なのだ。悪いが逃がすつもりはない。



「マー坊レイレイ!!動き封じてくれ!!!次の一撃で決める!」



「先に俺が倒しちまうかもしれんけどなぁ!!!」



「そのヒレもらったァ!!」



逃げるウェルネスシールの頭まで飛び上がり、地面に叩きつけるように武器で殴るマー坊。レイレイがジタバタと動くヒレを何度も切り裂き無力化していく。



俺が狙うは心臓。傷口からの血飛沫の量と、流れ出る体液の量、そして牙から感じた鼓動で心臓の位置は大体わかった。あとはそこに衝撃を直接ぶち込んで爆破する!!



「月光滅流十二宮奥義『非情アリエル』!!」



突き刺すように放った剣が深く突き刺さる牙をさらに押し込み、ウェルネスシールの体の奥へと侵入していく。



衝撃は体から剣へ、剣から牙を通じてやがて生物の生きている証である心臓へと到達し、その動きを暴走させる。



『非情アリエル』



牡羊座の名を冠するこの奥義最大の特徴は防御無視の内部直接攻撃。その衝撃は心臓の伸縮を暴走させる。



例えどれだけ分厚く装備を着込んでいても心臓の場所さえ分かればもはや無意味となるこの奥義。注射針のように差し込む衝撃が心臓へと達した時、衝撃はその鼓動を阻害し相手を苦しめる。



『ギュルピィッ・・・・・・!!!!!』



やがて心臓が破裂し血の循環が止まる。対生物特効とも言うべき冷酷非情なこの奥義はどれだけ強くとも、どれだけ固くとも関係ない。



ただ心臓を破壊するだけなのだ。そんな衝撃を柔らかい肉でうけて心臓に送り込まれればどうなるのか。想像しなくてもわかる。そしてだ。『水無月写鏡』で送り込んだ衝撃はまだ残っている。



『ギュッ・・・』



最後の衝撃が爆発し、心臓とともにその息の根を奪う。ゆっくりと沈みかける巨体へとどめの一撃が放たれた。



「我が牙よ爆ぜろ『フレアボム』」



リークが作り出した、俺たちが体内へと差し込んだ牙が赤く発熱し爆発したのだ。大穴を空けたウェルネスシールの胴体がその命の終わりを物語っている。




――――レイドモンスター『ガンドロックキャンサー』『ウェルネスシール』を撃破しました

――――『兇波鋭豹』5体撃破しました

――――素材:兇豹の荒皮×2・兇豹のヒレ×2・兇豹の肉×3・兇鋭豹のヒレ×2・兇鋭豹の毛皮×3・兇鋭豹の心臓×1・岩刃蟹の鋏×2・岩刃蟹の甲羅×2を入手

――――レベルアップ!アールLv25になりました。

――――SP15取得

――――『UtS:桜華戦流Lv1』を習得

――――魔術使用により『UtS:星の魔術回路Lv1』にポイントが蓄積。

特殊ボーナス『星読み』『彗星』発動により獲得ポイント2倍。

スキルレベルアップ。『UtS:星の魔術回路Lv2』

――――スキルレベルアップ『UtS:月光流Lv3』『UtS:天匠流Lv3』にアップ

――――師範代Lv1の効果発動。バトル参加プレイヤーが『UtS:天匠流』『UtS:月光流』習得のためのスキルポイントを獲得



修行者 

リーク  月光流Lv1 2/150 天匠流Lv1 8/150

レイレイ 月光流Lv1 8/150 天匠流Lv1 3/150

俺はマー坊  月光流Lv1 5/150 天匠流Lv1 6/150


















「勝ったァ・・・・お疲れさん」



「「「「お疲れー」」」」



リザルトは出た。無事に戦闘終了だ。糖分補給のためにブドウとリンゴを頬張り疲れを癒す。動いたあとは甘いものに限る。そしてどうやら師範代の効果は同じパーティーであることが条件らしくシルトらのパーティーには分配されないようだ。こればかりは仕方ない。



戦い方によるのだろうか、レイレイとマー坊がポイントを3~6まで上げている。リークは今回後方支援に徹していたこともあり大きな上がりはない。



このペースで上げていけば最短25回の戦闘でどちらかの流派は身につけることができるだろう。ついでに俺も今回の戦闘でやっと桜華戦流のスキルを手に入れた。多分だけど『桜奏呼吸』を結構使っていたからだと思う。



何はともかく、これで一応全流派のUtSは手に入れた。あとはレベルを上げるだけか。それともう一つ改めて彼らに謝らなければいけない。



「す・・・すごい・・・・これが・・・アールさんたちの強さ・・・」



「シルト、改めて済まなかった。俺のせいで迷惑かけた」



理由はどうあれ彼らには迷惑をかけてしまった。途中色々話したが大元の原因は俺のせいだ。



「そんな気にしないでください!!僕らこそアールさん達のおかげで目標ができました!!!それに欲しかったものも手に入りましたので!」



シルトが取り出し見せてくれたのは辻斬りの被害者である兇波鋭・・・えぇい言いにくい!!なんでボスはそれなりに言いやすいのにこいつらはめんどくさいんだよ・・・もうアザラシでいいや。ともかくアザラシの肉だった。それも全員入手したのか皆が見せてくれた。



「お肉欲しかったの?」



リークが首をかしげると、シルトが答えてくれた。



「実は依頼を受けてこの兇波鋭豹の肉を取りに来たんです。この肉にはとある病気の解毒作用があるんです。僕らはその為にこうしてニルスフェアからここまで来たんです」



なるほどな。そう言えば肉の説明にそんなことも書いてあった気がする。なんでも

ある毒に対して有効な働きをする成分が多く含まれていて食べるだけで治療になるとかならないとか。



「これで無事に依頼達成です!だからアールさん達も気にしないでください!!」



「そーそー!!俺らもおかげでスゲェ自慢話できたしラッキーって感じだよ」



「つっかえていたこともなんかスッキリしましたしこちらこそありがとうございました。」



「うん・・・楽し・・・かったです」



この子らの笑顔が堪らなく輝いておる・・・・守らなければ、この笑顔。



「そっか・・ならはい。これアタシからのプレゼント。転移先はニルスフェアに設定してあるからすぐに帰れるよ」



レイレイが取り出したのは魔法陣が描かれた紋章の入ったタグ。話から察するに転移魔法が組み込まれたアクセサリーみたいだ。



「これって・・!!魔術アクセサリーじゃないですか!?もらえませんよこんな高価なもの!?」



「いいから受け取りなって!!ニルスフィアに戻るくらいにしか使えないけど君たちの助けになるならこの子も喜ぶからさ」



手渡されたタグを返そうとするシルトだが、レイレイは笑みを浮かべながらもらってくれと言葉を返した。


「でもやっぱり受け取れないですよ。私たちお返しできるものないですし」



「ならまた今度一緒にモンスター倒そうや、俺らも色々勉強になるからそれでどうだ?な?アール?」



マー坊が代わりに一緒にまた戦おうというが、それを俺に振るのかよ。そこはレイレイに振ってくれよ。あ、お前らも俺の決定でいいのね。了解。ならいいか。



「そういうことだ。また今回みたいに一緒に闘ってくれってお願いを込めた俺たちからの贈り物だ。それなら受け取りやすいだろ?」



シルトは少し考えた後決めたように顔を上げた。



「・・・・・・分かりました!!なら受け取ります!!その代わり約束です!また一緒に戦いましょうね!!」



「おう。約束だ」



こうして、俺たち最初のレイド戦・・・一応レイドだよな?ともかく、無事に終わったのである。





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