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42:強制敗北イベント

負けイベこそ勝とうとしますよね。



私が知る限り、それは終わることのない悪夢の始まりを告げる言葉だ。



剣聖物語にはいくつかの強制敗北イベントが存在している。どのゲームにもよくある負けイベント。それくらいならまぁ大したことはない。ありふれたゲームの一幕だから。



その中で一つ。剣聖経験者が口を揃えてやりたくないと答えるサブシナリオでの負けイベントがある。サブなのに敗北とはどういうことなのかとは思ったけどそこはいい。


サブシナリオ『終わりの見えない明日』



古代神殿の最奥地にて正体不明の騎士が現れ、訪れた人々を襲うのだという。噂を聞きつけてそんな騎士を退治しようとした勇気ある騎士が一向に帰還せず、騎士の婚約者が騎士を連れ帰ってきてくれとの依頼を出し、受けることでこのイベントは進行する。よくあるパターンだ。



最奥地にたどり着いた主人公=私とその仲間たちが目にしたのは噂通りの騎士。視線が合うと騎士は襲いかかってくるが、ここまで来ることができた私には大した敵には成り得ない。



けど、ここで““勝利してはいけない””けど““敗北すればゲームオーバー””。この場での唯一のイベント完了条件は、この騎士を神殿の外へと連れ出すこと。道中倒したはずの敵と見たことないような強敵が出現し騎士を殺しに来るがそれを守りきり、神殿の外へと連れ出すことに成功すればイベントは進行する。



騎士に勝利する、もしくは騎士が殺されると私たちは闇に飲まれて見知らぬ空間に落とされる。自分たち以外には何も見えない真っ暗な空間。見えるのは自分と仲間たちの姿のみ。



しばらくはほかに何も感じないのだけど、10分、20分と真っ暗で何もなく、また歩いても先に進んでいる気配がないとだんだんと恐怖を感じてくる。



恐怖を感じるとようやく敵が現れる。ここで何の躊躇いなく倒してしまえば視界が真っ暗になってゲームオーバー。セーブ地点からやり直し。



倒さずにしっかりと確認すれば、敵だと思ったのは探していた騎士であるとすぐにわかる。けど騎士の方はこちらを完全に敵だと思い込んでいる。



倒さずに気絶もしくは戦意を喪失させれば騎士の救出が可能になり暗かった空間に道が見える。これで正解。



探しに来た騎士を連れて道を進むと大きな扉が見える。そして扉の前には大勢の人がいた。彼らは扉に群がるように叫び、怒声を上げて扉を叩いている。



その中で誰か一人がこちらに気付く。すると全員がこちらに顔を向ける。けどその顔にはべっとりと血が付いており、目に光はない。



『悪夢』



『怨念』



『怒り』



こんなような言葉を話しだしたかと思えば、大勢いたはずの彼らは一人、また一人とその姿を消していき、最後の一人、倒した、倒された騎士がそこにいる。



彼は何かを話し出すんだけれどそれが何語で、何を意味しているのかは初見では分からなかった。後日解説と考察のまとめサイトで探してみればすぐに答えは見つかった。



『私は強くなりたかった。みんなを守りたかっただけなのに、皆が私を恐れてしまう』



『だから私は““私じゃない私””を生み出した。皆の為に、力になりたくて生み出した』



『なのに皆が私を悪だというのだ。私はみんなを助けたいのに』



『君は私を悪だと言わないでくれるよね?』



言葉が終わると即座に戦闘に入る。これが負けイベントだった。相手の姿は見えているのに、そこにはいない。けど声だけは聞こえるので、その声を頼りに戦えば仲間を攻撃している。仲間も自分を敵だと判別してしまい攻撃してくる。



ずっとそれの繰り返し。やがて最後の一人になると騎士はようやく姿をはっきりさせて現れる。今度は正面からの一対一の真っ向勝負。



『 ““俺””たち““二人””の戦いを始めよう 』



この一言から始める戦闘だが、どうやっても勝つことはできない。レベルの差でも、スキルの差でもない。鏡写しなのだ。己自身の。自分と同じ攻撃を全く同じタイミングでしてくる。



なら攻撃しなければいいと黙ろうとすれば騎士は己で攻撃してくるので反撃する。でもその瞬間、時間が消えたように動きが変わりまた自分と同じ動きで同士打ち。



ずっとこれの繰り返しでHPが尽きるまで終わらない。逆を言えばこの負けイベントを超えればもうひとつの結末が見られる。ハッピーエンドにつながる残りのサブイベントに移り変わるので結構面白い。



その負けイベントそのものがみんなのトラウマだったりする。何をやっても勝てないし、そこそこレベルとスキルが揃ってきているので簡単に負けることもできない。多分ここだけで一時間は簡単にかかる。



同時に真っ暗な空間にいる時間が長いのでかなり怖いというのもやりたくないと言われている一因だ。




今アールがやっているのはその再現。

桜華殲滅流の技の一つ。再演。そのままの技で自分が経験した出来事を再現もしくは改変してしまう技。役者はその場にいる生命体。配役はアールの采配で決定されてあとはアールの描いた通りにひとつの物語が作られる。



それこそが桜華殲滅流の真髄だと私は思っている。桜華戦蘭流は自分自身を目立たせて戦場を支配し戦う流派だけど、桜華殲滅流は強制的に舞台へと全員を上げられて自分が望む結末を押し付ける流派。



戦う姿で舞い踊る桜華戦蘭流には言葉は必要ない。己の姿で語る結構カッコイイ流派。



対して演劇のような動きや口調で敵を先導し同士打ち、闇討ち、理性崩壊などを平然と行う桜華殲滅流。



ルナティウスまではゲームシステムアシストで一度使えるようになれば誰でも使えるけど、リアルハードでアシストはない。ならなんでアールが今それを使えているのか。



そう言えば前に歌舞伎とかカウンセリングとか催眠術とかに目覚めたみたいに映像とか本に張り付きになっていた時期があった気がする。



あの時は怖くなって泣きついて止めてもらったけど、もしかしてこの為にやってたのかな?



そう考えると納得いく。私によく励久は怖いとか、とんでもないことするとか日頃言うけど、今の励久だってとんでもない。ゲームの為にそこまで出来るんだもん。



そしてさ?ここでやれているって事は““現実でも同じことができる””って事なんだよ?



ゲームか現実か、違いはそこだけ。励久がもしも極悪人なら大量虐殺もカルト集団を作ることも簡単にできちゃうってこと。自覚あるのかな?多分無いよね。



でも励久はそういうことは興味なさそうだし、あったとしても私たちが止めてみせる。私を含めて幼馴染三人は励久から大切なモノをたくさん貰ったし、たくさん作ってくれた。私たちの家のことを知って尚、変わらない関係を続けてくれた。



それがどれだけ難しいことか励久は全く理解してない。だから私たちは励久が困っていたら助けるし、苦しんでいたら協力する。


間違った方に行こうとしたら励久がそうしてくれたように私たちが矯正する。私たちはそんな幼馴染でいる。これまでも、これからもずっとそう。だから。



「これは勝ったね」



「ここまでしなくてもとか少し思うけどね?」



「勝利条件不利そうだしいいんじゃね?」



今は励久の勝ちが多分確定したからのんびり見ていよう。



それにしても戦い方を見ればよくわかる。励久の攻撃力自体はそこまで高くない。見た目やうるさい奴のやられ方は派手だけどHP自体はそこまで減っていない。



でもなんであそこまで苦しんでいるのか。

上手なんだ。人との戦い方が。



人間である以上は急所は絶対にある。このゲームではそういう細かいところまで忠実に作られており、『そこまでやる必要あった?』と思うことは結構ある。



アールが利用してるのはそこ。



一見ただ流派を使って攻撃してるように見えるけどその攻撃の仕方が凄い。当たれば痛い当て方、痛覚を瞬時に捉え攻撃している。



ここまでやられたらもう絶賛するしかない。どれだけの時間を費やしてリアルハードモードをクリアしたか、この戦いを見るだけで十分に伝わってくる。



凄いよアール。



アール

『全部受ければいつか終わるんじゃね?』


味方敵全ての攻撃を月光真流で受けきり累計10時間も粘り続け、強制イベント進行にて強制敗北をやり遂げたのは後にも先にもアール一人でした。



続きはまた後日。

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