324:剣聖と剣災 Ⅱ
マリアーデ激怒。理由は当然アール。
剣を抜き、女の首を刎ねようとしたマリアーデ。俺が押さえ込んで止めたから良かったものの、この女。回避する気が全くなかった。それどころか受け入れよると言わんばかりの表情だった。
「落ち着いてくれ師匠・・・」
「・・・・・・・・・」
「頼むから・・・俺はこうして無事だから。頼むよ」
「・・・よかろう」
そう言ってマリアーデは剣を収めてくれた。今度は俺が女とマリアーデの間に入るように陣取る。
「なぁアンタ。答えてくれ。なんで動かなかった?」
「四代目剣聖マリアーデの怒りは最もです。早朝の内に王国へは私が信用できる者に手紙を出したので、私が死んでも昨日の約束は果たされます。それに私の命一つで四代目剣聖、そして五代目剣聖に働いた無礼を清算できるのならば安いものです」
冗談とかで言ってるわけじゃなく、この女は本気でそう思っていると直感が告げていた。本当にここで死んでもいいと思っていた。女は『それに・・・』と言葉を紡ぐ。動けなくなっていた『転生者』達の方を向いて。
「今後その怒りがあの子達に向かないとは言い切れません。私の命であの子達を救えるならば、私の命程度はいくらでも払いましょう」
「そんな約束はしてねぇぞ。だからこそ何か抵抗を見せるべきだったはずだ」
「五代目剣聖。私は貴方を、そして四代目剣聖を書物でしか知りません。そして書物に書かれた貴方ならばきっと、彼らに危害が加わることを是としない。そして貴方の頼みならば四代目剣聖はきっと彼らを傷つけはしない。それを信じたからこそ、私はこの命を差し出せるのです」
「・・・愛弟子、もう良い。余が短気過ぎた。許せ女」
俺の背中を壁のようにして寄りかかり、とりあえずこの場で何かをすることはしないと意思表示をしてくれたマリアーデ。しかし顔は見たくないのかそのまま俺に寄りかかっている。
「感謝します四代目剣聖マリアーデ」
「ふん・・・それで? 我が愛弟子に迷惑をかけた下衆とやらは今どこにいる?」
「マリアーデ」
「安心しろ愛弟子。別にどうもせん。だが動向が知りたいだけだ」
「あの馬鹿は現在王国の王城で『転生者』達に”戦い”を教えています。馬鹿ですが戦闘センスは高いので」
「言っておくが、余は我が愛弟子の命を奪おうとする姿を見たら誰であろうと殺す。その馬鹿にも伝えておけ。次はない」
「必ず伝えます」
一応怒りは完全に収めてくれたらしい。背中から感じる殺気がようやく消えた。心臓に悪いから勘弁してくれよ師匠・・・この前の賊騒ぎとは話が違うんだから。
「それとだ。そこの小童ども含めた『転生者』なる者共を守るならば自分で守れ。少なくとも余と愛弟子も多少は守ってやるが面倒はみんぞ」
「四代目・・・」
「余の醜態を晒した誠意と、貴様が余と愛弟子の関係を信じたが故の温情だ。アルベルトとカイラには余からも伝えておく。そうすればよほどの愚か者でない限りは手出しはせん」
この女が『転生者』である彼らを本気で守ろうとしていたことは、しっかりとマリアーデにも伝わったんだろう。だから殺そうとした謝罪として一言言っておくと伝えたんだ。
「俺からもアルベルト陛下とカイラには伝えておく。それと呼び方だけど、俺はアールでいい。毎度五代目剣聖アールとか呼ぶのめんどいだろ。マリアーデは・・・」
「好きにせよ」
「だってさ」
「お二人の寛大な心に感謝します。しかしこれは私なりの敬意です。お二人のお気持ちだけいただきます」
こうして、一応の収束にはなったが、この空気で『転生者』諸君と話す空気ではなくなったため、本来ニコニーコが考えていた、俺とマリアーデの紹介は明日以降、落ち着いた時に改めてということになった。
――――◇――――
「なんだとっ!!? 今の話は本当か!!?」
『も・・・申し訳ございません陛下!! しかし私は』
「言い訳など良い!! それよりあの女はどうした!!?」
『は・・・はい! 数日彼らの様子を見てから戻ると頑なに言い続けまして・・・』
ここは王国。白の中にある国王の部屋。部屋にいる国王と思われる男の手には『ビジョンクリスタル』と呼ばれる、主に生配信などに使われるアイテムがあり、映像を別の空間に映し出す効果がある。
映像に写っているのはジキイド公爵。公爵は顔を真っ青にして地面に頭をこすりつけ昨日の会合の話を王に伝えている。
「何を考えているあの女・・・!! 我が国の重要機密をあっさりとバラした上に交流者だと・・・ふざけるのも大概にせんか!!!」
『もっもももも申し訳ありません!!!』
怒れる国王。当然だろう。呼び出した『対時代人』『対モンスター』への切り札が、あろう事か時代人が数多にいる帝国へ、そしてモンスター達がそこへ交流者として出向くというのだ。
手の内をばらされた挙句、実質むざむざ人質にくれてやったに等しいのだ。怒り狂うのは当然と言える。しかしそこに待ったをかけた男がいた。
「陛下。落ち着いてくださいませ」
「これが落ち着いていられると思うか!!? 答えよゼファー!!」
国王が怒鳴る先には片膝をつく男がいた。ゼファーと呼ばれたその男は怒れる国王に向かって怯えることなく言葉を放つ。
「『剣災』は状況判断に優れます。それに彼女は『転移者』共に入れ込んでいました。であれば剣災は何よりも『転移者』の安全を考え行動します。故に此度の行動は『転移者』を、そしてその先にある我が国を守ったのではないかと思うところであります」
「・・・理由を述べよ」
ゼファーと呼ばれた男の言葉に思うところがあったのか、国王は一端落ち着きを取り戻した。その様子を見てゼファーは口を開く。
「此度の”宣戦布告”に剣災が待ったをかけたのは間違いなく、帝国、そして魔国に我々が想定打にしない何かが、あるいは何者かがいたからだと考えます。それこそあの剣災が一時的とは言え国に不利益を被ることになろうとも止めた理由が」
宣戦布告。確かにゼファーはそういった。王国が考える筋書きはそうだったのだ。あの三国会合で血を流し、それを大義名分として魔国、そして帝国との戦争を始める。それだけの準備をしてきた。それだけの兵力と兵器を用意してきた。
そのための生贄を選抜したというのに、剣災がそれに待ったをかけた。彼ら『転移者』の命は皆国王が握っているにも関わらず。
「ゼファーよ。なかなか面白い考えだ。それならば剣災めが『転移者』ではなく『転生者』と帝国魔国に偽りの話を伝えたことも理解できる。だが何を恐れた? 『七剣聖』と『転移者』、そして『アレ』があれば二国を相手にしようとも負けはないはずではないか?」
『転移者』たちの持つ能力は凄まじい。一ヶ月ほどで皆がレベル50にも関わらず、複数の王国兵士相手にたった一人で無双の強さもある。今現在ではさらにレベルも上がり『七剣聖』に劣らない強さに目覚めた者もいる。
そしてもう一つ切り札もある。圧倒的勝利はなくとも、負けは絶対にないはずだ。そう考えたからこそ王国は今回の会合をきっかけにするつもりだった。
「これはあくまでも私めの予想ですが・・・」
「よい。答えろ」
「はい。おそらくは『七剣聖』である剣災が勝てないと感じた相手がいたと私は考えます」
「ならば『七剣聖』を数人、『転移者』も共にぶつければいい。だがそうではないと?」
「はい。おそらく複数。もしくはたった一人で国を破滅に追い込める実力がある者がいた。そう考えれば剣災が帝国魔国に友好的姿勢を見せた理由もわかります。剣災は今回王国への協力を条件に『転移者』共の安全を申し出ていたのです。剣災は何かを守るためならば泥でも汚名でも、罪だろうと喜んで被る女ですゆえ」
「・・・ジキイドよ。会合で今の話に合う輩はいたか?」
『へ・・・へいか・・・・・・』
「その反応でわかった。いたのだな? どのような奴だ?」
『け・・・けけ・・・・・・けけけ・・・・・・』
「落ち着かぬか。貴公を罰する事はしないと我が名に誓おう。聞いていたなゼファー?」
「確かに聞きました。陛下の『誓い』は絶対のものです」
「そういうことだ。ジキイドよ。答えよ。何がいたのだ?」
『は・・・はいぃ・・・・け・・・剣聖と名乗る二人組の男女が・・・おりました・・・』
「剣聖だと? 帝国か? 魔国か? どちらにせよ我が王国の前で剣聖などとはよく言えたものだ」
「・・・ジキイド様。名はお聞きになりましたでしょうか?」
『・・・・・・っ!!』
ゼファーの言葉を聞いたジキイドは再び呼吸困難にも思えるほど怯え始めた。国王が落ち着けと何度も宥める中、男ゼファーはその反応で答えに行き着いていた。
”あの帝国と魔国”が剣聖を名乗る事を許し、剰え会合に同席させた男女。そして王国民であるジキイドが怯えている。この二つが繋がる相手。片方は間違いないと確信した。
「一人は生きる伝説、過去の王国が敵に回した最悪の相手『四代目剣聖マリアーデ』ではないですか?」
『ヒッ・・・・ヒァァァッ!!!』
「ま・・・マリアーデだとっ!!? 馬鹿な!? なぜあの者が国に組している!? ありえん!!」
「そこなのです陛下。あの者が国に肩入れすることなどありえません。いや、少なくとも女王を降りてからは一度として国に属したという記録は残っておりません」
記録に残るマリアーデに関することには、『どこかの国に属し戦った』ということは書かれていないのだ。人を、国を置き去りにして彼女は最強の座にあった『剣聖』へと至った。
そしてその後の記録に、彼女が国のために戦った事実はない。そう、”国のために戦ったことなどない”のだ。だから彼女がそこにいた理由は必然的に限られてくる。
彼女が戦う理由は奇しくも剣災と同じく、己の大切な者を守る時のみ。そして記録に残る彼女が大切にしていた者は二人。存命なのはたった一人だけ。
しかしその一人も国に興味はなく、ただ気ままに動く。だからありえない。それは彼女も同じだ。
だが、もしもあり得るのならば、そんなことがあり得るのならば、会合の場に彼女がいた理由は納得できる。いいや、それ以外の理由は考えられないのだ。彼女はその男のために、その身を投げうって瀕死まで陥ったのだから。
「陛下。これはあくまでも想像です。しかしこれが正しいならば全てがつながります。そして剣災の今回の行動で国が救われたという推測が確信に変わります」
「ゼファーよ。お前がそこまでいうのだ。聞こう」
「記録と現在において知られている、彼女が戦う理由。そして帝国魔国が公の場で『剣聖』を名乗らせる事を是とする彼女以外の者。そして男であるならば、答えはひとつだけです」
「おおよその検討は付いたが聞こう」
「こちらに『魔剣聖』の生まれ変わりがいるのならば、あちらに『五代目剣聖』の生まれ変わりがいてもおかしくはありません。いえ、もしかすると五代目剣聖本人の可能性すら考えられます」
国王は『ビジョンクリスタル』を砕いた。だが砕ける前に聞こえた公爵の悲鳴が答えだった。
「・・・少々考え直さねばならんようだ。四代目はともかくとして、五代目と『アレ』は相性が悪い。そしてあの小僧とも」
「おっしゃる通りです」
「ゼファーよ。皆を呼び集めよ。今後の国の動きを練り直す」
「ハッ!」
「それとだ。公爵に万が一があるもしれん。”迎えの者”を送っておけ」
「・・・よろしいので?」
「旅路には”危険が多い”。護衛を送ってやるのは公爵が危険を顧みずに最少人数で飛び出して有益な情報を伝えてくれた王からの謝礼だ」
「かしこまりました」
全てを識り、経験してきたマリアーデだからこそ、”アール”という存在は彼女の中で自分の命よりも愛おしい存在。それを傷つけられて黙っていられるほど、彼女は善人ではない。そして王国が描いていたシナリオは崩れ去り、ほんの少しだけ、争いの火種は遠のく。
感想くれると嬉しいです。




